戦車と言うても馬車なのじゃ
こんにちは。
何か書くつもりのことを書き落としている気がするのですが自分では判らない感じです。
次回更新の予定は未定ですがよろしくお願いします。
「前もらった薫製も旨かったが、薫製した魚やクラーケンをこりゃなんて言うんだ? 油で煮たこれはまた本気で旨いな」
「其方がそんなに気に入ったのであらば今度熊さんにも伝えておくとするのじゃ。熊さんの店でも食えるようにの」
酒が欲しいとぶつぶつ言いながら褒めるジーダルに好きなときに熊さんの店で食べれるようにしてやる約束をするのじゃ。
「商業組合との約束に先行して結構な数の料理をベアルの店に流しているので店は忙しく対外的な交渉も厳しいようですね。ベアル本人が挨拶に来たがっているんですが店を離れる余裕がない様子です」
ベルゾもアヒージョを食べながら言うておるのじゃ。
「熊さんには商業組合での試食会で一応手伝うてもらいたく思うておるのじゃ。調理師匠合にも関わることゆえ対外的な部分は調整できると思うのじゃ」
「そうですね。作り方などを学ぶために人員を連れてくるはずですし知ってるものがいたほうがいいと思います」
「うむ、頼むのじゃ」
ベルゾとちょっと話をしておるとなにやら珍しゅうマーセの食が進んでおらぬことに気づいたのじゃ。
「マーセはこれはあまり得意ではあらぬのかや?」
「いや、違うよ。美味しいよ、うん」
「なにか悩みが、あっ、マーセのほうがオルンに……」
「違うから! いや別にイヤじゃないけど違う!」
実はちょっとオルンに脈がある気配がするのじゃ。ではのうて普通に別の悩みのようなのじゃ。
サーデやマーセが食が進まぬと言うのはなかなか重大な悩みなのじゃ。
「うー、パードとレイデは元から知り合いで、結構仲良しなんだよ。それってレイデ達の他の仲間も含めてだったんだよ」
その他の仲間等が子ども等を食い物にする類の連中に近づいておるのが厭なのじゃな。
「ペルの扱いに一緒に憤ってたりしたものね。人は分からないものだよ」
モリエも少し遠い目で呟いたのじゃ。ペルとは、うーん、そうなのじゃ、双子等と仲の良い獣人の冒険者なのじゃが質の悪い先達冒険者に捕まって酷い扱いを受けておるとか聞いておるのじゃ。
それに憤っておったはずがそちらの仲間になっておるとか納得行かぬのじゃな。
「人の道なぞいつの間にか逸れて行くものなのじゃ。ゆえにこそ己の歩いておる道を時に立ち止まって見渡すべきであるのじゃ」
「ミチカが時に立ち止まって自省しているようには見えねえがな」
「混ぜっ返すでないのじゃ。わらわは後悔はせぬ主義なのじゃが反省は次によりやらかすために行うのじゃ」
「最悪じゃねえか! まあそれはいいとしてだな、パードとレイデにも少しは反省すべき点がある」
ジーダルが先輩らしゅう雪の椿の面々に話をし出したのじゃ。
「パーティ資金やなんかについてとかの約束事はしっかりパーティ内で話し合って決めておかねえとな。調子よく行ってるときは気にする必要がねえと思いがちだが、常に調子よくなんか行かねえんだからその時のために決めておかねえと苦しい時を一緒に乗り越えることが出来なくなるんだ」
悪いのはパードとレイデ以外の連中であっても決まり事をちゃんと決めておらんかった全員に相応の責任があると言うておるのじゃが、要は新しゅう組むと言うておるオルンにちゃんとしておけとアドバイスしておるのじゃ。
「そうですね。今までは幼なじみの兄妹二組だったからそのあたりは全部ガントに丸投げでした。ガントとモリエの立ち位置なんかも含めてちゃんと話し合います」
「ジーダルは偉そうに言ってますが無論私に全部丸投げです」
ベルゾの告発に笑いが漏れたのじゃ。ただまあ後々もめることのあらぬように決まり事はちゃんとしておったほうがよいのは当然なのじゃ。
「しかし、ガントは分かるのじゃがモリエもかや?」
「ああ、ガントは中央に行くのが一年は先と言っても色々とやることも多いだろうから神殿中心に動いてもらって、こっちに人手が必要なときには参加してもらう準メンバーでいいと思う」
オルンの発言にガントも頷くのじゃ。
「えっと、ミチカに説明するとモリエの鑑札は正式なのは狩人のなんだ。冒険者でもあるのは俺たちが人数的に力不足なんで手伝ってくれって頼んで入ってもらったからなんだ」
村から双子等が出てきてその見習い以前の年齢の二人を抱えたオルンとガントは苦労したように聞いたことがあるのじゃ。確かにそれにモリエが入って何とか形になったのであろうの。
「一応狩人として独り立ちできる鑑札だからね。でも冒険者も楽しいから私は構わないんだよ」
モリエがそう応えておるのじゃ。狩人として身を立てることが出来るものが冒険者である理由は楽しいくらいしかあらぬのじゃの。
