錬金術講座なのじゃ
こんにちは。
なんというか錬金術説明回です。読み飛ばしてOKだと思います。
「錬成の陣は魔法具に刻まれている魔法陣とまた違うものです。魔法陣は魔術の陣と基本的には同じですが錬成陣は別物なのですよ」
そう言うとまずは説明とばかりに魔法陣と錬成陣について説明してくれるのじゃ。
魔法具の魔法陣が魔法を使うときの陣であることは解っておったのじゃが、更にそこに道具の用途に合わせて魔法陣の構成要素を加えておるのじゃそうな。どちらにせよ、魔法を発動させるための陣というわけなのじゃ。
対して錬成陣は魔法を発動せぬゆえ違うものな訳なのじゃな。
卓の一つの錬成陣を示しながら説明してくれるのじゃ。
錬成陣は中心に魔法陣に見えるものがあり、その周囲に三つの円陣が魔法的な装飾の文様で繋がっておる計四つの円で出来ておるのじゃ。
「まずはこの治癒ポーションの錬成陣で説明するわね。真ん中のは魔法陣なんだと思うのだけど、使っちゃダメよ。昔使った人がいるらしいんだけど魔力を大量に必要とした上に相手を癒すどころか殺してしまったと伝えられているわ」
声を発しかけたのじゃが、何とか自重できたのじゃ。<治癒>の仕組み上の問題なのじゃ。魔法陣の構成要素に多少の違いはあるもののこれは確かに<治癒>の陣立てなのじゃ。
治療系の祈祷、あるいは魔法は施術者だけでのうて被術者も魔力を必要とするのじゃがそのあたりの情報は神殿の秘匿事項やも知れぬゆえ軽々しくは口に出せぬのじゃ。
おばあちゃん先生はそのまま周囲の円陣の一つに手をやり説明を続けたのじゃ。
「そしてこちらの部分が素材を置く陣になっているわ。錬成陣特有の構成要素になっていて、素材一つ一つに対応した要素が刻まれているようだわ」
他の錬成陣で同じ素材を使う場合は同じ要素が同一素材数あるゆえ対応しておることが解るのじゃそうな。この仕組みによって素材が揃っておらねば錬成できぬし、定められたもの以外の素材を置いたところで錬成素材に数えられぬのじゃ。
そしてもう一つが魔漿石を置く陣で、最後の陣は魔力を注いで錬成陣を起動させるための陣となっておるのじゃ。
錬成された完成品は中心の魔法陣上に現れるのじゃそうな。正確には水を入れた容器を置いておくとポーションになると言う仕組みなのじゃそうな。
「魔漿石の品質でポーションの質が決まるんだけど、素材に求められる品質もそれに合わせたものが必要になるわ。下準備をしてない素材でも出来るけど、下処理をしっかりしたもののほうがよりよいポーションになるわね」
ケール、セイボリー、生姜、桑の根皮、アロエ、そして林檎と棚から素材を取り出してきたのじゃ。治癒のポーションを飲んだことはあらぬのじゃがケールがあの薬湯の苦みの元凶なのじゃ。つまりポーションの味もまあそういうことで間違いあらぬのじゃ。
「オージだけは他のいくつかの種類の果実でも大丈夫なの。不思議ね。ただ、いくつかの種類とは言ったけどダンジョンで穫れるもの、なのよ。上級ポーションを作りたいときはダンジョンで穫れたものが必要になると覚えておくといいわ」
他の素材はダンジョン産以外でも大丈夫なのじゃ。そして逆に等級外魔漿石で作る低級のポーションだと本当に下限の品物で出来るそうなのじゃ。
「実際にやってみせるわね。分量だけ量って下処理せずに」
素材の陣の上に素焼きの皿に載せた素材、魔漿石の陣に等級外魔漿石、中心の魔法陣の上には水を入れた木の椀が置かれたのじゃ。
