ラーメンに思いを馳せるのじゃ
こんにちは。
今日もよろしくお願いします!
「マーティエの薫陶あってモリエさまの料理の腕はすばらしいものがございますね」
老リーディンの部屋をともに出て食堂に向かうとマードからそのようなモリエへの賞賛が聞けたのじゃ。
昼餉前にちょっとお話のつもりが大分長うなって遅めの昼食となっておるのじゃ。付き合って待っておったマード等やベルゾには悪いことをしたのじゃ。
「マード達はモリエの手伝いをしておりましたよ。屋台へ向けての練習をかねて。私は商業組合のミルケさんが呼び出されて来られておりましたので書類仕事が進みました。ミルケさんの他調合師錬金術師匠合の方も来られていましたよ」
ベルゾの報告を聞きながら席に着くのじゃ。ミルケさん等も修道会本部のほうで食事を出しておるそうなのじゃ。ちょっと安心なのじゃ。
呼び出して放置しておるという問題行動自体に関しては兎も角の。
まあ、昼餉をいただいてから考えるのじゃ。
先ず出てきたのはほぐした蒸し鶏の身の乗ったハーブサラダ、うむ、ドレッシングの出来も良いのじゃ。以前作ったエストラゴンを漬け込んだ酢をベースにしたドレッシングを再現したのじゃな。あの時は確かサラダにクルトンを散らしたのじゃが、今回は蒸し鶏でオカズ感が増しておるのじゃ。
そしてメインとして出てきたのはウドンと鶏の唐揚げなのじゃ。蒸し鶏と唐揚げで鶏が被っておるのじゃが脂の差が大きいゆえ気にはならぬのじゃ。ウドンなのは双子等のリクエストに負けたのであろうの。
ウドンの出汁には干し椎茸が使われておるのじゃ。それと鱒の焼き干しじゃな。以前干したモルケッラを戻して使うたことがあったのじゃが、今回はそれを応用して薬種問屋で仕入れた干し椎茸を使うておるのじゃな。
その出汁を取った椎茸を切ったものと茹で野菜が具になっておるのじゃ。
「マーティエが厨房に立たなくてもこれほどのものが出来てくるのですか。モリエも凄いですね」
ベルゾが少し呆然とした表情なのじゃ。モリエの腕前は既に作ったことのあるものなら任せることが出来るだけではのうて、ちょっとした応用もやれる段階に達しておるのじゃ。以前の狩人が獲物を調理する、程度の腕前を思うておったのであらばそれは驚くであろうことなのじゃ。
「ふむ、ラ・メェネとはまた違うのじゃな。このウドンとやらは」
ハジ、と中央で呼ばれておるらしい箸で器用にウドンを食しながら老リーディンが言うたのじゃ。ちなみにマード等も中央風の文化ゆえ箸を使えはするのじゃが一応、と言う程度の話で、見苦しく使うくらいならとフォークで食しておるのじゃ。
そして老リーディンが言うたラ・メェネは中央で好まれるパスタ料理でスープやシチューに細麺を入れたものなのじゃ。初代皇帝が好んだ、と言う伝説があるゆえ中央で好まれておるわけなのじゃ。マーリィから中央の文物の一つとして聞いたときにはこの辺りでは使われぬ細いパスタのことが気になった程度であったのじゃが、転生の記憶を取り戻した今思えばラーメンが長年の間に訛ってラ・メェネになったのじゃろうの。
「数多のラ・メェネがあると聞くのじゃ。中央で出す場合はウドン風ラ・メェネというべきやも知れぬの」
そう言うてついでに中央のラーメン事情でも聞いておくのじゃ。
「学生の頃は屋台でラ・メェネをよう食うたもんじゃわい」
中央の都市では地区的な制限はあるものの屋台で火を使うことに寛容で水場のそばの広場などに密集してラ・メェネの屋台が並んでおったそうなのじゃ。形式も商品を買って屋台を離れる露天形式でのうて屋台に木の座台があって屋台で食していく形式なのじゃそうな。
この屋台情報はちょっと忘れぬうちにメモっておくのじゃ。祭りの屋台で使えるかどうかは兎も角、参考にはなるやも知れんからの。
しかし、本家や元祖、そして真祖なぞの看板を掛けたラ・メェネ屋はあるそうなのじゃが余りラーメンの原型は残っておらぬようなのじゃ。
いろいろな具材を炊き合わせたスープで、器に麺を入れた後選んだ具材とスープを入れて貰うという人気店のラ・メェネはおそらくおでんと混じったのじゃ。他にも面白進化があろうし、やはりわらわも一度中央に参って食べ歩きを決行すべきやも知れぬのじゃ。
「余裕があるときにラ・メェネの試作もしてみるかの。パスタを打つところからになるのじゃが」
「確かに屋台が並ぶ広場のそばには製麺所が何軒もあったわい。ふむ、あれも味が違ったんであろうな」
海藻を焼けばその灰を鹹水の代わりに使える、はずなのじゃ。やったことなぞあらぬゆえ「はず」なのじゃ。
まあ、なんにせよやるべきこととやれることのその次くらいの優先順位なのじゃ。
ベルゾから港のほうで売っておる魚介のぶつ切りを煮込んでこの辺りでよく使うておる四角いパスタと合わせた大雑把な碗ものがラ・メェネだと思っていたと聞かされわらわと老リーディンが驚くという一幕なぞがありつつ食し終わるとデザートが出てきたのじゃ。
昼餉には別になくともかまわぬゆえ、逆にモリエ自信の一皿で間違いあらぬのじゃ。
「ほう、カイザーシュマーレンかや。モリエの工夫もあるようなのじゃ」
出てきたのはカイザーシュマーレンなのじゃ。薄目のパンケーキをザクザクと切り裂いてジャムやソースをかけてまぶして食べる菓子で、これはエインさんのところで作ったことがあるのじゃったの。
ベリーのシロップ煮を頼んでおったゆえそれをソースとして流用しておるのじゃがクレーム・シャンティイとミントの葉ものっておって豪華なのじゃ。
「美味しいですね。見た目は少しごちゃごちゃしていますが味はそれを補って余りあります。これはマーティエが別の場所で作ったことがあるものですか?」
ベルゾは甘いものへの食いつきがよいのじゃ。他のものも賞賛しておるのじゃが、うむわらわも賞賛しておくのじゃ。
「これを以前作った折りには確かセイジェさんはおったのじゃ。うむ、モリエの工夫が入っておって良い出来なのじゃ」
そう難しくはあらぬのじゃが、砂糖はまあ当然としてバターや卵もがっつり使うゆえエインさんのところの料理人がどん引いておったのじゃ。そのあたりをモリエは着実に越えていっておるのじゃ。
「ええ、本当にモリエさまはすごいですよ。見ていて手捌きに惚れ惚れいたしますもの」
給仕をしてくれておるマードも絶賛なのじゃ。
「明後日の食事会では其方等も招待客なのじゃが、屋台の準備では充分に働いて貰うつもりなのじゃ。感心しておるだけでは済まぬのじゃ」
まあ! と声を上げながらもマードは食後のお茶を淹れてくれたのじゃ。内心ちょっと焦っておるのじゃが、優雅に茶を喫してから老リーディンと挨拶を交わして下がるのじゃ。
とっとと修道会本部に行かねばならぬのじゃ。
ミルケさんとアイラメさんを呼び出すように頼んでおったのじゃが、昼過ぎと伝え忘れた結果午前中から来ておった様なのじゃ。うむ、素直に悪いことをしたのじゃ。
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