さて朝餉なのじゃ
いらっしゃいませ。
本日も二話更新です。
これは一話目(1/2)。
二話目は21時更新予定です。
すっきりとした目覚めなのじゃ。
久しぶりのよい目覚めな気がするのじゃ。アレの所為なのじゃ、全く。
夢と癒しを司る睡眠の神でもある闇の神に感謝の祈りを捧げて闇のベールを解除する。昼過ぎに寝入ったのに朝になっておるのじゃ。よく寝たのう。
カーテン代わりに使った<遮光>の闇のベールは込めた魔力量に依存して持続時間と広さが変化するのじゃが、朝まで残っておるとは思わなかったのじゃ。設定できる気がするゆえ後でまた試すとするのじゃ。
アレの出てくる夢を見た記憶はないのじゃが、魔法属性の適正の高さについては『転移者転生者基本セット』みたいなのに全属性最高適正が付いてると言われて、そんなもの要らぬのじゃとごねた結果「血統と地縁、誕生季によって得られる加護の取得率、強度の増幅」まで引き下げさせた遠い記憶があるのじゃ。
わらわの魔法適正が相当高い理由としては、アレが引き下げられた分を補うため適正を得やすい血統に産まれるよう細工した可能性があるのじゃ。まあ言うても詮無きことなのじゃ。アレは殴るのじゃが。
さて朝餉なのじゃ、と思ったのじゃがこの地回りどもの根城だった建物の厨はしょぼいのじゃ。工藤め、なっちゃいない男なのじゃ。
朝ではあるゆえ簡単に済ませようかと思ったのじゃが、ふと思いついたゆえ二階に上がる。いくつか部屋があるのじゃが中身をどんどん収納して空にしていく、ついでに部屋を仕切る薄い木の壁も収納して二階を階段しかないがらんとした空間にしてしまったのじゃ。
そして、と収納空間でゴドノローア卿の屋敷の厨房を「部屋ごと」分離して展開したのじゃ。おお、出来たのじゃ。うむ、大きな石窯もあるし個別で使える竈もある立派な厨房なのじゃ。
東門前の通りで塩漬け肉を乗せたパンを食べて以降、昨日の昼にパンを摂っただけゆえちゃんと食べることにするのじゃ。食べ物の摂取に関して孤児院基準になっておったのじゃ。失敗失敗。
きっちり食べてしっかり育つのじゃ。
<着火>と<微風>を使い火を熾す手間もなく竈に火を入れて調理開始なのじゃ。祈祷なしの魔法名のみによる短縮発動でもここら辺の生活魔法は問題ないようなのじゃ。
厨房の食料庫にあった塩漬け肉を薄切りにして鍋に放り込み、一昨日の屋台のおっさんをリスペクトしてハーブ類を一緒にし、水瓶の水を入れて火にかけスープを作る。塩漬け肉が調味料であり出汁であり具材であるのじゃ。
煮えるまでの間に食料庫で見つけた卵も目玉焼きにするのじゃ。ちなみに卵は結構な高級食材なのじゃ。
前世の日本でも昔はお歳暮や病気のお見舞いに卵を送ったりしておったそうなのじゃ。それを考えると卵がふんだんに供給されるような体制は簡単には出来ぬのじゃろう。
獣脂を少しだけ落として温めたフライパンに卵を割り入れ塩をぱらりと振る。黄身が立っておるゆえ新鮮そうなのじゃが、と残念に思いつつターンオーバーにしてしっかり焼いたのじゃ。好みはトロッとした半熟なのじゃが衛生面での信頼度の問題なのじゃ。無念なのじゃ。
パンはここの厨房にあった奴をそのままなのじゃが、やっぱりここでも平たい種なしパンなのじゃ。イースト菌やパン種があらぬのは文化圏的なものであるのか否か見聞を広げねばならぬのじゃ。
この世界ではオージと呼ばれておる林檎っぽい果物が籠で積んであったゆえ皮を剥いてデザートにするのじゃ。
出来上がりなのじゃ。パンとスープに目玉焼きで更にデザートに林檎まであって贅沢なのじゃ。
食前のお祈りをあげて食べようとしてふと気づいたので目玉焼きを収納したのじゃ。
解体機能で収納物を分解できるのに対し可逆的に収納空間内で調理、調合などの合成が出来るのじゃ。但し、完成した状態のものを収納し登録しておかねばならぬのじゃ。
たっぷたっぷ。ん、ああ、収納されておるフォルデン商会の中に卵と塩があるというのではダメなのじゃな。収納空間内で分離。使う道具もじゃな。フライパンも同様にっと。
ふむ、なになに。熱量不足、代替に収納されている魔漿石の貯蔵魔力を使用するか、じゃと。とりあえずでくらいんなのじゃ。竈からまだ燃えておる薪を収納。ついでに薪束も収納。これでどうじゃ。
よし、いけたのじゃ。竈は不要とか適当なのじゃ。薪を消費しておるようなのじゃが微量のようでわかりにくいのう。変換や熱伝導のロスが計算されておらぬのであれば燃料の効率は高くて当たり前であるか。
検証の結果、素材と合成に使う器具類、加熱処理などが入る場合それに見合った燃料か魔力の消費、これだけ揃えば収納空間での合成作業が可能、ってことなのじゃ。
ちなみにアレンジを加えることは不可能で塩の増減やハーブ入りの目玉焼きを試したのじゃがダメだったのじゃ。登録したものと全く一緒のものしか出来ぬのじゃな。
目玉焼きなら普通に作っても手間はかからぬのじゃが、便利な機能ゆえ使う機会は多そうなのじゃ。
少し時間を使ったのでスープも温め直していただきますなのじゃ。
うむ、美味なのじゃ。しかし、塩漬け肉はやはり塩抜きした方が良さそうなのじゃ。卵はしっかり焼いてはあるが濃厚で美味なのじゃ。固い平焼きパンも塩味のスープに浸して美味しく頂いたのじゃ。
林檎、オージは前世で食べていたものよりも固くて酸っぱいのじゃが充分美味しいのじゃ。
しかしこの林檎であれば、じゃ。アップルパイなぞを作るのも良さそうなのじゃ。砂糖は高級な輸入品なのじゃが貴族の屋敷の厨房だけあってそこそこの量があるのじゃ。
ふう、ごちそうさまなのじゃ。後片づけは<洗浄>で楽々。本当に便利なのじゃ。
建物の構造的に不安が感じられたゆえ厨房は収納し直すのじゃ。後でちょっと建物周りを考えてみるのじゃ。
片づけたわらわは塀の内側を軽く走りだす。空腹に負けた昨日の朝のようなことはないのじゃが、地上げ期間の数ヶ月栄養不良であった分は考えねばならぬゆえ余裕を見て切り上げるのじゃ。あ、<早足>を使ってみるのを忘れておったのじゃ。
まあよいのじゃ。
晩秋の気温ではあるのじゃが程良く汗もかいたゆえ、シャワー代わりの<洗浄>なのじゃ。便利なのじゃが、本当のシャワーやお風呂も欲しいのじゃ。
けほけほ。自分でやってもやっぱり<洗浄>は口に水が入るのじゃ。ひどい目にあったのじゃ。
ん、なんなのじゃ、これは。
「なんなのじゃ、こりゃー!」
読んでいただきありがとう御座いました。
なんで朝ご飯を作って食べるだけの話を書いたのか自分でもよくわかりません。