無論それは大事なことなのじゃ。ただ、心配だからと言うのは兄や双子等に失礼と思うておると言うことであろうと思うのじゃ。
「ミチカの護衛をしつつ料理なんかを手伝ってるのがそれ以上に楽しそうだぜ。兄ちゃんとしてはその立場を基本として、ガントと同じくこっちが戦力不足の時に手助けに入ってもらうだけ構わないんじゃないかなって思うんだ」
そして兄たるオルンとしてはそのほうが安心と言ったところかの。これはまあ兄妹の間で解決すべきことのようなのじゃ。
「うん、そうだね。冬の間考えてみる」
「ああ、俺もよく考えるよ」
「して、ジーダル。最近忙しゅうしておったのはそういった胡乱な連中相手に色々とやっておったからかや? お疲れさまなのじゃ」
「ああ、まあ盤上遊戯を広めたりするほうもやってたがな。あと保存食としてミチカが渡してきた薫製肉を知り合いに回したりもな」
「薫製肉は好評よ。一応感想とか感謝の言葉をまとめておいたから後で渡すわね」
「ありがとうなのじゃ、セイジェさん」
色々と働いておるのじゃ。それも大概わらわがらみであるゆえ感謝せざるを得ぬのじゃ。
「ミチカに一人でうろうろするなっつって、俺のほうがそうやってうろうろしてると結構釣れたぜ。ミチカのことを理解できてねえで甘くみた連中のことはバカだとは思うがまあ理解できる」
「マインキョルトで一番の冒険者である其方を甘く見たような襲撃者が湧いたのかや」
聞いておったオルン等も飲み物を吹きそうになったりしておるのじゃ。流石に飛んだお笑い草なのじゃ。
「冒険者ではのうて黒幕のほうの実働部隊が釣れたと考えると悪うはあらぬのじゃが、冒険者崩れがおると聞いておるのじゃがの」
「ああ、統制がチグハグな感じがする。その良くわからん精神干渉の魔術なんかでまとめている所為かもな。とりあえずはこの前の食事会で警邏隊のゲノール隊長を紹介してもらっておいて助かったぜ」
どんどんゲノール隊長の隊へと引き渡していったそうなのじゃ。向こうは仕事が増えてうんざりしてそうなのじゃがまあ顔合わせはしておいて益があったようなのじゃ。
「つっても賢い奴らは出てこねえし、ある程度は釣り出せたんでこの辺りで様子見だな」
「ご苦労様なのじゃ。情報はそのうちゲノール隊長から回ってくるであろうの。まあ慰労のために夕餉もうちに来るかや? 其方は忙しゅうしておってあまり遊びに来ておらぬしの」
「ああ、家なら酒もあるだろうしな」
「潰れぬ程度にするのじゃ」
ジーダルと軽く話を交わすのじゃ。聞いておくべき話は終わったと判断してオルンは子ども二人に御者の練習をさせに行ったのじゃ。
実際に御者をする訓練は城市内でも監督が付けばできるのじゃが、外でやるほうが安心と言ったところなのじゃ。
双子等はセイジェさんにバドミントンを教えてやり始めたのじゃ。
「あー、話はちょっと変わるが御者は徴募がかかるかも知れねえな。見習い以下が対象になることはないはずだが」
「ほう、軍にかや?」
御者の訓練を見ながら思いがけぬことをジーダルが言うたのじゃ。
「あのストールベリ王国との国境辺りで出た豚鬼どもだ。あれの発生源になったダンジョンの帰属で争いがおこりそうって話だ。バカみたいな話だがな」
「面倒なことなのじゃ。ああそうか、輜重隊の馬車だけではのうてこの国では戦車の御者も要るのじゃな」
「まあ徴募されるのは運送のほうだと思うがな」
戦車、と言うても当然前世で聞いてイメージするタンクではあらぬのじゃ。古代ローマのチャリオットよりも古代中国の戦車のほうがイメージに近いかの。
魔法陣を床に描いた戦闘用の馬車に魔術師を長柄の武器を持った護衛とともに乗せて運用するのが帝国式戦車なのじゃ。
分厚い石材で舗装された帝国式街道が巡らされた範囲では歩兵も馬車で動かす帝国式軍制をジープラント王国も採っておるゆえ戦車もあるというわけなのじゃ。
ストールベリ王国では魔法陣を描いた輿に乗るのが似た形式となるのじゃが機動性は大きく劣るのじゃ。
どちらにせよ貴族を中心とした上級魔術師の運用法で普通の魔術師が軍に参加する場合は徒歩が多いはずなのじゃ。
「冒険者も徴用されたりするのかや?」
「依頼として傭兵仕事が回って来はするな。強制依頼になるのは城市存亡の危機とかそんな場合だろうな」
なるほどなのじゃ。
しかし戦争の気配があることは覚えておいたほうが良さそうなのじゃ。直接関わりがのうても物価や物流に影響はあると覚悟が必要なのじゃ。
この後楯の修練や双子等との連携訓練をジーダル等に見てもらいながらやったりした後屋敷に戻り、暖かい部屋で改めて食事を楽しんだのじゃ。
オルンの楯修行を名目にジーダル等との情報交換が出来て有意義な日であったのじゃ。
お読み頂きありがとうございました。