セイジェさんの試着なのじゃ
こんにちは。
リアルでちょっと嫌なことがありぐったり気味です。ネガティヴな感情を創作に転化できないほう(逆にいいことがあればポジポジで筆が進むのですが)なのでちょっと辛いです。
ぐったり。
「脚のほうはキュロットとスカートの両方を準備してもらっておるのじゃが先ずはキュロットからなのじゃ」
「冒険者くらいしか男みたいなパンツは履かないけど、冒険者だから問題ないわね」
「むしろ最も女の子らしい可愛らしさがあるのがこのキュロット部分なのじゃ」
本当に宝塚風であらばぴっちりとしたタイツで脚の線を出すべきなのじゃがおそらくここでは破廉恥なのじゃ。まあ双子等のロングソックス部分は子どもゆえ許せ、と言う気持ちでぴったりしておるのじゃがの。
兎も角、それでふんわりと広がったももの部分が膝でまとまる、膨らんだ形の膝丈キュロットなのじゃ。その形を整えるためにリボンをつけて結んでおるゆえ可愛さ増量なのじゃ。
「膝から下の靴下は無地の絹でこの上から靴を履くのじゃがセイジェさんならば膝までの革長靴でも良いのじゃ」
「格好いいなら革の長靴ですね。金属の飾り金具もつけて」
「布の可愛らしい靴も合うと思いますよ」
「ど、どっちがいいのかな」
「どちらも、で良いのじゃ。気分や出る場所で選べばよいしスカートとの選択もあるのじゃ」
女店主が頷いておるのじゃ。
「靴はまだ出来て来ておりませんが発注は両方でしてますし。あ、先ほどの法服用の靴は靴屋の製ではなくて義母たちが縫ったものなのです」
なるほどなのじゃ。そう言えば靴屋を呼んで採寸したのであったのじゃ。衣裳の出来上がりの時には靴も同時に受け取りなのじゃな。
「とりあえず今日履いてきた靴を履いて立つのじゃ。だれぞクラヴァットを巻いてやるのじゃ」
「はい!」
そう言うとお針子の一人がクラヴァットを首に巻き始めたのじゃ。何となく頬を赤らめておってゆりゆりしいのじゃ。
まあ宝塚風と銘打っておるゆえ正しい反応と言えるのじゃ。
「ちょっと視線が集まってて恥ずかしいんだけど」
「飾り帯や飾り紐をどうするか考察するゆえ大人しく見られておるが良いのじゃ」
恥ずかしそうに身をよじると無駄にエロくなるゆえ止めたほうが良いのじゃ。そんなセイジェさんの苦情を制して女店長やお姑さんマードと話し合うのじゃ。
マードは一歩引いた立ち位置で見ておったのじゃが、法服の付属品の類を見て判るように帯などの飾りへの造詣が深いと女店主が呼んだのじゃ。姑を立てる嫁の鑑なのじゃ。いや、実力をきちんと評価しておると言うべきかの。
仮の帯などを掛けてバランスを見た後、ついにジュストコールを着てもらうのじゃ。
ジュストコールは膝まである丈の長さに裾広がりで華やかなのじゃ。前を開けてジレが見えるように、と言うよりも最初から閉じれぬようになっておるのじゃ。釦や紐は着けるのじゃがどこまでも装飾用途なのじゃ。
ギルマスの着ておったジュストコールっぽい上衣はまっすぐであったのじゃが、このわらわデザインでは腰のあたりから裾へ向けて広がっておるのじゃ。キュロットの膨らみはこのデザインを活かすためでもあるわけなのじゃ。
「先ほどまででも素晴らしい天鵞絨だと思いましたが上衣まで着込むと圧巻ですわね」
「これにしっかりと刺繍を刺してもらうゆえもっとなのじゃ」
布への理解が深い店主嫁姑やお針子たちは嘆息なのじゃ。伊達に貴族の館の収蔵品ではないのじゃ。
「すごいピカピカだね」
「うむ、光沢がよいのと手触りの柔らかさが特徴なのじゃ」
