背が伸びておるのじゃ
こんにちは。
今日は地方選の投票に行ってきました。いい天気でしたので散歩がてらですが。
それは兎も角今日もよろしくお願いします。
先ずエインさんのお店でエッツェさんとセイジェさんと合流なのじゃ。
わらわ等が着くと既にセイジェさんは来ておってエッツェさんと話し込んでおったのじゃ。二人は若奥さんと冒険者と立場は違えど年齢的には似た年ごろの若い大人の女性ゆえ意気投合しておる様子なのじゃ。
双子等とエッツェさんは初対面であったゆえ紹介し、ミルケさんが商業組合からの見学者として着いてくることなぞも説明したのじゃ。ミルケさんとの面識自体はあったゆえ簡単に済んだのじゃ。
ちなみに忙しく働いておるらしいエインさんは不在だったのじゃ。エインさん宛の書状や関係する書類を言付けて更に忙しくするのは気がひけたのじゃが、まあ仕方あらぬことなのじゃ。内容は薬研車を<回転>させたいと言った要望なぞじゃの。
息子さんのオズンさんも留守で、今日は商業組合に属する若手の商店主や跡継ぎが定期的に集まる会合に行っておるそうなのじゃ。そこにバックギャモンを持ち込む準備をしていたとのことゆえ成果に期待なのじゃ。
王と鯱、と名付けられた碁はまだ偉そうに人に広める腕前にあらぬゆえ盤や駒が美しいバックギャモンを持って行ったのじゃそうな。有力な若手商人とはよい販路になるやも知れぬのじゃ。
エインさんのほうは遊戯を広めるために実際に遊んで来る時間がとれぬゆえ話だけして興味を煽っておるそうなのじゃ。
皆頑張っておるのじゃ。
流行として広める伝手は人脈を持たぬわらわにはできかねる仕事ゆえ皆に頑張ってもらうしかあらぬのじゃ。
心の中で皆に声援を送り、仕事の確認も終わったゆえ仕立屋へ移動なのじゃ。無論、リーエさんの見送りを受けつつエインさんの商店の馬車で、なのじゃ。
仕立屋では相変わらずのイケメン店員に迎えられてすぐに奥へと通されたのじゃが、ここのお姑さんに当たると言っておったマードもおったのじゃ。いやさ法服にあらぬゆえマードではなく大奥さんとか呼ぶべきかの。
一応訊くとマードでよいと返されたのじゃ。わらわのこともマーティエと呼ぶゆえお互い様なのじゃ。
「マーティエ、確認が簡単に済むこちらからお願いいたしますね」
そう言うてマードが出してきたものは法服なのじゃ。なるほどマードがおった理由が判ったのじゃ。
「刺繍のものが多いゆえ時間がかかると思っておったのじゃが。無理をさせたのではあらぬかえ」
「わたくしもですけどお針子さんたちも熱中してしまいましたの。法服や法服の帯ほど刺繍することは少ないですからね。とは言いましても既に刺繍を入れていた布地なども使っておりますわ」
マードも刺繍に参加しておったようなのじゃ。まあその力作を検分させてもらうのじゃ。
法服本体のみを見ても修道会の卵枠に花杏葉の文様が大きく刺繍されておるだけに留まらず裾や首回りにも刺繍が施されており、刺繍とレースで飾られた飾り袖も着いておるのじゃ。
そして本体のみでのうてきちんと一揃いあるのじゃ。ぎっしりと刺繍の入った領帯、領帯は首回りに掛ける帯じゃの。腰に巻く帯は飾り結びをして裾に流すため結構な長さがあるのじゃが、これも刺繍で飾られておるのじゃ。で、考えになかったのじゃが刺繍の入った布の靴まであるのじゃ。
自慢げに言うだけあって、そのどれもが見事な刺繍なのじゃ。
「ご注文通り、腰の部分で余り布を織り込んでいますので糸を外せば丈を伸ばせます。袖のほうは飾り袖を外して布を出して縫いつけ直せば伸ばせます」
わらわの法服の使い方の関係上私服の上から着せてもらいつつ説明を受けるのじゃ。
「うむ、背が伸びる予定ゆえ助かるのじゃ。それでも大人になるまで使うのは難しかろうの」
「そうですね。そのときはまたご用命を。あと靴は少しきついと思ったらすぐに新しいものをご注文下さいね」
法服の着こなし、と言うものに違いがあるのかどうかは判らぬのじゃが布地よく縫製良しで問題あらぬのじゃ。
そう評価しておるとマーセが言うたのじゃ。
「うん、ミチカちゃん。出会ったときよりもう既に背が伸びてるもんね。これくらいだけど」
指で二、三センチほどの幅を作りながらなのじゃ。
「なんと! 自分では気づいておらなんだのじゃ」
と言うか本当かや? と思ったのじゃがマーセは自信がありげなのじゃ。
「サーデが縮んでないならミチカちゃんが伸びてる。これは間違いない」
なるほどなのじゃ。基準をサーデにおいておるゆえサーデも伸びておった場合はその分の加算が必要となる変動基準なのじゃが、伸びておることは間違いないようなのじゃ。
「嬉しそうなところ悪いのですけど計ったときより余り伸びていないことを願いますわ」
「大丈夫、子どもの服ゆえ余裕はみてあるのじゃ」
法服の確認を見ておった女店主は早く自分の仕事に取り掛かりとうてうずうずしておるようなのじゃ。まあ気持ちは分かるのじゃ。
