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のじゃのじゃ転生譚 ~のじゃ語尾チート少女のあんまり冒険しない冒険者生活  作者: 七井
仮縫いに行ったり遊戯に興じたりするのじゃのじゃ少女
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ペアシェイプドとは洋梨型、ドロップとも呼ばれるのじゃ

こんにちは。

今日もよろしくおねがいします。

 とりあえず茶を喫して心を落ち着けるのじゃ。

 うむ、ちょっと冷めておるのじゃ。

「まあ、淹れ直してまいりますね」

 流石マードは落ち着いておるのじゃ。しかし、女店主が小声で「お義母さまずるい」と言っておるゆえ逃げたのやも知れんの。それはそれで流石マードなのじゃ。

「そ、それで今の星の光を出す話とこちらの宝石のカットの話なんですが」

 ミルケさんが話をまとめてくれるようなのじゃが、ブリリアントカットやらはそう大したことにはあらぬのじゃがの。

「いやさ、その話一つ確認しておきたいのじゃ」

「なんでしょう」

 ミルケさんの話を遮ると小首を傾げたのじゃ。


「うむ、こうやって見本となるものを見せれば同じようにカットできぬのかの。出来得ると思うたゆえ見せたのじゃが」

「やる! やってみせる! だからやらせてくれ!」

 職人がそう吼えたのじゃ。そしてセイジェさんの指が職人の額に当てられたのじゃ。

「少しは懲りなさい」

 職人がつかみかからんばかりの勢いでわらわに向かってくるのを阻止したのじゃな。先ほどは伸ばした手を捕まえたのじゃが、今回は動きの起こりを捉えて出を押さえたのじゃ。

 懲りろ、と言うセイジェさんの口調にも少しばかり満足げな雰囲気があるのじゃ。もしかしたら先ほどのアームロックは素人相手に卓上を騒がせたことで不満があったのかも知れぬの。

「あ、ああ。すまない。つい興奮して」

 職人も流石にちょっとクールダウンなのじゃ。


「やれるのであらば、次はこの見本がなくともその職人がカットしたものを見本に出来るようになるのじゃ。そう考えるならなのじゃ、カットした宝石という以上の価値はあらぬように思うのじゃ」

 スター効果についてもざっくりとではあるのじゃが説明してしもうておるのじゃ。

「いえ、難しいかと。本人はやれると申してはおりますが」

 石屋の店主のほうが額の汗を拭きつつそう言うたのじゃ。

「やり遂げてみせるかも知れませんが、それはこの男がこの城市で一二を争う腕前を誇る職人だからです。そしてそれはこの国で一二を争う技量だと言うことです」

 その技前でも難しいと言うておるのじゃが、職人はまた黙ってムスッとしておるのじゃ。店主の見立てがおおよそ正しいということじゃの。


 しかし、王都も数多くの職人を抱える都会であろうにようそれだけの自信を持っておることなのじゃ。

「魔漿石を扱うことに関してはダンジョンがある城市や王都の職人に遅れを取るでしょうけど、その分普通の宝石に関してはマインキョルトの職人の技量は高いんですよ」

「ふむ、マインキョルトの宝石加工職人の技量は高く、しかしそれでも簡単にはあらぬ。そう言うことなのじゃの。状況は理解できたのじゃ」

 皆の驚きの程度が大きすぎて測りかねておったのじゃ。

「とりあえずわらわの希望としては現物を見て学べる、と思うておるゆえ多くの職人が学ぶ機会があるようにして欲しいのじゃ。されど、余り気にせずミルケさんがこの街の職人や産業にとって良い形となったと思えるよう調整してたもれ、なのじゃ」

 うむ、適材適所。ミルケさんが頑張ればよいのじゃ。


「ま、丸投げですか」

「人聞きの悪いことを言うのじゃ。わらわは元々の懸案についてちゃんと話し合わねばならぬのじゃ」

 そう言うたままペアシェイプドブリリアントカットの石を取り上げてセイジェさんのクラヴァットの上に当てたのじゃ。

「こういう形の宝石のブローチでクラヴァットを留めようと思っておるのじゃ。色は赤系の石がよかろうの」

 ミルケさんは諦めて石屋の店主と話を始め、職人はふんふん言いながら木札にメモを取っておるのじゃ。

「土台は金だな。銀でも良いがその服、これから刺繍が入るんだろ」

 こう言った仕様に関するやりとりは本来店主と交わすものなのじゃが、店主はなにやらミルケさんと深刻な顔で話し合っておるのじゃ。しかし言葉遣いが雑であっても職人と直に話すほうが行き違いが減るゆえ良いことなのじゃ。


「其方の言う通り金で良いのじゃ。金の細工も其方がするのかは知らぬのじゃが、その細工にこう言った小さい石も使って欲しいのじゃ」

 わらわはそう言うてまた別のサテンの袋を開けカットされた小さいダイヤモンドを出したのじゃ。空間図形でカットして切り出すときに生まれた小片をさらにカットして整えたものなのじゃ。

