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悪役令嬢婚約破棄ものは異世界でも人気なのじゃ

こんにちは。

時間が無いときに無理して書くと話がほとんど進まないのに長くなる、と言うことに気付きました。

 正直、宿暮らしであったゆえわらわも雪の椿のメンバーも引っ越しに大した手間はあらぬのじゃ。その筈だったのじゃ。

 ジーダル等のように一つの宿を長年借り切りしておればまた話は別であろうが所詮は二十日にも満たぬ滞在であったのじゃ。

「いや、とても二十日しか暮らしていないとは思えないほど荷物があるよね」

 そっと現実から目を背けておったらモリエからツッコまれたのじゃ。


 わらわは大した荷物はなかろうと楽観しておったのじゃが、現実をちゃんと認識しておったメイドさん等がしっかり荷造りしておいてくれたゆえ問題は軽微なのじゃがの。

 買って持ち帰ったように見せたり、届けてもろうた様に見せたりと偽装をしつつ収納空間から出してきた物品は出した後こっそり収納し直すわけにも行かず出っぱなしなのじゃ。

 ズークさんのところであがのうた茶の箱やエインさんのところから届いた盤上遊戯や魔法具なぞの試作品の箱、倉庫を押さえる前に発注して宿に届けておいてもろうた買い物の品々、そして各種書類の束が積上がっておるのじゃ。


「こんなにあると思うておったら事前に何度かに分けて運んでおいたのじゃがの」

「なぜか荷物の多いサーデやマーセと同じこと言ってるよ」

 溜め息混じりながらモリエは甲斐甲斐しく荷物を運んでくれるのじゃ。ありがたいことなのじゃ。わらわはメイドさんから宿での客という立場では直接的に働くべきにあらざるとの指摘を受けて<念動>でサポートするに留めたのじゃ。


 そんなこんなでわらわの想定より些か遅い出立となったのじゃ。

 受付のものを初め、宿の従業員とも顔見知りになっておるゆえしっかり挨拶して引き払うのじゃ。宿から新居まで移動する馬車の御者もずっと世話になっておったのじゃが今日でそれも最後なのじゃ。ちょっとだけ寂しいのじゃ。

 予想外に沢山の従業員に見送られての出立となり少し気恥ずかしかったのじゃ。

 うむ、良い宿であったのじゃ。商業組合の組合長に礼を言って置かねばの。


 ガント、双子等、そして子ども等はオルンがまだ戻っておらぬゆえ雇った御者の操る荷馬車で新居に参っておるのじゃ。荷馬車と馬はレンタルではのうて買い取ったものでそのまま屋敷に納品なのじゃ。

 オルンが戻るまでの馬の世話はモリエが一応出来るという話なのじゃ。

 ジーダルが護衛も出来る御者兼従僕を一人雇わぬかと言うておったのじゃが、確かに必要があるのじゃ。近いうちに候補を紹介してくれることになっておるゆえ面接せねばならぬのじゃ。


 雪の椿チームも双子等の荷物が予想外に多く、到着が遅うなったらしいのじゃがわらわ等より早かったのじゃ。不在のオルンの荷物はモリエが纏めたものを積んできたそうなのじゃが街着一着と訓練用の木剣、革装備の手入れ道具で終了とは少なすぎなのじゃ。

「砥石とか剣の手入れの道具は持って行ってるみたい。あと冬の旅だから予備の外套や上着も」

 いや、それでも少ないのじゃ。モリエと双子等の街着は増えておるのじゃが、オルンとガントにも何着かあつらえさせねばならぬようなのじゃ。


「しかし、出合でおうたときのように長期の護衛仕事の時なぞはどうしておったのじゃ」

 ふとした疑問なのじゃ。ジーダル等のように長期で宿の部屋を借り上げておるならば問題あらぬのじゃが。

「冒険者協会で預かってもらえるよ。依頼で留守にする場合は一定の期間は無料だったり割引だったり。長引くと料金が掛かるけどね」

 わらわはメーレさんから説明を受けた気がせぬのじゃが、ちょっとした貸倉庫のようなサービスがあるらしいのじゃ。


「あと、宿によっては部屋を借りるよりは安くで預かってくれたりもするよ。ミチカが買った荷物を宿に送ってもらってたのはそういう扱いになってたと思う」

「なるほどなのじゃ」

 宿を引き払ってから知る仕組みなのじゃ。


 そしてモリエ等は五人で行李一つ程度の荷物に纏めておったそうなのじゃ。個別に預けておると不慮の事態で長引いてしもうたら料金が五人分発生するゆえ、それに備えて一箱体制であったと言うことらしいのじゃ。

 そう言う節約をするくらいであるゆえ宿に預けたりはしておらんかったそうなのじゃ。


「ではなにやら荷物が多いというサーデとマーセはマインキョルトに帰ってきてから増えたものであるのかや?」

「そうです。豚鬼オークの魔漿石代なんかで余裕ができたと思えば無駄遣いをして」

 ガントが溜め息混じりにこぼすのじゃ。

「いやいや、これもミチカが言ってた庶民の贅沢とか余裕とか、そう言う奴だよ。兄ちゃん」

「あ、ミチカちゃんも読む?」

 そう言うておそらく木版の冊子を差し出してきたのじゃ。印刷はまだまだ発展しておらぬゆえ確かにそこそこの贅沢品なのじゃ。


 考えると前世江戸時代の浮世絵の多重色刷りなんぞは偏執狂の領域に入っておる気がするのじゃ。木版の簡単な単色の挿し絵が入った絵草紙をパラパラと流し読みしつつそう思うたのじゃ。

