生活魔法修得なのじゃ
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本日更新二回目です(2/2)。
神殿で習得できる生活魔法と呼ばれる祈祷は十種あるのじゃ。魔法は魔術と祈祷に分かれるのじゃが、マーリィに言わせれば生活魔法も本物の祈祷も、そして魔術も基本構造は同じものと言うことなのじゃ。それはまあ良いのじゃ、まずは生活魔法をきちんと使えるのかなのじゃ。
十種の内訳は<洗浄><光明><着火><微風><早足><掘土><埋土><経時><遠声><遮光>となっておるのじゃ。
大凡人気順なのじゃ。
どれも神殿で幾ばくかの喜捨と引き替えに習得できるのじゃが、光を遮る闇のベールを作る、昼寝くらいにしか使い道のない<遮光>は当然のように不人気なのじゃ。
音声を増幅するメガホン魔法の<遠声>は普通の人には使い道がないのじゃが兵士や騎士を指揮する隊長さんたちであるとか土木現場の親方さんであるとかには需要があるのじゃ。
<経時>は対象の時間を進める魔法なのじゃ。肉のエイジングや煮込み料理の余熱調理、発酵や醸造など使い道は多そうに見えるのじゃが、生活魔法にしては難しく魔力の効率も悪いのじゃ。便利に使うには少し難しい魔法じゃの。
この三つが不人気魔法なのじゃ。不人気魔法を使って成り上がり、みたいな物語を紡ぐのは難しそうなのじゃ。魔力量と適正次第で<経時>は役に立つとは思うのじゃが。どちらにせよそう言う成り上がりは目指さぬので問題ないのじゃ。
まあ、実践なのじゃ。まずはやはり<洗浄>なのじゃ。
祭文の文節ごとに頭の中で魔法陣が組み上がっていくのはなかなか楽しいのじゃ。魔力が動き、そして放出される感覚も初めてゆえ面白い。これで<洗浄>の水球が生じれば成功なのじゃ。
当然成功なのじゃ。わらわは天才魔法少女なのじゃ。うむ、言い過ぎなのじゃ。しかし、ちょっと出来すぎておるのも事実なのじゃ。
簡単に言うと大きいのじゃ、生じた水球が。直径二メートルほどもあるのじゃ。わらわなど一発で<洗浄>出来るサイズなのじゃ。
基準となる大きさは魔力量と属性の適正に依存するはずなのじゃ。マーリィが直径一メートルほどの水球を出しておったが体積的にはその八倍になるのじゃ。マーリィが魔力量のサバを読んでおった可能性もあるので保留しておくのじゃが、わらわは魔法が得意なようなのじゃ。
普通の人の<洗浄>はそんなに大きくないのじゃ。適正があっておったり魔力量が大きめの人で直径五〇センチくらいでそれでも身体を<洗浄>するのに苦労しない大きさなのじゃ。マーリィも普段はその程度で使っておった。大きすぎても魔力の無駄であるしなにより逆に使いにくいのじゃ。
しかし、既に出したものを小さくするのは出来ないのじゃ。わらわは手の先にある水球を見て考える。そうじゃな、魔力を送り込めば大きくは出来るはずなのじゃ。うむ、出来るのじゃ。この調子に乗って膨らませた大きな水球でなにを<洗浄>するのかのう。あれなのじゃ。後で掃除するつもりじゃった建物に近づき大きくした水球をぶつける。水球は回転しながら一階二階三階と登っていき、屋上を抜けるとどこへともなく消失したのじゃ。
<洗浄>の水球が通り抜けた建物の外観は新築のようにピッカピカなのじゃ。中身は水流でグチャグチャになっておらぬかとおそるおそる覗いたが流石<洗浄>なのじゃ。どこも綺麗で、積んであった皿なども落ちることなくそのまま<洗浄>されておるのじゃ。
満足、至極満足なのじゃ。
