昼食兼模擬戦の反省会なのじゃ
お疲れさまです。あるいはお久しぶりですm(__)m
今回もよろしくお願いします!
昼餉の準備はなんの問題ものう済んだのじゃ。流石に熊さんは一流の料理人なのじゃ。
ただ、ハトコの人が驚きやら疑問やらの声をよう挙げておったのは逆に新鮮であったのじゃ。
と言うわけで食堂に集まって食事の時間になったのじゃ。午前中神殿に行っておったガントも帰って参っておるゆえ結構な人数なのじゃ。
「試食会の準備をする前の肩慣らしと言うこともあってかなり色々と作ってしもうたのじゃ。まあ其方等であらば持て余しはすまいの」
正直昼にしては作りすぎたと思うておるのじゃが、ジーダルやら大食らいが揃うておるしきっと大丈夫なのじゃ。
ジーダルやセイジェさんは軽く一汗流したという顔でツヤツヤなのじゃがオルンやパードはぐったり気味なのじゃ。模擬戦の具合が分かろうというものなのじゃ。
尤も双子等が元気であるのはいつものことで運動量は読めぬのじゃがの。
「やっぱりジーダルのおっちゃんはスゴいよ、ミチカちゃん。<衝波>を斬り払われたと思ったらそのまま槍も弾き飛ばされたよ」
「セイジェ姉は疾いよ。それに魔法を使おうとしたらそこを突かれてしまうよ!」
「私は使うのは苦手だけど魔力を見るのはそこそこ出来るのよ。けど二度目からは潰されるのを前提に魔力を集めてフェイントに使ってくるんだもの。末恐ろしいわ」
セイジェさんは魔力の流れを見て魔法の行使をインターセプトしてくるのじゃな。そして高度な発動の技術はあらぬのじゃがフェイントをかけたりするあたりの即応性の高さは流石にサーデとマーセなのじゃ。
「こちらが霧を張ったのにベルゾさんには後を取られてしまうんですよ」
こちらはレイデのぼやきなのじゃ。
「霧に魔力が含まれているから魔視への妨害にもなるんだが、熟達していれば濃淡くらいは読める。後は勘だな」
ベルゾは続けて魔力を均一に広げるのではのうてわざとダマを作るように霧に含ませることと己の魔力を霧に紛れさせることを訓練するように、と助言しつつも少し困った顔をしたのじゃ。
「ただ、魔力の使いすぎには注意するべきですね。ミチカに師事すると垂れ流し気味になるのでそこには注意が必要です」
「む、どういうことなのじゃ」
「治癒の祈祷を修得したのですから戦闘後に使えるだけの余力を見て使うべきなのです。無論、魔力を使うことでこちらが損害を受けることなく戦いを終えれると判断できたならば使い惜しむべきではありませんが」
ベルゾはわらわの疑問にそう答えたのじゃ。レイデは真面目な顔で聴いておるのじゃ。
治癒のためならば魔漿石を使うのもアリなのじゃが、魔漿石は冒険者の主な収入源でもあるのじゃ。そう考えると不必要な消費は避けるべきなのは確かであるのじゃ。
「そうですね。わたしの魔力は伸びてますけどガントに全然及びませんし」
「人と比べることに余り意味はないね。自分の魔力の範囲で出来ることをキチンと効率よく行えること。それが大事だ」
「うむ、流石にベルゾ、その通りなのじゃ。効率的な使い方なぞは修道会で一緒におることも多かろうゆえベルゾに学ぶと良いのじゃ」
レイデはやる気に満ちた顔でコクコクと頷いておるのじゃ。
「レイデだけでのうてパードは立ち位置的にはベルゾに近かろうゆえよっく見てやると良いのじゃ」
「かしこまりました」
「えっ。あっ。よよよろしくお願いします!」
切れ目を入れたパンにヴルストと薄いカレー味の煮キャベツを挟んだ、つまりはホットドッグを食べておったパードがいきなり話を振られて咳き込みながらそう返答したのじゃ。
パードはベルゾが憧れだか目標だかであるという話であったゆえ喜んで頑張ると思うのじゃ。
そこからジーダルが二人にオルンとの連携を考慮に入れつつ視野を広く持て、なぞと言った助言をしたりと反省会的な流れになったのじゃ。
模擬戦をしただけではそれだけのことなのじゃ。反省会で問題点を自分だけでのうて第三者の視点で挙げてもろうて次に活かす糧にすること、それが大事なのじゃ。
わらわもボクシングの試合後、勝っても負けてもトレーナーとじっくり反省会を開いたものなのじゃ。負けたことなぞほとんどあらぬのじゃがの。
なんとのう、そんな懐かしい気持ちで眺めておったらパードとレイデの使うた祈祷についてなぞを訊かれたのじゃ。
「冬の大神や氷雪の神の祈祷については神殿の書庫にもなかったようですが、あれはどこで学んだものなんです?」
「北方諸国群で主に信仰されておる人気のある神々じゃからの、その祈祷が失伝するなぞとは誰も考えんかったゆえ文字に立てることを怠ったのじゃろうな。今回伝授したものはわらわが神像や魔法具から魔法陣を得て色々と組み替えつつ相応しい祭文を当てたものなのじゃ」
魔法陣は物から学んだのじゃが、祭文のほうは祈祷の祭文自体が残っておらなんだのじゃ。しかしマーリィから叩き込まれた知識と言うほどものうてわらわの育ったイセンキョーの神殿であらば普通に祈られておったものに過ぎぬのじゃ。
「あっさりと無茶なことを言いますね」
「余りこれが出来ることを言いふらすではない、と言われてはおるのじゃが其方等であらば構わぬのじゃ。余の国であらばきちんと伝わった祈祷が有るはずなのじゃがわらわが組んだ祈祷とは祭文や魔法陣の構成が異なっておる可能性があるのじゃ。入手して比較してみたくはあるの」
