表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/247

第一章、完! なのじゃ

いらっしゃいませ。

本日二話目の更新です(2/2)。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。


 とりあえず、今わらわがやれることは済ませたのじゃ。

 ちょっと満足げに頷き収納空間の出納口を閉じて周囲を見回す。でっかい空き地なのじゃ。

 クードンやフォルデンの店の跡地は朝にならねば気づかれぬと思うのじゃが、こちらは見回りの夜警なんぞが通りかかればその時点で騒ぎが起こるのじゃ。とっとと離れることにするのじゃ。


 歩きながら確認するときちんとゴドノローア卿は収納されておった。収納空間の拡張機能の設定を確認すると解体機能に自動廃棄の設定ができたゆえ人間素材は魔漿石と装備以外自動廃棄にしておくのじゃ。わらわは薩摩っぽではあらぬゆえ人の肝なぞ食わぬのじゃ。

 ゴドノローア卿や暗殺者をぽちぽちとクズ魔漿石に変換して設定できておることを確認、うむ出来ておるのじゃ。


 しかし眠いのう。どこか安全に眠れる場所を確保せねばならぬのじゃ。流石にあのやりとりの後孤児院に戻って一眠りする度量はわらわにはないのじゃ。

 眠さと戦いながら西門の方へ向かう。ジープラント王国まで行って冒険者にでもなるのじゃ。それがわらわのとりあえずの将来計画なのじゃ。

 普通は十二歳にならねば見習いになれぬのじゃが、冒険者登録は条件を満たせばそれ以前でも出来る、と聞いたことがあるのじゃ。


 と、街路の先に<光明>の明かりが射しておる。少し伏し目がちになっておった視線をあげるとそこにはマーリィがおったのじゃ。


 ら、らすぼす? と一瞬思ってマーリィを見るがいつもと変わらぬ笑顔なのじゃ。いつもニコニコとしておるゆえ表情が読めぬのじゃ。逃げ出してもなにもならぬゆえ、覚悟を決めるのじゃ。

 緊張や警戒を押し隠してなるべくいつも通りの感じで歩き寄るのじゃ。


「アーネは無事でしたですね。心配したですよ」

 本当じゃろうか。マーリィはいつも通りの黒い聖職者のローブに飾り帯、そしてベールと言う格好なのじゃ。そして左手には物書きに使う木札、薄い木の板で紙より安上がりなのじゃ、の束を抱えておるのじゃ。

「わらわを始末しに来たのではないのかえ?」

「ふふ、そんなお給金は貰っていないですね。餞別を渡しに来ただけですよ」

 ちょっと挑発してみても相変わらずのあらあらうふふなのじゃ。


「餞別? と言うより何故わらわが西の門に来ると思ったのじゃ」

「アーネは十二歳になっていないですから、浮浪児か冒険者見習いくらいしかなれそうなものがないですね。ですので東から門を出てフォ・ロッケンへ行く道もあるです。そうすればきっとラーリと再会できたですね」

 そこでマーリィは一拍おいた。フォ・ロッケンとはラーリがそこに行って冒険者になる、と言っておったダンジョンを抱える城市ローケンキョーの中央風の呼び方じゃ。


「でも、ラーリに良くはないですね」

「その通りじゃな。わらわもそう思ったのじゃ。それは良いとして、では南はどうなのじゃ」

 ラーリの成長に良くはなかろうし、面倒事も国境を越えた場合より追いかけて来やすそうなのじゃ。

「ヤーガトウムに雪が積もるですと今年の往来はおしまいです。もうすぐ最後の取引ですゆえ、ゴドノローアは間違いなくこの街におりましたですし彼のところに送られてきていたです彼らも最後の積み荷にアーネを積むために動くはずでしたですね」


 なるほどなのじゃ。マーリィもなにかしら動く予定を立てておったのじゃろう。しかし、緊急解放のトリガーが引かれておる以上相手側の方に分があったのじゃろう。多分。

「荷物の梱包人ではなく暗殺者がおったのじゃ」

「そう、だったですか」

 ほんのちょっと笑顔が崩れたのじゃ。よし、これを西の門に来ることを見透かされていたことと相殺して判定引き分け状態なのじゃ。ホームタウンディシジョンなのじゃ。

「どちらにしても街道は直ぐ雪で閉ざされるですが、今すでに降雪は始まっているですね。竜尾を求めて竜穴に入る前に山で行き倒れるですね」

「中央には単純に興味もあるのじゃが、まあ行き倒れることには同意なのじゃ」

 だから選ばないですね、と言うマーリィに同意なのじゃ。険しい山道に雪まで降っておるとか無理すぎるのじゃ。


 ちなみに竜尾うんぬんは前世における虎の児を求めるケモナーことわざと同様なものなのじゃが、このことわざを教えてくれた折りに中央で高級食材として扱われておる竜尾は実は大蜥蜴の尻尾であるとも教わったゆえ中央行きは企図自体アウトとおそらく遠回しに言っておるのじゃ。


