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試食会当日の朝なのじゃ

なかなか更新出来ず申し訳ないです。お久しぶりです。

相変わらず歩が遅いですがよろしくお願いします。


感想や誤字報告いつもありがとうございます。

「ミチカ、何描いてるの?」

 朝餉を待ちながら仕立屋さんに発注する衣裳の素案を雑に描いておるとモリエが覗き込んできたのじゃ。

 試食会のために調理を飽きるほどやったゆえ普通の食事の支度はメイドさんにお任せしておるのじゃ。

「ああ、パード等は革鎧の上に神殿の法服を纏っておったであろ。それはそれで良いのじゃがいっそ冒険者修道会として鎧の上に羽織るシュールコーを発注してみようかと思うておるのじゃ」


 シュールコー、サーコートとも言うのじゃが元々は十字軍が金属鎧の上に着ておった陣羽織の一種なのじゃ。本来はピカピカ光る金属鎧の視認性を下げるため着ておったはずなのじゃが騎士らしゅう紋章やらで派手に飾るようになったのじゃ。本末転倒と言う奴なのじゃがそれで所属や家名が判る識別マークのようになったわけなのじゃ。

 冒険者はあまり金属鎧を着ぬのじゃが、別段革鎧の上に着て悪いこともあらぬし冒険に着て行ける修道会の簡易陣羽織として紋章を大きく描いておれば宣伝になるのじゃ。修道会の周知活動なのじゃ。

 修道会から支給するものは丈夫な麻を染めた普及品で、刺繍をした上物が欲しければ自弁してもらうとするのじゃ。うむ。


「試食会当日なのに余裕だね。うん、ミチカなら当たり前か」

「なんじゃ、モリエは緊張しておるのかや。準備は万端、細工も流々後は仕上げを御覧じろ、と言う奴なのじゃ」

 と言うより準備は済んでおる以上どうこうする余地もあらぬのじゃ。

「まあ、話をするであろうからの、わらわはそこで成果を最大化するという仕事がありはするのじゃがそんなものはただの口八丁なのじゃ」

 川鱒の焼き干しのほぐし身と溶き卵のスープ、これはメイドさんの工夫じゃな。川鱒は海の魚の焼き干しより脂が少なくあっさりしておるのじゃ。それを卵と合わせてスープに仕立てるのは良いアイディアなのじゃ。

 わらわが発信したものを下敷きに、この地の者等がわらわにあらぬ発想発展させてくれればわらわにも新鮮な驚きとなって返ってくることになるのじゃ。うむ、お愉しみと言う奴なのじゃ。


 水面に投げ込んだ小石の波紋に喩えてわらわの出すものが小石でそれによって起こされた波がメイドさん等の、あるいは熊さんと言った調理人の新しい工夫と言ったところかの。

 で、なのじゃ。試食会で調理師匠合のお偉方を唸らせ商業組合との各種契約をしてルセットをばら撒く、これはでっかい岩を投げ込むような所行なのじゃ。即ち波も大きくなる道理なのじゃ。

 わらわは己の愉しみを追求することに躊躇するやあらぬのじゃ。そしてそのとき大波に呑まれることなぞ考えはせぬのじゃ。


 メイドさんが作ったクラップフェン、アプリコットのママレードを入れた揚げパンみたいなものなのじゃ。うむ美味しいのじゃ。これはわらわが教えたもののそのままなのじゃが美味ゆえそれはそれで良いのじゃ。

 丸くふんわりと揚げたパンにジャムやらフィリングやらをしぼり袋で注入するだけのどちらかと言えば食事と言うよりおやつなのじゃが朝餉には悪くあらぬのじゃ。メイドさんたちには最近教えたものゆえ作ってみたいだけであると思うのじゃがな。


 そしてミルクティーで朝餉は完了なのじゃ。牛乳や山羊乳はチーズやらの絡みで入荷される体制になっておってこの地での基準であらば贅沢な使いようなのじゃ。

 牛乳がせいや乳を育てるというのは迷信かとは思うのじゃが、まあ鰯の頭もなんとやらなのじゃ。うむ、茶ではのうてのミルクをもう一杯飲んでおくのじゃ。


「農家の奥さんなんかが冬支度にジャムの類を多めに仕込んでいたりするんですが伝手を辿っていくらか手に入りそうです。代わりに硬貨ではなくて燻製肉やお試しでヴルストを出したいのですが」

「おお、それは良いのじゃ。ただ貴重な甘いものを巻き上げようと言うのじゃから日持ちのするクッキーなぞもつけてやると良いのじゃ」

 メイドさんからの連絡事項なのじゃ。わらわが多様性を重んじる主義であることを理解してくれておる上に燻製肉やヴルストの普及に関しても考えてくれておるのじゃ。ありがたいことなのじゃ。

