土木工事なのじゃ
本日二話目です(2/3)。
次話更新予定21時です。
とりあえず、と高まったテンションを落ち着かせ朝の残りで遅めの昼餉なのじゃ。
食後は軽く体を動かし、服が破れたりほつれておらぬかを確認。うむ、わらわはなかなかの裁縫上手なのじゃ。
さてと、午後は懸案の建物改装なのじゃ。
「父さまと、あと弟たちと一緒に秘密基地を作ったことを思い出すの」
夏休みに母さまに呆れられながら結構本気で作ったことがあるのじゃ。あ、結構本気というのは父さまが、なのじゃ。
一家で乗っても大丈夫なツリーハウスとか、そりゃ母さまに呆れられるのじゃ。当然補強用の柱を何本も立てておったのじゃが、そのための基礎工事なぞよく父さま一人でやれたものなのじゃ。
「よく人を殺して埋める、なんて話はあるけどね。難しいんだよ、掘り返されたことのない山の土を掘るのって。鉄のように硬いからね」
「ふむ、そのわりに聞く気がする話なのじゃ」
「きちんと掘れないから柔らかい腐葉土のお布団を掛けた程度で済ませてしまって発見されるのさ」
「結果、よく聞く、と言うわけなのじゃな」
「そうだね。流石三千香ちゃんは賢い。で、まあそう言う硬い山の土を掘り返したいなら土木機材を持ってくるか掘る技術を持ったプロに頼むかになるね」
「プロ?」
「陸自や陸軍で訓練された人ならこんな山の土どころか凍った北の大地でもスコップ一本で掘り返せるんだよ。すごいね」
「すごいのじゃ!」
すごくどうでもいい話まで思い出してしまったのじゃ。
柱を立てるための穴をザクザク掘る父さまとのおしゃべりなのじゃが、女子小学生相手に何を伝えたかったのじゃろうか。
しかし、今やわらわは父さまを越えたのじゃ! <掘土>と<埋土>の二つの生活魔法で穴を掘る速度は父さまに勝利、いやさ圧勝なのじゃ。
わらわの土木工事技術は完璧なのじゃ。言い過ぎなのじゃ。ちゃんとした図面を引けるわけではあらぬゆえの。
最初は収納空間の出納機能で土を空間範囲指定で収納してみたりもしたのじゃが、魔法名のみの短縮発動で<掘土>を使う方がやりやすかったのじゃ。
っと、宿題があったのじゃ。<掘土>と<埋土>は組み合わせられるのじゃったな。
「大地の朋輩朋類よ
我は地にありて地に祈り地の恩寵を願うもの
地を穿つ兄神の加護を求め祈り
地を築く妹神に祝福を希い祀る
大地の神々に祈りを奉じ請願す
穿ち築く双神の権能の一塊を貸し与え給え」
祭文の幾つかのワードと魔法陣の構成要素が対応しており、ワードが祈祷されるごとに組み合わされて魔法陣が構築されるのじゃ。この魔法陣のパーツごとに魔力が吸い出されるのじゃが、同じパーツでも生活魔法とは比べものにならない消費量なのじゃ。
祈祷の祭文がすべて並び、力ある魔法陣が構築される。流れ込んでくる力と吸い出される魔力の渦の中、祈祷を完成させる聖字が頭の中に流れる。
―地もまた回り、その循りを操すが双神の権能
その文字を掬い取り音に換えるのじゃ。
「<地回操循>!」
はて、聞いていたのと違う祈祷になったのじゃ。
ふむふむ、最初は驚かされたのじゃがこの<地回操循>、魔力をバカみたいに使わされただけあってなかなかすごいのじゃ。継続的に魔力を消費するほか使いづらい点もあるのじゃが範囲内の大地を好きなように成形できるという破格の能力なのじゃ。
しかし、好きなようにとは言うてもかなりしっかりしたイメージが必要なのじゃ。これに関しては収納空間の空間範囲指定で養われた空間識が役に立っておる。
この祈祷で落とし穴を作るも塹壕を掘って陣地構築するも魔力の限界までは自由自在なのじゃ。
ただ、変形させる速度は<掘土><埋土>よりゆっくりしておるゆえ相手の足下にいきなり落とし穴を穿つ、と言うような速度のいる作業は<掘土>の魔法名のみの短縮発動の方が向いておるのじゃ。
あと、大地を離れたものは操作できぬのじゃ。地面においた土塊は好きに変形出来るのじゃがそれを手に持って持ち上げればもう出来ぬのじゃ。
それに何より魔力がきついのじゃ。発動した時点でわらわの総魔力の半分くらい持って行かれたというのに更に発動中は継続的に消費されるのじゃ。魔力はゆっくり自然回復するのじゃが当然回復分より多く吸われるゆえ赤字なのじゃ。
しかし、土木工事に関しては短所を補って余りある性能なのじゃ。土が対象の<掘土>と異なり石材も扱うことが出来ることが予想外の収穫なのじゃ。木材は残念ながら扱えぬのじゃが収納空間との組み合わせでかなり効率的に使うことは出来るのじゃ。
なんにせよ、継続的な魔法消費が最大の難点ゆえしっかりしたイメージを持って無駄なく効率的な行使することが肝要なのじゃ。
「次からはきちんと事前計画を立ててから<地回操循>は使うのじゃ」
わらわは魔力切れでぶっ倒れながらそう誓ったのじゃ。
お読みいただきありがとう御座いました。