芋の持つ魔性の魅力、なのじゃ
こんにちは。
体調は大分改善して来ました。
今日もよろしくお願いします。
ジーダル等冒険者どもが度を超した大食らいばかりであることは学んでおるのじゃが、それ以外のものの腹に余裕があるのか否かは分からぬのじゃ。
それも加味し手加減して追加の料理は出すとするのじゃ。
モリエに任せておったアサリとムール貝の葡萄酒蒸しとカナッペを味見してオーケーを出して給仕に回し、さてわらわはジャガ芋でも使おうかの。
どうでも良いのじゃがアサリやムール貝はそれっぽい外見からそう呼んでおるだけなのじゃ。食用としてやって来ておるゆえさして疑ってはおらぬが<毒見>で確認はしてあるのじゃ、まあ貝毒に反応するかどうかをまず知らぬのじゃが。
折角の新作のチーズクラッカーゆえ、それを利用したカナッペで華やかさと種々選べる楽しさをプラスしたのじゃ。チーズクラッカーに更にチーズはどうかと思うたのじゃがチーズであるとか、チーズにドライフルーツを合わせたりであるとか、あるいはマヨネーズでピクルスを和えたもの、等々わらわが作った具の他モリエや双子等考案の具材も乗っておるのじゃ。
カナッペはパーティを彩るには便利な料理なのじゃ。
でまあ、わらわはここで追加の料理にジャガ芋、貴重なジャガ芋を使おうと思うておるのじゃ。西大陸からの輸入なり、あるいは西大陸に由来を持つ獣人がひっそり栽培しておったりせぬか調べたり、そう言う骨を商業組合に折ってもらおうと思うておるゆえ已むを得ぬ消費なのじゃ。
シンプルにジャガバター、美味しそうなのじゃ。しかし毒芋の汚名があるゆえ形が明らかなものはあまりよろしくはあらぬのじゃ。まあボリュームも有りすぎなのじゃ。
そう言うわけで今回は見送るのじゃ。
蒸しても良し、石窯で焼いても良しなのじゃがの。
コロッケも良いのじゃ。丁度ウスターソースも出来たところであるしの。しかし、メインに据えたあじフライの印象が薄れるゆえその点でよろしくはあらぬのじゃ。これはまた別の機会に、なのじゃ。
そう、考えては否定して、結果至極簡単なものに落ち着いたのじゃ。
スライサーで薄く輪切りにしそのまま油に叩き込んだらポテトチップスなのじゃ。調理のコツは油の中でくっつかぬようスライス速度に気をつけるだけで良いのじゃ。
揚がったら網の中で塩をぶっかけながら油を落として完成の超簡単オヤツなのじゃ。
途中からポテトチップス作成は双子等に作業を譲り、わらわはフライドポテト作成に取りかかったのじゃ。ジャガ芋を細切りにして水に晒し、<経時>を掛けて引き上げて水気をとり、小麦粉を軽くまぶす、とチップスよりも多少の手間が掛かるのじゃ。
少し低温で揚げた後高温で二度揚げする、と言うのがわらわの流儀なのじゃ。
唐揚げも二度揚げしておったゆえそう言うものじゃと理解した様子のモリエにこちらの作業は渡し、水に晒すときの<経時>だけわらわが行う体制にしたのじゃ。
油の前での作業をモリエ等に押しつけたわらわの仕事は、かきフライのために作ってカナッペにも多少使うたもののまだ残っておるタルタルソース、唐辛子にオレガノ、ディル、大蒜、クミンあと塩を入れて薬研で挽いたチリパウダーもどき、単純なチーズのソース、とフライドポテトにつける調味料の準備なのじゃ。
「えっ、ジャガ芋使うんですか」
アイラメさんと交代して戻ってきておった狐の人が驚きの声を上げたのじゃ。翻訳機能が働いておるのじゃが、ジャガ芋は獣の芋とかそんな感じのニュアンスの表現であったのじゃ。まあ毒芋よりはマシであろうが何となく差別っぽい印象があるゆえわらわ発の謎呼称の『ジャガ』で押し通させてもらうのじゃ。
