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試食会の始まりなのじゃ

こんにちは。

遅くなって申し訳ないです。

いつの間にか評価が2000越えていて驚きました。ありがとうございます。


仕事先のゴタゴタで更新が滞るかも知れません。その場合は申し訳ないです。


今回も進みが遅くてなんですがよろしくお願いします。

「試食という話であったゆえ品目を多く用意しておるのじゃ。小分けにはしておるのじゃが気に入っても後の皿を食べる余力は残すようにの」

 そう宣言して試食会の始まり始まり、なのじゃ。


「今回はコースとしての組立はしておらぬのじゃが、まあ最初の一品のみは気取った感じで出しておくのじゃ」

 アミューズブーシュと言ったところなのじゃ。洒落た感じの小さい筒型の器に入った食前酒と共に、収納空間ででっち上げた出所の存在せぬ切子グラスの小杯が配されていくにつれ、驚きの声やうなり声が聞こえてくるのじゃ。

「これは美しいですな。緑色と赤の色の対比も鮮やかですが、全く見たことがない食べ物です」

「器の見事さも素晴らしいです。私をして見たことがありませんよ」

「これは一体どう食べれば」


 ざわめく皆の反応に大満足なのじゃ。

 切子の小杯には緑色のスープのゼリー、とは言うてもゼラチンではのうて寒天で固めたゆえ好みよりは固いのじゃ、その上には薄く溶いた魚醤ソースに漬けたイクラがのっておるのじゃ。

 既に評判になっておる料理を改めて披露するための試食会ゆえ基本的に既に作ったことがある料理が並ぶ予定ではあるのじゃが、それだけではわらわが楽しくあらぬのじゃ。

 そこでなのじゃ、まずは最初の一撃、もとい一皿が肝心と新作のお披露目なのじゃ。


「これは空豆のポタージュをムース仕立てに固めたものの上にイクラを添えたものなのじゃ。冬に冷たいスープはどうかとも思ったのじゃがどうせ室内は暑いくらいに暖められておるゆえ構わぬであろ」

 室内は富貴さを示すため暖炉と魔法具の双方で暖房されており、暖炉では薪の他に舶来の香木が焚かれておって穏やかな芳香が漂っておるのじゃ。香を焚く効果のために魔法具のみではのうて暖炉も使っておるわけなのじゃが香炉でよい気もするのじゃ。

 しかしどうやら冬に香炉では火を焚く薪を惜しんだ吝嗇に見えるゆえ、と言うただの見栄らしいのじゃ。富裕層の風習も面倒なことよの。


「イクラとは何か判らんが兎に角頂くとしよう」

「煮凝りを使った食べ物を頂戴したことはありますがそれとも違うようですね」

「食べて見ねば始まらんな」

 初めて見た食べ物に困惑や警戒を顕しておった参加者等も意を決して匙を取ったのじゃ。わらわの料理に経験のある老リーディンやエインさんは少し人の悪い笑みで他のものを見ておったがその笑みをさっと隠し早速食し始めたのじゃ。

 ちなみに理事の一人が言うたようにこの地にも魚の煮凝りを利用したデザートが存在するそうなのじゃが、見た目は面白ろうあるのじゃが生臭くて美味しくはあらぬゆえ飾りに近いそうなのじゃ。前世でも大昔はそう言う料理があったとものの本で読んだ記憶があるのじゃ。無論食べてみる気は余りあらぬのじゃ。


「ほう、これは海の味がするのう」

 老リーディンがイクラを食べてそう言うたのじゃ。

「魚卵じゃな。袋状のものしか食べたことがないし、このような形で食べたこともないんじゃが」

「流石リーディンは舌が確かなのじゃ。魚醤ペーストを薄う溶いたソースに漬け込んだサーモンの卵なのじゃ。中央ではサーモンを見ぬゆえ卵も見たことがのうて当然なのじゃ」

 このあたりでも魚卵は食べるのじゃが、子持ちの魚をそのまま煮たり酢に漬けたりと言う形で食すのが一般的と聞いておるのじゃ。

 中央では卵巣の形のまま取り出してカラスミのような加工食品にしておるはずなのじゃ。中央の、俗に中央と呼ばれる部分は内陸部なのじゃが中央地域のうち南方には海岸地帯がありそこから輸送される珍味の扱い、となっておるのじゃ。これは孤児院でマーリィからなろうた中央風俗やそれに伴う食作法の講義の知識なのじゃ。どう考えても北方諸国群の孤児に必要な知識にはあらぬのじゃ。

 どちらにせよ筋子をばらしてイクラにするのは珍しかろうということなのじゃ。


「初めてギョショウペーストを見たときには本当に調味料かと疑ったのですが、まっこと上手に使われますな」

 タンクトップおじさんなのじゃ。最初に魚醤ペーストを見せてくれたのは確かにタンクトップおじさんなのじゃ。感謝感謝なのじゃ。

 ちなみに狐の人は内陸のほうの獣人コミュニティに属しておって魚醤ペーストを作る海のほうのものとの関係は薄いと言いながら伝手を辿ってとりあえず入手の算段をつけてくれたのじゃ。ありがたいことなのじゃ。

