ええい、説教がましいのじゃ
こんにちは。
今日もよろしくお願いします。
「とりあえず連中には飯を食わせて体調を戻すことを最優先ってことで今日は休ませてる」
双子等にもローズウッドやマホガニーの区別がついたところでジーダルの部屋に落ち着いたのじゃが、オルンがまずそう報告してきたのじゃ。
倉庫におった子ども等のことなのじゃ。
「ふむ、問題あらぬようなら明日からは港湾協会の仕事に行かせるが良いのじゃ。冒険者協会に連れて行くのも考えたのじゃが、別口を作っておったほうがよいやも知れぬのじゃ」
港湾協会のほうは明日タンクトップおじさんのところに顔を出して話を通しておくとするのじゃ。
なんの話でえ? と言う顔をしておるジーダルに簡単に説明しておくのじゃ。ジーダルも孤児問題に関しては働いておる一員であるのじゃ。情報の共有は大事なのじゃ。
その話の流れで道端で冒険者に襲撃された話も伝えると怒られたのじゃ。
「不用心に過ぎる、なぞと言ったお小言はモリエ、ミルケさん、組合長からも受けておってもうおなか一杯なのじゃ」
「それで今日は最初からモリエちゃんたちが同行してたのね。偉いわ」
モリエと双子等は褒められておってずるいのじゃ。
「其奴等と其奴等を使うておった警邏隊の男は警邏隊に拘束されておるのじゃが、そのことはそう漏れておらぬはずなのじゃ」
「冒険者ならしばらく見かけなくても心配する奴はいないからな」
「相手方には明確な危機感を持たぬまま、また間の抜けた一手を打って欲しいものなのじゃ」
「だからといって自分を餌に釣りをするのはいただけませんね!」
ああ、また説教が始まったのじゃ。うう、かわいいわらわをあまり虐めるのではないのじゃ。
「虐めてるのでも、無茶な要求をしているのでもなく、当たり前のことを注意しているんです!」
まあ心配してくれておることには感謝して、右から左へ聞き流すのじゃ。なにやら皆の視線が痛いのじゃが、まあきっと気のせいなのじゃ。
「住み込みの護衛は本当にいい考えだったな。家が出来る前から付いてくれてるようだが、これからも頼むぞ」
「うん、任せて」
「あたしたちにお任せだよ!」
「いや、サーデとマーセは無茶をしないようにな」
信頼度の違いがあるのじゃ。
「そう言えば二人も自分の部屋を持ちたい年頃のようなのじゃ。ガントが兄として良しというならそうするのじゃが」
「心配ですけど、いいと思います。ちゃんと責任持って自分の部屋の管理は行うんだよな」
「お、おぅ。任せておいて」
「大丈夫。あたしは」
双子等は視線を逸らしながらそう言っておるのじゃ。
そのまま図面を見ながら他の要望も聞くのじゃ。
「ただ、悪いのじゃがオルンはこの部屋で頼むのじゃ。玄関横で二部屋続きの部屋なのじゃが、要は何事かあった折りには控えの間は玄関防衛の詰め所となるのじゃ」
「なるほど。二部屋続きは広い、と思ったがその理由なら納得だ」
「其方が雪の椿のリーダーゆえ、この控えの間は雪の椿の会議室としても使うのじゃ。それを踏まえた卓と椅子を入れるが良いのじゃ」
今は五人で一部屋を使っておると言うのじゃから広い部屋のイメージがあらぬ様子なのじゃ。
「俺の部屋もこの部屋と寝室があるが、こっちは話し合いや遊びに使うからそんなもんだ。ただ、入り口の防衛拠点を兼ねてるって話なら槍と楯、そしてそれぞれの予備の武器あたりも置いておけ」
まあそれが役に立つようじゃ困るんだがよ、とジーダルがアドバイスしておるのじゃ。
モリエと双子等はセイジェさんからのアドバイスを受けておるのじゃ。しかしその三人はまだクローゼットの必要性すら感じておらぬゆえ結構大変なのじゃ。
で、わらわのほうは私室の類ではのうて、立場上一応礼拝室がいるかやと思っておったのじゃがそれにベルゾとガントが興味を持っておるのじゃ。修道会の仕事が面白いのであろうの、と思うとありがたくはあるのじゃ。
ふと思い出したゆえ二人のそれぞれの師匠と会う話を詰めておくのじゃ。ガントの師匠とは明日、剣の日の警邏隊の祈祷治療の後で同道しベルゾの師匠とは明後日の午前にベルゾが宿に迎えにきて同道すると約したのじゃ。