「真ん中は瓶でいいんだけど今回は見やすいようにね。あと素材や魔漿石を増やして一気に作る場合は水の容器も大きくなるわね」
今回は林檎を六等分して一切れ使っておるのじゃが、他の素材を六倍して六個分一気に作る、なぞと言ったことも可能なのじゃ。
準備完了したところで実演のためにおばあちゃん先生が魔力を注ぐ陣の上に手を置いたのじゃ。
「魔術の陣だと意識しなくても魔力は流れるけれど、これはきちんと自分で注ぎ込まないといけないのよ。二人には言うまでもないと思うけどそう言った魔力の操作は実践的に魔術を使う上でも重要よ」
魔力の扱いの精度は魔法の精密な行使に関わってくるのじゃ。実際にはその点も見た上でこの錬金講座の受講資格が判断されておるのではないかの。
おばあちゃん先生が流した魔力が錬成陣の上で光の筋となり可視化されるのじゃ。錬成陣上の魔力の流れを見ておると、素材や魔漿石の陣へ行った魔力が光を増して中心へと流れていくのじゃ。
その流れが加速し一瞬強い光を発して魔力の光が消えたのじゃ。中心の木の椀に入った水が薄い光を放つ青緑の液体になっておる、これがポーションかや。
「少ない魔力だと錬成できないけど余分に魔力を注いでも何も変わらないの。ちょうどいい魔力を過不足なく注げるようになることね」
素材の薬草類は萎びてパサパサに、等級外魔漿石は魔力を失って砂のような砕片になっておるのじゃ。それをさっと<洗浄>してガントがおばあちゃん先生に厳しい声を出したのじゃ。
「これをそのまま床に落としてましたね」
「た、たまによ! 次に下処理をしてから錬成するわ。そうしたら味を比べてみるといいわね」
そう言うてガントの小言を断ち切り、今度は下処理をし出したのじゃ。とは言うても刻んでみたり皮を剥いたり、林檎は芯を除いてみたりと言った簡単な作業なのじゃ。
「下処理で分量が減りすぎたら錬成できないから自分で試行錯誤すればいいわ」
さらっと出来上がったのじゃが、色味の青と光り具合が多少強い気がするのじゃ。並べると気がするのではのうて確かに強いのじゃ。
「どちらにしても飲むことを考慮したものとは思えないですが、確かに下処理したほうが多少飲みやすいですね」
「うむ、不味いのじゃ。それは兎も角、何というか感覚的ゆえ口で説明しにくいのじゃが魔力の味が滑らかになっておるのじゃ」
青汁ベースの中にわずかに林檎の香りがするなんとも不味い飲み物なのじゃが、どう言うたらよいのか素材の味にあらぬ、そう、魔力の味がするのじゃ。
「魔力の感じ方は人それぞれだから伝えるのは難しいものよ。でもそう言う感じよね。ガントのほうは自分の魔力を扱うだけでなく他の魔力を感じて流れを把握することを意識なさいな」
そしてお次は実際に作ってみようのコーナーなのじゃが、下処理をして品質を上げるのは各自の工夫勝手次第と言うことで基本の低品質なのじゃ。無論、構わぬのじゃ。
で、わらわが先にやらせてもろうたのじゃが等級外魔漿石を使うと言うことで<軽癒>相当の魔力量をきっちり定量で送ればやはりそれで正解であったのじゃ。
うむ、味見をすると不味いのじゃ。
ガントは二度失敗したのじゃが六等分した林檎をちょうど使い切って成功なのじゃ。ただ、最後は魔力が多すぎて溢れておるのじゃ。
まあガントは魔力の扱いには器用なほうゆえすぐにアジャストするであろうなのじゃ。
ちなみになにゆえ魔力ポーションで合格したはずであるのに治癒ポーションで実習であるのか、答えは単純に素材の稀少さが違うからなのじゃ。ケールやヨモギ、リコリスなぞは兎も角、アルルーナと呼ばれる根っこがお高いのじゃ。薬種問屋でわらわも見かけておったのじゃが、要は高麗人参の類なのじゃと思うてとりあえずスルーしておった素材なのじゃ。
