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ダンス! ダンス! ダンス!なのじゃ

こんにちは。

土曜が休みであったことが無いのに行きたくもない飲み会まであって文章を書く余力が。ボスケテ。

そんな愚痴は兎も角ギリギリ週一程度の更新で申し訳ないです。


今回もよろしくお願いします。


 大分余裕のある時間のうちに試食会の会場となる商業組合に箱馬車で乗り付けたのじゃ。

 組合長直々の出迎えを受けた後、立派な控え室に案内されたのじゃ。様々な会議会合が行われておる建物だけあって控え室も色々あるのじゃろうの。その中でもなかなかに高級な部類であろうと思われる内装の部屋なのじゃ。

 しかし、その控え室の席を温める間も持たず挨拶廻りに出発なのじゃ。要は参加者のうちには知り合い連中も多いゆえ、先に挨拶なぞを済ませておこうと言うわけなのじゃ。


 己の控え室から他の参加者の控え室に向かうのにも少々歩かねばならぬのじゃ。それぞれお供をとものうてやってきても全員がそれぞれ控え室を余裕を持って使える、それだけの規模があるのが商業組合の建物の凄さなのじゃ。

 冒険者協会の建物も魔法具照明で中庭等の採光施設のあらぬ空間恐怖症めいた構造物であったのじゃが、ここは更に客同士が不要に顔を合わせることがあらぬよう複雑な複線化された通路構造になっておるのじゃ。商売敵同士が同時に来ておることなぞも商業組合なればあろうからの。

 理由には納得がいくのじゃが案内役の職員がおらねば迷いそうなのじゃ。まあミルケさんがおるゆえ問題はあらぬのじゃが。


 その長い廊下には上質な絨毯が敷かれ柱には彫刻が施されており商業組合の中でも格調の高い領域であることが判るのじゃ。

「面倒じゃわい!」

「マーティエ、今日も楽しみにして参りました」

 立派な扉を開けるとまずそんな声が飛んできたのじゃ。

 最初に挨拶しておくべきは正客として招かれた老リーディンなのじゃ。そう思うて先触れを出すとお茶屋のズークさんと歓談中とのことで、尋ねると構わぬと言うことであったゆえ二人分挨拶を済ませてしまおうとやって来たのじゃ。


「まあリーディンたら。マーティエ、お茶をお淹れしますね」

「マードの淹れるお茶は美味ゆえありがたいのじゃ。リーディンは何をそう面倒がっておるのじゃ」

 ズークさんの御内儀のマードはマードとしての法服姿ゆえリーディンのお付きとして神殿から来ておるのじゃ。そのマードは控え室付きのメイドを制して手ずから茶を淹れに向こうたのじゃ。


「こうやって客として呼び出されることなんぞこの城市に来て以来ついぞなかったんじゃ。儂の気楽な生活が奪われた気分じゃの」

「城市の正神殿の神殿長となれば客として各所に招かれ顔を出すのも仕事のうちなのじゃ。その仕事があらんかった以前がおかしいだけゆえ諦めるが良いのじゃ」

 わらわはそう言うて肩を竦めたのじゃ。わらわの所為であるやも知れぬのじゃが本来暇であるなぞあり得ぬ立場なのじゃ。


 ズークさんとも挨拶を交わしておるとお茶が来たのじゃ。うむ、一服なのじゃ。やはり美味なのじゃ。

 他のお茶は多少下手でも茶が良ければ飲めるのじゃが中央風の苦い茶は腕前の差が如実に出るものなのじゃ。

「うむ、美味しいのじゃ。やはりマードは茶を淹れるのが上手いの」

「そうだね。本当に美味しい。私もレーレッテさんから教わったりしてるけどまだまだ先は長いよ」

 わらわの感嘆にモリエも同意しておるのじゃ。モリエの淹れるお茶もメイド長の教育を受けて美味しいのじゃが確かにマードに比べると二歩劣るのじゃ。メイド長で一歩劣るゆえ已むを得ぬところなのじゃ。


「ふふ、そんなに褒めても何も出ませんよ。それはそうと今日の御者や随従に修道会の方々をお借りしておりますよ」

「うむ。そう言う諸事を任すための修道会なのじゃ。ベルゾやガントに謀って便利に使うが良いのじゃ」

 呼ばれるようになればリーディンとしての体面を保つ必要があるのじゃ。面倒という老リーディンの気持ちも分かるのじゃがわらわも相当に面倒な思いをしておるゆえ道連れなのじゃ。


