甘いものとちょっとした雑談タイムなのじゃ
こんにちは。
体調不良の間に200話越えてた様です。
いつも読んで下さっている皆様に感謝を。
冒険者等の多い修道会本部のほうの食卓は最初の茶碗蒸しをうどんが入った苧環蒸しにすると言う対策もしておったのじゃが、それでも綺麗に食べ尽くされたと報告を受け呆れるよりももはや感心したのじゃ。
確か、さかなの切り身フライも山に盛っておったはずなのじゃ。
デザートは本来何種類か準備したいものなのじゃが、今回はお土産を別に準備した代わりに一種類だけ、しかも一昨日に作ったのを休ませておったものであるゆえちょっとデザート前に顔を出しておくのじゃ。
神殿の大食堂のほうしか覗いておらなんだのじゃ。あちらが正客席ゆえ当然ではあるのじゃがの。
「セイジェさん、どうであったかの」
修道会本部のほうは一応セイジェさんに上座に座ってもろうておったのじゃ。
「相変わらず美味しかったわよ。違うわね、前よりもっと美味しくなってるわ」
材料や道具が揃うて、そして今回はちゃんと準備の期間もあったことで美味しくなっておるのじゃ。褒められて自然と笑むわらわにセイジェさんもくすくすと笑うたのじゃ。
「一応慣れてる私やオルンくんと初めての人とでは衝撃の度合いが大分違ったみたいよ」
「結構慣れてるつもりでもいつも新しい驚きがあるからな。ミチカの料理は」
オルンは慣れてても驚くと言うておるのじゃが、まあこちらも驚かせるつもりで新作料理は出しておるゆえ謂わばわらわの勝利と言うことなのじゃ。良き、なのじゃ。
概ね絶賛なのじゃが、ポテトチップスとフライドポテトを双子等に相当食べられたという苦情もあったのじゃ。それはまあ、毒芋と呼ばれておることに怖じて手を伸ばすのが遅れた自己責任なのじゃ。
それぞれの感想も次に活きるゆえ出来る限り吸い上げておきたいところなのじゃが今日初めての人等はなにやら目を白黒させておって言葉少なな絶賛しか得られんかったのじゃ。
「この後は食後の甘いものと茶を出すのじゃ。席を崩して話をしたり盤上遊戯をするが良いのじゃが、わらわと話すことがあるものは神殿のほうに来るが良いのじゃ」
それ以外も対戦相手を求めて行き来すると良いのじゃ、と伝えて移動なのじゃ。
「あ、あたし達の報告は全部まとめて渡してあるから平気ー。甘いもの楽しみにしてるよ」
と言う軽い返答と共に手を挙げておるのは冒険者協会のメーレさん、そしてその隣には資料室の司書職員と子ども等の引率なぞをしておる男性職員もあるのじゃ。後者二人は丁寧に挨拶のジェスチャーをしておるのじゃがの。
なんにせよ好評であるのは気分の良いことなのじゃ。ふふふふん、なのじゃ。
タイミングを見計らっておった修道会本部へ向かうデザート給仕隊とすれ違い、神殿の大食堂へ向かう部隊と合流してデザートと共に到着なのじゃ。
「チーズの質は正直わらわの求める水準に達しておらぬのじゃが、カボチャのよいのが手に入ったゆえカボチャのチーズケーキなのじゃ」
食材店であがのうたダンジョンから二世代目の南瓜なのじゃ。正直、この用途であらば折角の日本南瓜風の高級南瓜ではのうてこのあたりでよく見るペポカボチャっぽいもので良いのじゃ。しかしどうせ醤油がのうては望む煮物は作れぬのじゃ、そう思えばダンジョンから二世代目で強い食材を使うことでチーズの足りぬ部分を補うほうが有意義なのじゃ。
「ズークさんがおられるゆえ下手な茶を出して恥をかくよりは最初から違うたものを、と思うて薬草茶を準備したのじゃが調合師の婆さまがおいでになったのが予想外だったのじゃ」
和やかな笑いが起き、場の雰囲気も柔らこうて悪くあらぬのじゃ。薬草茶も出来合いの調合で売られておる乾燥ハーブの詰め合わせでのうて林檎の皮を入れて風味を出したわらわ特製ブレンドのフレッシュハーブティーなのじゃ。
旅の間で何度も出しておるゆえ、エインさんは林檎の香りでそう分かったのか懐かしそうな顔をしておるのじゃ。
素朴な見た目のカボチャのチーズケーキには彩りのためにクレーム・シャンティイとミント一葉が添えられておるのじゃ。
そのケーキとお茶が皆に行き渡り、一斉に食し始めたのじゃ。わらわもやっと席に座ってパンプキンチーズケーキをつつくとするのじゃ。
ちなみに輸入チーズの品質がまだまだ、というような言い方をしたのじゃがクリームチーズの類はもとから見あたらんかったゆえ実は自作チーズなのじゃ。
