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疑わしきには備えるのじゃ

こんにちは。

更新滞り気味のなか暖かいコメントや鋭いご指摘、そして評価や誤字報告いつも本当にありがとうございます。

「おや、アイラメさんではあらぬのじゃな」

 婆さまの控え室でわらわに椅子を勧めてきたのはアイラメさんではのうて名前は憶えておらぬのじゃが何度か見たことのあるお弟子さんのひとりであったのじゃ。

「アイラメは会合なんぞに連れてくるとボロを出すからね。まあそんなことはいいんだよ」

 控え室付きのメイドさんが淹れてくれたお茶を喫しつつ婆さまはアイラメさんへの信頼と理解の深さを感じさせる言葉を発したのじゃが、それはそうと何かあったのであろうかの。


 わらわの疑問顔に頷き茶器を置くと婆さまは続けたのじゃ。

「薬種や薬草を料理に使うのは前から多少はあったがね。今回の会合を待たずにカレー粉やソースで取引が増えておるんじゃ。それで調理師の親方さんに一応筋を通しに行ったのさ」

 顔を顰めながら、本当の筋で言えばあちらが挨拶に来べきなんじゃがあちらは大層お偉くてね、なぞと毒を吐いておるのじゃ。しかしその表情も一瞬で素の表情に戻ると気遣わしげに言うたのじゃ。

「傲慢な男ではあったがあそこまでおかしな風ではなかったねえ。あれは歳をとって人柄が変わっちまったんでなきゃ何か変な歪みがある気がするよ」


「ふむ。要は過剰に思えるほどに敵愾心を燃やしておるということかや」

「そうですね。しかし、そこに確かにおかしなところがあるのです」

 婆さまとタンクトップおじさんと商業組合の組合長で話し合いを持つと言うておったのじゃがその組合長が入室してきたのじゃ。

 歩き寄りながらそう言うた組合長は挨拶を簡単に済まし、茶を一服喫して話を続けたのじゃ。茶に手をつけるのも作法というか礼法の一部じゃからの。

「今日の会合に出席しないと言う選択肢もある、と言うよりそんなにあからさまな敵対心を持っておられるなら参加しないし匠合員にミチカさんのレシピを使わないように言えばいいんです」


「しかし、それではわらわと言うより試食会を開く商業組合と関係が悪うなるのではあらぬのかや」

「そう思われるのはまだ実際に会っておられないからですね」

「ああそうだね。あれは喧嘩を売りに来たようなものさね」

 なるほど、関係が悪化することに変わりはありもせぬと言うわけなのじゃの。まあ喧嘩を売りに来るのも一つの用件となるであろうがの。

「試食会の話を最初に持って行った時には匠合内からではなく新しい料理が出てくることに多少の不快感を表してましたが実際のところ料理人として好奇心が勝っているように見えました。だからこそ匠合長自らが参加する約束になったのです」

 身内である熊さんが関わっておる話も通っておったはずであるしの。


 つまり何というかあれじゃの。約束の日から今日までの間になにごとかの出来事があったと言うことなのじゃ。

「試食会をすると決めてからの間にもいろいろと料理や調味料をばら撒いてはおるゆえそちらに原因があるやも知れぬのじゃが、の」

「ええ、食事会で話をしておられた感情に干渉する魔術の使い手などが関係しているかも知れませんね」

 わらわの言を組合長が継いだのじゃ。恐らくは負の感情を増幅するものと思しき魔術なのじゃ。


「ミチカ、あんたに嫌がらせする為だけにあっちは危ない橋を渡っているよ。本来やる必要のないことさね。そう思うと面白いね、随分恐れられているようだねえ」

 本当にそうだとしたならば確かにわらわの為すことに水を差したい程度の嫌がらせに過ぎぬのじゃ。わらわの周りをかき乱すには至らぬ程度ゆえ他に手を出してくる煙幕としてならば多少遠く感じるのじゃ。

「ま、断言は出来かねるのじゃが心しておくとするのじゃ。それと一応ではあるのじゃが陽動の可能性を考えてジーダルやらベルゾに使いを急ぎで出しておいてくりゃれ」

「かしこまりました」

 わらわの背後についておったミルケさんなのじゃ。すぐさま組合長付きの職員の一人を連れて書机に向こうたのじゃ。


「調理師匠合との話がどうなるか判らぬようになってきたようなのじゃが、香辛料なぞの輸入の話を少し聞かせてもらうかの」

「そうですね。それが本題ですから」

 組合長も気を取り直し姿勢を正したのじゃ。タイミング良く冷めたお茶が下げられ新しく淹れたものが給仕される、流石によく教育されておるのじゃ。

 難しい顔をして一歩引いておったタンクトップおじさんも座り直して茶を喫しておるのじゃ。

 今考えても仕方あらぬことは置いて置いて船荷の取り扱いの話なぞを聞くとするのじゃ。


 カレー粉の需要を考えると冬の間でも少しだけ動いておる近距離の航路と陸路を乗り継いで唐辛子を中心に大量の発注をしておこうと言う話であるとか少し目新しい話もあったので有意義なのじゃ。

 他にも各種栽培試験のために苗が手には入らぬか、これは西方域の方で禁輸措置がなされておる可能性も高いのじゃが一応薬草栽培に実績のある調合師を船に乗せて行ってもらうであるとかじゃな。


