なでなでなのじゃ
こんにちは。
今日もよろしくお願いします。
「えーっと、その宝石類をお貸しいただきたいと言う話になりました。宝飾職人の匠合、これは幾つかの職人匠合の連合なんですが、そこに預けて見本として管理して貰うのがよいのではないかと。うちの組合長とそこの匠合長を交えた会合が必要ですが」
「その匠合に買うてもろうても良いのじゃが」
レンタル料を取るくらいならあがなってもろうたほうが面倒が少ないのじゃ。説明するミルケさんにそう言うたのじゃがどうやら微妙なのじゃ。
「匠合の資産では買えないかも知れません。しかしミチカさんが買い取りを求めるなら組合で購入して貸し出す形にできるか組合長に上げておきますね」
ミルケさんには珍しくぐったりとした様子なのじゃ。
しかし、わらわの多くの職人が見本に出来るよう、と言う考えを拾った上で実現するには匠合の資金力でその教育費を一括では出せないと判断したのじゃな。ありがたくも済まぬことなのじゃ。
「ミチカさん、なぜ私の頭を?」
なでなで、なのじゃ。
「わらわの言うた無茶をどうにか通そうと努力してくれたのであろ。感謝するのじゃ。その感謝のなでなでなのじゃ」
「うふふ。ありがとうございます。でも大丈夫ですよ、お仕事ですから!」
うむ、ミルケさんが復活したのじゃ。なでなでパワーという奴なのじゃ。これに勝るパワーソースはもふもふパワーくらいのものなのじゃ。
「で、ですね。今の話にその星彩のサファイアは含まれておりません。どうやっても払えませんので」
「うむ、稀少なものであることはよう判ったのじゃ。商業組合に使いどころがあるのじゃったら売ることは構わぬと伝えておくと良いのじゃ」
まあこれを出したのはわらわのミスなのじゃ。そこまで稀少とはの。
「星の光の出しかたは口外法度でお願いしました。もし、その加工が出来る原石を入手して加工に成功したらその利益から技術料を支払っていただく約束を契約書にしますので署名していただきますね」
「ふむそう言うことになったのじゃな。納得したのじゃ」
ざっくりと話を聞き、署名押印を今出来るものは済ませたのじゃ。多くはその匠合と組合長の会合の結果を待つ必要があるゆえ大したことはあらぬのじゃ。
そしてわらわが職人に注文した内容を店主が確かめて見積もりを出してもろうたりと言った細々としたやりとりが終わってこれで本当に発注終了なのじゃ。
使うてもらう小粒のダイヤモンドは数を控えて職人に渡してあるのじゃが、それ以外の宝石は一旦商業組合預かりと言うことでミルケさんが持つのじゃ。流石のミルケさんもちょっと緊張気味なのじゃ。
「この後一度商業組合に寄って貰って良いですか。この宝石類と報告書を組合長に渡して身軽になりたいです」
石屋一行が挨拶をして辞去した後ミルケさんがそう言うたのじゃ。持ち歩きたい金額の品物にあらぬと言うことなのじゃ。
「うむ、判ったのじゃ。どうせこの後はジーダルの宿で遊戯を試す予定のみなのじゃ」
「あ、夕食は適当に摘まめるものを準備して遊びながら食べれるようにするって言ってたわ」
ミルケさんの採寸も残ってはおるのじゃが、もうまったり気味に今後の予定を話す程度ゆるい空気になったのじゃ。そんなゆるい雰囲気のまま縫製室へ戻るのじゃ。
「ミチカ。またなにかやらかした?」
縫製室に戻ったわらわに対するモリエの第一声がこれなのじゃ。一体わらわはどう思われておるのであろうかの、少し気になるところなのじゃ。
「べ、別に大したことはしておらぬのじゃ」
「ミチカは楽しかったんだろうなって判る、つやつやした顔をしてる。けど、他の人はみんな少しげっそりしてる」
なんと! まったりしたゆるい感じで戻ってきたつもりなのはわらわだけであったのかえ。ちょっと傷つくのじゃ!
「いえ、驚きと刺激に満ちた経験があることがミチカさんと行動を共にする醍醐味ですから」
「それはフォローではないのじゃ」
そんなやりとりをしつつミルケさんを採寸へ送り出し、エッツェさんの衣裳の型紙におかしな所があらぬか確認してやったりと縫製室での残務処理なのじゃ。
「と言うわけでなのじゃ、商業組合に寄った後はジーダル等の宿なのじゃが遊びながら摘まめるものを準備しておると言う話なのじゃ。わらわ等もなにぞ差し入れを屋台で買って行くほうが良いかの」
「宿の厨房に注文してるんならいらないんじゃないかな。珍しいものとかなら別だけど」
確かに宿の厨房から持ってきてもらうのであらば追加も含めて気にするほどのことはあらぬのじゃ。しかしまあ熊さんの店で量産した菓子類は出しておこうかの。
「珍しいと言えばミチカの料理だね」
「ミチカちゃんの料理なら珍しいよね」
「こら! 無理を言わないっ」
双子等がモリエに叱られておるのじゃが、えーっ、だってーと言っておるのじゃ。まあ調理するのは構わぬのじゃが厨房があらぬからの。
「ごめん。昨日のカレーが私的に衝撃すぎてちょっと語りすぎたみたい」
「なるほどなのじゃ。しかし調理する厨房があらぬのじゃ。熊さんの所で作った菓子の残りくらいは出すゆえそれで納得するが良いのじゃ」
カレー粉自体は昨日作って使わなかった分の過半は見本として調合師錬金術師匠合に置いてきたのじゃが、わらわが手元に残した分もあるのじゃ。これは実際にはアリバイ作りなのじゃ。
材料となる香辛料をこっそり収納しておるゆえ収納空間内で簡単に生産できるのじゃ。まあ収納したものと同じ配合のものだけなのじゃがの。
熊さんの所で作った菓子類も同様なのじゃ。
ただ、無制限に出しておるとおかしく思われるゆえ菓子工房やカレー粉の調合師による生産販売は必要なのじゃ。これらとわらわの立てる予定の家の厨房とがあれば、わらわの収納空間から生み出されるものもそう言ったところからの納品分であろうあるいは厨房で作ったものであろうと勝手に誤解してくれるようになるはずなのじゃ。
「うー、仕方ないなあ」
「今度絶対食べさせてね! モリエが話すのがすっごい美味しそうだったんだ!」
こう求められて悪い気はせぬのじゃ。まあ家を建てた折りには関係各位を招いて宴をせねばならぬような気もしておるゆえ機会はいくらでもあるのじゃ。第一、一緒に住む予定なのじゃしの。
わらわはそう納得を得たのじゃが、思いがけぬ提案がエッツェさんから飛んできたのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。