パードとレイデと祈祷伝授なのじゃ
お久しぶりです。お久しぶり過ぎて申し訳ないです。
もうちょっと更新できるよう努力します。何を書くつもりだったか忘れてしまうほど間を開けぬよう・・・。
「其方等は祈祷もいくつか学んでおるのじゃの?」
「はい、マーティエ。お陰を持ちまして」
パードがそう応えたのじゃ。オルンと同年代で黒みの濃い茶髪を短く刈り揃えたそこそこのイケメンなのじゃ。オルンに比べると顔形も物腰も多少柔らかい感じなのじゃがその柔和なところが他のパーティメンバーになめられる遠因であったのやもの。
それは兎も角礼拝所で二人とも祈祷に反応して舞う魔力の粒に感嘆しておったのじゃが、落ち着いたところで少々お話をするのじゃ。
「ふむ、レイデは祈祷を含めた魔法中心でパードは魔法を補助に剣と投擲で前衛から中衛の立ち回りをするのじゃな」
初めて会うたときには共に小器用に魔術を補助に使う中衛のように言うておったのじゃがレイデは魔力の成長と祈祷との相性が良かったと言う話なのじゃ。
「はいっ。お食事会の時に話されていた魔力の成長の話ですよ! わたしはホントによく伸びたみたいなんです」
勢いよう話すレイデは紺に近い青髪を高い位置でくくったポニーテイルの少女なのじゃ。うむ、魔女っ子なのじゃ。
「まあ元からレイデの魔力は高い方だったんですが、使える魔術の引き出しが少なくて専業の魔術師としての立ち回りは出来なかったんですよ」
なるほどなのじゃ。祈祷を習得したことでそのレベルに達したということかの。しかし、何故使える魔術が足りぬなぞと言うことになるのかが分からぬところなのじゃ。
「食事会に来られていたガントのお師匠みたいな一流の魔術師に師事できるのはほんの一握りですよ。ガントはそれだけの才能を持っているってことですけどね」
ふむふむなのじゃ。と言うかの、わらわは魔法陣や祭文を己で構築して魔術や祈祷を創り出しておるのじゃが、それは本来難しいことのようなのじゃ。
マーリィから普通のことのように宿題に出されたのじゃが、老リーディンからはあまり吹聴せぬようにと忠告されておるのじゃ。
それはまあ良いのじゃ。
「そう、それなのじゃ!」
「それってなにがです?」
パードがキョトントした顔で問い返しおったのじゃ。レイデのほうも頭の上に疑問符が浮いておるような表情であるのじゃ。
「その、あれなのじゃ。サーデとマーセがのう、おそらく其方等が想定しておるより遙か斜め上の強さになっておるのじゃ」
護衛について来ておったモリエが苦笑気味に頷いてわらわの謂いを肯うたのじゃ。
元から双子ならではのコンビネーションで槍を扱うておってなかなかの腕前であったのじゃが<早足>と<跳躍>でそれが一気に強化されておるのじゃ。しかしそれは想定の先にあるゆえまあ想像を超えるとは思うのじゃが良しとするのじゃ。
問題はガントの師匠のおばあちゃん先生、ディッサージェ師やベルゾの師匠の空飛ぶ大魔術師のベイルンゴスタ師に会いに行くときに双子等を伴うて魔力の扱いや魔法を使うものの心得を共に学んだのじゃが魔力の扱いに関しての上達が著しかったのじゃ。
それでわらわもついつい新しく学んだ魔術やそれから再構築した祈祷のいくつかを伝授してしまったのじゃ。
「それで其方等にも少々祈祷を伝授しておこうと思うてまずこちらに連れてきたのじゃ」
これから修道会も人員が増えていくと考えるとあまりこういう勝手な伝授はすべきではあらぬのじゃが、まあ良しとしておくのじゃ。なんと言うてもわらわが総長なのじゃからの。
「えっ、えっ? 良いんですか? いえ、ありがとうございます」
レイデが目を白黒させておるのじゃ。いや、瞳も髪と同じゅう紺に近い青で黒くはあらぬのじゃ。
「パードのほうは使うておる祈祷や魔術の魔法陣を見直して構成要素を取り替えたり祭文との対応を調整するとするかの。わらわはいまいち分からぬのじゃが人は余り多くの術や陣を己に留めておけぬと聞くのじゃ」
