ジーダル等のパーティーにも名前があったのじゃ
こんにちは。
昨日の投稿遅れが〔実行〕ボタンの押し忘れだとか言いにくいですね。
そんなこんなで今日もよろしくお願いします!
ベルゾは考えながら応えたのじゃ。
「はい、形を気にしたことはありませんが幾つかあるはずです。それは修道会の者に配る予定ですか」
「うむ。頼むのじゃ。まあ今おるのは最初の構成員ゆえ大事にしておくのじゃ。次からはいちいち彫らぬのじゃ。暇があるときに作っておくのは構わぬのじゃがの」
カリカリカリ、なのじゃ。これも花杏葉を銅塊から切り出した折りの空間図形を呼び出してサイズを調整して重ねておるゆえはみ出した部分を削っていくだけの作業なのじゃ。
「そうですね。今いる者には配るとして次からは普通に工房で作った徽章を準備します。余分に作っていただけるなら将来的には褒賞として使いましょう」
そう言うとベルゾは台座やピンをつける加工を一緒に頼んでやろうとオルンに言うておるのじゃ。なんだかんだでジーダル等三人組は面倒見がよいのじゃ。
「なあ」
「ん、どうしたのじゃ。ジーダル」
ジーダルがなにか言いさしたゆえカリカリと削りながら聞くのじゃ。
「ああ、あれだ。俺たちには?」
彫っておった魔漿石から目を上げてみると鼻を掻きながらそう言っておるのじゃ。
「……。なんじゃ、其方も欲しかったのかや」
と言うより仲間外れが悲しい寂しんぼなのじゃ。おそらく。
「まあちょっとな」
「しかしの、わらわは其方等のパーティの名前やらを聞いたことがないのじゃ」
雪の椿の名前を聞いたときにふと気になったのじゃが、それっきり忘れておったのじゃ。正直三人組だと名前を呼んだほうが早いのじゃ。
聞いたことがない、と言うわらわの返答に一瞬びっくりした顔をしてジーダルが答えたのじゃ。
「神鎗、だ。そういやこれも神様に関係した名前だな。考えたこともなかったが」
誰も槍なぞ携えておらぬのじゃ、と思ったのじゃがこれは物語詩が出典なのじゃ。
「ジェンクンツの神鎗と言うやつかや? 『オルンと氷の魔竜』の」
「そう、それだ!」
北方諸国群で人気のある英雄譚である『オルンと氷の魔竜』の中に出てくる火山の神の槍なのじゃ。物語の中で主人公のオルンがヤーガトウム山脈の中でも威容を誇るジェンクンツ山の地下深くに赴き火山の神の助力を請うと言う一幕で、神はオルンの恋人のリリエレを質にとり竜を殺す神の槍を持って行くならばリリエレを置いて行けと迫るのじゃ。厳しい試練の道を越えて取りに来た槍を捨ててリリエレの手を取るところは盛り上がる場面なのじゃ。
ちなみに最終決戦では突然火山の神が助勢に来るのじゃが、そこで人が携えておったところで神の鎗の力は発揮できぬ、と言うネタばらしがあってオルンが正解を選んでおったことが語られるのじゃ。
物語の内容を思い出しておったら、なにゆえかベルゾとセイジェさんがなんとも変な顔をしておったのじゃ。
「ええっと、神鎗のままでいいのですね」
「全くねえ」
ジーダルのほうはなにやらきょとんとしておるのじゃが、どうしたのじゃろうかの。
「いや、どうしたんだ? 二人とも」
「はあ。ジーダルあなた、自分がベアが抜けた後一度も神鎗と口に出したことがなかったこと分かってる?」
「ベアルのことなどで変える気があるならD級昇格はいい機会だと思ってましたよ」
二人はぐったりしておるのじゃ。
「いやいや、俺をどんだけ繊細だと思ってやがんだ。残念だったが死に別れたわけでもねえのにそんなに引きずるかよ」
本人的には三人組でパーティ名を言う必要があらぬだけと思っておったようなのじゃが、まあ無意識に避けておった部分もあろうと思うのじゃ。
神経が細いところもあるものなのじゃ。
「なに笑いながら見てんだよ」
「ふふ、愛されておってよいことなのじゃ。と、それは兎も角、ガントに頼みごとなのじゃ」
笑いを収めて作業に戻りながらガントを呼ぶのじゃ。作業しながら話すのはお行儀悪いのじゃがまあ良しとしてもらうのじゃ。
「なんです?」
「神鎗、に相応しい意匠の図案を木札にでも描いてくりゃれ」
そのまま彫るのはよいのじゃが、デザインはデザインセンスがあるものに任せるのが良手なのじゃ。
「確かに杖の彫り物を見れば任せて正解ね。そんなガント君にお願いなんだけど鎗の話に関係ないけど熊を入れることはできないかしら」
セイジェさんがそう言うとジーダルとベルゾも賛同してガントに頼んでおるのじゃ。
「正直槍だけのほうが上向きか下向きかくらいしか無くて難しかったんでいいんだけど、彫る分には面倒が増すかな」
「それは構わぬのじゃ。但し、熊は猛々しいものではのうてかわいい系で頼むのじゃ」
「おい、こら」
ジーダルのツッコミが入るのじゃが、今や料理店の店主である熊さんは猛々しくはあらぬのじゃ。
「い、幾つか描いてみるのでジーダルさんたちとミチカで話して決めたらいいと思うよ」
