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お説教は程々で切り上げるべきなのじゃ

こんにちは。

今日から6月。下半期もよろしくお願いします~

「夕食を兼ねた試食会をするところなのじゃが、夕食抜き、を言い渡すほどの悪さをしたのかどうかを先に聞こうかの」

 食べながら話を聞く程度であるならば席に着くのじゃ、とガントに言うとしばらく悩んで扱いは決まったのじゃ。

「ミチカとモリエに話して許しが出るまで二人はお預けで!」

「あうぅ、働いてきたからお腹すいてるんだよ」

 そう言うたサーデの頭にガントの拳骨が落ちたのじゃ。体罰なのじゃ! とは言うてもわらわの今生きておるこの世界では体罰のような野蛮な風習も普通に罷り通っておるのじゃ。これもまたファンタジー世界なのじゃ。


 試食のもの等には美味しいうちに食べてもらう必要があるゆえ焼いたヴルストの盛り合わせとヴルストのスープを先に食べておるよう配膳の指示を出したのじゃ。とは言うても食堂なぞはまだ使えぬゆえ厨房スペース内の作業台で食すのじゃがの。

 そして話を聞くのもそのすぐ横なのじゃ。美味しそうな音が弾けるのが聞こえてお腹が減るゆえさっさと話を聞くのじゃ!


「こいつ等、二人で魔物退治の依頼を受けて海小鬼(ゴブリン)退治に行ってたんだよ」

「腕試ししたかったんだよ!」

「危なげない仕事だった」

 なにをやらかしたかと思えば二人で魔物退治の依頼をこなしておったらしいのじゃ。


「む、その依頼受けれるのかや?」

「本当は受けれないね。二人は年明けに見習いがとれるけど、今はまだ見習いだから」

 この辺りの歳の数えかたは新しい年が始まるときに一斉に加算する数えのやり方なのじゃ。そして新年まであと六十日少々なのじゃ。

 わらわとしては二ヶ月強と言いたいところなのじゃが今生の天には月があらぬゆえ月の満ち欠け基準の月という時間単位もまたあらぬのじゃ。

 兎も角新年までは双子等は未成年につき見習いなのじゃ。


「雪の椿として受注する分には正規の冒険者三名と見習い二名で問題なく受けれます。それを利用して雪の椿が受ける、と言う体で受注してるんですよ」

「悪知恵が働くのう」

 見習いの身分に関しては特例の仕組み上の都合で実は正規の冒険者扱いとなっておるらしいわらわはちょっと叱りにくかったのじゃが、その不正受注は単純に悪さなのじゃ。


「メーレさんはオルンが護衛で城市を離れていることを知ってるのでわざわざメーレさんが他の冒険者の相手をしている時を狙って他の窓口嬢に受注の手続きをしてもらっているんです。本当に悪知恵ばかり達者で」

「痛い、痛い! 兄ちゃん痛いってば」

 ガントがその作戦を立てたらしいマーセの頭を拳骨でグリグリしながらそう言うたのじゃ。

「メーレさんがその受付をした窓口嬢に聞いて分かったんです。神殿にメーレさんからの確認の書状が届いて吃驚しましたよ」

「悪事は露見するように出来ておるのじゃ」

 ヴルストを噛む最初の一口でパキンと音が鳴るような弾ける歯ごたえは絶品なのじゃ。腸詰めが受け入れられぬ可能性の高さを考えてなおヴルスト製造に乗り出したわらわの気持ちに賛同してくれるものも多いはずなのじゃ。


 はっ、双子等がガントとモリエに叱られておるのを聞き流してヴルストを食しておるメイドさん等とアイラメさん、狐の人を見ておったのじゃ。

 メイドさん等は余り前面に感情を出さぬのじゃが、アイラメさんと狐の人は絶賛しておるのじゃ。特に狐の人は尻尾の振り方に喜色が出ておるのじゃ。

 ええい、さっさと終わらせて食べるのじゃ。


「ガンは修道会に行くし、私はミチカの護衛だから兄さんは預かってる子ども達のこと二人に頼むって言っていったんだよね? 放っていても自分たちで港湾協会に働きに行くだろうけど」