それはそうとしてガントが木工やら木彫やらをするなら倉庫の方に作業場を設えるのじゃが、と話をするのじゃ。モリエも矢作を自室でしたいと言うておったのじゃが材料を持ってあがる手間を考えれば作業場のほうが楽なのじゃ。
礼拝室の神像はとりあえず神殿に閉鎖された小神殿のものがあるというのを借り受けようと思っておるのじゃが、ガントが神像を削り出すことに挑戦するならそれも良いのじゃ。金属の像や陶像が多いとは言え木像もあるし、わらわ的には仏像は木製が多いゆえ馴染みがあるのじゃ。
「手本があるなら彫ってみたくはありますけど、少なくとも最初のほうは個人で祈る用に小さいものからですね」
個人で祈るつもりがあるようなのじゃ。ちょっと感心したのじゃ。
「ふむ。ではわらわの執務机の背後に棚を置いてそこに祀る神像を頼むとするのじゃ」
「えっと、この場合はミチカではなくマーティエ」
ベルゾがマーティエとしてのわらわに用があるようなのじゃ。なんであろうかの。
「修道会本部となってる建物のほうにも総長の執務室が必要でしょう。応接間なども。それらしく使えそうな部屋自体はありますが調度類はありません」
「ふむ、気にしておらんかったのじゃが道理なのじゃ。それはわらわの趣味を介す必要はのうて相応しい重厚な造りのものを入れるよう差配を頼むのじゃ」
今はまだベルゾやガントが直接引っ張ってきたメンバーしかおらぬし客も神殿へ通せばよいのじゃが、いつまでもそうであってはならぬのじゃ。
「予算との兼ね合いもあろうゆえ、先ず礼拝室の調度と客を通す応接室なのじゃ」
予算に余裕はありますが、とベルゾは言うのじゃが余裕の問題ではあらぬことなのじゃ。
「それとは別に総長の聖務室はわらわの私費で整えることとするのじゃ。これは次代以降、総長を受け継ぐものは聖務室に関して前任の調度を変えたいならば私費であがなうべし、と言う先例とするのじゃ」
「そう言う意味ですね。了解しました」
「書類仕事なぞを行うための仕事部屋を整え家具を入れるのは修道会の予算で構わぬのじゃ。長の部屋も実際のところ最初に補助するのは構わぬのじゃが、それで長が変わる度に修道会の予算で調度を総取り替えする、なぞとなるのは遠慮願いたいだけなのじゃ」
更衣室や休憩室、休憩室と勉強するための学習室は分けようと言うことでそれも、と言った福利厚生的な幾つかの部屋の話も聞き承認なのじゃ。
あまりわらわの気の付かぬ範囲ゆえ助かるのじゃ。
正式な祈祷師や祝祷師のスカウトに成功したならばそのもの等には個室を割り振るべきかも知れぬの。まあそれは先の話なのじゃ。
「先の話は良いとしてなのじゃ、細工の話でふと思うたことがあって試したいのじゃ。悪いのじゃが、ベルゾよ。また其方の魔力筆を貸してくれぬじゃろうか」
「構いませんが、試したいこととは?」
ベルゾ以外のものも胡散臭そうにわらわを見ておるのじゃ。いや、可愛いわらわに衆目が集まるのは当然のことゆえ問題あらぬのじゃ。
「今日石屋の職人と話したのじゃが彼等は魔法具を使うて細工をするらしいのじゃ」
まあダイヤモンドをカットできる段階でそうであろうの、と言う話なのじゃ。
「推測するに魔力筆に魔漿石を填め込んで、魔力の圧を増すためのコンデンサ的な魔法陣を入れておるのではあらぬかの、と、そう思うたのじゃ」
「コンデンサ? はよく分かりませんがありそうな話です。で、ミチカの魔力なら魔漿石などがなくても行けるだろうと言うことですね」
ただ、似たようなものにしろペン先ではのうて刃物にはなっておるだろうと言う意見には同意なのじゃ。
「まあ出来たらちょっと便利という程度の思いつきなのじゃ」
ベルゾから魔力筆を借り受けて、わらわはジャラジャラと等級外魔漿石を取り出して矯めつ眇めつするのじゃ。
平たい丸石のような形のものや割れて剥がれたような形の石なぞ球ではのうて薄い形状のものを幾つか選り出したのじゃ。
「油断しました。話の流れから木材に魔力で彫刻するのかと思っていましたよ」
「石屋の話だったから魔漿石のほうが本道ではあるな」
外野がうるさいのじゃ。
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