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アイラメさんは残念なのじゃ

こんにちは。

今日もよろしくお願いします!

「いや、すまんかったのじゃ。呼びはしたのじゃが来るのは昼を過ぎてからで構わぬと伝え忘れたようなのじゃ」

 先ず一声謝っておくのじゃ。機先を制して謝罪を行えばそれ以上相手に追求を許さぬこととなる卑劣な策謀なのじゃ。ふふふ、わらわは悪賢い女なのじゃ。

「いえ、修道会関係の事務処理でやることはありましたし思いがけず贅沢な昼食を頂くことになってこちらは得ばかりですよ」

 修道会本部に入るや謝罪したわらわにミルケさんが落ち着いた笑みを向けるのじゃ。モリエの料理で昼餉を摂ったようでそれで来た甲斐があったと思うてもらえるならばこちらも一安心なのじゃ。

「おお! マキネさん、ようこそなのじゃ」

 狐の人なのじゃ。調合師の狐獣人の人がアイラメさんの後ろから挨拶してきたのじゃ。うむ、相変わらず良い尻尾をしておるのじゃ、モフりたいのう。


 ぴょこぴょこ動くきつね耳を見ておったらアイラメさんが自慢げに言うたのじゃ。

「ミチカさんがマキネちゃんをお気に入りなのは分かっていましたからねっ! こうしてマキネちゃんを連れてくれば私への無茶な仕事も半分になろうってもんですよ」

 凄く自慢げなのじゃ。相変わらず胸を張ると豊穣たる丘陵地帯が強い主張をするのじゃが、何より残念臭のする人なのじゃ。

「その場合、面倒な仕事はアイラメさんへ楽で余禄のある仕事はマキネさんへ回すことになるのじゃがそれで良いのかや?」

「がーん! それは考えてませんでした」

 口でがーん、なぞと言うので実際には対してショックではあらぬのじゃろう。ショックを受けておるようなリアクションに付き合うほど暇ではあらぬのじゃ。

 そんなアイラメさんを見てクスクスわろうておる狐の人は可愛いのじゃがの。笑うときに尻尾が左右に動くのじゃ。


「美味しいお昼ご飯を頂いた分あたしもがんばって働きますよ」

 狐の人は健気なことを言いおるのじゃ。

「と言うよりの、頼む仕事はカレー粉の時と同じで処方箋を記録して貰うだけの話なのじゃ。アイラメさんが記録して其方はホントに味見要員と言ったところなのじゃ。まあ料理が得意なら手伝っていってもろうても構わぬのじゃが」

 言いながら皆でぞろぞろと厨房に移動なのじゃ。

「モリエ、良い出来であったのじゃ。工夫も利いておっての」

「ありがとう。サーデとマーセもちゃんとお手伝いしてくれたよ」

 厨房で作業中の三人のお出迎えに先ずお昼の出来を褒めたのじゃ。

「ウドンが食べれて満足!」

「あたし達が食べ損ねてたお菓子が食べれて満足!」

 うどんだけでのうてカイザーシュマーレンも双子等のリクエストであったようなのじゃ。クッキー類の量産をしておるはずであるのに別口のスイーツが出てきた理由が分かったのじゃ。


「あっ! そう言えば」

 仕事を始めると言うか割り振ろうと思うた瞬間アイラメさんの声で出鼻を挫かれたのじゃ。

「どうしたのじゃ?」

「食事会のために結構な量の薬種や薬草を買ったでしょ。師匠が自分らも呼べ、みたいなことを言ってましたよ」

「師匠からの伝言を後回しにして忘れておるあたりが其方の評価が厳しいものである理由の一つなのじゃ。自覚したほうが良いと思うのじゃ」

「そんな厳しいことをいきなり真顔で言わないでください!」

 アイラメさんがちょっぴり涙目なのじゃ。しかしその程度の涙目は女であらば意識して出せるのじゃ。

「わらわも言うつもりはあらんかったのじゃが、アイラメさんの顔を見ておったらするっと口から零れたのじゃ」

 許すが良いのじゃ、と軽くアイラメさんの苦情を流して続けるのじゃ。


「それは兎も角、孤児問題、祭りの屋台、盤上遊戯の大会、これらのことに尽力してくれておるもの等への労いとして開く食事会なのじゃ。ゆえに参加したいならば働いて貰うことになるのじゃ」

 あの調合師の婆さまに食べさせることには文句はあらぬのじゃが他との兼ね合いもあるのじゃ。

「はい、その旨を書いた書状を作りました。ご確認のあとご署名を」

 ミルケさんがノータイムで書面を作っておったのじゃ。本当ほんに出来るお姉さんなのじゃ。

「そして持って行ったら返答をすぐにお願いしますね。明後日ですから」

 わらわが木札に書かれた内容を確認し、サインをしておるとミルケさんはアイラメさんにそう言うておるのじゃ。確かにアイラメさんが一番正しいメッセンジャーなのじゃ。


「アイラメさん、これが本当にできる女なのじゃ」

 そうミルケさんを指し示しながら木札を渡すのじゃ。参加したいならどれかの事業に参画が必要、そうでないならいずれ行う商業組合での試食会などには呼ぶ、と言う実務的な内容なのじゃ。

 単純に断るのではのうてあの婆さまがそれなら仕事のほうにも参加するよ、と言い出す可能性をちゃんと見越したものとなっておるのじゃが、ゆえに返答をすぐに貰ってくる必要があるのじゃ。