「ん? クラムチャウダーには既に使うておって、其方等も食べておるはずなのじゃ」
「ほ、ホントですか。いや味がぜんぜん違うんですけど」
聞き捨てならぬ証言なのじゃ。チーズを緩めたソースに揚げたてのフライドポテトをつけてはむはむと味見しつつ狐の人を問い質すのじゃ。
「この芋は西大陸の産と聞いておるのじゃが、マキネさんはマインキョルトで食べたことがあるのかや?」
「そうですね。祖先が西大陸から持ってきた作物で、あたしたちの伝統食だって言われて本家とか言う親戚の家で食べたことがあります。ここじゃなくてレッヒズキョルトでですね。あ、これホントに美味しいですね。あのくらむちゃうだーってスープのともまた全然違う感じですけど」
狐の人もチリパウダーもどきを振って味見をしつつそう答えたのじゃ。
「潰して水気を抜いた保存食にして、食べるときは塩で茹でて粥とかパスタの代わりにする味気のない芋だと思ってました。今ではそんなに育ててないらしいですし」
毒芋と知られているゆえ売れないが、逆に持って行かれることがあらぬという消極的理由の非常食扱いであったようなのじゃ。もったいないことなのじゃ。
おそらく西の大陸でももう少しちゃんと扱われておるのであろうと推測するのじゃ。
国が豊かになって差別も減り、ジャガ芋以外が徴発されるというような事態もあらぬようになって獣人等もそう言う『伝統教育』の一環としてしか食しておらぬとのことなのじゃ。本当にもったいないのじゃ。お化けになるのじゃ。
獣人の占める人口比率が高いレッヒズキョルトのほうでの話らしいのじゃが、まあこのポテトチップスとフライドポテトと共に商業組合の組合長に買い付けや増産について投げておくことにするのじゃ。
「うん、これはマインキョルトでもすぐに食べれるようにすべき!」
「油も結構使うけど、その甲斐はあるよ!」
自分等で揚げたポテトチップスを味見しつつ双子等は言うのじゃ。
「食堂に持って行かずここで食べちゃいたいくらいだね」
同じくフライドポテトを摘まみながらモリエもそう言うておるのじゃ。ふふ、皆芋の持つ魔性の魅力に惑わされておるのじゃ。
まじめな顔をしておるメイドさん等も試食後ちょっと顔が緩んでおったのを見逃してはおらぬのじゃ。
「普通に食せるようにするには普通にあがなえるようにせねばならぬのじゃ。その為には先ず、毒芋にあらぬことを人に教えねばならぬと言うわけなのじゃ」
「よーし、毒芋って呼ばれることを教えて皆の腰が引けてるうちにあたし達がモリモリ食べちゃうよ」
「商業組合のかたや港湾協会のかたに西方大陸原産でレッヒズキョルト周辺でも細々と作られているとお伝えしておけばよろしいんですね」
双子等もメイドさん等もよろしく頼むのじゃ。
ジャガ芋は数多の用途があるのじゃ。わらわはヴィシソワーズが好きなのじゃ。いももちもシンプルに良いの。
グラタンにも良いし、うむ夢は広がるのじゃ。
芋の未来に思いを馳せておるとなにか、大きなことをひとつ忘れておるような気がしたのじゃ。いや忘れてしもうたものは気にせずとも良い程度のことゆえ忘れたに過ぎぬのじゃ。気の所為、木の精、ドライアドなのじゃ。そう言えば木妖はおったのじゃが、ドライアドはおるのじゃろうかの。
忘れておることがある、そんなモヤモヤしたものを感じたのじゃがまあスルーなのじゃ。
この食事会も終わりが見えてきておるゆえ、そちらに集中するのじゃ。
お読み頂きありがとうございました。