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お菓子の箱なのじゃ

こんにちは。

六月の中旬から勤務地が変わるようで直前にはまたお伝えしますが慣れるまでは更新が止まる予定です。

(それ以前にネット環境がまだ分からないです)

それまでは可能な限り平常運行予定です。よろしくお願いします。

「話がある人は、ってミチカは言ってたみたいだけどお土産の説明するならまとめての方がいいかなって思ってみんな連れてきたよ」

 今日の本題とは関係あらぬことに盛り上がっておったらモリエが大勢引き連れて参ったのじゃ。厨房組も現時点では手が空いたらしゅうて来ておるのじゃ。

 厨房組に関しては<洗浄>があると如何に楽か、ということなのじゃ。


「確かにそうなのじゃ。少しせもう感じるのじゃがまあ皆で聞いていくが良いのじゃ」

 わらわがそう言うとメイドさんと双子等が土産の小さい木箱を配り出したのじゃ。これは箱から考えてみた菓子の商品展開なのじゃ。


 木箱は両手の手のひらを広げれば乗る程度の、B6紙程度の大きさ、そう帝国の度量衡の表現であればビーノ紙の六切りサイズなのじゃ。高さは六センチ程度なのじゃ。

 極めて薄い木の板を接着剤で箱にしておるのじゃ。その接合面に模様を入れた紙を帯状に切り分けたマスキングテープのようなものを貼ってなかなか良い感じに仕上げておるのじゃ。

 マスキングテープと洒落た感じで言うたのじゃが、手作業で糊付けであるゆえ実際は家内制手工業っぽいのじゃ。


 蓋になる板は本体と共有する一辺の裏表を紙で貼って繋いでおるのでパカパカと開け閉めできるのじゃ。木の板を軽量化のため薄いものにした結果、蝶番のような金具で留めるのが難しゅうなったのじゃ。

 パカパカと開け閉めして遊んでおるとそのうち破けると思うのじゃがそのあたりはお菓子のパッケージの宿命なのじゃ。

 小さい蝶番をわらわなら作れるのじゃが、商品として出すならば工房が作れねばならぬのじゃ。まあこれは要相談なのじゃ。


 蓋の表面には仮に修道会の紋章、卵の枠に花杏葉はなぎょうようと三字、を焼き印してあるのじゃ。これをスタンダードに季節ごとの意匠に変えていくと良いと思っておるのじゃ。

 板の装飾を増やすならばマスキングテープ部分とのバランスも考える必要が出ようの。マスキングテープっぽいものは現状紙に適当な文様を筆で描き、その紙を使いやすい幅の帯状に切り分けておるのじゃ。この文様なぞも箱の装飾と併せて考えると良いのじゃ。

 と言うことでこの箱はわらわが自信を持って自慢する出来なのじゃが、大事なのは中身なのじゃ。


「ズークさんとの菓子工房で出す菓子の試作なのじゃ。こういう箱詰めでの販売を考えておるのじゃ。バラで商っても良いのじゃが」

 中が菓子と分かっていそいそと開けてみておるのじゃ。ズークさんや出資者として名を連ねるエインさん、商業組合の組合長はまず箱からかなりじっくりと見ておるのじゃ。

「紙を角に貼るのはよいですね。蓋や箱の縁にも貼ってあるのでささくれで指を痛めることもありませんし」

「可愛らしい出来ですが、もっと高級感を出しても良いのでは」

 自分たちの商売であると考えておるゆえ真剣なのじゃ。


「箱は大きいものや高級志向のものも準備して良いとは思うのじゃ。ただの、砂糖の原価や供給量次第なのじゃが目標としては、ほれ、そこらで喜んでおる窓口嬢と言ったものが頑張れば季節に一箱あがなえる程度であって欲しいのじゃ」

 蓋をパタパタと開けては閉めてと中身を見て喜んでおるメーレさんやほかの若い女性陣を指し示したのじゃ。

「目標、と言うだけの理由があるのですね。女性に喜んでもらえるのは望むところですが」

 商業組合の組合長の眼光は鋭いのじゃ。


「この城市は、と言うよりこの国は、と言うべきであるのかの。急激に発展した結果豊かであるのじゃが、反面食事が貧しかった頃からさして発達しておらぬ、と言うような状態なのじゃ。其方等がわらわの料理をありがたがる原因じゃの」