「貸本屋は返さずにいなくなることのある冒険者には貸してくれない」

「貸してくれないわけじゃないけど、保証金で新しい本が買える」

 挿し絵に入っておる文字列を拾うと西方域のものが原作なのじゃが、本文はちゃんと北方の言葉に差し替えられておるのじゃ。版元なぞがどういう仕組みになっておるのか少し気になるのじゃ。


「ちなみにその本は超人気だよ!」

 それよりも双子等が文学少女であったことのほうが驚きなのじゃ。なのじゃが内容もなかなかに興味深いのじゃ。

 貴族のご令嬢が謂われなき罪で婚約破棄され追放されるものの追放先でイケメンに見初められ幸せになる、所謂悪役令嬢系のノベルの基本的な筋書きなのじゃ。


 貴族に対する批判の意図がないことを示すために現実にはあらぬ貴族制度や国名になっておるのじゃが、逆にわらわにはなんとのう見覚えがあるのじゃ。

 こういう物語が好きであったのは幼なじみのカッコなのじゃ。カッコであらば確実に判ずることができるのであろうが、要は世界を越えた盗作である気がするのじゃ。まあ異世界にも通用する著作権樹立のために編集者には転生して貰うとして、なのじゃ。一応将来西方域に行くことがあったならばこの版元から著者へと辿ってみるのじゃ。

 いつ頃書かれたものなのかさえわからぬ以上焦る必要もあらぬことなのじゃが先の予定には入れておくのじゃ。


 他にも芝居役者の姿絵、これは木版の線画の上に手作業で色を着けたと思われるのじゃ、であるとか積上がった荷物から双子等が流行ものに弱いことがわかったのじゃ。予備の槍の穂先や、練習中と称する投擲短剣であるとか冒険者らしい物騒なものも多かったのじゃがの。


 そう言った考察はともかく荷物の搬入はミルケさんとタンクトップおじさんがそれぞれ下働きのものを伴ってやってきたことであっと言う間に片付いたのじゃ。ほどきもメイドさんが指示を出してやっておるゆえわらわはやることがあらぬのじゃ。

「新築の祝い事は春の祭が済んでから改めてやるつもりであるのじゃが、折角信徒の其方がおるのじゃ。ここの礼拝所を開く祈祷をともに祈っていくかや」

 引っ越し作業を完全お任せモードにすることにしたわらわはタンクトップおじさんにそう声を掛け、礼拝所のほうに向こうたのじゃ。


「はい、喜んで。外からは見ておりますが、変わった建物ですな」

 タンクトップおじさんは即答してついて来たのじゃ。

 だいたい同時にやってきておったミルケさんは執務室で、いや礼拝所が併設されておるゆえやはり聖務室かの、とにかく書類仕事をできるよう整理してくれておるのじゃ。大量の書類も持ってきておったようであるゆえ後で署名捺印を頑張らねばならぬと思われるのじゃ。


「あ、私も行きます!」

 おっと、ガントにも声を掛けておくべきであったのじゃ。己から言ってくれて助かったのじゃ。

「うむ、当然なのじゃ。わらわがおらぬ時はガントに任せるのじゃ」

「えっ、はい。慎んで」

 そうやりとりしつつ礼拝所なのじゃ。ミニサイズながらなんちゃって古代ギリシャ風建築なのじゃが、内部はまたちごうておるのじゃ。と言うより古代ギリシャでどういう祭儀が行われておったかわらわは知らぬのじゃ。


 入ってすぐ目に入る礼拝所の中心にはこの土地で出土した石櫃が据えられ、その上に色鮮やかな緞子が懸けられて更にその上におそらく草木の神の聖印である魔銅の燭台っぽい杖が祀られておるのじゃ。これが主祭壇なのじゃ。

 燭台の枯れた魔漿石は新しいものに取り替えたのじゃが、新しゅうした結果なにやら蛍火のごとく小さな光がふよふよと樹木を模した燭台の枝葉の間を漂うようになったのじゃ。

 これは魔法的な効果ではのうてむしろ魔力が無駄遣いされておると鑑定した魔法具職人は言うておったのじゃが、無駄とは言いつつなんとも霊妙であるとか幽玄であるとか表現できるエフェクトで虚仮威しにはなっておるのじゃ。うむ、悪うあらぬのじゃ。

 実際タンクトップおじさんとガントは息を飲んでおるのじゃ。


 無論、それだけを祀っておるのではのうて神殿の倉庫から借りだしてきた卵形の青銅鏡が最奥の副祭壇に、冬の大神と氷雪の神を初めとした六柱の神像が主祭壇を取り巻くよう壁沿いに祀られておるのじゃ。

 副祭壇のある正面奥の壁面に修道会の紋章旗が掲げられ、祭壇の横には幡が立てられておって正直相当に派手な礼拝所となっておるのじゃ。

「修道会本部の礼拝所を整える前にここを参考にしたいとベルゾに言われたのじゃ」

「だからってちょっと頑張りすぎじゃないかな」

「わらわもそう思うのじゃ」

「いえ、素晴らしい礼拝所だと思いますよ。うむ、全く」

 タンクトップおじさんはいたく感動しておるようなのじゃ。


お読み頂きありがとうございました。

作者は悪役令嬢もの大好きです。

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