クラムチャウダーを作るのじゃ
こんにちは。
今日もよろしくお願いします。
連休中は更新が不規則化するやも知れません。
「蛤は予想しておったより大量に準備してもらっておるのじゃ。ちなみに蛤は贅沢ゆえ普段はアサリで充分なのじゃ」
まあ今回は蛤の殻が欲しかったのじゃがの。殻のほうも充分な厚みがあるものばかりなのじゃ。こちらの意図を汲んでサイズの指定をしてくれておったのであろうの。ありがたいことなのじゃ。
「砂も吐かせておいてくれておる様子なのじゃ。サーデとマーセは蛤を茹でて、口が開いたら鍋を火からあげてくりゃれなのじゃ。茹で汁は使うゆえ、鍋を火から外すだけでよいのじゃ」
「了解!」
「任せて!」
量が多いゆえ寸胴を二つ火に掛けて、双子等にそれぞれ任せたのじゃ。
「ジャガ芋は言うたように芽に毒があるゆえ確実に取り除くのじゃ。皮も余り薄くは剥かずこれくらいでよいのじゃ。そしてその後細かく角に切るのじゃ」
モリエに新食材のジャガ芋の下準備を手伝ってもらうのじゃ。そして玉葱やセロリなぞ、既存の食材はサクサクと切るのじゃ。あと子ども等への炊き出し分の豆を下準備として煮るのも双子等に任すのじゃ。
ジャガ芋もじゃの、塩茹でしておいてもらうのじゃ。
「ねえ、豚肉少なくない?」
「なくなくないのじゃ。主役は蛤ゆえこれはちょっとした味付けのようなものなのじゃ」
塩抜きした豚の塩漬け肉を切っておるとサーデから少なくあらぬかと言われたのじゃが、豚のスープではあらぬのじゃ。と言うよりベーコンが欲しいのじゃ、むしろ作るのじゃ。
続いてサラダにスープにと何かと使うことの多いクルトンを作るのじゃ。これは正直収納空間の複製機能で嵩増しをしておきたいのじゃ誤魔化しの利くタイミングがなかなかあらぬのじゃ。
「クルトンは理事とわらわ等の分だけで良しとするのじゃ。量を準備するには面倒すぎるのじゃ」
本当はチーズクラッカーがクラムチャウダーのスタイル、と言うか、つなぎに小麦粉を使うつもりなのじゃがそれも潰したクラッカーでやるのが本場のスタイルなのじゃ。クラッカーを自作したことはあらぬのじゃが、今度クッキーを焼く折りにはチーズクッキーをアレンジしてクラッカーぽく薄く焼いてみるかの。
まあ兎も角蛤の身以外の準備は概ね済んだのじゃ。そして蛤を茹でた鍋もいい具合にぬるうなっておるのじゃ。<経時>で冷ましても良かったのじゃが、冷ました後この時点まで置いておくことになったと思われるゆえこの手順で良かったのじゃ。今日は上手に工程が整理できておるのじゃ。
「殻を細工工房に送るのが主眼なのじゃ。ゆえに殻は後でまとめて<洗浄>するのじゃ。身のほうはこちらに、うむ、大きいゆえ身は切るかの」
四人掛かりなのじゃ。
殻の<洗浄>は貝殻の大きさ的に大丈夫じゃとは思うのじゃがうっかり貝殻をゴミだと認識すると<洗浄>に巻き込まれるおそれがあるゆえ注意が必要なのじゃ。
茹でた煮汁のほうは布で漉す必要はなさそうなのじゃ。
「砂が見えるようなら漉して使うのじゃ」
「覚えておく」
ここまでくれば後は単純なのじゃ。
ただ、トマトがあらぬことだけは残念なのじゃ。唐辛子とジャガ芋が西方の大陸ロメク・エフィからの伝来品であることを考えるとロメク・エフィあるいはその地のダンジョンにある気がしておるのじゃ。ダンジョンからの品の場合、そう言ったわらわの考えるような地域性があるのかどうかは知らぬのじゃがの。
細かく切った豚の塩漬け肉と玉葱をパセリと一緒にバターで炒め、小麦粉を入れて混ぜながら蛤の煮汁を注いでいくのじゃ。この作業はなんと鍋三つで平行してやっておるのじゃ。一つはモリエ担当なのじゃがの。
弱めの火でよく混ぜながら牛の乳も加えていくのじゃ。牛乳は<加熱>しておけば良かったかの。