牛や山羊の乳の入った小さな壷を並べ、常在菌である乳酸菌さまの加護を願ったり、ソフトタイプのチーズを入れて発酵を熱で止めておらぬことを祈ったり、とかなりの天任せで温度管理した結果何とかヨーグルトが得られたのじゃ。<経時>が試行回数を保証してくれるゆえの試みであったのじゃが、温度管理の<加熱><保温>も良い仕事をしてくれたのじゃ。
ヨーグルトは探せばある気もしたのじゃが、探すより試すほうが簡単に思えたのじゃ。一応今度誰ぞに訊いてみておくとするのじゃ。
何にせよ、それで得られたヨーグルト種と牛乳とクリームでマスカルポーネっぽいチーズを作ったのじゃ。ヨーグルトさえあらば温めて混ぜて、後は濾して乳清と分離させれば良いだけなのじゃ。ちなみにこれは母さまがティラミスを作るときにマスカルポーネから作っておったゆえ知っておる製法で、大沢家式ゆえ正しいマスカルポーネチーズの作り方であるのかどうかは知らぬのじゃ。
副産物の乳清は一応瓶に入れて保管したのじゃが忘れぬようにせねばの。一人で作業しておれば収納するだけゆえ悩む必要があらぬのじゃが。
柔らこうして潰したカボチャ、マスカルポーネ、クリーム、砂糖、卵、小麦粉をよう混ぜて、一度濾すことで滑らかな食感を目指しつつ、型に入れて石窯でじっくり焼けば出来上がりなのじゃ。
味見はしておるのじゃが、どっしりとした味で食べ応えもあり満足度が高い出来なのじゃ。
「ダンジョン二世代目というのは確かに品質が相応に良いのじゃ」
ダンジョンで収穫されたものの栽培に成功した場合二世代目はダンジョン初代の半分ほどの品質で三代目で更にその半分ほどとなりそれが定着して種となると聞いておるのじゃ。
カボチャの味はそう言うだけのことがあるのじゃ。そう感心しておるとダンジョン関係ならば一家言あるのかジーダルとベルゾが教えてくれたのじゃ。
「魔物の肉はあまり食用にはされんが肉の味もダンジョンにいる奴のほうが美味いぞ」
「もともと不味い肉は四倍も不味くなりますがね」
不味い、というのが特性であればその品質が向上するわけなのじゃな。
魔物の強さも同じように見えて四倍とはいかぬが倍程度には強いという話なのじゃ。肉体的な能力は四倍なのやも知れぬのじゃが、それを活かす総合的な能力が追いついておらぬのじゃろうかの。
旅の途中で出会った豚鬼どもをダンジョン産と言うておったのは能力からの推測でもあったのじゃ。なるほどなのじゃ。
「森なんぞにいる魔物はダンジョンから溢れてきた奴が世代を重ねて定着した奴だって話だ。弱くなるのが救いだがな」
「人間もダンジョンからやって来た、という説も聞いたことがあるぞい」
聞いておった老リーディンがそう言うとおばあちゃん先生も頷いておるのじゃ。
一般的な神話とは齟齬があるが、との前置きはあるものの神学上そこそこよく扱われる説なのじゃそうな。
「人間からも魔漿石がとれるのは魔物と同じくダンジョンからやって来たものを祖に持つから、と言う説ですね」
「ただ、いくつもの大陸にいろんな人間が暮らしておることを考えると魔漿石を持つ理由をでっち上げた結果の説じゃ、という気もするぞい。ただのう、少なくとも一人はダンジョンからやって来たと伝えられておる」
なかなか面白い話なのじゃ。確かに死んで魔漿石を残すのは人間と魔物で魔物がダンジョンからきたのであらば人間もそうであって不思議はあらぬ、という逆算の理論に過ぎぬとも思えるのじゃ。
そしてその「一人おる」という話は言われたら思い出したのじゃ。
「初代皇帝じゃの」
「左様。神君は神殿においても重要な存在じゃからな、いろんな話が伝わっておるぞい」
南方大陸中央のダンジョンの最奥から現れて周辺氏族を纏め上げ、それを率いて現在中央と呼ばれるこの大陸の南部から中央部へと侵入するやあっという間に席巻し尽くした人物なのじゃ。その事績は歴史上の人物と言うより神話上の存在と言いたくなるものなのじゃが、前世の記憶が蘇って以来わらわは此奴を転移者もしくは転生者であると見なしておるのじゃ。
そうである時、転移の出口がダンジョンであるというのは納得できる話であるのじゃ。
まさに今食べておるカボチャが日本南瓜をその由来に持つと言われても納得であるゆえの。一世代目の転移カボチャが本物のカボチャより美味しく、この二世代目が本物の日本南瓜並と考えればしっくり来るのじゃ。
豚鬼なぞはまた別の世から来たものとなろうかの。
まあ証明のしようもあらぬのじゃが。
お読み頂きありがとうございました。