「はい、かしこまりました。手に入りましたら味見をお願いしますね」

 メイドさんが一礼するとミルケさんが口を開いたのじゃ。


「そのクラップフェン用の口金ですが、チュロス用の口金や各種調理器具の生産をしている工房が仕事量的に音を上げています。エインさんと相談の上委託して多くの工房に仕事を回すことになりそうです。調理師匠合との話し合いも必要ですが」

「了解したのじゃ。調理用の魔法具の話もあるしの。エインさんも試食会に出席するゆえひとまとめに済ませてしまうのじゃ」

 需要がわらわ一人に収まらぬものは早めに城市内の工房で広く生産してもらう体制にすべきやもなのじゃ。権利関係で商売をすることもできるようではあるしの。これも帝国時代に成立した大憲章に因る制度なのじゃ。

 なんにせよエインさんや商業組合の組合長と話し合わねばならぬことではあるのじゃ。


「それはそうとヴルストをお試しとして渡すのはいいですね。最初の一口さえ越えればきっと人気が出ると思うのですよ」

 ミルケさんはヴルスト大好きなのじゃ。特にお酒のお供として、の。

「ミルケさんを見て思うたのじゃが、郊外の農家なぞであらばジャムだけでのうて果実酒も仕込んでおるのではあらぬかの。燻製肉が好評を博したならばで良いのじゃが、それを対価に仕入れてもらえるかや。わらわは呑まぬのじゃが菓子の香付けなぞに使えるやも知れぬのじゃ」

「なんで私を見て思うんですか。それはともかくとして、商業組合と調理師匠合への停時箱や道具類の搬入は昨日のうちに完了しておりますので今日の予定は昼前に移動でお願いしますね」

 今日はオルンが箱馬車を準備しておるのじゃ。今度馬車の装飾を凝ってみても良いのじゃ。まあ修道会の紋章を刺繍した布を掛けたりはしておるのじゃがの。


 そのオルンから何とか言う地回り、子ども等に倉庫に住み着くよう言うた奴じゃの、其奴が子ども等に繋ぎを取ろうとしておったのを見つけ叩き出したと報告を受けたのじゃ。

 本人は街の子どもに親切にしておる組織のほう、なぞと寝言を抜かしておったらしいのじゃ。無論、冒険者の中のバカどもを使つこうて悪者にしておるのと同じ様なやり口に過ぎぬのじゃ。

 底の浅い親切を施す地回りと非道な扱いをする地回りがおるのじゃが、実際には同じ根っこなのじゃ。ゆえに親切なほうではのうて追い込み漁の網を広げて待つほう、と言うのが正解なのじゃ。

 まあヤクザものなぞそのようなものなのじゃ。ただ、同根である情報なぞをくれておった警邏隊のゲノール隊長に連絡は取っておくべきであろうの。


 試食会が終わればすぐに子ども教室関係の準備部会なぞもあるのじゃ。まっこと面倒事が山積みなのじゃ。誰の所為であろうの。

 子ども等と話をしてみたり書類仕事を片づけたりベルゾやガントの質問や相談に応えたりと諸事に追われる午前を過ごしたのちはモリエと一緒にメイドさんに手伝てつどうてもろうてお揃いにお着替えなのじゃ。

 ちなみに今回のお出かけ着はなんちゃって大正ロマン風の衣裳なのじゃ。着物をイメージした前合わせの上着にちょっとハイウェストな袴、そして調理作業のお供にかわいいエプロンというセットなのじゃ。足元は編み上げのブーツとなっておるのじゃ。

 残念ながらなんちゃってと称する程度の再現性でちょっと変わったパンツルック程度に思われておるのじゃ。しかし確実にこの辺りの風俗からかけ離れた異装ではあるのじゃ。


「変わった服だけどかわいいよね。今回は目立つというか違う土地から来たってことを判りやすくするってことかな」

 モリエは調理助手であると同時に護衛ゆえ、短剣を腰に差しながらそう言うておるのじゃ。ちなみにモリエの上着は紅、わらわは黄緑でどちらも濃淡をつけた染めなのじゃ。

「うむ。似合っておるのじゃ。異人の作る異国の料理、として紹介したほうが納得が得られやすかろうしそのための視覚効果なのじゃ」

「二人ともお似合いですよ。馬車も準備できているそうです。参りましょうか」

 そう言うミルケさんはいつも以上にビシッとした着こなしで鋭い雰囲気を出しておるのじゃ。お仕事モード増量という奴なのじゃ。

 そんなミルケさんとともに出陣なのじゃ!


お読み頂きありがとうございました。

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