ガントは責任から逃れたのじゃ。
まあ新しく入った仕事より先に今やっておる作業なのじゃ。
「あ、危なかったのじゃ。しかしまあ何とかなったのじゃ」
「ん? どうしたの」
「いや、この修道会の紋章は花どころか植物であらぬのじゃ」
修道会の紋章は卵の枠に花杏葉と三本線なのじゃ。花杏葉は名前は植物っぽいのじゃが馬具や馬車の飾りなのじゃ。要は花ではあらぬゆえ咲く花の彩りを鮮やかにする祈祷の応用の範囲外だと思われるのじゃ。
「それでの、伎藝の神への祈祷に組み直したのじゃがちょっとばかり魔力を多く注いだゆえ魔漿石が割れるかと思うたのじゃ」
「へえ、これも綺麗だね」
まあ割れておらぬしモリエが褒めておるしオールオッケーなのじゃ。
黄銅のような金属色が着いたのは想定通りなのじゃが魔漿石の輝きが魔力過多で強くなったのが想定外なのじゃがの。
「等級外魔漿石にこんなに魔力を注いでよく割れませんでしたね。あるいは上手に彫ると品質が向上するのでしょうか」
モリエとのやりとりを聞いてやってきたベルゾが眉間に皺を寄せながら輝く紋章を見ておるのじゃ。
「まあ気にするほどのことはあらぬのじゃ。それよりそちらの図案は出来たのかや?」
「これでいいぜ」
ジーダルが指したものは丸い楯に熊の横顔が入っており、楯の後ろに神の鎗と、それに交差するようにジーダルの大剣セイジェさんの細剣ベルゾの杖の意匠が入っておるのじゃ。
「ふむ、ベルゾの得物は兎も角、其方等らしい図案でよいのはないかの」
「そうだな。それでよ」
「わかっておるのじゃ。四つ作ればよいのであろ」
わらわの返答にジーダルは満面の笑顔になったのじゃ。おっさんだと言うのに子どもっぽいところがあるものなのじゃ。いや、むしろ基本子どもっぽいのじゃ。
熊の意匠は少し可愛いのじゃが、熊さん本人の面影がうっすらあるのじゃ。それでジーダルも納得したのであろうの。
ガントの描いた平面の図案を範囲指定の図形に取り込み魔漿石に重ねて彫るのじゃ。これで立体化が済めば二個目からは楽になるのじゃ。
「私に図案を任せなくてもミチカが自分でやって良かったんじゃ」
ガントがわらわの作業の早さに呆れ気味でそう言うのじゃが、根本を間違っておるのじゃ。
「調理や縫製であらば新しいものを作り出せる自負は多少あるのじゃが、こういう工芸では見本と全く同じものを精確に作り出せるだけなのじゃ。ガントは新しい図案を考案する才を誇って良いのじゃ」
「そうだな。俺たちからもガントに礼をしねえとな」
「そうですね。礼を言います。扱いが二転三転して悪いですが雪の椿の分の台座とピンもこっちが仕立ててガントの図案への謝礼としたいですね」
ガントがわたわたしておるのじゃ
しゃべりながらも作業にミスはないのじゃ。今のわらわなら祭りの屋台の型抜きでも全戦全勝が可能なのじゃ、おそらく。
「それでこれは全く好奇心を満たすためのことだったのでしょうか?」
「その比率は高いのじゃが、遊戯の大会の各部門の優勝者や準優勝者への副賞に神像を彫った魔漿石あたりを出せば最悪ただの魔漿石としても価値はあるゆえ悪くはあらぬと思うたのじゃ」
「神殿や修道会の宣伝を兼ねようと言うわけですね。ちょっと副賞として豪華すぎる気はしますが悪くはないと思います」
そういったやりとりをしながら仕上げた神鎗用のカメオは火山の神の槍の彫刻は赤く燃える揺らめきを宿し、楯や武具の彫刻は金色がかった琥珀色となったのじゃ。
「素晴らしい出来ですね。ありがとうございます」
「ありがとうね。ミチカちゃん」
「おう、ありがとよ」
「彫っておってこれは神の鎗と言うより熊の楯ではあらぬかと思ったりもしたのじゃが、喜んでもらえて何よりなのじゃ」
熊の楯で皆笑ったのじゃが、正直な感想なのじゃ。
「この炎の色が魔漿石の中で揺らめいているの、綺麗だわ。そしてミチカちゃんが作った以外ではあり得ないしこれだけで充分神鎗であることが伝わるわよ」
「それならばよいのじゃ。ただ、魔力を引き出すと魔力のきらめきが減ずるだけでのうて色合いも乱れたりすると思うのじゃ。緊急時に使い惜しむべきではあらぬのじゃがそれ以外では大事にしてくりゃれなのじゃ」
「分かったわ」
うむ、こうやって遊戯の試遊会からなぜか彫刻なぞをして今日はお開きなのじゃ。
ベルゾとガントとはまた明日神殿で、なのじゃ。ベルゾは魔力筆を予備があるから、と言うことで貸したままにしてくれたのじゃ。感謝なのじゃ。
そしてモリエはわらわが宿に帰るのに護衛として着いて来るというので泊まっていくよう言うたのじゃ。双子等もついでに着いて来たのじゃ。
今日もまた有意義な一日であった気がするのじゃ。
お読み頂きありがとうございました。
キーワード登録だけで良いらしいのでアーススターノベル大賞にエントリーしてみました。
閲覧数が少しは増えるのかなと思ったのですが増えても心苦しい気がしたり。