「興味深くはありますね」
「とりあえず後ほど魔法陣と祭文を書き出しておくゆえ修道会預かりということでガントとベルゾで褒賞やらに使えるか考えておくのじゃ」
ギルマスが首尾良う他国から現役の祈祷師をヘッドハンティングしてくれば良し、そうでのうてもパードやレイデがこの調子で祈祷を使っておれば冒険者から修道会に入りたがるものも増えようしの。加入特典なぞを厚く準備しておくのも悪うあらぬのじゃ。
「しかしわらわの考えより神殿の信仰というか祈祷への皆の順応性は高いのじゃ。無論良いのじゃが」
「それはミチカの想定が悲観的すぎたんじゃないかな」
パードやレイデが喜んで祈祷を学んでおることからふと思うたことを口にしたのじゃが、ガントからは少々不思議そうな顔を向けられたのじゃ。
「信仰が絶えておる、というのはもっと積極的に神殿への悪感情があると思うておったのじゃ。なんと言うかの、こんな簡単に神に祈るようになると考えれば絶えたことに不可思議を感じるほどなのじゃ」
「確かにそれは不思議ですね」
まあ良いのじゃ。
「神名を直接呼ばないこととリーディンやリーダと言った職位名で呼んで個人名は呼ばないと言う習慣は関連があるんだと思いますよ」
「あー、なるほど」
修道会組はそのまま神殿や祈祷についての雑談に移ったのじゃ。無論昼を摂りながらなのじゃ。
目を移すとジーダル、セイジェさん、オルンに双子等、そして熊さんを加えた前衛組は大いに食事を喰らいながらこれまた白兵戦についてなぞを語っておるのじゃ。
「おう、この腸に肉を詰めた奴、ヴルストだっけかはいろんな料理法で出てくるがどれも旨いな」
「うむ、なのじゃがヴルストについては熊さんの意見が欲しゅうて出してみたのじゃ。試食会に出すには時期尚早じゃと考えておるのじゃがの」
確かに焼いても茹でても美味しいのじゃ。
「こんだけ旨いのになにを悩むんだ。後あの新しい燻製って奴もすげえ旨いな。もらった奴、冒険者組合で知り合いに配った残りは酒のツマミにしちまってなくなったんだが」
ジーダルの食べ物に関する感想には語彙力が足りておらぬのじゃ。喜んで食べてることは伝わるゆえ満足なのじゃがの。
「ああ、では燻製とベーコン、ついでにヴルストも何種か帰るときに持たせるのじゃ。しかし考えの足りぬ其方と違うて熊さんは判っておるのじゃ」
熊さんの横に座っておるハトコの人も難しい顔をして考えておるのじゃが、判っておらぬジーダルに簡単に説明しておくのじゃ。
「其方が言うた通り腸に肉を詰めておるのじゃが、この辺りでは狩りをせぬものは内臓なぞ喰らわぬのじゃ。わらわの作るものに信を置いておる其方等は喜んで食べてくれるのじゃが一般に売るのは如何かと思うておるのじゃ」
「腸の脂が旨みを足しているし、噛み切るときの歯ごたえなんかの食感も腸ならではなんだろう。旨いし腸を使っている理由も実際に食えば判るが食う前に拒絶されちゃどうしようもないからな」
「調理人は新しい食材に挑戦するでしょうけど客さんはどうでしょうね。その最初の一口さえ越えればいけると思いますけど」
「ああ、なるほど。旨えもんは旨え、でいいのに面倒なことだな」
熊さんとハトコの人の言葉にジーダルは肩を竦め、皿の上からホットドックをひょいっと取り上げ二口で食べてしもうたのじゃ。
「このキャベツの味付けのカレーか、これも食欲をそそるいい香りだよな」
「カレー粉は調合師錬金術師匠合に任せてあるのじゃ」
そう言うて広い食卓の逆サイドでミルケさんと喋りながら食事を摂っておるアイラメさんと狐の人のほうを見やると話を横耳で聞いておったのか狐の人がこちらに顔を向けて小さく手を振ってくれたのじゃ。手を振るとき尻尾が同じゅう左右に揺れるのが可愛らしいのじゃ。うむ。
「婆さまも試食会に来ると聞いておるゆえカレーは使わねばならぬのじゃ」
「じゃあ今度こそ本来の用件の試食会の準備に取りかかるとするか」
「うむ。わらわ等はデザートも作った時に試食しておるしの。移動するとするのじゃ」
「其方等は食べた後修練を続けるなりバドミントンや盤上遊戯で遊ぶなりして置けばよいのじゃ」
ジーダル等にそう言い置いて今度は工房のほうの厨房へと移動なのじゃ。
熊さんを呼んだのは匠合の調理師どもに実際にルセットを伝授する教師役を投げるつもりもあってのことゆえそこもきちんと仕込むのじゃが、モリエに加えて熊さんもおれば準備自体は大したことではあらぬのじゃ。
「熊さんとモリエのお陰で準備は万端なのじゃ」
「食器や飲み物の準備もできてる。会の後実作して教えるための道具や材料はメイドさんが準備してくれてる」
「祖父や父がグダグダ言ったら殴り倒す準備もできてるわ」
調理師の匠合の長はハトコさんの祖父なのじゃったの。熊さんがそこは俺に任せろ、なぞと軽口を叩いておるゆえ仲の良い親族なのじゃろうの。
正直面倒な気持ちも大きいのじゃが折角ゆえ参加するものには満足して帰ってもらうのじゃ。殴られる必要はあらぬしの。
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