塩茹でしておいたジャガ芋をセロリ、タイムなぞと一緒に投入。ジャガ芋なのは一つの鍋だけで他はレンズ豆のような豆なのじゃ。
塩で味を調えたら最後に蛤の身を入れて完成なのじゃ。わらわ等はクラッカー代わりのクルトンを入れて試食なのじゃ。様子を見ておった職員さんにもお裾分けなのじゃ。
わらわ以外は毒芋扱いであったジャガ芋に少し躊躇しておるのじゃが、わらわが平然と、嘘なのじゃ、嬉々として食べ始めたゆえ皆続いたのじゃ。
「お、美味しい! 美味しいよ、ミチカ」
「ミチカちゃん、このスープ美味しい!」
「うん、殻から外す作業の段階で分かったけど、これが貝だね。美味しい」
「簡単な料理なのじゃが、間違いなく美味しいと言うありがたいスープなのじゃ。ではこれを会議をしておる理事等へ差し入れとして持って行ってくりゃれなのじゃ」
お裾分けで食べた職員さん等に食べた分のお仕事を割り振るのじゃ。貴重なジャガ芋は使わず豆で代用した分は子ども等への炊き出しに回そうかと思っておるのじゃが、それについての許可をもろうて来てくれるようにも頼んでおくのじゃ。
モリエが担当したジャガ芋の代わりに豆を入れたものも試食っと、うむ美味しいのじゃ。塩加減も程良くできておるの。
「きっと豆のほうしか知らないならそれでも良かったのに」
「ジャガ芋のほうを知ってしまうと豆では物足りない」
一緒に試食した双子等はそう言っておるのじゃが、まあわらわも同意なのじゃ。
「この芋は焼いたり揚げたりいろいろな使い途があるのじゃ。そしてそれぞれ美味しく頂ける良いものなのじゃ。あっ、いやうむ。良い芋であることなのじゃ」
「ミチカ、どうかしたの?」
「何でもないのじゃ、モリエ。そのいろいろな使い途とここの倉庫にあったジャガ芋の量とを考えておっただけなのじゃ」
本当は一応用心のために<毒見>の祈祷を行うつもりであったのに先ほどのドタバタが挟まって完全に忘れておったことを思い出したのじゃ。
いや、食材として持ち込んでおったものなのじゃ。最初に売っておったものはちゃんと食べれるものを売っておるつもりであったはずなのじゃ。
大丈夫、大丈夫なのじゃ。
「なんかあやしい」
「けど確かに大袋だったけど食べたらあっという間だよね」
「はいっ。はいはいっ!」
いきなりサーデが手を挙げてアピールしてきたのじゃ。何事か思いついたのであろうかの。
「さっきの変な匂いの調味料、獣人の人が使うって言ってたじゃん。それと一緒で毒芋って言われてても獣人の人たちは食べてるかも」
「どちらも西の大陸由来のものじゃから、そのロメク・エフィ伝来の伝統を受け継いでおる者等がおればあるいは、なのじゃ。しかしサーデは賢いのじゃ」
「いえい!」
サーデの食い意地に直結した賢さが発揮されたのじゃ。まあ伝手はあらぬのじゃが要調査のことなのじゃ。
そうやっておると先ほど理事たちの緊急会合の場にクラムチャウダーの差し入れを持って行った職員が帰ってきたのじゃ。
曰く、会合に休憩を入れたゆえ案内に戻ってくるとのことなのじゃ。クラムチャウダーの礼と途中経過の速報と言った辺りが主なのであろうの。
さして待つこともあらず、タンクトップおじさんは戻ってきたのじゃ。個性的な同行者を二人ほど連れて、なのじゃ。
一人はタンクトップおじさんのようにタンクトップに上着を羽織っておるようなことはあらぬのじゃが、上着の上からも分かる筋肉にワイルドな髭面なのじゃ。仮称海賊おじさんとするのじゃ。
もう一人は女性で四十前くらいのおばさまなのじゃ。痩せた体つきに鋭い顔つきで厳格な女教師と言った風なのじゃ。
この二人は港湾協会の理事なのであろうの、と判じながら見ておるとタンクトップおじさんが紹介してくれたのじゃ。
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