厨房からまた食堂へ、なのじゃ
こんにちは。
なんとか更新です。
風邪に伴う胃腸の不調で、この状態と料理回が被るというアクシデントです。
美味しくなさそうだとしたら体調の所為ですね。元気になったら見直すかもです。
わらわは石窯の前に移動して、仕込んでおったグラタン皿を確認するのじゃ。ぐつぐつと美味しそうなのじゃ。
神殿の在庫ではグラタン皿に使える深めの皿が足りず、ミルケさんに走ってもろうておるのじゃ。我が家に必要な食器類もようく考える必要がありそうなのじゃ。
まあ先のことより今のことなのじゃ。
「停時箱は便利なのじゃが、魔力を相当に食うゆえ普通に石窯を増やしたほうが良さそうなのじゃ」
「単純にこの厨房でまかなえるお客さまの数を超えてますよね」
わらわの独白が耳に入ったらしゅう、メイドさんの一人がそう言って肩を竦めたのじゃ。給仕するのも大変だと思うのじゃが済まぬのじゃ。
と言うわけで元々は神殿住のリーディン以下聖職者たちと孤児院の職員と孤児等、まとめて賄っておったらしい大きな厨房なのじゃが石窯はわらわの望むものに対してちょっとばかり規模が足りておらぬのじゃ。
それを補うためにエインさんに連絡して時を止める魔法具、停時箱を幾つか持ってきてもろうたのじゃ。
今、使うておるのは持ってきてもろうたものではのうてそこから<停時>の魔法陣をラーニングしたわらわが加工したものなのじゃ。停時箱というか、停時ワゴンと言うべきやも知れぬの。メイドさんの押す給仕用ワゴンを改装した熱々の料理を持って行くためだけの魔法具なのじゃ。
「ミチカの魔力は流石」
「あたし達でもそのワゴンはキツい」
魚の切り身フライ、白身魚のフライと言わぬのは赤身も混じっておるからなのじゃ、の山盛りを持って行って帰ってきた双子等がそう言うておるように莫迦のように魔力を食うのじゃ。食うた割にときが止まっておる時間はさして長うあらぬゆえ本当に微妙な魔法具なのじゃ。
ちなみに複数人で魔力を籠めるというのはかなり難しい作業であって、わらわは正直全くダメなのじゃ。それに対して双子等は魔力にも相似性があるらしゅうて楽々と二人掛かりで籠めることが出来るのじゃ。互い以外と組んでも出来ぬのじゃがの。
「いや、そんな容量の停時箱とか普通ないですから! 貴重な薬草や薬種を保管するそう言う小さい箱が普通だから!」
アイラメさんが参考にしか使えんかった停時箱を指してそう言うておるのじゃ。
「今更ミチカのやることに普通とか言ってもー」
「ラメちゃんはまだまだだねえ」
双子等の言いようもなにか言い返したくなるのじゃが丁度良い返しが思いつかぬのじゃ。
「賄い分は箱に入れぬゆえ熱いうちに食らうと良いのじゃ」
うむ、これでしばらく黙るのじゃ。根本的解決にはなっておらぬのじゃが。
「アイラメさんは食したらマキネさんと交代してやるのじゃ。マキネさんの分のさかなフライはちゃんと取ってあるかや?」
「大丈夫! ええっと、一旦ミチカは食堂ね。こっちは賄い食べ終わったら準備してた料理を作り出せばいいのね」
「モリエに任せるゆえよろしゅう頼むのじゃ!」
「任せて」
うむ、こうやって口に出して感謝をしておかねば伝わらぬのじゃ。勝手に伝わっておると思うのは独りよがりなのじゃ、気をつけねばの。
朝にちょっと機嫌を損ねたことを忘れてはならぬのじゃ。
モリエに任せたのはアサリとムール貝の葡萄酒蒸しほかちょっとした魚介の肴なのじゃ。酒蒸しは蒸すという文化が薄いこの辺りでも理解できるようで一安心なのじゃ。蓋をするだけであるしの。
わらわの思うメニュー的にはむしろ前菜なのじゃが、この辺りはコースの組立が簡素なのじゃ。あるいは貴族相手のコースだと違うのやも知れぬゆえそれは要調査なのじゃが。
要はメインっぽい皿のあと足りぬなら幾皿か出すほうが前菜を何皿も続けるより受け入れられやすいと言う判断なのじゃ。