「うぅ、じゃあ行ってきます。師匠から返事を貰ってくればいいんですね」

「あ、あたしが」

「あの婆さまに会うのに愛弟子のアイラメさんが行くのが一番話が早いのじゃ」

「ああ、そうですね」

 狐の人も納得がいったようなのじゃ。狐の人は優しいことに代わりに行こうかと言い掛けたのじゃが、実際的にアイラメさんが婆さまに対して話が通りやすそうなのじゃ。


「ふふっ、そう、あたしは愛弟子ですからね!」

 アイラメさんはなぞの自慢をしておるのじゃが、はよう行ってくれぬかの。

「ではアイラメさんがおらぬ間に処方を記録する必要のないものからやっていくかの」

「あの、ミチカさん」

 ミルケさんがちょっと困った風なのじゃ。一瞬分からんかったのじゃが、わらわの説明不足なのじゃ。

「ああ、ミルケさんは基本的に味見役なのじゃが、本命はアイラメさんが戻ってきてからなのじゃ。頼んだものは来ておるのであろ?」

「はい、ちゃんとご注文通りに恩人方へお酒と蜂蜜を発送しまして残った分の錬金術師の酒をこちらに運んでいます。他に注文された各種酒類の瓶や甕もですね」


「約束通りまずミルケさんが一瓶取るが良いのじゃ。で、あとで幾つか酒に薬草やシロップを混ぜることを試すのじゃがわらわではその味見の任に耐えぬのじゃ」

 そこでミルケさんの出番なのじゃ。まあ、わらわは飲んだことがあらぬのじゃがカクテル的なものにしてみようと言う試みなのじゃ。ソーダはあらぬのじゃがモヒートとか言うミントを入れたものをイメージしておるゆえ処方をとっておこうと言うわけなのじゃ。

 作っておいてもろうたベリーのシロップ煮のシロップも甘いバージョンを作るのに使うつもりなのじゃ。

「わかりました。その味見の大任、お任せくださいね」

 ミルケさんが嬉しそうなのじゃ。ミルケさんはできるお姉さんなのじゃが、その実お酒好きなお姉さんでもあるのじゃ。


「ミチカ! あたしたちも味見できるよ!」

「あたしたちにも任せてよ! ミチカちゃん」

 双子等がまとわりついてきたのじゃ。まあ前世の日本とちごうて飲酒の年齢制限はあらぬのじゃ。わらわ程度の年齢では飲ませてもらえぬのじゃが、見習いでも働き出せば自分の稼ぎでちびちび飲むのが許されておると言ったところであるのじゃ。

 そう言った点で双子等が飲む分には度を超さぬ限り許されはするのじゃが、今回のミッションはミルケさんが必要なのじゃ。

「商業組合の組合長やら港湾協会の理事やらと言った偉そうな連中はおそらく日頃良い酒を飲んでおるのじゃ。そう言う相手に対して出して良いものかどうかを判ずるための味見がミルケさんなのじゃ」

「間違いなく良いものを飲んでますね。港湾協会の理事だと舶来ものも飲んでるかも知れないです」

 ミルケさんも自分の役回りとその重要性が判って安心しておるのじゃ。確かにさっきのままでは仕事もあらぬのに味見だけする人であったのじゃ。説明は大事なのじゃ。


「その点でミルケさんは外せぬし、其方等に任せるわけにはいかぬのじゃがいろいろ試作するゆえそれを味見する分には構わぬのじゃ。マキネさんもの」

「えっ、はい。あたしマキネ、がんばります!」

 尻尾の動きからお酒に興味がありそうじゃったのじゃ。

「よーしあたしたちも頑張って味見するよ!」

「だからそれはアイラメさんが戻って来おってからなのじゃ。アイラメさんが不要の新作菓子や下準備からやるのじゃ!」

「あ、私はお酒よりその新作のお菓子が気になるかな」

 なんと言うか、大量の女子が集まっておるゆえすごくわちゃわちゃした厨房事情になったのじゃ。


 アイラメさんも程なく「参加するよ」とだけ書かれた返答を持って帰ってきたのじゃ。まあ屋台関係に参加してくる場合はアイラメさん等がより働かされるだけゆえどうでも良いのじゃ。孤児問題のほうで孤児の受け皿を増やす役に立ってくれると助かるのじゃが、そのあたりはわらわには匠合の規模やなんぞがいまいち判らぬので何とも言えぬのじゃ。

 それは兎も角アイラメさんが戻って各種処方箋を記録しておくべき試作や仕込みも順調に進んだのじゃ。これで一安心なのじゃ。


 カクテルのほうはせめてトニックウォーターの代用品を作ろうと苦みのある柑橘類の皮を煮出したり樹皮を煎じたりと試行錯誤の上になんとか納得の行く飲み物が出来たのじゃ。

 苦みのあるモヒート風カクテルはミルケさん、狐の人、そしてモリエに好評でベリーのシロップを入れた甘いバージョンは双子等とアイラメさんの受けが良かったのじゃ。そしてわらわはミントとレモンバーム、そしてレモンの果汁を入れてさっぱりとした水と言うノンアルコール飲料を己のために作ったのじゃ。


 あとは当日の作業でなんとかなるのじゃ。

 明日は建築の日ゆえ、こちらの作業にとる時間はあらぬと思われるからの。その予定もミルケさんと確認なのじゃ。

 と言うわけで本日の仕事は終了なのじゃが、昼が好評であったことではあるし老リーディンの夕餉と各人が持って帰れる夕食のおかずもさっと作って配ってから帰ることにしたのじゃ。無論、食事会のメニューとは被らんように気をつけての。

 今日は空を飛ぶ大魔術師にうたり、ちょっと空中を跳ねてみたり、そして食事会の準備を進めたりとなかなかに有意義な日であったのじゃ。

 いつも有意義な日であったとその日を総括しておる気がするのじゃが、わらわは『日々是好日』の精神を大事にしておるのじゃ。


お読み頂きありがとうございました。

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