 指輪なぞでメインの石の周りに配されておったりする小さい石的な小ささで、求めるのも同様の役割なのじゃ。

「これは……。よくこんな小さいものをカットできているな。ううむ」

 職人はそっと指でつまみ上げて検分しておるのじゃ。

「難しいならば小さいものは数があるゆえその現物を使ってもらって良いのじゃ」

 わらわとしては端材に近く、カットも切り出すための空間図形を拡大縮小機能で小さく調整すれば済むだけのものゆえ使い惜しむ必要はあらぬのじゃ。


「これは専用の工具を新しく作る必要があらあ。小さい石を固定する土台も工夫が必要か。まああれだ、時間がかかる。逆に時間をもらえるならやってみせるが今回はそれを使わせてもらうのが現実的だな」

 商品の受注となると案外空気が読めるのじゃな。ちょっと感心したのじゃ。

「小さい金剛石で周囲を飾るってのはすげえ考えだ。周りの幅は狭くして石を大きく見せようかと思ってたがそれならむしろ広くするのもありだな」

 そう言いながら木札にデザイン案をさらさらっとデッサンして見せてくるのじゃ。

「それならばいっそ小指の爪程度の別の宝石をこう配置するのもありなのじゃ」

 そのデザイン画に修正を入れて、さらに職人がそれをブラッシュアップすることを繰り返し、飾り釦なぞの小物についての話も満足いく形で決着したのじゃ。


「はっ。熱中しすぎたのじゃ」

「どうかしたのかしら」

 うむ、心配してくれるセイジェさんに謝っておくのじゃ。

「いやさ、興が乗ってわらわは楽しかったのじゃが、身につけるのはセイジェさんなのじゃ。注文や希望は今なら容れれるゆえ言うのじゃ」

「んー、ミチカちゃんにお任せで大丈夫よ」

 そう言うてわらわの頭を撫でるのじゃが、顔は少々引き気味なのじゃ。要反省、と心に刻んでおくのじゃ。

「では次にこれはセイジェさんの好みでやらねばならぬことがあるのじゃ」

「なにかしら」

「金銀の細工をすると言うことはなのじゃ、元々は王侯の武具の拵えや馬具の飾りを造ると言うことなのじゃ」

「ああ、剣の拵えや鎧の飾りもやるぞ。剣や鎧自体は作らんが」


「セイジェさんに剣の拵えに飾りを入れることへの忌避感があらぬのであらば装飾を凝らした細剣を剣帯で吊しても似合うと思うのじゃ」

 セイジェさんは町中で会うときには布の大きな鞄を肩から提げておるのじゃが、あれは剣を中に入れて持ち歩いておるのじゃ。

 華美なジュストコールを着込んで鞄を肩掛けなぞちょっと興ざめなのじゃ。セイジェさんもそれを想像したようなのじゃ。

「出来るならありがたいけど、そう言うものなの?」

「無論場によって持ち込めるか否かは分かれようなのじゃ。しかし騎士の儀仗として通じるだけの体裁が整っておるなら許される場のほうが多かろうの」

 わらわがそう言うと茶を淹れて戻ってきたマードも口を挟んだのじゃ。

「剣帯は飾り帯にも使えるように作りましょうかね。少し印象を変えられるように何本かあったほうがいいですよね」

 良い提案なのじゃ。


 細剣を入れたセイジェさんの鞄も持ってきてもらうと皆で考えを合わせるのじゃ。

 元々の拵えも上級の冒険者の佩剣だけあって上質なものであったゆえ鞘からの作り直しは不要で銀の細工を入れていくことになったのじゃ。

 柄のほうは宝石を入れた飾りをつけ、柄に巻く紐糸を艶のある絹に変えることになったのじゃ。これはちゃんとセイジェさんの意見も聞いたのじゃ。

 更には職人からの提案で短剣に金細工の装飾的な鞘をつけて提げることとなったのじゃ。職人のデッサンで見ると確かに飾りとしてみられそうなのじゃ。貴族の護衛用に似たものを作ったことがあるという実績の上での提案であったゆえ問題はあらぬのじゃ。

 ちなみに鞘とは言うたのじゃが実際には鞘の外側に取り付ける鞘カバーとでも言うべきものなのじゃ。


 わらわは元々の予定通りセイジェさんのジュストコール周りの宝飾品類の発注を行い大満足なのじゃ。

 セイジェさん、発注先の職人さん、アドヴァイザーのマード、皆満足げにしておるのじゃ。

 そのわらわ等に比べていささかならず草臥れた雰囲気でミルケさん、石屋の店主、巻き込まれた仕立屋の女店主の話し合いも終わったようなのじゃ。ご苦労様なのじゃ。

お読みいただきありがとうございました。

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