高うても流通しておるゆえ作る分には問題あらぬのじゃが練習に使う意味はあらぬと言うわけなのじゃ。
「ポーションは少しずつ魔力が抜けていくからよく考えて作ることね。停時箱なんかで管理すれば期限は延びるけど停時を維持するのに魔力を使うから実は魔力収支で得はしてないわ」
なるほどなのじゃ。まあわらわは収納空間に入れてしまえば時間を止めれるゆえ問題あらぬのじゃがの。
「あたしはこの二種類しか作ったことはないわ。もう一つ素材が判っているのはあるけどね」
「六つも錬成陣が描かれた卓はあるのにかや」
他は何のポーションの錬成陣なのか、逆に興味がわくのじゃ。
「三つは大昔に失伝しているのよ。それで秘伝と言いつつ残りの三つは書き残してあるの。錬金術師に聞けばあるいは今でも作ってるかも知れないけど治癒ポーションと魔力ポーションがあれば魔術師の余技としては充分すぎるでしょう」
「ふむふむ、ああ確かに素材名が彫り込んであるのじゃな。説明を受けなんだこれは霊芝を必要とするのかや、確かにこのあたりでは作らぬはずなのじゃ」
「あら、書いてはあるけどなにかよく判らなかったものだわ。あたしだけじゃなくてあたしの師匠もね。あ、何を作れるかも書いてあるけど毒消しね」
まあ茸全般を食べぬ文化ではレア茸もなにもあったものではあらぬのじゃ。
「先日薬種問屋で見た茸なのじゃ。しかし祈祷でも毒を消すのは全ての毒に効くわけにあらぬゆえポーションでも同様であろうの」
「茸なんだ。でも作ることはないかな、作っても効果がないことがあるのが難しすぎるね」
大概の場合は効いたらラッキー、ではのうて効かなかったときに恨まれるのじゃ。材料があってもそのポーションの使い方には充分な注意が必要なのじゃ。その点をおばあちゃん先生はきちんと理解しておるのじゃ。
錬成陣の中央にある魔法陣は<浄毒>のバージョンがちょっと違うものなのじゃ。他の失伝した陣も見てみたのじゃが一つは病気を癒す<平癒>で一つは<強壮>なのじゃ。最後の一つは見覚えがあらぬのじゃがなかなかに込み入った陣なのじゃ。
収納空間の空間範囲指定の指定範囲を錬成陣にかぶせ、陣を選択することで指定範囲を錬成陣の形にするのじゃ。その空間、いやこの場合は線を写し取っておるので平面ではあるのじゃが、とにかくその陣の形そのままの図形を保存するのじゃ。これで実際には収納せずに陣の複製が出来るのじゃ。
「最初に言った通り、本気で気になるなら錬金術師の匠合へ、だよ。商売にしたい場合もね」
「しかしなんで魔術師の秘伝になっておるかや?」
そもそもがちょっと不思議なお年頃なのじゃ。
「魔術と錬成あるいは錬金と、あと魔法具作成ね。すごい大昔はこの三つをまとめて魔術師がやってたらしいのよ。杖を自分で作らせるのは魔法具を作ってた名残ね」
「なるほどなのじゃ」
わらわも簡単な魔法具なら作れるゆえ納得出来る話なのじゃ。
「これでこの講座は終わりです。使う陣を書き写すのはガントに入室用のあたしの魔力を籠めた魔漿石を貸すからね」
「御教授、深く感謝するのじゃ」
「ありがとうございました」
では客間に戻るとするのじゃ。
ちなみにわらわは魔力ポーションや治癒ポーションの陣はちゃんと記憶しておるのじゃ。真ん中の祈祷と共通する魔法陣部分に覚える手間が掛からぬゆえ簡単なのじゃ。
お読み頂きありがとうございました。