「では法服は宿に送ってもらえるよう頼むのじゃ。深く感謝なのじゃ」
「はい、マーティエ。こちらこそ得難い経験をさせていただきました」
「神殿を飾っておる刺繍やレースにはマードの手も入っておるのかや。見事なものであったのじゃ」
「まあお褒めに与り恐縮ですわ。神殿も忙しくなってゆっくり刺繍を刺して過ごす余裕がなくなっておりますけど、それ以前の作品です」
お姑さんマードとそうやりとりをして仮縫いのほうの試着なのじゃ。発送なぞに関するやりとりはミルケさんにお任せなのじゃがの。もはやミルケさんはわらわの秘書と呼んでも差し支えあらぬのではと疑うのじゃ。
「さて、余りお嫁さんを待たせてお姑さんが嫌われると殊なのじゃ。そちらの試着に取りかかるとするのじゃ」
「まあ」
女店主がうずうずとしておったのを皆見ておったゆえお針子さん等も含めてくすくすと笑いが起きたのじゃ。
「男物に近いものはあるのじゃが、女物としては全く新奇なものであるゆえ手直しが必要かも知れぬセイジェさんの衣裳から見るのじゃ。モリエはそちらで普通の衣裳のほうを合わせておくのじゃ。四人揃いのほうはあとでまとめてやるゆえの」
「えっ、私から」
「うん、判った」
「あたしたちはセイジェさんを見学!」
こうしてバタバタと作業が始まったのじゃ。
ジュストコールを女性的に格好良く仕立てた、宝塚風衣裳になっておるはずなのじゃ。
「え、布が話してたのと違う感じだよね」
「ええ、ミチカさんから天鵞絨が届いたときは私たちも驚きましたよ」
「折角やるならとことんまで、なのじゃ」
収納空間からイセンキョーの何とか言う貴族の館にあった布地を取り出して宿からこの仕立屋へと送ったのじゃ。出所が謎の布地になっておるのじゃが一応ワンクッション挟んでおるので細かいことは気にせぬのじゃ。
「ギルマスなぞが着ておる上衣に似ておるのじゃが、ずっと華美にせねばの」
「いやあれってお貴族さまが着てても違和感ないあれだよね」
「D級の冒険者は騎士に準じると前も言うたのじゃ。あきらめが悪いの」
言い負かして着替えさせるのじゃ。
ブラウス、あるいはドレスシャツと言うべきかの。これも注文通り布を贅沢に使って襞を多く取っておるのじゃ。そしてセイジェさんの女性らしいラインがしっかりと出ておって成功なのじゃ。
「これだけしっかりとした体の線をその型紙なしで出そうと思うと半日工房に詰めてもらわないといけないです。これだけでもすごいことですよ」
立体的なものが平面の型紙から生まれてくることに驚きがあったそうなのじゃ。まあなかなか既製服の時代は来ぬであろうゆえそれでも構わぬのじゃろうがの。わらわも双子等ほどではあらぬが余り長く仕立て屋に拘束されとうはないのじゃ。その点でわらわの為の知識漏洩なのじゃ。
「袖は上衣にもレースの飾り帯を内側に仕込むのじゃが、ここでもレースをおいて二重にするかの」
「わかりました。釦は金細工を上衣に使いますからこちらは真珠貝の細工にしようと思いますが」
「うむ、良い判断なのじゃ。袖の飾り釦はあとで考えるのじゃ」
ブラウスの上にジレと呼ばれるベストなのじゃ。いや、この世界でジレをなんと呼ぶかは知らぬのじゃがの。
で、実はこれが最重要なパーツなのじゃ。本来のジレは別段なんと言うことのない丈が長めのベストなのじゃが今回目指す宝塚風女性らしい格好良さの為には腰回りから胸への女性的ラインの強調と補正が必要なのじゃ。人形であらばそれで終わりなのじゃが、着るものであるゆえその上で動けねばならぬのじゃ。
「あら、素敵ね」
「かっこいいし女っぽいね」
ミルケさんとサーデが評しておるのじゃがブラウスとベストの時点で既にいい評価なのじゃ。
ベストを短くして夏向きの薄着としても良いのじゃが、今考えることにはあらぬのじゃ。
ただ、わらわは忘れてしまいそうゆえ一応言うてみたらちゃんと女店主とミルケさん、エッツェさんがメモを取ってくれたのじゃ。
「で、体をねじって問題ないかや」
「問題ないわ。腰の上と言うか胸の下がしっかりしてるし、胸が支えられてる感じでいつもより動きやすいくらい」
うむ、わらわもすぐそれくらいのナイスバデーに育つゆえ有用な意見なのじゃ。
「前側の布地はその上等な布だけど背中は皮なのね」
前身頃は当然上衣やなにやと共布なのじゃが後ろ身頃は上質な皮なのじゃ。
「裏地の布でも良かったのじゃが、冒険者は余りになにもあらぬと不安かも知れぬと思っての。出来上がった後で皮に魔法陣を入れておくゆえ任すのじゃ」
「まあ! それは嬉しいわね」
やはりそれが喜ぶポイントなのじゃな。
次は脚の部分、キュロットとスカートの両方を準備したのじゃが先ずはキュロットからであるのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。