初めての魔法行使に成功して上機嫌なまま小さい<洗浄>も試すのじゃ。魔力の流出量を絞るのはそこそこ難しいのじゃ。食べるときパンを直に持っておった左手だけを洗うには少し大きいのじゃがまあ充分小さく出来たのじゃ。
ちなみに魔力量や適正の問題で相当小さくしか実行出来ない人でも習得しておることが多いのが<洗浄>なのじゃ。魔力量や適正が低くても魔漿石の魔力で発動した場合は使う人の力量に依存せず安定して直径三〇センチクラスで発動するのじゃ。クズ魔漿石でも十回かそこらは実行できるゆえ<洗浄>の便利さを考えると納得できるコストというわけなのじゃろう。わらわは逆に小さく使うために魔漿石を使うのもありかも知れぬのじゃ。
続いて<光明><着火><微風>と実行し魔法陣を脳内に保存していく。魔力の注入は控えめにしておるゆえ巨大な光球を生じさせたりはしないのじゃ。わらわは賢いゆえ失敗を繰り返さぬのじゃ。
此奴らは名前通りの魔法でそれぞれ便利なのじゃ。<微風>は夏に涼むのに使えるだけではなく薪や炭に風を送って燃焼を促進させたり、暖炉前の暖かい空気を循環させて部屋を暖めたりなど色々使い道があるゆえ結構人気の生活魔法なのじゃ。
<早足>は歩いたり走ったりすることに増強作用があり、かつ疲労も軽減する魔法なのじゃ。建物の周りを走る程度では実感できなかったゆえ検証は後日なのじゃ。
疲労軽減効果は<賦活>の下位互換のようではあるし<賦活>の方に早足効果を組み込めないか考えるべきかも知れぬのじゃ。
どっちにせよ旅程が捗りそうでありがたいのじゃ。
しかし、土を掘るのと埋めるのが<掘土>と<埋土>で別の魔法なのは面白いのじゃ。鉱夫などの守護神とされる山と隧道の神が男女の双子神であることに由来しておるのじゃろう。
ふむ、マーリィの覚え書きによると二つの祭文と魔法陣を上手に編集できれば生活魔法ではなく<操地>と言う祈祷になるそうなのじゃ。これはおそらくマーリィからの宿題なのじゃ。
ちなみにこれらの祈祷でもできるのじゃが畑仕事には<耕作>という祈祷や相当する魔術が別にあってその方が効率がよいらしいのじゃ。
そして不人気三魔法も習得してっと、うむ、他に木札が残っておるのじゃ。マーリィの宿題であろうか。
ふむふむ、<念動><猫目><跳躍>も以前は生活魔法に入っておったが犯罪に使われることがあったため削除されたのじゃそうなのじゃ。その祭文と魔法陣もつけてくれておるのか、マーリィに感謝なのじゃ。
寝ころんだまま本を取ったりする念動力の魔法、暗視魔法、ジャンプ増強魔法なのじゃ。まあ確かに不法侵入に向いておるのじゃ。
生活魔法を習得し色々試しておったら少しだるくなってきたのじゃ。
魔力の使い過ぎか<賦活>の効果が切れかけておるのか、その両方かは判らぬが、今日はもう休むのじゃ。
建物に入り店舗スペースっぽい所から裏に入る。控え室っぽいそこにゴドノローア卿の屋敷から分離した客室用のベッドを展開し寝転がる。ああ、この世界にもこんないい寝心地の寝台があったのじゃな。幸せなのじゃ。あまり動きたくないゆえ<念動>で閂や掛け金を動かし戸締まりなのじゃ。
「慈愛溢るる闇の王よ 安らぎ満つる眠りの園の主よ
我は御身に祈り 加護を求めるものなり
寛容にして偉大なる眠りと夢の守護者よ 我が祈りに応え
光を遮り夢の癒しを守護する 闇のベールをここに!
<遮光>」
そして熟睡のために<遮光>で闇のベールによるカーテンを巡らして就寝なのじゃ。魔法、便利、なのじゃ。
おやすみなさいなのじゃ。
お読みいただきありがとう御座いました。