 わらわのほうからも要望や意見を出しつつ話をし、その後の実務的な話は置いて途中で失礼したのじゃ。本来ならば出資や利益の分配と言ったお金関係が一番重要なのであろうがこの三者がとりあえず今の時点でわらわに不利益を押しつけることはあり得ぬのじゃ。むしろ書類で回ってきた折りにこちらの負担が低すぎるようであらば増資する必要があると言うほどなのじゃ。


 最後の挨拶廻りはエインさんなのじゃ。他の参加者は商業組合の理事や噂の調理師匠合の匠合長、総督府と城市の行政府のそれぞれの役人、と言ったあたりで面識があらぬゆえ試食会で初対面の挨拶をまとめてすることになるのじゃ。下手に出るのであらば個別に挨拶をしておくべきであるのじゃろうがその気はあらぬのじゃ。

「緊張するだの」

「そういうものかや」

 出された茶に手をつけつつ簡単に話をするのじゃ。控え室にお邪魔する度に茶が出て来て礼儀としてそれを喫するゆえ三室目のここでは少しもうたぷたぷな気分なのじゃ。これが挨拶廻りを止めておく理由の一つでもあるのじゃ。


「単に理事、と言うのならそんなに緊張しないんだが六人委員会となるとなあ」

「なんなのじゃ、それは」

 エインさんは調理に便利な魔法具の関係で試食会に出るのじゃが、今更ここで話を詰めることもあらぬゆえ雑談なのじゃ。

 理事は理事株を持っておればなれるのじゃが人数の多い理事会の合議なぞ緊急性のある議題を決める役には立たぬのじゃ。

 議題にあわせた分科会やら委員会やらを建てるのじゃが、恒常的に素早い議決を得るために三十人委員会やら六人委員会やらと言った少人数制の理事会内議会があるそうなのじゃ。


 六人委員会とはその中でも組合長を加えて七名で構成される最も緊急性や機密性が高い議案を扱うものなのじゃ。その委員は理事の互選によって選ばれるため最も有力な商業組合の理事、つまりは最も力のある商業関係者となるのじゃ。

 組合長の完全な独裁を許さぬ仕組みなのじゃが三対三に分かれたときに組合長が決めることが出来るように六人であることと組合長が自ら退くまでは無期限の任期を持つ終身職なのに対して委員は六年ごとに半数ずつを入れ替える有任期である上組合長が罷免権を持つ、うむ圧倒的に組合長が権力を持つ仕組みなのじゃ。


「今まで商業組合のそう言う仕組みを聞いたことがあらんかったゆえ興味深いのじゃ。いやさ、修道会も大きくなっていくことを考えると組織のそう言うた仕組みを参考にすべきやも知れぬのじゃ」

 わらわの感想にミルケさんが商業組合や商業組合に参加しておる各匠合の代表的なものの組織図を準備してくれると言うたのじゃ。ただ、他の国の修道会の仕組みを確かめた方がいいでしょうとも言われたのじゃ。道理なのじゃ。

「ベルゾが既になにやら考えておる可能性も高いのじゃ。優先順位は低くして置いて構わぬのじゃ」


 兎に角エインさんが緊張気味な理由は判ったのじゃ。まあわらわには問題あらぬのじゃ。

 と言うよりも組合長に近い位置の委員たちである以上わらわについての事前情報もしっかり持っておろうからむしろ気にかけぬのじゃ。

「交易商は城市を離れていることが多いんで余り理事職の旨みがないんだわ。体面的な問題で匠合内の持ち回りで交易商のための理事を出してはおるんだがの。しかしこの魔法具やら遊戯具やらの商売を考えると理事株を得ておいた方がいいかも知れんだのう」

 エインさんが顎のあたりを撫でておるのじゃ。いつもよりしっかりと髭が手入れされておるのじゃ。


「ふむ。わらわ、あるいは修道会や神殿に関わる商売に関して別の商会を建ててそこから理事を出すのも一手ではあるのじゃ。そこらも適当に話し合っておいてもらうと助かるのじゃ」

 ふんわり丸投げしておくのじゃ。わらわの権益代表の位置に組合長にいてもらうのは流石に商業組合の組織上問題があると思うのじゃ。

 エインさんとミルケさんはわらわの言に深く賛意を示してなんぞメモを取っておるのじゃ。エインさんのお付きに着いてきておる息子さんは一歩退いて素知らぬ顔で立っておるのじゃが、エインさんが理事、と言う場合は其方が実際には働くことになるのじゃ。


 このあたりで失礼して後はハトコさんと給仕部隊との打ち合わせなのじゃ。

 ハトコさんには調理師匠合の匠合長、つまりはハトコさんのお爺ちゃんについて聞いておきたいのじゃ。


お読み頂きありがとうございました。

作中人物(婆さま)は認知症の昔風の問題のある表現をすると思ったのですがなんとなくふんわりと問題のない言い回しに改訂しました。

と言うか直接にすぐ会う話だったはずなんですが「婆や組合長がそんなおかしな状態に気づかないような節穴な訳ないだろうさ」と脳内で主張されて今回も話をしているだけのことになりました。

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