食事会前の一幕なのじゃ
こんにちは。
今日もよろしくお願いします。
余裕があると言いつつ、余裕があると余計なことをしたくなるのが人の世の常なのじゃ。そう言うわけでなんだかんだと結構な量の作業をこなして食事会を迎える準備を終えたのじゃ。無論、よう働いたのはわらわだけでのうてモリエをはじめとしたお手伝いの面々もであって、深く感謝なのじゃ。
客が多いゆえ神殿の食堂で老リーディンと共にちゃんとした席に着くものと修道会本部で修道会の冒険者等と共に気楽な席に着くもの、と分けるよう指示したのじゃ。
神殿のほうを更に二つに分けた方がいいと判断し、神殿内の使っておらぬ区画にある大食堂を取り急ぎ<洗浄>で清めメイドさん等があっと言う間に使える状態に整えた、とのことなのじゃ。無論そこに至る廊下も含めてなのじゃ。
こう言った面での準備に関して、わらわは報告を聞いて良きかなと返すだけなのじゃ。
ベルゾとミルケさんが中心に差配し、実働をメイドさん等に任せておるのじゃが、極めて有能なチームなのじゃ。本当に報告を聞くだけで済んでおるゆえわらわはそちらにリソースを割り振る必要が全くあらぬのじゃ。
厨房チームに勝るとも劣らぬ感謝を捧げねばならぬのじゃ。
調理面だけでのうて器や盆、カトラリーに関する準備や指示出しも進めて万端と言いたいところなのじゃが客が来出すと大抵はわらわが出迎えに出ねばならぬ相手となって面倒なことこの上あらぬのじゃ。
食事会までの時間は盤上遊戯なぞで潰してもらえるようガント等修道会メンバーはこの時間だけホスト側の存在として働いてもらっておるのじゃ。
ちなみにガントはまだ正式にリーダに就いたわけではあらぬのじゃが、リーディンを目指すという立ち位置で神殿に属すゆえ親睦を深めるため食事の席は神殿の信徒チームと相席になっておるのじゃ。
大食堂にテーブルが二つで老リーディンの着くテーブルに商業組合の組合長一行、港湾協会の理事からタンクトップおじさん、冒険者協会のギルマス代理で秘書の人、警邏隊北面支隊の支隊長のハンケル氏と部隊長のゲノール隊長、調合師錬金術師匠合の婆さま、ガントの魔術の師匠のおばあちゃん先生、協会とは別口で冒険者代表としてジーダル、修道会の代表としてベルゾ、実働する商人の枠でエインさんとズークさん。もう名前を列挙するだけで疲れたのじゃ。とにかくそう言う責任ある立場のものが老リーディンのテーブルに雁首並べておるのじゃ。
大食堂のもう一つの卓が信徒中心になっておるのじゃ。ズークさんとタンクトップおじさん以外の信徒衆、つまり二人のマードとその家族、タンクトップおじさん以外の港湾協会の理事じゃな。それにガントを加えたものでその信徒の繋がりでガント以外は顔見知りの気安さで過ごしやすそうなテーブルなのじゃ。まあ隣のテーブルが圧迫感強すぎるだけなのじゃが。
修道会本部のテーブルは冒険者が多めのかなり気楽な雰囲気なのじゃ。修道会に属す冒険者等や盤上遊戯の試遊会にも来ておった審判等の協力をしてくれる予定の冒険者等、そしてオルンとセイジェさんもこちらのテーブルなのじゃ。
セイジェさんはあちらでも良かったのじゃがの。
食事前の開始前に問題あらぬか見回るついでにセイジェさんに尋ねておくのじゃ。
「ジーダルとベルゾが向こうなのじゃが、セイジェさんは本当にこちらでよいのかや?」
「こっちで! あっちで食べるとかきつすぎるわよ。ねえ、オルンくんもこっちがいいわよね」
一応訊いてみたのじゃが全力で拒否られたのじゃ。
「ええ、こっちでもベテランの冒険者の方や協会の職員さんとかいて正直俺は汗をかいてます。ガント大丈夫かな」
冒険者協会の職員はギルマス代理の秘書の人は向こうで、そのお付きとしてきた職員とわらわ担当の窓口嬢のメーレさん、子ども教室関係で動いてくれる予定の司書の人と子ども等の引率の人とそこそこの人数なのじゃ。
ギルマスが情報の流れをかなり統制しておるようなのじゃが、ベルゾも食事会後の情報の流れかたで信頼できるかどうか判断したいと言う理由で招待枠を多めにしておるのじゃ。怖いのう。ガクブルなのじゃ。
まあ情報戦の重要性を疑う理由があらぬのじゃがの。
