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のじゃのじゃ転生譚 ~のじゃ語尾チート少女のあんまり冒険しない冒険者生活  作者: 七井
仮縫いに行ったり遊戯に興じたりするのじゃのじゃ少女
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宝石の話は女の子の基礎教養なのじゃ

こんにちは。

当作品はアニメ「世話やきキツネの仙狐さん」を応援しております。

のじゃかわいい。

 石屋の人は恰幅のいい商人然としたおじさんと職人らしい気むずかしげな若い男、そして丁稚風の小者の三人連れでこちらと合わせるとちょっとばかり応接室が狭く感じられるのじゃ。

 おじさんの長々とした挨拶でやはり店主と職人頭であることが判ったのじゃ。若く見えるが一番の腕、と職人頭のことを紹介してくれたのじゃが若い見た目で軽く見られる可能性があっても腕が一番いいのを連れて来ると言う姿勢は評価できるのじゃ。

 まあこの仕立屋さんとの信頼関係というものなのであろうがの。


「うーむ、北方諸国群では良い見本、と言うものを見る機会自体が少ないのやも知れぬのじゃ」

 内心良い評価を与えておったゆえ期待して持ってきた見本となる商品を見たのじゃが、有り体に言うてデザインがなっておらぬ、技量を見る以前の問題なのじゃ。

 土台である金細工や銀細工は精緻で美しい出来ゆえ尚惜しいのじゃ。

 とは言え思い返せばイセンキョーで入手した貴族の館や商会の建物にあった宝石類も大したカッティングは為されておらなんだのじゃ。

 そうじゃ、そのとき手遊てすさびに収納空間の空間指定の練習がてらカットしなおしたものが収納空間に放り込んだままになっておるのじゃ。ブリリアントカットを図面に描いて説明するのは面倒なことなのじゃ、と思っておったが実物があれば話が早いのじゃ。


「ミルケさん、わらわの鞄を頼むのじゃ」

「はい、どうしました?」

 そう応えて預かってもらっておった鞄を渡してくれるミルケさんの後でセイジェさんがしまったという顔を一瞬したのが見えたのじゃ。他に人がおるゆえ一瞬でその表情は消したのじゃが、うむ、鞄の秘密となっておる収納についてなのじゃ。相変わらずこの小娘は考えなしなのじゃ。わらわのことなのじゃ。

 発した言葉を戻すことは時巡りの神を泣くまで殴る以外では能わぬゆえ諦めるのじゃ。

「うむ、つまりは見る機会があらば出来るかも知れぬのじゃ。この石では技前を測ることも出来ぬゆえ断言できぬのじゃが」

 石を見た折り失望の色が出てしまっておったのか、わらわの表情を見てムスッとしておった職人の顔が今度は怒色に赤くなったのじゃ。そのあたりも職人らしゅうてわらわ的には悪くは思わぬのじゃ。


 収納空間内では傷つくことがあり得ぬゆえ金や銀の宝飾品類と一緒に小物フォルダにむき身で投げ込んであるのじゃが、この場では袋か箱に入っておるべきなのじゃ。うむ、サテンで作った小物入れの袋があるのじゃ。

 サテンの布地や絹糸、綿の紐と言った素材も縫い針も収納空間内にあるゆえ収納空間の複製機能が使えるのじゃ。袋を複製で作ってそのまま鞄の中に展開、その袋の中にカットした宝石を大きさに合わせて一、二個から少しジャラジャラ目にと展開して入れる、と言う作業を鞄から取り出すように見える速度で行うのじゃ。

 うむ、我ながら流れるような見事な能力行使なのじゃ。この見事さが己にしか判らぬのは残念なのじゃが仕方あらぬの、内心での自画自賛のみに留めておくとするのじゃ。


「ッ!」

「!!」

 わらわがサテンの袋からカットされた宝石を取り出すと皆が息を飲むのが判ったのじゃ。

 ムッとしておった職人は卓にぶつからんばかりの前のめりとなり見開いた目で石を見ておるのじゃ。少し怖いレベルなのじゃが、きっと仕方あらぬのじゃ。

 手遊てすさびに、と言おうか空間範囲指定の練習にカットしたのじゃが宝石のカットは幾何学的に美しいゆえ逆に簡単じゃったのじゃ。

 小さな切子面ファセットの組み合わせは手作業であれば大変だと思うのじゃがの。

 と言うわけでラウンド、オーバル、ペアシェイプなぞのブリリアントカットが施された宝石を取り出して並べていくのじゃ。ガードルより下の側面や下面にもカットは入れておるのじゃが余り背が高くなると使い道が限定されるゆえ程々にしてあるのじゃ。

 ちなみにエメラルドだけはそのものずばりエメラルドカットとも呼ばれる八角形のステップカットにしてみておるのじゃ。

 バリオンカットやプリンセスカットのようなミックスカットはやっておらなんだのじゃ。こうやって見本にする予定なぞなかったからの。職人を信じて後で説明だけはしておくのじゃ。


