ネアンデルタール人に思いを馳せるのじゃ
こんにちは。
本日二話目の更新です(2/2)。
二話ずつ更新していても展開が遅くて申し訳ないです。
「なんなのじゃ、こりゃー!」
<洗浄>で洗われた髪が視野に入ったわらわは驚倒の勢いで鏡を収納空間から取り出して己の顔を映したのじゃ。
「パ、パッキン。いやさ金髪の美少女なのじゃ」
……。そう鏡に映っておるのは金髪美少女なのじゃ!
ちなみにこの世界で鏡は稀少で高価な品なのじゃ。先ず透明度が高いガラス、しかも板ガラスとなるとそれだけで高価なのじゃ。流石のマーリィも工芸品における技術については教えてくれはせんかったのじゃが、その技術が少しずつ北方諸国群にも伝来しておることなぞは交易や政治の話として教えてくれたのじゃ。
そして板ガラスに錫の箔を貼り付け鏡にする技術に関しては西域のサーマツィーア王国と言う国がかなり優れた技術を秘匿しておるそうなのじゃ。無論、他国もそれを狙ったり研究したりしておるそうなのじゃがなかなか上手く行っておらぬようでサーマツィーア鏡が最高級鏡の代名詞なのじゃ。
秘匿されておる技術はアマルガム法ではないかと前世の知識を持つわらわは思うのじゃ。水銀中毒怖い怖いなのじゃ。
そしてわらわが収納空間から、と言うか収納されておるゴドノローア卿の屋敷から取り出した鏡はサーマツィーア鏡、ではなくおそらく中央で作られた模倣品なのじゃ。鏡面を取り巻く銀細工の精緻さなぞは感嘆するしかないのじゃが、ガラスの質もガラスの裏の錫箔の貼られ方も細工に劣ること数段で鏡としては高く評価できぬものなのじゃ。
ゴドノローア卿め。上級貴族とは言っても所詮辺境国のそれ、ということなのじゃろう。
と言うあたりで現実逃避は止めておくのじゃ。
映りが悪いとは申せ鏡面に映る金髪美少女は間違いなくわらわなのじゃ。わらわの、或いはアーネの認識ではわらわの髪色は黒みの強い茶色だったのじゃ。
輝かんばかりの明るい金色の前髪を指先で弄りつつ考えるに、元々がこの明るい金髪でマーリィが染めてそれを隠しておったのじゃろう。祭文をきちんと祈祷することで<洗浄>の調整が出来ると言っておったのは覚えておるのじゃが、染め粉だけ落とさぬように<洗浄>する、なぞと言った調整まで出来うるのか、と言うことは単純に驚きなのじゃ。
いやきっとマーリィが変態じみた魔法の操作能力を持っておるだけなのじゃ。
しかし、金髪かや。この世界にもネアンデルタール人はおったのじゃろうかのう。
前世の地球におけるわらわたち人類とはミトコンドリア型の違う別種の人類であったネアンデルタール人なのじゃが、昔々六万年ぐらい前に中東あたりでわらわたち現行人類の祖先と彼らと間に混血が行われておって、金髪や赤毛はネアンデルタール人から受け継がれた遺伝子由来のものなのじゃ。
無論祖先がアフリカから出なかった末裔には混じっておらぬのじゃが。
などと父さまが言っておった無駄知識を思い出してみるも今生における人類の成り立ちなぞわからぬので考えても詮無きことなのじゃ。
なによりここの人類は死ねば魔漿石が採れる不思議生物なのじゃしな。
ではなくて、なのじゃ! 金髪はかなり稀少なのじゃ。
前世のイメージであれば北方の方が金髪多めなのじゃが、北方諸国群の住民の髪色は黒っぽいものと灰色っぽいものが多いのじゃ。但し、漆黒と青みがかった灰色は居ないわけではないが珍しい色合いなのじゃ。
黒色に関しては北方地域は闇の神と冬の大神の加護が厚く、その二柱の象徴色が共に黒ゆえその影響で黒い色を持って産まれる子が多い、と説明されておるのじゃ。青みがかった灰色は冬の大神の眷属神である氷雪の神のそれなのじゃ。
純粋な漆黒と青みがかった灰色の髪色はそれぞれの神の加護を多く受けている証とされておるのじゃ。
しかし、そう言った説明の他に子の髪色は親の髪色に似ておることが多く、つまり親から子へと受け継がれる部分もあるというわけじゃな。
問題はそう言う遺伝子の存在に関する考察ではなくて、なのじゃ。少なくともこの国では極めて珍しいと言うことなのじゃ。
勿論黒系や灰色が多いとは言え他にもいろんな髪色の者がおるのじゃが金髪はまず見ぬのじゃ。少なくともわらわは一度も見たことがないのじゃ、王族やら高位貴族なぞ見たことあるわけないしの。
そうなのじゃ。この国の王族や王国の基幹をなす高位貴族たちは元々中央の貴顕にその出自を求められる血統である上、その中での婚姻を重ねた結果、世代を経てなお中央の貴族によく見られる金色の髪を持って産まれてくることが多いらしいのじゃ。尤もわらわの様な明るい金色ではなく黒っぽいダーティブロンドや灰色っぽいアッシュブロンドばかりとのことなのじゃが実際には知らぬのじゃ。
要はこの金髪は間違いなく悪目立ちするってことなのじゃ。まあ目立っても構わぬと思い切るしかないのかのう。
ここ数ヶ月で肩あたりまで伸びた髪の毛を鏡の前で整えながら悩む。面倒な目に遭わねばよいのじゃが。
ジープラント王国まで行けばあそこはこの王国のように中央や西方域からの入植者あるいは正直に申さば侵略者の裔が開いた王朝ではなく、古代の帝国崩壊後支配地を広げた北方蛮族の流れを汲んでおるゆえ変な背景を疑われる可能性は減りそうなのじゃ。但し、金髪の稀少度はもっと上がるのじゃが。
うむ、王国内の城市や集落はなるべく飛ばしてジープラント王国を目指すのじゃ。
方針を決めたゆえ改めて髪の毛を弄るのじゃ。あ、瞳の色は碧ゆえ金髪碧眼と言う奴なのじゃ。
軽く自然なウェーブがかかっておるゆえ<洗浄>完了で水分が飛び、ふんわりと広がっておるのじゃ。うむ、かわいいのじゃ。
少し気になったのじゃが、<洗浄>の効果で水分や油分が完全に飛んでおるようなら髪油や化粧水を用意した方がいい気もするのじゃ。わらわの年齢ならそうであっても問題ないゆえ急ぎの案件ではないのじゃ。が、小銭を稼ぐネタになり得るかも知れないゆえ脳内メモにはつけておくことにするのじゃ。
ここいらの風習にあわせるならばもっと伸ばすべきなのじゃが、この長さがかなり完璧にかわいいのじゃ。どうせ目立つゆえ気にせずこのあたりの長さを維持してもよい気もするの。
ちなみにそのような風習があるのに短い理由は孤児院の子どもは鬘の材料としてその髪の毛を売るからなのじゃ。しかしわらわの分は金髪がばれぬようマーリィがなんか誤魔化しておったのであろう。よくやるものなのじゃ。
髪を飾る小物やリボンがないか収納空間内のフォルデン商会の建物やゴドノローア屋敷を漁りつつ、いや服装も替えなきゃなのじゃ、と気づいたのじゃ。いつまでも孤児院の襤褸着ではまともな旅人にさえ見えぬのじゃ。
今日はもう移動せずにそう言った旅の準備やら収納空間に入れてあるものの整理やらをやることにするのじゃ。
お読みいただきありがとう御座いました。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。