布の価値を知らぬ双子等は気楽なものなのじゃ。
「えー、触っていい?」
「汚すでないぞよ」
「本当にいい布ね。どれくらい良いのかは私も判らないんだけど」
セイジェさんも自分の着ておる衣裳を触ってみておるのじゃ。セイジェさんの疑問に関してはわらわはそっと目を逸らすのみなのじゃ。
「さて、細かなところの修正はお任せするのじゃが大きな問題はあらぬようじゃの。見事なものなのじゃ」
「こちらこそ優美な線の出しかたなどを学ばせていただきましたわ。刺繍と本縫いを精真勤めさせていただきます」
「一仕事終わったようになっておるがセイジェさんの分が半分終わっただけなのじゃ」
「あら、失礼しましたわ」
そう言うて皆で笑いあったのじゃ。本当に一仕事終えた趣なのじゃ。
「スカートのほうも合わせねばの。それとあとは装飾品なのじゃ」
「そうですわね。ブラウスの袖のピンとクラヴァットピンを合わせて、と思っていましたがクラヴァットピンはかなり強くないと上衣の刺繍に負けますね」
「クラヴァットピンよりいっそ大振りなブローチで止めたほうが似合う気もするのじゃ。うむ、石屋を呼んでおいてもらうのであったのじゃ」
「こちらが呼んでおくべきだったのですが、呼んで良いものか判らずに」
恐縮する女店主に一瞬何の問題があるのじゃと思ったのじゃが、型紙についての情報統制上の問題なのじゃ。納得なのじゃ。
「今から使いを出せば皆さまの仮縫いの合わせが終わったあたりで到着すると思いますが如何しましょう」
エッツェさん、ミルケさんのほうを確認すると大丈夫、と言う風に頷いておるゆえ頼んでおくのじゃ。
「石屋って?」
モリエが袖を引いて訊いてくるのじゃ。モリエは普通の衣裳の仮縫いを合わせておるところでいつもと雰囲気が違って可愛いのじゃ。ワンピースに上着を合わせただけの簡単なものにしようとしておったのじゃが、わらわの指導で布を充分に使って襞をつけ今はまだ仮縫いゆえ付いておらぬのじゃがリボンや飾り釦による装飾増し増しとしたのじゃ。
「うむ、似合っておるのじゃ。可愛いの。で、石屋は宝飾品を扱うお店屋さんなのじゃ」
「宝石の石屋さんなんだ」
「違うわよ、モリエちゃん。魔漿石を宝石のようにカットできるのは最上級の職人だけでその職人や作品を扱う宝飾品店を石屋って呼ぶのよ。高級な宝飾品屋さんってことね」
「石と言うは宝石のみにあらず、気取った謂いなのじゃ。それは兎も角、冒険者が協会に納めた魔漿石のうち質のいいものが流れる場所でもあるのじゃ。その意味では冒険者も心得ておいて良いところなのじゃ」
冒険者協会が専売権を持っておるゆえ勝手に売ることは出来ぬのじゃがの。石屋の呼びかたもそう言った魔漿石の流れについて教わったときに聴いたものなのじゃ。
「下手が削ると魔漿石の格が落ちるけど、本当の名人だと用途に合わせて魔力が流れやすいようにカットできるって言うわね。本当かどうかは知らないけど」
セイジェさんは流石に知ってはおるようなのじゃ。ただその効果についてはどうであろうの。
魔力が籠もった魔漿石は内部に光を宿した蛋白石の如き美しさなのじゃ。ゆえに単純に加工の難しい高級な石と言う扱いなのでは、と思っておるのじゃ。
「では石屋が来るまでに確認を済ませておくのじゃ」
「はーい」
と言うことで先ずはわらわ、モリエ、双子等である程度お揃いのディアンドル風衣裳の試着なのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。