そのほか随伴してきた人等も失礼に当たらぬならと確認をとってこちらに通しておるのじゃ。ガントの先輩魔術師も師匠のお供で来ておるのじゃがガントが神殿の大食堂に行っておるゆえひとりぼっちなのじゃ。面倒な人ゆえわらわも構っておる暇はあらぬのじゃ。許すが良いのじゃ。
ちなみに調合師の婆さまのお供兼任のアイラメさんと狐の人は席を作るかという申し出に対してお手伝いするとのことであったゆえ厨房で手伝いながら食べるスタイルなのじゃ。双子等も同様にお手伝いスタッフなのじゃ。
モリエは当然正式スタッフなのじゃ。
「ふっふっふ。行儀の話はレーレッテさんと話した結果」
「どちらかというと給仕するほうの作法を習うことにしたよ!」
双子等はいつの間にやらそう言う話になっておるようなのじゃ。
「可愛い双子のメイドさんだよ!」
「習う範囲から考えると可愛いウェイトレスさんだよ!」
「今日も修道会の建物のほうのテーブルはお二人が主に給仕してくださるということですので、古着ですが急ぎ形だけ整えました」
レーレッテさんがそう言うのにあわせて双子等はメイド服でクルクルと踊るのじゃ。うむ、可愛いし面白いし構わぬのじゃ。
厨房の面々は下拵えは完璧、今や今やと開戦を待ちかまえておると言う状態なのじゃ。
あとは神殿の食堂のほうに顔を出して、そうしたらわらわ等の戦の始まりなのじゃ。
まず目を引くのはガントの師匠のおばあちゃん先生の前で恐縮しておる商業組合の組合長じゃの。
「其方が小さくなっておるところなぞなかなか見ぬゆえ、それだけでもディッサージェ師をお呼びした甲斐があったというものなのじゃ」
「私はいつもミチカさんの前で身も縮む思いをしてる気がしますよ」
軽口には軽口がさらりと返ってくるのじゃ。本心からのことで苦情が山積しておるというようなことはあらぬのじゃ。あらぬのじゃ。大事なことゆえ繰り返しておくのじゃ。
「冒険者協会で子ども等相手の読み書き計算の教室を作ると言うた時、ギルマスの賛同が容易く得られたのは彼奴の念頭にディッサージェ師があったのではあらぬかと思っておるのじゃ」
組合長とおばあちゃん先生を見ながら続けるのじゃ。
「ゆえにの、ギルマスは会議から帰って来て今日の食事会に参加できんかったこととディッサージェ師という隠し玉を見破られておることで二重に歯噛みする予定なのじゃ」
二人は大笑いしたのじゃが、おばあちゃん先生は「子どもの頃の対抗心をいい歳になっても失ってないのは呆れる」と言うような小言も組合長にし出したゆえわらわはさっさと逃げるのじゃ。
「ゲノール隊長、緊張が顔に出ておるのじゃ。なんなら席を変えても良いのじゃぞ」
「いや、大丈夫。いや大丈夫です、マーティエ」
支隊長のほうは実際のところ政治と社交が仕事であろうから涼しげな顔をしておるのじゃが、実働部隊の隊長のゲノールはちょっと緊張しておるのじゃ。
「これは基本ミチカの味方ばっかりの会だろ、俺は気楽に構えてるぜ」
そこでジーダルが話に入ってきたのじゃ。ジーダル自身はマインキョルトで一番の冒険者ゆえ面倒な相手との会食にはある程度慣れておると言っておったのじゃが、それとは別に確かに今日の客はわらわの親切な協力者なのじゃ。
警邏隊も剣や槍を振り回す仕事だけあってジーダルとは話が合うような感じであるゆえ、支隊長も含めて警邏隊の相手はジーダルに任せておくとするのじゃ。
婆さまからアイラメさんを使い過ぎと苦情を入れられてみたり、ついでに匠合の名前の後ろ半分の錬金術師について訊いてみたり、それでおばあちゃん先生もやってきて話が盛り上がったりという年寄りの女子会があったのじゃ。
わらわはピチピチ、いや前世分を加算しても二十代なのじゃ。うむ、ピチピチなのじゃ。
信徒衆はリーダになるガントに歓迎ムードなのじゃ。少し懸念しておったのじゃが問題あらぬようで一安心なのじゃ。
一緒におるのんびりとしたリーダの人徳やも知れぬのじゃ。
商人等は如才のう人と人の間を行き来して会話を弾ませておるし、とりあえず人間関係の問題は目に見えてはあらぬようなのじゃ。
この点の下調べは出来ておらんかったゆえ少しだけ心配だったのじゃ。
と言うことで老リーディンを呼んで食事会を始めるとしようかの。わらわはミルケさんにそう合図を送ったのじゃ。
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