己の進路は己で選ぶものなのじゃ
こんにちは。
連休二日目にして既に曜日感覚が分からなくなっています。
それは兎も角今日もよろしくお願いします!
「本人にもそれとなくは話しておるんじゃが、正式にリーダとして学んでみんかと思うておるんじゃ。無論、立場的には修道会付きのリーダでよいぞい」
思いがけぬことゆえちょっとばかり驚いたのじゃ。しかし、まあわらわが口を出すようなことではあらぬのじゃ。いや、立場的には修道会の総長として口を出す筋はあると言えばあるのじゃが。
「わらわとしては本人の意志を尊重するのみなのじゃ。選んだ道であらば応援はするがの」
第一なのじゃ、そう言って双子等とモリエを見やるのじゃ。
「ガントが話すべき相手はわらわではあらざるのじゃ」
老リーディンはわらわの視線の先を見、納得して頷いておるのじゃが、当事者の双子等とモリエはいまいち分かっておらぬのじゃ。いや、分かっておらぬで当然なのじゃ。説明せねばの。
「どういうことー? 兄ちゃんがリーダとか言うのになると何か問題あるの?」
「けど爺ちゃんは兄ちゃんになって欲しいんだよね? さっきの話し方だと」
「リーダとなって神殿のことを学んでの、それがリーディンに認められたらリーディンになるための学校へ行くことになるのじゃ。その学校できちんと学べばリーディンになれるわけなのじゃ。そう言う風にリーディンになることを視野に入れておるのが正式にリーダになると言うことなのじゃ」
モリエがえっと声を上げて口を押さえておるのじゃが、肝心の双子等はまだ小首を傾げておるのじゃ。
「その学校、マール・ミルクはの中央にあってのリーディンの資格を取るだけならば通うのは二年と言ったところなのじゃ。深く学ぼうと思えば相当に長くおれるのじゃ、追い出されぬ限りなのじゃが」
双子等はわらわの言葉を聞いて飛び上がったのじゃ。
「ええーっ! 大事じゃん!」
「兄ちゃん、中央に行っちゃう?」
「うむ、大事なのじゃ。そして話す相手はわらわではのうて妹である其方等であり、雪の椿の皆であろうと言うておるのじゃ」
双子等はあわあわと不思議な踊りを踊っておるのじゃ。モリエは少しは冷静なようでわらわに訊いてきたのじゃ。
「けど、ミチカがダメって言えば止めれるんだよね?」
「そうなのじゃが、そうする気はないのじゃ。ガントが自分で選ぶことゆえ、の」
「そうなんだ。確かにそうだよね」
三人は考え込んでおるのじゃ。
わらわはその三人から老リーディンに向き直って言うておくのじゃ。
「熟考して決めてから話すにしろ、話し合ってから考えるにしろ、己の行く道である以上己で決めるべきであるのじゃ」
「そりゃそうじゃ、己で選ばずに志すものではないぞい」
老リーディンもそう言うて頷いたのじゃ。なんにせよ、ガントの人生なのじゃからガント次第なのじゃ。
「祈祷を伝授してもらい、祈祷師、リーゼイですかね。リーゼイとして冒険者をやるのも出来ることは多くて魅力的でしょう」
ベルゾが冒険者の立場で気休めを言うと双子等はむしろ頭を抱えておるのじゃ。
「兄ちゃんはいざと言うときになにを使うか悩んじゃってダメなほうなんだよね」
「事前に考えた通りのことは得意なんだけどねえ」
厳しい妹たちなのじゃ。祈祷を覚えて使える魔法の選択肢が増えてもむしろ持て余しそうじゃと言う厳しい評価に気休めを言うたベルゾも苦笑いなのじゃ。
「しかし、それを補うだけの努力が出来る男ですから。どういう場面でどういう魔術を使うか、と言うことを細かく木札に書き出してまとめていましたよ。あれは一冊の書物にまとめれば駆け出しの魔術師の手引書になると思いますね」
魔術師系冒険者の先輩としてフォローを入れておるのじゃ。突発的な事態に弱いのであらば想定の範囲を広げてゆくのみ、と言うのは正しい道筋なのじゃ。わらわ自身は攻防の組立をしっかり作り込んでリングにあがるタイプの賢いボクサーではあらんかったのじゃが、そう言うやり方が悪いとは思わぬのじゃ。
「儂には戦闘の機微は分からんが、盤上戦では考えすぎで数手遅れてしまうほうじゃな。根本のところはきちんと押さえておるから将来強くなるかも知れんぞい」
