なぜか魔力の扱い方講座になったのじゃ
こんにちは。
遅くなりました。申し訳ない。
今日もよろしくお願いします。
「ああ、そうですね。現状に関しては相当に怒っていますよ。主にいいように術を掛けられた自分にですが。生家とのことは本当になにも問題ありません」
少しバツが悪そうにベルゾはそう言うたのじゃ。
「魔力が足りず分家に出されてそこからも追い出された、とは言うのはむしろ幸運でしょう。そのおかげで敬愛する師匠に師事する事が出来、そして冒険者として生きてこれたわけですからね」
評判の良くない貴族家で飼い殺しにされるよりは冒険者として活躍しておる今のほうが確かに幸福度は高そうなのじゃ。無論それは高位の冒険者として立つことが能う実力があってこその話なのじゃが、その実力はまさにベルゾの努力の結晶であるのじゃ。
「その結果として冒険者としての其方との知遇を得、こうやって修道会を手伝ってもらえておるわらわは幸運の限りなことなのじゃ」
「運が良いって言うのは冒険者にとって重要なことなのよ。ジーダルはどっちかというと悪運が強いって感じだけど」
「確かにそう言う顔をしておるのじゃ」
セイジェさんの言にわらわが乗っかるとジーダルがなにやら文句を言っておるのじゃがどうでも良いことなのじゃ。
「確かに幸運ね。子どもの内に魔力量を判断するのは早計だと思うのよ。自身の努力もあって相当成長しているんじゃない?」
ベルゾがうずくまったりしたゆえ皆様子を見に集まって人口密度が偏っておるのじゃが、その中からガントの師匠のおばあちゃん先生が小首を傾げて声を出したのじゃ。そして中級以上の術の伝授に関して自分の師匠に相談するよう勧めておるのじゃ。
「はい、成長期は終わったと思っていたのですが最近また多少伸びている自覚があって不思議に思ってるのです。それも含めて師には相談しようかと」
そう応えたベルゾに「確かにもう成長期って歳でもないのに最近また増えてるのね」と傾げた小首を逆サイドに傾げなおしておばあちゃん先生も少し悩んでおるのじゃ。
「ううむ、魔力の成長は個人差もあるし学派毎の解釈も違ったりするものじゃから断言はし辛いわい」
そこに老リーディンが腕組みしながらそう言うたのじゃ。つまりは魔力の成長法に関しての見識があるということなのじゃろうが、それは何かの秘伝ではあらぬのかのう。まあ良いのじゃ。
「何か仮説はあるということかや」
「ああ、まあそうじゃのう。生まれ持った魔力の量、これは器である身体の生育に合わせて成長するぞい。背に近いの。思っていたほど伸びぬこともあれば驚くほど伸びることもあると言うわけじゃ」
ゆえに子どもの時の魔力量は参考にはなっても絶対ではないと言うことなのじゃ。それは先程のおばあちゃん先生の見解と一致しておるゆえ賛同が得られるのじゃ。
「そしてその基本の器以上の成長分が家やら流派やらでそれぞれ鍛錬法なんぞが生み出されるくらい重要で、同時に考え方もその鍛錬法の数だけあるんじゃ」
老リーディンはホンによう色々と知っておることなのじゃ。幾つかを例示しながら老リーディンは続けておるのじゃ。
「その最も根本的な部分を取り出すならば、魔力を育てたければ魔力を使うべし、と言うことになるわい。その使い方や量に関しての実際が数多の鍛錬法を成しておるんじゃ」
「確かにそれは基本だわね。否定できないわ」
おばあちゃん先生は余りにも基本的な取り出しかたに虚を突かれたような顔をしておるのじゃ。
「貴族が魔力筆やら魔力印章を使うのも日常的に魔力を使う為かもの。まあ使い方の効率なんぞは人にもよろうし正解は分からん。だがの、魔力が低めの魔法使いは魔力の貴重さや価値が分かっておるから使い惜しんで減らさんものだ。それで、育たぬ、と言うところがあるんじゃ無かろうか」
ベルゾや魔術師を名乗るほどの魔力を持たぬと言っておった師兄弟二人なぞは驚きの表情で固まったのじゃ。
大事にしておったゆえに育っておらぬ、とは酷な話なのじゃ。
言うて魔力筆をちょっと使う程度では消費量として小さすぎるとは思う、と注釈を入れつつ育った原因のほうに話を移したのじゃ。