一応メインとして準備したこれもなんなら前菜であるしの。一緒に食堂に向かう停時ワゴンを押すメイドさんに目をやりながらそう考えたのじゃ。
メイドさんは前世で言うところのメイド服とは違うのじゃが黒っぽいワンピースに白いエプロンが付いておるとそれっぽさがあって面白いのじゃ。そう言えばカッコはメイドっぽい制服の喫茶店でバイトしておったのじゃ。わらわの高校はバイト禁止であったゆえ単純に羨ましかった思い出なのじゃ。
湯気を上げるグラタン皿がメイドさん等によって優雅にサーブされて行くのを見ながら説明を入れていくのじゃ。
「グラタン、修道会風チーズ焼きを神殿や修道会本部で供したことがあらぬと気づいたゆえ準備したのじゃ。魚介ばかりでは肉が欲しいと言うものもあろうと考えて肉での」
評判になっておると言う熊さんの蟹グラタンと変えることで料理の可能性を見せておこうというわけなのじゃ。
「お、肉なのか。そう見えねえが」
「挽き肉なのじゃ。エインさんに折角作ってもろうたミンサーを有効活用したのじゃ」
ジーダルにそう答えるとエインさんが嬉しそうにしておるのじゃ。いや実際ミンサーとハンドミキサーは本当に便利なのじゃ。
「まあこれはラザーニャ・ボロネーゼ、うむ挽き肉の修道会風チーズ焼きと言うわけなのじゃ。さあ冷めぬうちに、しかし熱いゆえ気をつけて食すのじゃ」
ちょっとした無茶なのじゃ。
熱々と言いながらも一心不乱に食しておる皆を眺めてわらわも満足なのじゃ。なんだかんだで手の掛かった一品なのじゃ。
相変わらずトマトがあらぬのが味の出来を引き下げるのじゃが、わらわは頑張ったのじゃ。ボロネーゼソースにも使うし、それとは別にトマトソースも欲しいところなのじゃが、トマト抜きでまとまった味にするのは試行錯誤を重ねることとなったのじゃ。<経時>があらねば挫折しておったところなのじゃ。
ボロネーゼソースの味を決めるのに使うたフォン・ド・ボーも仔牛は余り使わぬらしゅうてお高く付いておるのじゃ。モリエの反応からしてやはり昆布や魚の焼き干しのダシよりこういうフォンのほうが分かり易そうであったのじゃ。
本来、ベシャメルソース、トマトソース、ラザーニャ、ボロネーゼ、モッツァレラ、グラナパダーノと重ねること三段であるのじゃがトマトソースの部分を少し酸味を強めに整えた野菜と粗めの挽き肉のソースに、チーズはソフトとハードの二種を使い、とアレンジしたのじゃ。
ボロネーゼもフォンを強めに肉気を出し、チーズも正直少し強めゆえ全体的に強い皿になっておるのじゃ。
上にはパセリと胡椒を散らし、さっと貴重なオリーブオイルを回しておってまあこれであらばパスタ料理とは言えメイン扱いで出しても良かろうなのじゃ。うむ、わらわもとっとと厨房に戻って自分の分を食したいのじゃ。
あれだけ熱々の料理であったとは思えぬ早さで食べ終わった面々から絶賛の声があがるのじゃが、まあ当然なのじゃ。チーズ普及のことも輸入量拡大に関して商業組合から港湾協会に話しておいて欲しいものなのじゃ。
うむ色々と話して欲しいものなのじゃ。
「先ほどの黒いほう、ウスターソースはその配合をアイラメさんに記録してもろうておるゆえ有用と思うなら話し合っておくが良いのじゃ」
これも丸投げしておくのじゃ。商業組合の組合長ががっくりと頭を下げるとそこにおばあちゃん先生がなにやら言うておるのじゃ。あとでギルマスを含めた人間関係を聞いてみるかの。
「これから何皿か出すのじゃが、料理の組立としては枠外なのじゃ。気楽な酒の肴と思うて軽うつまみながら話をすると良いのじゃ」
フライものの後、結構たっぷりとしたラザーニャ・ボロネーゼを食しただけあって皆よく食した後の落ち着いた顔になっておるのじゃ。満ち足りたところで余裕を持って色々と語り合うと良いのじゃ。
面倒ゆえわらわには話し合いの結果だけ教えてくれると助かるのじゃがの。
お読み頂きありがとうございました。