ガントの師匠に会いに行くのじゃ
こんにちは。
平成も終わりですね。平成最後の更新よろしくお願いします。
とりあえず出かける前に厨房を確認なのじゃ。
修道会本部に出入りするメンバーに聞いてみたところ厨房を使うたことはあらぬと申しておったのじゃが、最初の日の大掃除で<洗浄>してあるゆえ清掃面での問題はあらぬのじゃ。但し、調理器具が一切あらぬのじゃ。
そのため鍋や鉄板、まな板包丁、ボウルなどの器類、本当に片っ端から発注したらしく配送されてくる品物の控えの木札が積みあがっておるのじゃ。無論それだけではのうて油や塩なぞも届くことになっておるのじゃ。
「すごいよ、モリエの買い物」
「モリエの買い物、怖かったよ」
「いや、必要なものを買っただけだから」
買い物に対する常識のズレで双子等がぐったりしておるのじゃ。
ちょっと前までのモリエであらば双子側に近かったのじゃが、わらわの買い物に散々つきおうた結果「どうせ祭りの屋台の準備でも使う」の一言で済ませて仕舞う水準に達しておったようなのじゃ。これは良いことなのじゃ。品物を持ってきた店のものに追加で発注して互いに面倒な二度手間をしてもらう必要があらぬのじゃからの。
かなり余裕のある買い物をしておるのじゃが、それでいて砂糖のような高級嗜好品は決済せず在庫だけ確かめてそのメモ書きが置かれておるのじゃ。至れり尽くせりなのじゃ。
まあ砂糖は菓子も作り足しておきたいのじゃ、ゆえに思いっきりよく発注しておくのじゃ。
モリエには薬種問屋や薬草店であがのうてもらうもののメモと、明日アイラメさんを借り出すための調合師錬金術師協会宛の書状を言付けるのじゃ。
「明日は朝からベルゾの魔術の師匠に会いに行くのじゃが、ベルゾが宿に迎えにくるゆえ護衛はベルゾで充分なのじゃ。モリエ等はここで出来る作業を進めておいて欲しいのじゃ。わらわもベルゾの師匠に会うたあとこちらに回るのじゃ」
流石にモリエ等もベルゾの実力に疑問は呈さぬのじゃ。明日作業をしっかり進めたき理由は明後日は家の建築作業が入っておるゆえそれ以外のは滞るからなのじゃ。
「じゃあ届く荷物の整理は修道会の人に手伝ってもらうことにするよ。調合師のおばあさんにアイラメさんを明日ここに寄越してもらうよう伝えてこのハーブや香辛料を買っておけばいいのね」
人に仕事を投げることも着実に身につけておるのじゃ。モリエの成長目覚ましいのじゃ。
「明日はミチカを待ちながら」
「ぐるぐるまぜまぜ頑張るよ!」
「うむ、混ぜる棒を含めて魔法具をエインさんのところから借り出しておくのも頼むのじゃ。無論混ぜるのは手で混ぜてもろうて構わんのじゃが」
「や、やる気を削がれたよ!」
いやまあ混ぜると言うた双子等のおかげでハンドミキサーやミンサーがあることを思い出せたのじゃ。感謝の心を込めて機嫌を取っておくのじゃ。
「明日は菓子も作る予定なのじゃ。石窯の火加減が出来るならばクッキーなぞは其方等に任せておくのじゃ」
「おお、やる気出たよ!」
「出た出た! 漲るよ」
「空回りしないでよね」
一気にテンションが回復した双子等に釘を刺しながらモリエもにっこりを笑顔をわらわに向けたのじゃ。うむ、可愛いのじゃ。
「じゃあ行ってくるけど、宿に帰ったら話があるんだ。オルンにも伝えておいてくれ、預かってる子どもたちに大人っぽい姿を見せようと酒を飲んだりしないような」
「うん、わかったよ」
ガントは自分の妹にではのうてモリエに言付けておるのじゃ。いや、適材適所なのじゃ。
と言うことでガントとお出かけなのじゃ。
港湾協会でタンクトップおじさんが準備してくれた馬車なのじゃが、御者曰く「今日は終日お嬢様につくように言われております」とのことだったのじゃ。
言葉に甘えて馬車移動なのじゃが、ガントの説明で御者は行き先がちゃんと分かったようなのじゃ。
箱馬車の座席に向かい合って座って、移動ついでに面談なのじゃ。
「さて、リーディンより軽く聞いてはおるのじゃな? リーディンは正式にリーダになりその後学舎で更に学んでリーディンとなるだけの者、そう其方を評価しておる様子なのじゃ」