「はい、ありがとうございます。そうですね、数多の術を修めて使いこなせるような魔術師は本当に数少ないですよ。魔力だけの問題ではないのでそう言う達人魔術師は本当に貴重と聞きます」
個人的には学習不足に過ぎぬのではあらぬかと言いたいところなのじゃ。あとは体系だった分類が出来ておらぬなぞの流派が分かたれておる弊害かの。
オルンは己が見劣りするやもと気にしておったのじゃが、実際にはリーダーとしてしっかりしておるゆえ問題あらぬのじゃ。楯役として確かな立ち位置をえておるしの。
問題があるとすれば前任のガントが咄嗟の判断に難があるとは言え魔力的にも修めておる魔術的にも優れた魔術師であったゆえそれと比べられるレイデ、そして双子等と並んで戦うことになるパードなのじゃ。
青系の色を髪や瞳に持つレイデは氷雪の神の加護が強いのじゃ。それを踏まえて伝授するのじゃ。
「あのっ、マーティエ。質問よろしいでしょうか」
氷霧を生み出す氷雪の神にまつわる<氷霧の息吹>と言う祈祷を教えておるとレイデに質問を受けたのじゃ。冷たい霧を生み出す魔法でそのままでは攻撃力はないのじゃが範囲内で氷弾なぞの効果が高まるのじゃ。
特に夏場は氷弾の効果が減衰するゆえそれを補えるのが良いところなのじゃ。無論夏場は氷霧自体の効果時間が著しく減じておるのじゃがの。
わらわにとっては視覚を遮る効果が重要な祈祷なのじゃ。霧の中で収納空間を使うと言う方向性での。
「質問がなにか分からぬが分かることであらば答えるのじゃ」
「わたしのレイデって名前は氷雪の神のファースレイデから頂いているんですが、神殿ではそう言う神名は唱えないんですよね? なんでなのかなって」
「その土地に根を張る祈祷師であらば唱えて問題あらぬのじゃ。修道会士はどうであろうの。少し確かめておかねばならぬのじゃ」
至極当然の疑問なのじゃ。
「理由のほうはの、神々をとりあえずひとまとめにする神殿のやり方上の都合なのじゃ。氷雪の神はあまり他の土地では信仰されておらぬのじゃが、火の神や大地の神は各地でその土地それぞれの名で信仰されておったのじゃ。無論名だけではのうて神の性格も大きく違うておったのじゃがそれを火の神なら火の神として一柱の神の相として認識してひとまとめに祀ったわけなのじゃ」
「都合、ですか」
ちょっとポカンとしておるのじゃ。いかんの、少し有り難みのある話をするべき場であったのじゃ。
「気取って言うならばの、神の神性の本質を信仰しておるのじゃ。名付けられし神を祀るのは神の表層への信仰に過ぎず本質に到っておらぬのじゃ、なぞと神殿の正統は言いおるのじゃが、わらわは民が祈る対象は名のある神でよいと思うておるのじゃ」
「なるほど、信仰の有りように関わるのですね」
その土地独自の信仰が神殿に吸収されて消えていくのが正しいとは言えぬのじゃが、わらわはそう言う批判をする立場にあらぬのじゃ。困ったものじゃの。
神殿と民の間で信仰上の分断が起こるのも良くはあらぬしの。難しい話なのじゃ。
二人もなんとのう納得はしたようなのじゃ。
「ありがとうございました。しかし、自分が教えてもらった魔法陣の構成要素の入れ替えや魔力の注ぎかたで効果を変じたりするのは流派の秘伝とか、そんなものではないのでしょうか」
今度はパードから心配げにそう告げられたのじゃ。心配性なのじゃ。
「秘伝としておるところもあるやも知れぬがの、魔法陣と祭文を理解して真に修得しておれば誰でも己で出来ることなのじゃ。そう言う努力を惜しむゆえ誰にでも出来ることが秘伝になってしもうたり魔法陣を余り多く修得できぬなぞ言い始めたりするのじゃ」
「マーティエにとってはそういうものなのですね」
なんとなく遠い目で応えられたのじゃ。
「其方等もしっかり精進すると良いのじゃ。ではそろそろ移動するのじゃ」
「はい! マーティエ」
二人は元気良く応えたのじゃ。
さて、オルンは熊さんから学ぶものがあったかの。見に行ってみるとするのじゃ。
お読み頂きありがとうございました。
次回更新未定です。