 それにしてもテールは美味しそうなのじゃ。前世で牛のテールを煮込んだシチューは好物だったのじゃ。タンシチューも好きじゃったのじゃが、父さまがどっちか一方を選ぶなんて出来ないと言ってテールとタンが半分ずつ入ったダンシチューを作っておったものなのじゃ。ダンシチューという名は作家の檀一雄に由来するとか言っておったのじゃ。

 父さまの料理が恋しいのじゃ。あ、もちろん母さまの料理も大好きなのじゃ。

 しかし、どちらももう食べられぬのじゃな。


「なので消去法でこちらですね」

 わらわが物思いに耽っておるうちに結論づけられたのじゃ。そしてマーリィは左手に抱えていた木札の束をこちらに差し出す。

「生活魔法の魔法陣と祭文の覚え書きですね」

「えっ」

 反射的に受け取りながら言われた言葉にびっくりなのじゃ。

「神殿で信徒さんに喜捨と引き替えに教えているですが、孤児院を出ていく子たちにも教えているですね。これが餞別ですよ」

 木札を見つめる。ありがたいのじゃ。しかし、こうやって書いたものを渡すのは普通に教えるのと違ってマーリィの立場的に良くない気がするのじゃ。研究できるゆえありがたいのじゃが。


「しっかり魔法陣を見ながら祭文を唱えると発動するです。そうすると頭の中に魔法陣ができているですので次からは魔法名だけで発動するです。皆そうしますが、きちんと祈祷した方が魔力の効率もいいですし、調整もできるです」

 ならなんで皆祈祷しないのであろうか、と一瞬思ったのじゃが祭文は中央の古語だからなのじゃ。皆、意味も分からぬまま祭文を復唱して習得しておるのじゃろう。納得なのじゃ。


「魔法陣と祭文の対応を理解して改良したり新しい魔法を作れたりすれば一端の魔法使いになれるですね。そこまでしなくても祈祷しながら強く念じれば魔法を変化させられるです」

 ちょっとした魔法講座なのじゃ。魔法を使うのは楽しみなのじゃ。

「神殿で教えている魔法は祭文と祈祷で祈祷と呼ぶですね。呪文と詠唱では魔術ですね。名は違いますが構造は同じです。ですのでどちらとも魔力の動きをしっかり見て魔法陣を目で盗めば習得できるです」

 いきなり上級講座になったのじゃ。


 マーリィがゆっくり祈祷し始める。確かにうっすら光る魔法陣が見えるのじゃ。と言うか見えるようにしておるのじゃろう。

「強靱なる生命の源 戦い続けるものの守護者

絶えることなく燃えさかる炎よ 命を守り育み給う大地よ

生命の秘力を司る力の神よ その恵みを与え給え

<賦活>」

 眠気と倦怠感が一瞬にして吹っ飛び、活力が体から湧いてくるようなのじゃ。なんなのじゃこれは、と言うか大丈夫なのか心配なレベルの効き目なのじゃ。


「これは生活魔法ではなく生命の神々への賛歌と呼ばれる祈祷の一つで疲労を払い活力を与える<賦活>と呼ばれる祈祷です。盗めたですか?」

「はい、多分」

 うむ、多分出来たのじゃ。多分。

「無理が出来てしまう祈祷ですが無理は無理ですので程々にするですね。効果が切れた後元々の疲労と効果中の疲労がまとめて襲ってくるですので」

「ありがとうございますなのじゃ」

 眠気が飛んでおるのは本当に助かるのじゃが、十歳の子どもなのに二十四時間戦える栄養ドリンクを飲まされたような気分がするゆえ少しだけ微妙なのじゃ。でも助かるのじゃ。

 寝る場所や出て行き方を悩んでおったのが一挙解決なのじゃ。


「では、またなのじゃ」

 マーリィの横を通り過ぎ、ラーリの時と同じく振り向かないのじゃ。

 怪しい人ではあるのじゃが、やはりアーネにとって母代わりであり姉のようなものでもあったのじゃ。


 わらわの振り向かない背中にそのマーリィの祈りが届く。

「アーネヴァルト! 神々の加護がその行く手に降りますよう、そして運命の神の恩寵によって再び会うことが叶いますよう」



読んでいただきありがとうございます。

やっと第一章完です。

最初の構想では、はじまりの街でちょちょいと主人公と能力の紹介がてら問題を解決して旅立つ、2、3話程度の序章だった筈がこんなことに(汗)


宜しければ第二章以降もお付き合い下さいませ。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