ニンジャなのじゃ!
こんにちは。
今日もよろしくお願いします。
「くらむちゃうだー?」
「料理の名なのじゃ。貝の身を使うたスープでの、具にジャガ芋も入れることが多いのじゃ」
ついでゆえ作業に従事しておる子ども等への賄いに今日してやろうかの。その場合わらわ等が食す分にしかジャガ芋は入れられぬのじゃが。
「マーセ、今から言うものを注文してここの厨房に持ってきてもらうのじゃ」
「了解!」
「っとその前に、なのじゃ」
いやはや気が逸りすぎなのじゃ。
「蛤の身を外すついでに少々調理してみたいのじゃが」
「はい、もちろん構いませんよ。お相伴には預かりたいものですが」
了承も得ずに厨房を使う心持ちだったのじゃ。危ういのじゃ、と言うより甘えすぎじゃの。反省なのじゃ。
「それは無論なのじゃ。蛤の量次第では子ども等への炊き出しもしていくのじゃ」
マーセを買い出しに送り出し、ジャガ芋以外に掘り出し物があらぬか見分しながら待つのじゃ。
狙い通り干した茸が何種かあったゆえとりあえず確保したのじゃ。そう言うわかりやすいものはよいのじゃが、食料品の店や薬種問屋でも見ておらぬような珍品があったのじゃ。
「これも西大陸のもののようなんですが、持ってきた連中は調味料だと言いますね」
そう言うて出てきたものは、なんなのじゃこれは。壷に入ったペースト状の物体なのじゃが匂いが強いのじゃ。二種類あって、どちらも壷入りなのじゃが片方は水分が少のうてペーストと言うよりもう固体なのじゃ。そして匂いは大きく違うのじゃ、臭いことには変わりがあらぬのじゃが。
「この匂いは鮒鮨なぞのなれずしのものに近いのじゃ。こちらはおそらく鯉か鮒かの川魚、もう一方はおそらく沖アミやエビを使っておるのじゃ」
魚醤ペーストと言ったところかや。匂いなぞから判断するに魚やアミを発酵させたものなのじゃ。前世の台湾や東南アジアにこういう調味料があった気もするのじゃが、はっきりせぬのじゃ。
しかしなかなか強烈な匂いでモリエやサーデは三歩ぐらい後ずさっておるのじゃ。
「なにを言ってるのか判らないけど、それほんとに食べ物?」
「食べ物というか調味料なのじゃが、おそらくこれをそのまま焼いただけでも食べられはするのじゃ」
二人はえーっと言う顔をしておるのじゃ。むしろ塩辛の仲間と考えればそのままでもいけるのじゃ。鼻をつまむ必要はありそうなのじゃが。
「西大陸で獣人が使う、と言う話です。この城市に住み着いている獣人も使っているのかも知れませんがそう言う自分たちの文化は外に見せませんからね」
「機会があらば正しい使いかたなぞを聴きたいものなのじゃ。しかしとりあえず自己流で挑戦してみたくあるゆえこれも買い取るのじゃ」
「ええーっ!」
「本気で食べるの?」
「今日は使わぬゆえ安心するのじゃ。実験して見ねばならぬからの」
魚醤と似たようなものであらば強い火力で炒めれば匂いはだいたい飛ぶのじゃ。炒めておる間は相当な匂いが出るのじゃがの。
前世の記憶から料理を再現するのも良いのじゃが、こういう前世で扱うたことのないブツに挑戦するのもなんというか、アガるのじゃ。
わくわく感を出しておるわらわとそれに疑念の目を向けるモリエとサーデはタンクトップおじさんに連れられて今度は厨房を目指すのじゃ。
すぐに使う分のジャガ芋は袋に入れてサーデが持ってくれたのじゃが、他のものは家が建ったら送ってもらう約束で契約を交わしたのじゃ。
「停まって!」
渡り廊下になっておる通路を歩いておると、いきなりモリエが警告の声を上げ、首を巡らして辺りを確かめるのじゃ。
サーデも背中に担いでおった槍を布に包んだままの状態で手に持ったのじゃ。
港湾協会はその業務の幅の広さもあって、広大な敷地に各業務に合わせたいくつもの建物が建ち並びそれを渡り廊下が繋いでおるのじゃ。そして船着き場や修船場、造船所なぞの区画を分かつ塀や壁にも上部に通路が設けられており慣れぬものには迷宮の如き有様、とタンクトップおじさんから今まさに聴いておったところなのじゃ。
「サーデはミチカのそば!」
「わかってる!」
モリエはそうサーデと短く応答し走り出したのじゃ。
「<早足><跳躍>」
祈祷名のみの短縮発動で二つの魔法を発動させたモリエは床を蹴り壁を蹴り屋根を蹴り、渡り廊下の向かいの港側の建物の二階通路へと飛び込んだのじゃ。
「なっ!」
タンクトップおじさんが驚きの叫びを押さえきれんかったのじゃが、わらわも内心で驚きの声を上げたのじゃ。
ニンジャ! ニンジャなのじゃ!
ニンジャアクションを見ることになるとは思っておらんかったのじゃ。
「なんなの!」
そしてその建物の二階からなにやら女の叫びが聞こえたのじゃ。モリエではあらぬのじゃが、何となくごく最近聞き覚えがある声なのじゃ。
「モリエと其方等は大分修行したようじゃの。とそれは良いのじゃ、他に伏兵がおらぬかは警戒しつつ急いで行ってみるのじゃ」
前半はサーデに向けて、そして後はタンクトップおじさんに向けて言うたのじゃ。二人とも頷いたゆえ案内はタンクトップおじさんに任せてわらわ等は警戒しつつついて行くのじゃ。
向こうた先ではなにやら魚介の腐ったような匂いの中モリエが一人の女の腕を後ろに捻り床に抑えつけておるのじゃ。その傍には匂いの元と思われる籠のようなものが転がっておるのじゃが、それを見たタンクトップおじさんが激昂したのじゃ。
「貴様! それでなにをしようとしていた!」
整った顔つきを痛みと憎しみに歪めてこちらを睨む女の顔は受付の女であったのじゃ。
「あの目障りな餓鬼どもをっ」
「それ以上しゃべるのではないのじゃ!」
わらわは危惧を持って遮ったのじゃ。
「あんな連中街にいるだけで街が汚れッ」
「しゃべるなと言うておるのじゃ! ええい、流石にちょっと悪いのじゃ!」
女が更にしゃべろうとしたゆえわらわは見回してモリエともみ合ったときに脱げたらしい女の靴を女の口にねじ込んで黙らせたのじゃ。流石にちょっと悪い気がするのじゃ。
「むぐ、むぐう!」
「其方も迂闊なことを訊こうとするのではないのじゃ」
タンクトップおじさんにも苦言を呈しておくのじゃ。
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