「正直、買いかぶられている気がしますがありがたい話です。そして確かにリーディンからものを教わるのが今楽しいのですよ、ですが」
喜びと苦悩とがガントの表情に同居しておるのじゃ。しかしまあそれも語るべき相手はわらわにあらぬのじゃ。
「リーディンにも言うたのじゃが、わらわは其方がどちらを選ぼうとそれを尊重するのみなのじゃ。話すべきがサーデとマーセでありオルンとモリエであることは其方自身分かっておることであろ」
「そうだね、ミチカ。けどどっちを選ぶか分かっているかのような言い方になってるよ」
それは流石に笑うて流すしかあらぬのじゃ。
「で、其方の魔術の師匠はどのようなものなのじゃ。其方に魔術の流派の道統を継がせようなぞと思っておったりするとそれもまたお話合いなのじゃが」
「師匠はともかく私はそんな大した魔術師じゃないですよ。田舎の村から出てきた貧乏な子どもを内弟子に取ってくれるような変わり者ですが優しい先生です。優しいですが、厳しくもありますがね」
ふむ、語るときなにやら優しい顔をしておるのじゃ。敬愛する師匠なのじゃな。わらわにとっては、鬼のように不味い、魔力が回復する気がする薬湯の人なのじゃが。
「そう言えばどうしてガントは魔術師になろうと思ったのじゃ?」
素朴な疑問なのじゃ。あまり村の子どもが目指すものにはあらぬのじゃ。
まず魔術師たるに必要な生まれ持った魔力の量という才能、これはある程度は成長するようなのじゃがスタートラインの違いは大きいのじゃ、この才能を確かめる機会が貧しい者には少ないのじゃ。他国であらば生活魔法を伝授してもらうときに<洗浄>の水球の大きさで分かるのじゃがの。
次に、単純に師となる魔術師が少ないのじゃ。教え導くとなるとただ魔術が使えるだけの術師では足りぬであろうしの。
「父さんが、亡くなった父が魔術師だったんですよ。サーデとマーセはあまり覚えていないんですが私は父が魔術を使うところを見たことを覚えています。自分も使いたい、そう思ったこともですね」
ほう、田舎の村と聞いておったのじゃが魔術師がおる村となれば大きいのじゃの。そう納得しかけたのじゃが、違うと言われたのじゃ。
「父は冒険者崩れで、たぶん何かやらかして田舎の村まで流れてきたんだと思います。で、家付き娘だった母とそう言う仲になってなし崩しで定住したようですね」
改めて言うと人格的にも能力的にもあまりよろしくないんですが思い出の中ではよい父親でした、と苦笑気味にガントは言うたのじゃ。
幼い頃、多少だけ受けた父親からの指導と、その没後形見の書物を読み込んで自学した自己流のやりかたである程度魔術が使えるようになってから城市に出てきたのじゃそうなのじゃが、自己流が身についておるのが災いして誰も弟子にとってくれんかったのじゃそうな。
入門の礼金もほとんどあらぬ上、自己流の癖がついたやりにくい生徒を引き受けてくれた師匠の恩は大きいということなのじゃ。
「ふむ、其方の魔術行使が丁寧であるのは自己流の矯正と師匠の流派の型を大事にしておるゆえなのじゃな。納得なのじゃ」
「自分で意識したことはありませんがそうなのかも知れないですね」
そう話し込んでおるうちに到着なのじゃ。馬車で良かったのじゃ、かなり中心部から離れた城壁近くの場所なのじゃ。徒歩では相当な時間が掛かって追ったところなのじゃ。
塀の長さからして敷地はかなり広いのじゃ。広い敷地を得るための郊外、と言う選択肢なのかの。魔術の投射なぞを実践するための訓練場があるなら広うなければならぬのじゃ。そして外部に流れ魔術が飛んでいかぬよう塀は頑丈で高いのじゃ。
なのじゃが門扉は開けっ放しで中の集会場のような建物からは子どもの声がするのじゃ。わらわが見上げるとガントが教えてくれるのじゃ。
「近くの子ども相手に読み書きや計算の初歩を教えたりしてます。無料ではありませんがかなり安くに。私たちも、人にものを教える練習、と称して子どもに教える役割を与えられたりしました」
子ども教室の先駆者がおるのじゃ。これは望外の出来事なのじゃ、是非協力を取り付けたいところなのじゃ。
お読み頂きありがとうございました。
ではまた令和の時代に