 老リーディンが「中央でもビックリするような美味い料理じゃぞい」と小声で言うておるのじゃがとりあえずスルーなのじゃ。

「貴族、高官や一部の商人だけが肥え太るのではのうて実際に働くものも豊かになってこそ健全な繁栄と言うものなのじゃ。ただ、賃金が増えても美味しいものや楽しいものがのうては『豊かになった』とは思えぬであろ」


「はい、ミチカさんの思し召し確かに承りました。これが市民の豊かさの象徴になるのですね」

 組合長が丁寧な礼でそう言うたのじゃ。何か丁寧すぎる気がしたのじゃがまあ良いのじゃ。

 いや良くはないのじゃが、老リーディンとタンクトップおじさんが小声で「言うておることは正しいんじゃが」「執政や国主の立場の高見からの見識ですな」なぞと言うておるのが聞こえたゆえ全力スルーなのじゃ。

 衆目の集まった状態で藪蛇になりそうな受け答えは避けるのじゃ。


「庶民相手のものは蜂蜜や麦芽糖で代用したものを混ぜたりであるとか、高級志向のものは箱を豪華にして付加価値を高めるであるとかじゃの、そう言う差別化なぞは商売の実際に携わるズークさんとエインさん、そして其方が知恵を出し合うと良いのじゃ」

 三者が頷いて互いの視線を交わしておるのじゃ。わらわが頑張らずとも良いよう其方等が頑張ると良いのじゃ。


「メーレさん、それは土産ゆえ今手をつける必要はあらぬのじゃ。この後バラで出して摘まめるようにするからの」

「えっ、流石です。ありがとうございます」

 パタパタするのを止めて中をじっと見ておったメーレさんにそう声をかけ、説明が足りておらんかったところを補足するのじゃ。

「そして不思議そうな顔をしておるものがおるのじゃが、それは内蓋がついておって二段になっておるのじゃ。上げ底ではあらぬのじゃ」

 結構な人数がわらわの説明で慌てて内蓋を取り上げて二段目を確認しだしておるのじゃ。これは実際に商品化するときも注意事項なのじゃ。


 わらわが言うたからかメイドさん等がバラの菓子類を出せる準備が整っておることをちょっとした身振りで伝えてきたのじゃ。流石気配りが行き届いておるのじゃ。

「遊戯でもしながら摘まめるように、と思うておったのじゃがわらわの菓子を初めて口にするものもおるし実食しながらの説明にするかの」

 一部で歓声が上がるのじゃが、落ち着いた感じで座っておるもの等も笑みが隠せてはおらぬのじゃ。しかし双子等は試食もしっかりしたゆえ新作の味も良う分かっておるのに一緒に喜んでおるのは謎なのじゃ。


 内蓋は三つに仕切られておって、その一カ所に白や薄い青の花を咲かせておるお菓子を手にとって皆に見せるのじゃ。皆も盆に乗せて置かれた菓子の中から同じものをとっておるのじゃ。

「この小さな花や卵の形をした砂糖菓子は落雁なのじゃ。一つ口に入れれば分かると思うのじゃが砂糖を贅沢に使っておるゆえ小さいからとポイポイ食べるものではあらぬのじゃ」

「溶ける! 甘い! 美味しい!」

 言語は不確かになっておるものがおるのじゃ。


「確かにこの甘さならお茶に二つ三つ添えて出せばちょうど良い、と言うくらいでしょうか」

 流石はマード、いや今日はマードではのうてズークさんの奥方なのじゃが、お茶屋の内儀らしい分析なのじゃ。

 凄まじく贅沢な砂糖の使い方をしておるのじゃが、問題点はむしろつなぎであったのじゃ。簡単に言うと和菓子は米に頼りがちなのじゃ。この場合は米粉の一種になるのじゃが、寒梅粉をつなぎに使うのじゃ。

 当然米があらぬ以上代用品を探したのじゃが、形自体は取れるもののなかなか満足できず相応に苦労したのじゃ。

 薄い青色の着色はブルーベリーを乾燥させたものを粉にして混ぜただけで大した苦労はなかったのじゃがの。


「ミチカが砂糖をもっと白くする、とか言い出してグルグルし出したときは意味わかんなかったよね」

「けど実際白くなったよね」

 白い落雁を口に放り込みながら双子等がそう言うておるのじゃ。簡単に言えば砂糖を白くするには遠心分離機にかけて上澄みから精製すれば良いだけなのじゃ。

 これはエインさんの魔法具工房の案件なのじゃ。<回転>で出来ることゆえの。


 わらわも舌の上で溶けるような落雁の甘みを楽しんだ後、次へと説明を進めるのじゃ。


お読み頂きありがとうございました。

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