「ふむ、冒険者の打ち筋にはそのものの実戦での戦い方が出ると言うたのを確かめてみたのじゃな」
「まあそうじゃぞい」
わらわの評価とほぼ一緒なのじゃ。と納得しておると双子等とモリエも本人がおらぬところでどうこう言うたところで無駄じゃと気づいたようで少しは落ち着いてきたのじゃ。三人がわいわい言うて渇いた喉を茶で湿しておると軽い昼食が出てきたのじゃ。
わらわを含めクラムチャウダーをしっかり食しておるのじゃが、当然いただくのじゃ。成長期なのじゃ。
「そう言えばマーティエの家の建設予定地から出たという古代の祭具について商業組合から相談を受けたぞい。報告書を作るにあたって誰に見てもらえばよいか分からんと言うてな」
「ああいうものを研究しておる学者でもおればよいのじゃがの」
「マール・ミルクになら古いものを分類する者もおったかの。それでも北方のものが分かるとは思えんが」
「まあ興味深いとは思うたのじゃがの。銀貨の意匠を見ると神を祀るに人格神ではなく動物や植物の姿の神を祀っておったのかの」
「神殿の教義に吸収される以前の信仰については儂等にも分からんからの。まあ分からん以上マーティエの見立て通り神殿以前の古代の信仰にまつわる祭具じゃろうと言っておいたぞい」
しばし古代の信仰についての推測なぞを語り合いながら軽い昼食を済ませたのじゃ。
ついでに知れたこととしてはわらわが未確認金属とした樹型杖の素材は魔銅、かなり珍しいのじゃが魔鉄や魔銀に勝る部分が一切あらぬ残念な稀少素材なのじゃそうな。石の剣はほんの僅かながら魔金が装飾に使われておって魔力を通せば斬れるであろうが剣本体の強度的に祭儀用か使い捨ての高級な暗殺用だろうとのことなのじゃ。
なんにせよ元の持ち主なぞが存在するはずもあらぬゆえわらわの手元に返ってくるそうなのじゃ。
「家に礼拝所を設える予定ゆえ、神像と共に祀っておくかの」
敷地に置きっぱなしの石櫃を祭壇にでもするのじゃ。運が良ければ数百年後に考古学的発見になるのじゃ。
「ふむ、その地の信仰を取り入れるのは正しき姿ではあるさの」
「忘れるところであったのじゃ。修道会本部の礼拝所に祀る神像だけでのうて、そのわらわの家のほうも神殿の収蔵品をお借りしたいのじゃ」
「使っておらん神像を持って行って祀るのはむしろ仕舞っておるよりよいことじゃぞい」
「ああ、ついでに春の神々の像の造形を確認させてもらうのじゃ。春を言祝ぐ祭りに向けて箱なぞからは出しておるのじゃろ」
それはなんのためになのじゃ、と食いつかれたゆえ遊戯大会の上位入賞者への景品に魔漿石を彫った神像を与えようとしておることを説明したのじゃ。説明すると今度はその魔漿石彫刻に食いつかれたのじゃ。
「細工師に台座やピンを頼んでいる段階ですが、お見せする必要があった時のため一つだけそのままの形で持ってきております。こちらが等級外ですが魔漿石製の修道会の徽章となります」
相変わらずベルゾはそつがあらぬのじゃ。老リーディンは感心しながら見ておるのじゃ。
「器用なもんじゃな。これは祈祷で彩色しておるのか」
「白い皿で試してみたのじゃが、魔漿石であらねば色を付けることは出来ざるようであったのじゃ。あるいは魔漿石でのうても魔力を帯びた素材であらばいけるやも知れぬがの」
「また変わった魔力の使い方をするもんじゃな」
少し呆れ気味なのじゃ。しかしいろいろ使ってみる挑戦者魂は大事なのじゃ。
そんなこんなでそろそろ警邏隊の治療の時刻かの。
「モリエ等は修道会本部のほうの厨房を見て、必要なら掃除してくりゃれなのじゃ。そして使うにあたって足りぬものを書き出しておいてくれると助かるのじゃ。食事会の仕込みを明日から空いた時間にやり始めるのじゃ」
「じゃあ商業組合の鑑札で買い物できるから必要そうなものを買っておくよ」
「ありがたいのじゃ。話しながらするならガントにはそっちに行ってもろうても良いのじゃが」
「んー、そうするとオルン兄ちゃん仲間外れ」
「リーダーなのに!」
「宿に帰ってからしっかり全員で話し合うよ」
「了解なのじゃ」
まあ確かに今日はオルンだけが神殿におらぬ仲間外れ状態なのじゃ。いや別に常に一緒におる必要はあらぬのじゃがの。
お読み頂きありがとうございました。