「ま、本職の石屋に説明するまでもなかろうと思うのじゃがこう言った切子面ファセットで構成されたファセットカットは透明度や輝きに優れた宝石に向いておるのじゃ」

 皆頷くのじゃが、卓に齧り付くように首を伸ばしておる職人も頷いた結果ゴンゴンと顎を卓にぶつける音がしたのじゃ。

 苦笑しつつ半球状に磨いた、のではなくわらわの場合は収納空間で半球状に切り出しておるのじゃが、まあそのカボションカットの石もサテンの小袋から出すのじゃ。まあまあ大きなスターサファイアとブラックオパール、そして翡翠なのじゃ。

「こちらは其方が出してきたものとそう変わらぬのじゃ。半透明のものや星彩や猫目、そして遊色と言うた光の効果が入っておるものを活かす場合にはこちらであるのじゃ」

 カボションカットのものはそう違いはないと思うのじゃがそれでも舐めるように見ておるのじゃ。あるいはスター効果の入ったサファイアが珍しいのやも知れぬの。思い返せばこの石もスター効果が入っておるように見えるのにちゃんとスターが出ておらぬゆえカットしなおした気がするのじゃ。


「うむ、ミルケさん。こう言う星彩効果を出した石はこのあたりでは珍しいのじゃろうかの?」

「……」

 見るとミルケさんも白い顔で固まっておったのじゃ。

「ミルケさん?」

「ああ、はいっ。えっとですね、星の光が入った宝石を所持していると言う貴族の話は幾つか聴いたことがあります。王侯への献上品の品目に星の名の入った宝石や宝飾があったりもしますから絶無ではないと思います」

 すごい早口でそう吐き出した後、ミルケさんは息を吸い込んだのじゃ。

「けどこんな風にはっきりと光が走ってるなんて思わないじゃないですか! これってサファイアで魔漿石じゃないですよね!」

 おおう、また一気に吐き出したのじゃ。いかんの、ちょっと良すぎるものだったようなのじゃ。彼奴は、そうゴドノローア卿と言う名前だったのじゃ。彼奴は中央の国との繋がりを持つ高位貴族であったゆえその秘蔵の逸品であらば確かに大したものである可能性はあったのじゃ。

 しかもそれをちゃんとスター効果が出るようにカットしなおしておるのじゃ。いや、宝石の魅力をちゃんと出るようにカットしなおしたことは善行なのじゃ、わらわは悪くあらぬのじゃ。


 石屋一行も混乱状態なのじゃ。

「わ、儂も話半分。大袈裟な表現だとばかり思っていたんだが」

「これは石が稀少なのか、いやそれだけじゃなくてこの光の効果を出すためにこのカットにしたと言ってたな。一体どうなっ」

 わらわに飛びかからんばかりに詰め寄ろうとした職人がセイジェさんにインターセプトされ、腕を極められた状態で卓上に押しつけられたのじゃ。流石は熟練冒険者であるのじゃ。わらわに手を伸ばした瞬間に動き出し、わらわに手が届くより先に掴んで捻ったのじゃ。見事の一言なのじゃ。

「えっ、あ。すまん、興奮してしまって」

 余りに見事すぎて職人は自分になにが起こったのか一瞬判っておらなんだのじゃ。

「落ち着いたのであらば放してやっても良いのじゃ」

 視線を向けられたゆえそう応えておくのじゃ。

「まあお気持ちは判ります」

 職人の混乱に一定の理解を示すミルケさんなのじゃが、ミルケさんはあの一瞬の出来事に際しすっと卓上の宝石を動かし飛び散らぬようにしておったのじゃ。ミルケさんも興奮しておったはずなのじゃがの。


「わらわも宝石のことはさして詳しくあらぬのじゃが、判る範囲で教えて進ぜるのじゃ」

 このままでは話が進まぬゆえ、わらわに判る範囲程度なのじゃが教えておくのじゃ。一般教養程度なのじゃがの。

 宝石の中に混じっておる結晶、サファイアであれば金紅石ルチルじゃの、これが複数方向に平行に並んだ針状結晶になっておること。これが石の側の条件なのじゃ。

 底面がこの結晶の伸びる方向と平行であるようにカットするとじゃ、カボジョンカットの上面がレンズとなるのじゃ。そしてレンズの効果で石に入った光がルチルに反射して焦点を結ぶと光の筋が星を為す、と言うことなのじゃ。綺麗に星を出すにはある程度経験を踏む必要もあろうの。

「二方向のルチルが交差しておると四条の光の筋の星に、三方向であらば六条なのじゃ。このサファイアがそうじゃの」


「あんたが詳しくないなら、俺たちは一体何なんだ」

 職人がうめくように言うたのじゃ。

 いや、女の子の基礎教養レベルの宝石のお話なのじゃ。うむ。

お読みいただきありがとうございました。

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