老リーディンはわらわを見ながらにやにやとしておるのじゃ。どうしたのであろうかの。
「マーティエはこの国の魔術師事情にも一石を投じたかも知れんぞい」
「ふむ、どういう意味なのじゃ」
「生活魔法を覚えるとな、使うのよ。それまで使い惜しんでおったような術者でも<洗浄>なんかは日に何度か使わずにはおられん」
「なるほどなのじゃ!」
わらわがベルゾを見ると吃驚した表情で頷いたのじゃ。
「ちなみに儂は使うことより回復することが重要で、いつでも少し減らしておいて常に回復させておるように、と教えられたものじゃわい」
「確かに使うと育つ、と言うようなことを言われていたはずなのに自分の魔力の容量を考えて使い惜しんでばかりいたように思います」
ため息混じりにベルゾがそう言うと他の魔法を使う連中も色々と考えておるようなのじゃ。と言うより老リーディンの自分の教わったやり方なぞ他言して良いのじゃろうかの。
「なるほどのう。確かに魔力をよう使うておるゆえかわらわも魔力が大分と伸びておる気がするのじゃ」
わらわがふとそう思うて口にすると老リーディンとおばあちゃん先生が揃うて此方を見、そしてそのまま二人とも目を逸らしたのじゃ。
「確かに年齢的には器もまだまだ成長する時期じゃな。いやむしろ魔力を扱うには早すぎる時期なんじゃが」
「ごめんなさいね、ミチカちゃんの魔力は正直計りきれないわ」
「そう、それなのじゃ!」
おばあちゃん先生の言に思わず反応したのじゃ。ちょっと疑問に思っておったのじゃ。
「えっ、どうしたの?」
「先程ベルゾの魔力の量を見抜いたように、なのじゃ。外から見て魔力を計れるものなのかや?」
「相手が使おうとしている魔法陣を見抜ける以上マーティエにも出来るはずなんじゃが。魔法を使おうとしておらんでは分かり難いが、魔法行使時であれば魔力の流れを読むことが魔力を計ることになるぞい。っと、いや、マーティエには難しいのか」
解答は老リーディンから出てきたのじゃ。
「さっきのベルゾくんは魔術を行使しようとはしていなかったけど、術に抵抗しようとしたりミチカちゃんの祈祷に反応したりで流れが見えたのよ。逆に普段魔術を使っている分には流れを読ませないようにしているんじゃないかしら」
なるほどなのじゃ。これも聞けば納得は得られる話なのじゃが、わらわには難しいとはどういう意味であろうかの。
「マーティエは普段から魔力を垂れ流し気味に発散させておるゆえ魔力に集中してみると眩しいんじゃ。逆にベルゾなんかは普段は完全に閉じておってうっかりすると魔法が使えることに気づかんかも知れんな」
「そうね、眩しいわね。手燭の灯火から煌々と照らす角灯、燃えさかる松明と言う具合に明るさを区分してどれくらいの魔術が使える魔術師か判断しているのよ」
そう言っておばあちゃん先生は一旦切ったのじゃ。そして改めてわらわのほうを見ながら困ったように続けたのじゃ。
「その例えで言うとミチカちゃんは家が一軒火事で燃えている感じかしら。燃え盛っているのは確かだけど育っているのかどうかは正直分からないわ」
「そして逆にマーティエのほうも自分が基準になって手燭と角灯の違いが分からんじゃろう」
そう老リーディンが肩をすくめて締めたのじゃ。ぬう、少し納得が行かぬのじゃ。
「発散する魔力は少し押さえて隠せるほうが良いとは思うのじゃが、年齢的にまだ成長する時期じゃからの。押さえるよりはのびのびと伸ばしたほうが良かろう」
それ以上育つのかは知らんが、と少々投げやり気味に言われたのじゃ。
そしてもう完全に常態に復帰したベルゾが冒険者としての心得ですが、と前置きして口を開いたのじゃ。
「魔力を見ることは重要ですから気を掛けて鍛錬すべきですね。魔法を使う魔物は人間の術師のように魔力を隠していませんから分かりやすいですが」
「ベルゾは付近の魔物や人間の居場所を魔力で察知できるぞ」
「それが応用段階で、冒険者としては習得しておくべき技術ですね」
その説明にガントが手で顔を押さえたのじゃ。出来ておらぬようなのじゃ。
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