「あ、そうだった」

「ごめんなさい」

 うむ、このあたりで締めるのじゃ。余りくどくどと言われても途中から聞く気が失せて行くものなのじゃ。

「やってしもうたことは返らぬのじゃ。反省の色も見えるゆえ、オルンが戻ってくるまで槍の稽古は禁止とするのじゃ」


「ええーっ!」

「結構厳しいよ、ミチカちゃん!」

 双子等は大きゅう声を上げたのじゃ。

「ほれ、厳しいと感じておる様子なのじゃ。妥当なところであろ」

「甘い気もしますがそんなところですかね」

「罰になってるんだ」

 ダメージを受けておる双子等とちごうてガントとモリエは少し懐疑的なのじゃ。しかし双子等の気持ちも分かるゆえ少しだけ擁護もしておくのじゃ。


「やり方は間違っておるし、全く逆効果なのじゃが其方が旅立っても平気なところを見せたかったのじゃ。その気持ちだけは酌んでやると良いのじゃ」

「ああ、そうだね」

 モリエは流石妹なのじゃ。すぐに納得したのじゃ。対してガントは虚を突かれたような驚き顔で双子等を見たのじゃが双子等はソッポを向いたのじゃ。年頃の妹は難しいのじゃ。


「後は食べながら話すとするのじゃ」

「うん、すっごく気になってたんだよ」

「美味しそうだよね」

 そう言う双子等をガントが叱るのじゃ。

「コラ! 説教されながらそんなことを考えてたな」

「兄ちゃんしつこい!」

「粘着質はモテない!」


 兄妹喧嘩に割って入る気はあらぬのじゃが、ヴルストに関する注意はしておくのじゃ。

「これは豚や羊の腸を利用しておるのじゃ。それが生理的に受け付けぬと思えば他のものを出すゆえ気にせず申すが良いのじゃ」

 生理的にダメなものに食べさせるくらいであらば、わらわが全部食すのじゃ。勿体ないのじゃ。


「こんなに美味しそうなのに食べないとかないよ!」

「お説教の間に大分減ってる。まだあるよね?」

 双子等は食べる気満々なのじゃ。ガントは一瞬目を見開いたのじゃが、是非食べてみたい、と言うたのじゃ。

 まあこの兄妹もメイドさん等と同じくわらわの料理、あるいはわらわ自身への信頼を有しておるゆえ余り生理的な反応のサンプルにはならぬのじゃ。


「これも先だって作った新しい燻製肉やベーコンと同じく保存食ゆえ多めには作っておるのじゃ。ただ其方等はよく食すからの」

 焼き係を既に食したメイドさんに任せ、焼き足してもらいながらの試食と相成ったのじゃ。

「わーい。それじゃあ」

「いただきますっ」

 双子等の掛け声で食し始めたのじゃが、これは自信作というても良い出来なのじゃ。


「美味しいですね。そして食感が楽しい」

 ちょっとだけ及び腰であったガントが最初に感想を洩らしたのじゃ。

「わらわの好みは粗挽きの肉なのじゃが、しっかり挽いた肉もそれはそれで良いのじゃ。混ぜるものも考えると工夫の余地は残っておるのじゃ」

 チーズを混ぜても美味しいのじゃが、船荷が来ねば追加があらぬゆえ節約中なのじゃ。単純にチーズを燻製したスモークチーズも作りたいのじゃがの。


「自分は飲まないのにビール、って指定してたのも納得だね」

「美味しいですよね! 油がビールで洗い流されるって言うか、いくらでも食べれていくらでも飲める気がします」

 モリエの感想にアイラメさんが食いついたのじゃ。しかしそれは潰れる人の感想ではなかろうかの。


 父さまはビールに関してヴァイツェンとかピルスナーとかなにかしら言うておったのじゃが、わらわは飲酒する年齢でもあらんかったゆえちゃんと覚えておらんのじゃ。

 十六世紀にドイツでビールの原料を大麦、ホップ、水のみと定める純粋令という法律が施行された、なぞと言った断片的な話はちらほら覚えておるのじゃがの。


 ガントはかなり気に入ったらしゅうて黙々と食べ始めておるのじゃが、その隙をついて反省すべき立場の双子等がこっそりビールを嗜んでおるのじゃ。いやまあ飲酒の年齢制限を定める法はあらぬのじゃがの。

 食べながら話をすると言うておったことを皆忘れておる気がするのじゃ。ヴルストが美味であるゆえ仕方なき仕儀なのじゃが、飲めぬわらわだけが置いて行かれておる気がするゆえちょっと話をせねばならぬのじゃ。


お読み頂きありがとうございました。

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