「それは良いとしてなのじゃ、今回の試食会なのじゃ」

「なんじゃ? 儂は客として呼ばれただけでようは知らんぞ」

 微妙な話なのじゃが老リーディンには通しとおかねばならぬことがあるのじゃ。

「わらわの料理は確かに中央のものもあるのじゃが、中央のものだけでのうて諸国の料理とそれぞれを組み合わせた工夫の上になっておるのじゃ」

 わらわの料理を中央風と詐称するには実際の中央を知る老リーディンがおるゆえ難しいのじゃ。適当な説明で口裏を合わせておく必要があるのじゃ。


「実際はちごうてもわらわの料理が中央風と思われておるのを否定したことはあらぬのじゃ。面倒ゆえの。それで知らぬ料理が出てもそのまま流しておいてくれると助かるのじゃ。説明の手間は省きたいのじゃ」

「ふむ、そう言うことか。余計なことは言わんよ、安心せい」

 老リーディンはそう言うて頷くとニヤリと意味深な笑みを浮かべたのじゃ。

「マーティエの料理を多く食べたわけではないがの、中央の料理やそれに近い料理はあれじゃ中央の料理と言うより神君に由来を持つ料理に近いものばかりじゃわい」


 確かにわらわの料理はこの世界においては異世界料理であってそれは転移者だか転生者だかと思しき初代皇帝を発祥とするものと同源であるのじゃ。そしてその手の異世界料理を元としておらぬ地の中央料理を実際のところわらわは知らぬのじゃ。

 なのじゃがここで問題であるのはそこではのうて、なのじゃ。

 わらわの出自に関しての何らかの推測を持っておるのじゃ。流石に老リーディンは慧眼なのじゃ。


 少しばかりの緊張感を持ったのじゃが老リーディンにはそれ以上追求する気はあらぬようでそのまま世間話に移行したのじゃ。転生者であることは別段なんとしても秘匿せねばならぬことではあらぬのじゃが、言いふらすようなことでもあらぬのじゃ。

 まずもってどう説明していいのか判らぬしの。


「ああそうだ、マーティエは踊れるか?」

 少々世間話をしておると老リーディンがふと思い出した、と言う風に突然そう訊いてきたのじゃ。

「うむ、無論踊れるのじゃ。しかしの、わらわとせいが丁度見合うものがおらぬのではあらぬかや」

 思いがけぬ質問に思わず素で応えたのじゃが、老リーディンが些かぎょっとした表情をしたのじゃ。

「舞踏会で踊るような宮廷舞踏を無論、とは言わんぞい。と言うかじゃ、そうでは無くて奉納舞のことに決まっておるわい」

 おっと失敗なのじゃ。確かに庶民の子が社交ダンスを踊れるのは変なのじゃが、孤児院でマーリィに指導されたゆえ孤児院の子ども等も皆踊れたのじゃ。

 うむ、マーリィがおかしいのじゃ。わらわに教えたかったのであろうと今なら思えるのじゃが、つき合わされたほかの子ども等こそ迷惑であったのじゃ。


 それにしてもマーリィに習った社交ダンスは単純なものでイマイチであったのじゃ。そう思うのは前世で少しばかり踊ったことがあるからなのじゃ。

 弟の一人、十三じゅうそうが少年漫画誌に連載されておった競技ダンスのマンガに感化されて学校で競技ダンス部に入ったのじゃ。それで少々練習につき合ってあげたりしたのじゃが、混ぜて欲しかったのか父さまが「競技ダンスではパートナーチェンジが無いけど社交ダンスだとあるんだよ。それが最大の違いかな」なぞと言いつつ参加してきたのじゃ。

 母さまとブーブー文句を言う九十九つくもを含めて家庭内舞踏会が開かれたりしたものなのじゃ。

 その前世の記憶と比すると今生のダンスは原始的、音楽も単純と言わざるを得ぬのじゃ。


「ダンス程度は女の子の嗜みなのじゃ。それはそうと奉納舞も無論舞えるのじゃ」

 懐かしい思い出を心中にそっと仕舞いつつ社交ダンスができると言うてしもうたことは軽く流して応えておくのじゃ。

 奉納舞のほうは孤児院で習っておって当たり前なのじゃ。祭なぞで子ども等とマードで舞った記憶があるしの。

「聖祝期の新年を祝う祭儀を今まで略式で済ませておったのじゃが、今回からは正式のものにしてはと勧められたんだわい。ベルゾやガントだけでのうて商業組合の組合長からものう」

