そして森へ、なのじゃ
いらっしゃいませ。
第二章が始まりますが殆ど移動するだけです。なんと言うことでしょう。
今日も二話更新です(1/2)。
二話目は21時更新予定。
門近くまで来たところで少し道を外れて城壁へと向かう。城市の門は八つの鐘で閉まっておるのじゃ。
城壁を空間範囲指定で円筒型に収納しトンネルを穿とうかと思ったのじゃが、崩れてくる危険性に気づき思いとどまったのじゃ。
少し考えたが結論は簡単、城壁の薄切りなのじゃ。空間範囲指定を用い幅五〇センチほどで城壁を上から下まで収納する。そしてできた城壁の隙間の小道をするりと抜けて、城壁の薄切りを展開して元の場所に戻す。継ぎ目も解らない完璧な戻しっぷりなのじゃ。
構造的にちょびっと弱くなったかも知れぬのじゃが、まあ誰にもわかりはすまい。大丈夫、きっと大丈夫なのじゃ。
ヤーガトウム山脈の麓から続く深く暗い針葉樹の森林に接した城市の外は森の気配に包まれ静かなのじゃ。城市の外に出たのは何気に初めてなのじゃ。
門の方へ歩けば街道なのじゃ。閉門までに城市に辿り着けなかった間抜けはおらぬようで門の前も無人なのじゃ。門の中には歩哨がおるゆえそっと隠れながら移動し、小声で祈祷したのじゃ。
今まで暮らしてきた、産まれた場所ではないやも知れぬがこの世界で故郷と呼べる唯一の場所なのじゃ。この城市に住まうものに幸あれかし。
夜の闇に紛れた城市の影を最後にぐるっと見やり、踵を返したわらわはもう振り返らないのじゃ。
人目がない夜間は街道を行けるのじゃが、昼間で他の者の往来があればわらわのような美少女が一人で街道を歩いておるなど悪目立ちするに違いないのじゃ。いや美少女が、ではなく見習いの歳にも達しておらぬ子どもが一人で、じゃな。間違いなのじゃ。美少女なのは間違いないのじゃが。
街道はしばらくの間森の端か或いは森の中を通っておるゆえ人目を避けるなら森の中を通る選択肢もあるのじゃ。
昼夜逆転して進むか昼間に森の中を進むかなのじゃが、森の方も試してみて考えるしかないのじゃ。と言うわけで夜明け前には森に踏み入って今日寝る塒なぞを設えねばならぬのじゃ。
それにしても<賦活>はすごいのじゃ。結構早足で歩いておるのに全然疲れぬのじゃ。いや疲れておるが気づいておらぬのかも知れぬが仕組みは解らぬのじゃ。この効果がいつ切れるのか、そして切れた後どれくらい爆睡することになるのか、それも確かめねばならぬのじゃ。
そう考えてながら街道を外れ森の中に歩を進めたのじゃ。外周部では低木の繁みや樹木の枝が歩みの邪魔をするのじゃが、森の奥に入ると倒木でもない限り緑の天蓋に遮られ陽光が入ってこぬゆえ、繁みも低い枝もなく歩きやすい、とはいかぬのじゃ。地面は大量の根っこが絡み合っておるゆえでこぼこしており足場は悪いのじゃ。そして木が梳かれておらぬゆえ直進するのもままならぬほど巨木が密に乱立しておるのじゃ。後当然日射しは遮られておるゆえ暗いのじゃ。
最近では造船のために大量の木材が消費されておるはずなのじゃが、かつて帝国の完全な支配を阻んだ一因である昼なお暗い森林地帯の面目躍如なのじゃ。
邪魔な樹木を一本収納してみたところ、北方檜(1)となったのじゃ。根っこまで収納されておるが、その根が張っておった部分は置換機能で土に置き換わっておるようで歩く分には邪魔にならぬのじゃ。
ちなみに、一応『森』を取得してみようとしたのじゃがレベルが足りない表示だったのじゃ。どれくらいレベルが必要なのじゃろうな。
なんにせよ、収納していくことである程度直進できるようになったのじゃ。あまり収納しすぎると環境が変わる気がしたので少しは戻しながら行くのじゃ、と思ったのじゃが戻そうとした最初の一本は根っこつきの北方檜が地面に出るやそのまま倒れ、巻き込まれた他の木も倒れる惨事になったのじゃ。びっくりしたのじゃ。
