食事会終了なのじゃ
こんにちは。
今日もよろしくお願いします。
「訊いてみたいことがあるのじゃ」
「なんだい?」
婆さまが胡散臭そうにわらわを見るのじゃ。そのような目でわらわを見るでないのじゃ。
「其方等の匠合の名に入っておる錬金術なのじゃ。複数の場で錬金術を学ぶ機会があったのじゃがそれが陣立てから違っておって色々と気になったのじゃ」
「なるほどねえ。けど錬金術師のことは押しつけられたようなものさね」
そもそもという話であらば魔術師の職域であったものが魔術師と魔法具師、錬金術師と分割され魔法具と錬金術がひとまとめに匠合を持っておったのじゃそうな。
魔法具は発展し工房も増えていったために匠合の単独化がされたのじゃが錬金術は単独で匠合を立てるほどではあらんかったゆえ調合師のところに間借りする形になったそうなのじゃ。
国によっては魔法具と錬金術が一つの匠合のままであるそうなのじゃ。
ポーション自体の需要は高いのじゃが、調合師も自分らの伝える錬成陣で品目は限られておるとは言え作れるのじゃそうな。つまり、今調合師錬金術師協会を通じで流通しておるポーションもほとんど調合師が作ったものとのことなのじゃ。
「同業者の互助会としての匠合の体は為しておらんのさね。錬金術師は一応何人かおるが、実質は調合師だね。一人だけ本職がいるから興味があるなら紹介状でも書いておくよ」
「よろしくお願いするのじゃ」
一人しか間違いなく本職と言えるものがおらぬことに驚きなのじゃが、ただ一人やっておるというのであらばそれはそれでその人物には興味が湧くのじゃ。少し楽しみにしておくのじゃ。
調合師の婆さまご一行との面談はこのあたりで概ね終わりなのじゃ。
婆さまは相当な腕前らしゅうて盤上戦を老リーディンと対戦するとか言うて下がったのじゃ。アイラメさんや狐の人も冒険者等に教えてもらいながらバックギャモンやクロックノールで遊ぶようなのじゃ。
錬金術に関しては得るものは少なかったのじゃが、祭の屋台への参加だけでのうて子ども等の問題にも関わってくれるとは思いがけぬ収穫であったのじゃ。
そんな収穫のあった調合師錬金術師匠合のお次はエインさんとズークさんなのじゃ。
商人チーム、なのじゃ。ズークさんは信徒組でもあるのじゃが、信徒組に関しては老リーディンを飛ばしたように神殿でマードに話しておけばよいと言う理由で省略なのじゃ。
「大変美味しゅうございました。お店を出す際には菓子工房に出資していただいたように今度はこちらが出資させていただきたいものです」
「相変わらず素晴らしい料理の数々でした。魔法具工房や木工細工師の工房が既に仕事が回しきれない忙しさになっておりまして事業の規模を拡大せねばならんのですが、出資者のマーティエにも裁可を頂かねばなりません」
エインさんは場所柄を考えて丁寧な、対マーティエのしゃべり方になっておるのじゃ。ズークさんのほうはまだ実働しておらぬゆえ余裕があるのじゃが、エインさんのほうは既に大変な状態のようなのじゃ。
ミルケさんが書面をいくつか受け取り目を通してわらわに要点だけ伝えてくれるのじゃ。あとで署名捺印が必要としてもまあそう難しいことはあらぬのじゃ。
商業組合の組合長とタンクトップおじさんの二名と食事の間に詰めておったらしゅうて各種事業の先の展開なぞも熱く語られたのじゃ。
わらわとしては己の欲しいものがスムースに手に入る環境の構築が第一で次がその余録で周囲も便利になって発展すると良いのう、と言う程度であるのじゃ。
稼ぐことは大事なのじゃが、わらわとしてはそこに注力するよりはやりたいことが別にいくらでもあるのじゃ。その点で事業の正面に立って稼いでくれる商人等はありがたいものなのじゃ。
遊戯大会に関してわらわの準備する副賞についてや同時に販売する商品なぞ、いくつかの確認を行って商人等との話は終わりなのじゃが、厚く労っておいたのじゃ。
最後におばあちゃん先生の他、既に一度面談に来てはおったのじゃが冒険者協会の司書職員や引率の職員と言った選抜メンバーで準備部会の前に教室のガイドラインを定めるための話し合いを持ったのじゃ。
おばあちゃん先生がやっておるような寺子屋教室のようなものとの競合問題なぞはすぐには問題にならぬのじゃが、あとあと揉めそうではあるゆえ話をしておきたいと考えたのじゃ。
権益の調整という難しい話ゆえ商業組合の組合長とギルマス代行も交えて話すのじゃが、この段階ではこちらの理想論にしかならぬゆえ実際に問題が起こってからの問題にはなりそうなのじゃ。
できれば公的資金を引っ張りたいのじゃが、それもまあ将来の話なのじゃ。
「うちの教室は魔術師の新弟子発掘ついでに昔からやってるだけで、あれで儲ける気はないから平気なんだけどね。商売としている教室の主からうちの月謝が安すぎるって苦情が来たことがあるわ」
「食べるための仕事であらば納得は出来ることであるのじゃ。ただ、孤児は教室に払う金を持っておらんゆえ最初のうちは競合相手とは見なされんとは思うておるのじゃ」
孤児ではあらぬが読み書き計算を習わせることが出来ない階層の子どもが問題になって、それに対応すると段々と市井の寺子屋に影響が出てくる、その予定なのじゃ。それだけ教室が発展拡大する前提で考えておいたほうが良い、と言うだけで実際どうなるのかは分からぬのじゃがの。
とりあえず理想論の絵空事として、駆逐してしまうのではのうて助成金を出して協力してもらえる体制作りを目標としておくのじゃ。
これで大面談会も基本終わりなのじゃ。
何か確認したり改めて話したいことがあるものがおらぬか見回して問題はあらぬようゆえ終了なのじゃ! ああ、疲れたのじゃ。
盤上遊戯をしつつ茶や酒を楽しみ、菓子や肴を摘まむというまったり時間はもう少々続くのじゃが、わらわの荷は下りた気分なのじゃ。
モリエとメイドさん等は肴の追加のために厨房に戻ったのじゃが、わらわは王と鯱でも打ちながら客と話すために残ったのじゃ。ちなみに既に試作品の蛤の殻から抜いた碁石が来ておって、なかなか良い感じなのじゃ。
マード二人も最初は給仕を手伝ってもらうつもりがあったのじゃがメイドさん等が使えるようになったゆえお客さまに徹してもらっておったのじゃ。それがどうやら落ち着かなかったらしゅうて今は手伝いに行っておるのじゃ。うむ、働き者は美しいのじゃ。
まだ定石の理解が足りておらぬゆえわらわの碁敵になれるものはおらんかったのじゃが、余り個別認識できておらんかった修道会の冒険者等と話しながら打てて有意義であったのじゃ。
そんなこんなで無事食事会は終了と相成ったのじゃ。
お土産の菓子の箱を抱えて帰る客等を見送り、わらわはモリエ等とハイタッチをして成功の喜びを分かち合ったのじゃ。
「なるほど。わらわも土産を持たせたのじゃが、招かれた客も手土産を持ってきておったのじゃな」
修道会本部に積み上げられた贈り物の山にちょっと嘆息を漏らすことになった、それだけは想定の外であったのじゃ。
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