 狐の人が魚醤ペーストを使うという説明のために焼そば、まあここでは焼きラ・メェネと呼ぶことになったのじゃが、兎に角その製法を覚えて実演しに行き相当の魚醤ペーストを得て帰ってきてくれたのじゃ。薫製肉とウスターソースとの引き替えという形であったのじゃが満足いく取引であったのじゃ。

 狐の人の他メイドさんもついて行っておったのじゃが、わらわももふもふと交流したかったのじゃ。しかし外出を控えるよう言われておって涙を飲んだのじゃ。もふもふ。


 まだ検分が充分には済んでおらぬのじゃが家庭ごとの味があって幾種もの魚醤ペースト、そして狐の人の知り合いから回ってきた沢ガニや川エビ、川魚を使つこうたジャンも集まっておって楽しみなのじゃ。

 工場を準備して安定供給を目指す折りの協力の約束もしておるのじゃ。

 それについて組合長とタンクトップおじさんが新規産業の計画として軽く語っておるのじゃ。


「豆のスープとしてもまろやかな味で大変結構ですが、固めてあるのが面白いですね。確かに煮凝りを使ったもののような臭気はしませんがこれはどうなっているんでしょう」

「天草という海藻を利用したのじゃ。あとでその生臭いというのとはちごうたデザートも出すゆえ楽しみにしておくが良いのじゃ」

 若熊さんが興味を示したゆえ簡単に説明しておくのじゃ。それに対して「ほう、海藻」なぞと数人が言っておるのをタンクトップおじさんが港湾協会の代表としてニヤリとしながら見ておるのじゃ。

 空豆のポタージュ自体は固めに固まるのを見越し、卵白やクリームを使つこうて滑らかにしたてたものでその効果は充分に出ておるのじゃ。


「ああ、これは生のハーブを入れた酒だね。柑橘の果汁や皮の香り付けもしてあってさっぱりとした美味しさだよ」

 婆様が食前酒をそう評しておるのじゃ。タンクトップおじさんもなのじゃが己の業務に関わることに関してしっかり自己主張をしてくるものなのじゃ。まあそういう会合であるのじゃがの。

 なんにせよこの食前酒は以前に出したモヒート風ドリンクの改良版なのじゃ。酒を嗜まぬわらわの代わりにアイラメさんが味見を頑張った一品でミントなぞの配合も調整しつつ、別にレモンと苦みの強いオレンジの皮を漬け込んだ蒸留酒を用意して混ぜておるのじゃ。

 甘い酒も良かろうとは思うたのじゃが酒飲みどもとの打ち合わせの結果試食会という性質に合わせて口がすっきりする爽やか系飲料となったのじゃ。


「酒と食事は互いをより旨くすると聞くゆえ飲むのを止めはせぬが試食会なのじゃ。味が判らぬようにまでは飲まぬよう気をつけるのじゃ。わらわには判らぬのじゃが随分と飲み安うなり過ぎておると味見したものは言うておったのじゃ」

 調合師錬金術師匠合に調合した処方箋があることなぞも伝えつつ、酒で口を湿したゆえか口が滑らかになって来た参加者等と多少の雑談なのじゃ。

 老熊と若熊の調理師コンビは魚醤ペーストに寒天にと興味を持つものが最初から重なってきたゆえ興奮気味にタンクトップおじさんと話しておるのじゃ。

 魚醤を製造する工場は早急の案件になるやも知れぬの、わらわもそう覚えておくのじゃ。


 充分に余韻を感じる間を取って二皿目以降がこれは次々と運ばれて来だしたのじゃ。

 既に出したことのある料理中心の紹介なのじゃ。とは言うても全部を知っておるのはモリエくらいの話でわらわの料理を比較的によう食べておるエインさんや組合長も食べ逃しておったものに興味津々なのじゃ。ましては初体験のものにおいてをや、と言うやつなのじゃ。

 チーズやクリームと言った乳製品、<回転>の魔法具を利用したミンサーで挽いた挽き肉、調合で複雑な味に仕上げたカレー粉やウスターソース、このあたりを後の産業発展を見越してしっかりと普及に務めた品々になっておるのじゃ。


 小さめに準備してあるとは言うても元々どっしりした料理が並んでおるゆえ珍しい料理に食が進みすぎたものは苦しそうにしておるのじゃ。

 中休みと言うことで焙じ茶が出てきたゆえ少し話をしてみるかの。わらわも毒味を兼ねて一緒に食しておるゆえ少しばかり食べ過ぎておるのじゃ。


お読み頂きありがとうございました。

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