これは根っこ部分が土と置換されるイメージを持って地面に展開せねばならんかったのじゃ。一度コツを掴めば指定してポンなのじゃが。
さてコツを掴んだところで今日寝る場所の設営なのじゃ。
そう考えてサクサクと北方檜を収納し小さな広場くらいの広さを確保したのじゃ。
街道から逸れてここまでくる者もおるまいと思うのじゃが、今のところ出会っておらぬ魔物対策も含めてお次は壁なのじゃ。
第一の壁としてコツを掴んだ北方檜の移植作業なのじゃ。移動中に収納したものも含めて周囲に植樹していく。無論、人も獣も通れぬくらいの密度でなのじゃ。わらわも出られぬがわらわは収納すればよいのじゃ。
上の方も垂れ下がった枝同士がぶつかって重なり濃緑の壁となっておるのじゃ。
なかなかの出来なのじゃがこれは下準備と言うか目隠しなのじゃ。
収納されておる『ゴドノローア卿の屋敷』から石塀をちょうど良い長さで分離して取り出し、北方檜の壁の内側に四枚の石積みの塀を立てて長方形に囲む。これをこの形を認識しながら取得して改めて取り出すと継ぎ目のないきれいな塀になったのじゃ。便利便利なのじゃ。
引き払うとき周りの北方檜の壁ごと持って行くと手間がかからず便利かも知れぬのじゃ。いや、謎の広場が生まれることになるのじゃ。要再考なのじゃ。
そして二重の壁に囲まれた広場に三階建ての店舗っぽい建物を展開したのじゃ。く、く、工藤とかそんな感じのチンピラたちの根城だった奴なのじゃ。フォルデンやゴドノローア卿は収納されておる建物に名前があるので判るのじゃ、ではなく大きすぎて展開するにはもっと広い面積が必要なのじゃ。
正直、汚そうでそこは問題なのじゃが、それは掃除するしかないのじゃ。そのとき<洗浄>が使えると楽な上に完璧なのじゃ。
広場を作ったゆえ日が射し、大凡の時刻も判るのじゃ。まだ昼前なのじゃ。灯りが要らぬ今のうちにマーリィから貰った餞別を読んで<洗浄>他生活魔法を使えるようになるのじゃ。
フォルデン商会から机と椅子を分離して展開するのじゃ。ゴドノローアの方の家具は確かめておらぬがきっと豪華すぎて逆に使いにくいのじゃ。無論偏見なのじゃ。
建物の中ではなく日の光の当たる表に設置なのじゃ。うむ、座り心地はよいのう。木の箱やただの板にしか座ったことのないアーネではなく三千香の記憶もあるわらわの水準で合格点なのじゃ。
机と椅子を出したついでに確認すると厨房に食材はあるようなのじゃが、とりあえず平焼きパンがあったゆえ今はお行儀悪くパンを齧りながら木札を読むのじゃ。
そう言えば食材に関しては前世とこの世界の植生がまずは似通っておるので助かっておるのじゃ。時間軸の途中で分岐した平行世界のようなものなのかも知れぬのう。いやそれでもちょっとした条件の違いで見慣れた植物が見あたらぬ世界になっておっても不思議ではないのじゃ。まあ運が良かったと思っておくのじゃ。
なにゆえこんなことを思ったかというとじゃな、森の中を移動しておる間山菜や木の実は見当たらなんだが茸は見かけたのじゃ。しかし、茸は見たことがあるものと似ていてもダメなのじゃ。似ているだけに無念なのじゃ。うむ、無念なのじゃ。
パンを齧りながらそう言うことを考えたが、茸のことはおいておいて生活魔法に集中するのじゃ。
生活魔法の祭文は神への祈祷の時に使う祭文とほぼ同じなので覚えるのはなんと言うことはないのじゃ。その祭文の文節と魔法陣のパーツが対応しておって祭文を唱えると文節ごとに魔力が流れパーツが組み上がって最終的に魔法が発動する、と言う構造らしいのじゃ。まあやってみるのじゃ。
もうちょっと精進したいです。
頑張ります。