オルンのお悩み相談なのじゃ
こんにちは。
今日もよろしくお願いします。
次回更新は未定ですが、気持ちとしては週内に。
「ミチカ! 本気で打ち合っちゃダメ、って言ってたっとことは本気で打つと凄いんだよね。今日はそれを見せてもらうよ!」
ビシッとサーデがポーズを決めてわらわにそう告げたのじゃ。
バドミントン初回の翌日、参加者が倍増する中結局バドミントン大大会になっておるのじゃ。
連絡を受けたエインさんや息子さん御一行、仕立屋さんの女店主やお針子さん数名、今回は組合長こそ来ておらぬが商業組合のミルケさんの同僚等が数名、そして修道会からパードとレイデがベルゾと共に来ておるのじゃ。大人数なのじゃ。
今回見あたらぬジーダルとセイジェさんはなにやら忙しゅう立ち回っておるところなのじゃそうな。ベルゾがまた今度遊んでやってくださいと伝えて来たゆえ孤児関係の問題なぞで動いておるのじゃろう。
食事会が労いの先払いではあったのじゃが、まあ今度なにやら相手をしてやるのじゃ。
ついでに昼餉をたかっていこうという連中であろうからたっぷり支度するようメイドさんに頼んでキャッキャッとバドミントンで遊び始めたのじゃ。
そこに、サーデが本気ってものを問い糺してきたというわけなのじゃ。
「スマッシュを打つと初心者では対応するのが難しいのじゃ。通常遊ぶ分には禁止として、勝負事として試合をするとき専用の技として教えるかの」
スマッシュの速度に対応するには動態視力の高さとフットワークの良さが必要なのじゃ。中学時代バドミントンをしておったことが後のボクシングで活かされた、とわらわは自己評価しておるのじゃ。
それは置いておくのじゃ。
記憶を頼りに描いたコートにネットの代わりに杭に紐を渡して正式な勝負をする際の作法として伝えるのじゃ。
「これは勝負なのじゃ。即ち遊びにあらぬと心得て懸かってくると良いのじゃ!」
「おーっ! 望む所だよ、ミチカちゃん」
威勢のいいサーデの返答に応えて試合開始なのじゃ。
「疾っ!」
テニスの経験はそれこそ遊び程度なのじゃが、テニスに比べてバドミントンはクロスレンジでの高速戦闘となるのじゃ。
特に遊びでは禁止と言うたスマッシュは全球技中最速の初速を誇るのじゃ。
サービスは足を地から離さぬなどの決まりがあってラリーの始まりはまず安定して起こるのじゃが、そこからは高速で放たれるスマッシュを捉え狭いコートをこれまた高速で駆けめぐり返すと言う速度感があるスポーツなのじゃ。
観客もザワザワするわらわのスマッシュの速さであったのじゃが、サーデは簡単に折れるものではあらぬのじゃ。
二発三発と決めたのじゃが、その辺りから当ててくるようになったのじゃ。当てるだけで返せておるわけではあらぬのじゃが、凄い能力なのじゃ。多少軽く見ておったことを反省する要があるようなのじゃ。
「うーん、槍じゃなくて剣を稽古しとくべきだった?」
「いや、剣とはまた振り方は違うと思うのじゃ」
ワンゲーム先取したところで軽口を応酬するのじゃが、次は少々厳しそうなのじゃ。わらわは結構息が上がっておるのじゃが、サーデは元気そうなのじゃ。
スタミナはわらわの課題なのじゃ。毎朝ロードワークから基礎トレーニングをこなしてはおるのじゃが孤児院時代の栄養失調生活の負債が返済されきっておらぬと言ったところなのじゃ。
内心<賦活>に頼る気持ちがあるのも甘えが出る点かも知れぬのじゃ。
「よっしゃー! 一発返したよ」
「ようやるものなのじゃ。わらわもちょっと本気を出すのじゃ!」
「いや、息上がってるよ、ミチカちゃん。結構前から本気じゃん」
初試合で返されるとは思っておらんかったのじゃ。冒険者凄いのじゃ。
「形式美という奴なのじゃ」
まあ流石に負けフラグとはならずストレートで勝ちはしたのじゃが結局三ポイント取られたのじゃ。素直に賞賛できるのじゃ。
「確かにあの球速は慣れておらんと大変だの。素早い魔物とも戦う冒険者専用の遊びになってしまうな」