「なんですけど私たちは舞ったことが無くてですね」

 マードが老リーディンの説明にそう言い足したのじゃ。なるほどなのじゃ。


「男舞なら儂が教えられるんじゃがな」

 夏至の祭なんぞは男衆おとこしの舞いなのじゃ。それは老リーディンが教えると言うておる以上忙しゅうなった腹いせにわらわに面倒を投げておるのではのうて普通に必要なお仕事なのじゃ。内心ちょっと疑っておったことを反省なのじゃ。

「ふむ、ではレイデのほか何人か女冒険者を引っ張ってきてわらわが教えることにするかの。モリエも踊ると良いのじゃ」

「うちの嫁やほかの信徒の家の娘さんなんかにも教えて頂いてもよろしいでしょうか」

「おお、そうじゃの。そのほうが道理なのじゃ。まあ簡単な舞いゆえ気負うほどのことはあらぬのじゃ」

 マードの申し出に快諾するのじゃ。人数が多いほうが華やかになるしの。難点は寒いことぐらいかや。ひらひらした衣裳なのじゃが新しき春を言祝ぐ祭と言いながらここ北方諸国群ではまだ寒いものなのじゃ。

 <防寒>の魔法具を踊るもののために準備しても良いの。


「簡単というのはマーティエの言ゆえ信じるんじゃないぞい」

「んー、村の秋の収穫祭なんかで踊るお祝いの踊りとはまた違うんだよね?」

 老リーディンのほうはスルーしてモリエには答えておくのじゃ。

「その村の踊りは見たことがあらぬゆえ何とも言えぬのじゃが、源が同じ可能性はあるのじゃ。百聞は一見にしかず、この法衣では邪魔で余り上手には舞えぬがこんな感じなのじゃ」

 行儀悪く椅子から飛び降りてわらわは舞い始めたのじゃ。


 メロディを口ずさみながらくるくると舞うのじゃが、気付いたのじゃ。

「曲を弾く楽隊が要るのじゃ」

「ベルゾやベルゾの連れてきた三人は楽器が弾けると聞いておるわい。器用な連中じゃ」

 全くなのじゃ。くるくると旋回が多い舞いなのじゃが腰の高さは余り上下させずに回転するのが上手と言われる必須事項なのじゃ。しかし重心の安定は大概の武術なぞでも似たようなものであるはずなのじゃ。それが冒険者にとって簡単と評する所以なのじゃ。


「すごいキレイ! 村の踊りとは全然違うよ」

「美しいですね。お見事です」

「お上手なものですなあ」

 モリエとマードも褒めてくれておるのじゃが、そこにいつの間にか港湾協会のタンクトップおじさんが混じっておったのじゃ。

 相変わらず衣裳は高級な上流階級でも洗練されたものであるのじゃが前を全開にしてタンクトップ一枚越しに筋肉を見せつけておるのじゃ。

「私も会の前に挨拶廻りを済ませておこうとしたのですが、マーティエの控え室にお伺いを立てるとここに来ておられるとのことでしたのでお邪魔しました」

 納得なのじゃ。そしてわらわの挨拶廻りも一人分ここで済ませることになってお得なのじゃ。


「カレー粉に使うものを初めとして船荷で輸入する香辛料を相当に多くする、なんなら交易船を新造しよう、なんて話がありましてね」

 今日の試食会にも関係した話なのじゃ。交易船はほとんどが西方域の船と聞いておるのじゃが新造船とは張り込んだものなのじゃ。

「調合師錬金術師匠合の匠合長のところで事前に少し話を詰めておこうとここの組合長とも申し合わせておるのです。よろしければマーティエもご一緒に参りませんか」

 うむ、タンクトップおじさんが自分から来てくれたゆえ挨拶廻りの対象も残すは調合師の婆さまとエインさんの二人なのじゃ。

 わらわは婆さまへの挨拶を済ませたら話し合いの実際は任せて逃げるとするかの。


 いや、話が面倒なのではのうて試食会の最終的な確認もせねばならぬのじゃ。

 ルセットの伝授のため調理師匠合に移動する予定になっておるのじゃ。そちらにも料理の入った停時箱や道具類が送られておって、お手伝いの熊さんはそっちに行って待っておるのじゃ。ゆえに熊さん無しでハトコさんと商業組合で準備してくれた給仕のものとの打ち合わせが要るのじゃ。

 熊さんがおれば丸投げしておくのじゃがの。


 と言うわけで老リーディン、ズークさん、マードの三名に退室の挨拶をして婆さまの控え室へと出発なのじゃ。


お読み頂きありがとうございました。

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