面談は続くのじゃ
こんにちは。
少し遅れました。
今日もよろしくお願いします!
「其方には先ずミルケさんをいつも便利よう使わせてもろうておることへの礼と詫びを言わねばならぬのじゃ」
挨拶を終えた商業組合の組合長にそう言うて始めたのじゃ。とはいえいきなりの礼で多少虚を突かれておる様子なのじゃ。
「いやさ、商業組合とは共同で大量の案件を抱えておるわけなのじゃが、ミルケさんが殆どわらわの専属のように動いてくれておるゆえここで改めて語り合う必要も薄いのじゃ。それだけでのうて商業組合とあまり関係のあらぬ事案についても働いてもらっておるゆえ感謝しかあらぬのじゃ」
ついでにミルケさんの優秀さを褒め称しておると背後から止めて、と言うミルケさんのプレッシャーが掛かったのじゃ。
上司に良い評価を伝えるのは大事なのじゃがのう。
「お役に立てているようでなによりです」
組合長もにっこり笑うておるのじゃ。
「確かに報告や裁可を求める申請書、登録関係の書類などがどんどん上がってくるのでそんなに語る必要はない、と言いたいのですが、この席であったことだけで相当話し合いたいですね」
うむ、目は笑うておらぬのじゃ。
菓子の価格設定の時に話した先の展望であるとかもお聞かせ願いたいと言われたのじゃが、正直な話結構適当に語ったものなのじゃ。色々な先の展開なぞを語ったりしたのじゃが、何というか商業組合は冒険者協会なぞとは違うてしっかりとした組織と人間で理性的に運営されておるゆえ簡単なものなのじゃ。
「派閥争い、それも行政府と総督府の間の政治権力の影響を受けたものなど結構複雑怪奇なのですがね。ただ、ミチカさん周りの事柄は最初から組合長預かりで通しているので簡略化されているんです。ミルケもちゃんと専従としての手当が給金に上乗せされておりますので気にせず使ってやってくださいね」
「なるほどのう。それは孤児関連で問題になるようかや」
ミルケさんに手当が出ておるのはよいことなのじゃ。ただ、冒険者協会や港湾協会、そして警邏隊は内部に敵性勢力の影響力が及んでおったゆえその点で商業組合にも懸念はあるわけなのじゃ。
「主に費用対効果と負担とその影響、と言う点での疑義は出ておりますが読み書き計算が出来るように教育してくれれば組合での雇用や働き口の斡旋は問題ないですね」
「負担と影響、は出来れば行政府や総督府に考えて欲しいところなのじゃが、食料の問題かや」
「そうですね。とは言え、街の子どもは餓えろ、と言う主張に賛同するものは少ないでしょう。ただ、幾分かは解消されていますが急激に発展したこの城市では供給量の問題で食料の価格は高めですからね」
前世、わらわが生まれる前くらいの南米あたりでは浮浪児を狩りの獲物のように射殺するのが社会貢献活動と見なされておったりもしたのじゃ。そう考えると今生の人等は甘く、優しいのじゃ。人口が肥大化しておらぬだけの話であろうがの。
「食糧の貯蔵量はどうなっておるのじゃ? 不作なぞに備えた救荒備蓄があると思うのじゃが、改定がなされておるのか否か、なのじゃ」
「決められた量が貯蔵されていますね。先ほど話されていた港湾協会のクラーケン倉庫なんかもそれに含まれますが」
「軍や街道巡回騎兵隊の備蓄はまた別のことなのじゃが、街道が整備されておるゆえ備蓄比率を国内全土の必要量を各城市に分配することで多少引き下げることが出来るはずなのじゃ」
「安全域の計算には色々議論の余地がありそうですが国内全体で考えれば確かに引き下げることが可能な気がしますね。しかし相当な大事ですよ」
「相当な大事なのじゃ。裏で違法な奴隷商が動いておる範囲はわからぬのじゃが、孤児が街の路上に出るようになっておる一因は奴隷制度の廃止にあってつまりは国内全土の問題なのじゃ」
他国では神殿もしくは聖堂が孤児院を運営しておるのじゃが、この国では信仰が絶えた結果、孤児を受け入れることの出来る施設のキャパシティが不足しておるのじゃがこれもジープラント王国全土における問題なのじゃ。
「現在の総督であられる王弟殿下の人となりは存じ上げぬのじゃが、とりあえず陳情書、教室なぞの対策が始まったらその手法を他の城市でも行えるよう書式を整えてご提案、そう言った運動は掛けていって欲しいところなのじゃ」
わらわの手の届く範囲はそう広うはあらんゆえ、頑張るべき立場のものに頑張って欲しいものなのじゃ。そして使えるものは何でも使っていきたいのじゃ。
「かしこまりました。それは冒険者協会や港湾協会とも共同するべき案件ですが、まとめ役として修道会の書状も必要ですね」
「承りました」
これはベルゾが受けておるのじゃ。
そして屋台のことや遊戯大会のことも多少話し合い、組合長は下がったのじゃ。
大して話すことはあらぬゆえギルマスとおばあちゃん先生と子どもの頃の話、と言うあたりを問いただしたかったのじゃが案外話すことがあったのじゃ。うむ。
「次は俺たちでいいのかな」
「うむ、構わぬのじゃ」
警邏隊北面支隊長のハンケル=ゼック氏と同第三隊の隊長ゲノール、それともう一人付き人か副官かのようなものの三名で進み出てきたのじゃ。
冒険者協会がギルマス本人でのうて代理であるゆえ警邏隊が先になったのであろう。そのあたりもミルケさんとベルゾに任せておるのでわらわにはよく分からぬのじゃが、妥当なはずなのじゃ。
先ずは招待の礼と食事に対する感想、無論絶賛であったのじゃがハンケル氏はおそらく騎士、士族の階級に属すものゆえその水準でも絶賛と言うことで案外重要なことなのじゃ。
ちなみにこの国を含めて旧帝国の影響を歴史的に受けている範囲の国では貴族と士族は明確に区分された別階級なのじゃ。
騎士だけではのうて高級官僚やそれ相当の扱いの外郭団体や公団公社の長が官士、城士として士族に含まれておるのじゃ。
少し話は変わるのじゃがジーダル等もD級になれば騎士並として士族に列されるわけなのじゃ。まあある意味その程度の出入りが出来る階級、と見なすことも出来るのじゃが世襲か否かで多少の違いはあるのじゃ。
ゲノール隊長も手柄なぞをあげて功績を積めば一代限りの士族になれる目はあるのじゃが、支隊長と言った要職は世襲の騎士階級のものであるはずなのじゃ。
その士族であろうハンケル氏が副官かなにやと思うておった男を極めて丁寧にわらわへと紹介しようとしたゆえわらわは眉を顰めたのじゃ。
「命を救っていただき感謝しております。お礼申し上げるのが今まで遅くなったことお詫びもうしあげます。わたくしセールバウ=レグドと申します」
言われた内容に更に疑問符がわらわの頭上で踊る羽目になったのじゃ。
「あの時、牢で治療していただいた者ですよ」
ああ! なるほどなのじゃ、なんとのう見覚え、はあらぬのじゃが分かったのじゃ。警邏隊の屯所の牢まで出張し適当治療を行ったのであったのじゃ。
うむ、つまり確かそのものは、なのじゃ。
「はい、総督府の密偵ですね」
そう言う話であったのじゃ。
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