「なので遊びではスマッシュ禁止なのじゃ。スマッシュを交えながらラリーを続けれる様になるとそれはそれで楽しいのじゃがの」
とりあえずエインさんは商品価値を見いだしたようなのじゃ。わらわはメイドさんから受け取ったレモン水を飲み、息を入れながらバドミントンラケットの軽量化なぞもお願いしておいたのじゃ。
「しかし、魔法禁止と言うておかねば良かったのじゃ。わらわの失策なのじゃ」
「ああ、普段ミチカは祈祷で強化してるんだな。そりゃ息も上がるな」
オルンが肩を竦めたのじゃ。
サーデはモリエとマーセの二人と共にスマッシュの練習をしておるのじゃ。あちらは本当に元気なのじゃ。
「しかし、旅を共にしておったときに比べてサーデの動きが格段にようなっておると見えたのじゃ」
前に動きを見たときは<早足>と<跳躍>を組み合わせたマジカル機動であったゆえ気づかなんだのじゃ。今回魔法なしの素の身体能力を見て驚愕したのじゃ。
「更に魔法で強化することを憶えたからな」
うむ、当然なのじゃが強化する基礎能力が高いほうが魔法の強化が入った場合にも有利なのじゃ。
「本当に伸び盛り、といったところなのじゃろうの。正直そんな気にするほどであらぬと思うておったのじゃが、確かにそなたの悩みは理解できたのじゃ」
オルンの相談事を昨日夕餉の後こっそりと私室で聴いたのじゃがその時はそう深刻なことと受け止めておらんかったのじゃ。
いや、実際は今でも深刻ではあらぬのと思うのじゃが、オルンも男の子じゃからの。
オルンの悩みは正直、サーデとマーセのほうが自分より強くなっておる気がする、と言うものであったのじゃ。
冒険者である以上強いに越したことはあらぬのじゃが、リーダーとしての資質としては必須なわけではあらぬのじゃ。
しかし、強うありたいという希みを否定するなにものもわらわは持たぬのじゃ。しかし、オルン強化計画は案外難しいのじゃ。
憧れの先輩のジーダルに頼るのもありなのじゃが、まずはわらわがなんぞ考えたいところなのじゃ。
昼餉はメイドさんが作ったイカ焼きそば、クラーケンの焼きラ・メェネなのじゃ。
オルンが戻って最初にヴルストが出てそして今日は焼きそば、という風にメイドさん等はオルン不在の間にわらわが出してきた料理を主に出しておるのじゃ。
おかげでオルンを見ることで料理に対する新鮮な反応が確認できるのじゃ。
余のものもバドミントンを充分楽しみ、今は焼きそばに熱中しておるのじゃ。
「オルン、楯を使うては見ぬかや?」
「楯か」
魚醤ペーストに焼いたウスターソースについでにクラーケンにと驚きを素直に表現しておったオルンに楯を勧めてみたのじゃ。
わらわは<洗浄>はあるもののちゃんと持っておるハンカチで口のソースを拭い、意図を説明するのじゃ。
「強い、というのは無論重要事なのじゃが、其方等はパーティである以上むしろ連携が取れて協調できることのほうがより優位されるのじゃ」
「ああ、なるほど」
「其方が楯で相手を抑えて双子等が機動力を活かしてそれを討つ、というような連携が取れると良いと思うのじゃ」
むしろ強う、そして速うなった双子等の能力を活かす方向で考えると良いと思うのじゃ。そしてオルンはその軸となる男になれば良いのじゃ。
焼きそばを食す手も止まって悩むオルンなのじゃ。オルンの戦闘スタイルはジーダルに憧れた結果とも聞いておるゆえ彼奴にも協力してもらうのじゃ。
「どちらにせよわらわはそういう戦いの専門家ではあらぬのじゃ。試しに少々訓練してみて、成果はジーダルに評してもらうとするのじゃ」
「えっ、ジーダルさんに頼むのは迷惑な気がするんだけど」
「構わぬのじゃ、わらわが許すのじゃ」
わらわの言に後輩を生温かく見ておったベルゾが吹き出したのじゃ。そのベルゾに明日わらわ等は城市外で朝から訓練しておるゆえ午後には来るようジーダルに伝えてくれるよう頼んだのじゃ。
よし、相談事は終わりゆえ、午後からは先ほどのシンドい勝負ではのうてもっとキャッキャウフフとした楽しいバドミントンをやるとするのじゃ。
お読み頂きありがとうございました。