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のじゃのじゃ転生譚 ~のじゃ語尾チート少女のあんまり冒険しない冒険者生活  作者: 七井
仮縫いに行ったり遊戯に興じたりするのじゃのじゃ少女
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発掘した石櫃の検分なのじゃ

こんにちは。

今日もよろしくお願いします。

「なにこれー?」

「石の箱?」

「古そうだね」

 うむ、石の櫃は古そうに見えるのじゃが、先ずは<洗浄>で汚れを落としてみるのじゃ。

「これは本当に古そうなのじゃ」

 土の汚れを落とすと上面の蓋の部分から本体の側面まで文様が石に刻まれておるのが解るのじゃ。大きさからして前世であらば石棺を疑うのじゃが、今生では土葬の習慣を聞かぬゆえその可能性は低いのじゃ。


 この世界では人は魔物と同じく魔漿石を残すのじゃが、これまた魔物と同じく死体に魔漿石を残したままでは魔漿石を核としてゾンビ化する可能性があるのじゃ。ゆえに魔漿石を取り出し死体は焼く、あるいは死体を焼いて焼き跡から魔漿石を拾うのじゃ。

 死者を祀るとはその魔漿石を祀ることになるわけなのじゃ。祀らずに使うことも普通にあることなのじゃ。前世とは大きく違うのじゃが遺骸や墓にまつわる風習があまりあらぬだけで死者を悼む心に違いはあらぬのじゃがの。

 考えが横道にずれたのじゃ。問題は目の前の石櫃なのじゃ。


「形式が極めて古いのじゃ」

「問題があるの?」

「先ず賊や密輸業者が人目を憚るものを埋めた可能性、次いで倉庫を建てたものが埋めた隠し財産、そう言ったものを想定しておったのじゃが」

「違うんだ」

「うむ、おそらくもっと古いものなのじゃ」

 この世界で文化財保護とかの話を聞いたことはないのじゃがその水準の話なのじゃ。

「櫃だけ古い可能性は残るゆえ開けてみるのじゃが、簡単に言えば帝国以前の様式なのじゃ。中央の古代文字は神殿で伝承され伝わっておるのじゃが、こう言った北方の文様文字は読めるものがおらぬのじゃ。まあその点でそういう様式を真似て後代作られたものであっても判別は出来ぬのじゃがの」

 それでも百年単位の昔の遺物なのじゃ。


「まあ土中にあったゆえ、余程運が良くあらねば水や泥がしみて木や布は朽ちておるのじゃ。金属や石のものが入っておると良いのじゃがの」

「あー、空っぽかも知れないんだ」

「見かけ倒しじゃなきゃいいね」

 考古学的見地で見れば木や布の痕跡でもいろいろと解ることがあるのであろうがあきらめてもらうしかあらぬことなのじゃ。

 <念動>で重い石の蓋を動かすサポートを入れずりずりとスライドさせるのじゃ。

 まあ泥なのじゃ。

「泥だね」

「うん、泥だね」

 みっちりではなく半分ほど泥が入っておったのじゃ。

 心の中でもう一度考古学さんへ謝っておくのじゃ。


「<洗浄>なのじゃ。泥やゴミ以外のものが残ると良いのじゃが」

 泥水が渦巻く石櫃の様相なのじゃが、流石に<洗浄>の力は素晴らしく水の濁りが消えてゆき最終的には渦巻いた水自体が消え去ってピカピカの石櫃が残ったのじゃ。最初から全力でやっておれば外側を<洗浄>した時点で中身まで<洗浄>出来ておったのでは、と言う疑念は即忘れたのじゃ。

「金貨だ!」

「銀貨だ!」

「そしてこれは石の剣じゃの」

 そこそこの枚数の貨幣と石製の直剣が泥中より現れたのじゃ。

「えっ」

「うむ?」

「いや、その杖みたいなもののほうが目立つのに先に剣なんだなって」

 モリエに言われて気づいたのじゃ。


 おそらく金属製の大人の腕ほどの長さの杖もしくは燭台なのじゃ。樹木の形を模して作られており持ち手が木の幹で先端が枝分かれして金属製の薄い葉の飾りがついておるのじゃ。逆の根元のほうが言葉通り根を模して広がっており、立てることが出来そうなのじゃ。立つならば杖ではのうて燭台なぞの祭器である可能性が高いのじゃ。

 錆びておらぬ金属の素材はわらわの知識にあらぬものなのじゃ。緑がかった銅とでも言えばよいのかの。<洗浄>で洗われて艶のある光沢を放っておるのじゃ。

 とは言え問題はそこではないのじゃ。

 なにゆえ、こんな目立つものをわらわは言われるまで認識できなかったのか、なのじゃ。

 深い疑念と共に見つめるのじゃが、見て解るなにものがあるわけもないのじゃ。


「いや杖なのかどうかも解らぬゆえ、どう言えばいいものと思ったのじゃ」

「確かになんか立ちそうだね」

「ほいっ」

「あ、立った」

 誤魔化すように言うと、話の流れのまま双子等が立ててみたのじゃ。

 うむ、立つのじゃ。

「樹木を模しておるのは間違いないのじゃが、この実か花を表現しておる丸い石はかつて魔漿石であったものが年月が経ちすぎてただの石になったのではないかの」

 魔漿石でなければ貴石か宝石であらぬと他の細工に見合わぬのじゃ。しかし魔漿石らしさのないただの灰色の石ころと化しておるのじゃ。

 内部に組み込まれた魔漿石があらばそれは外界と隔離されておるゆえ生きておるやも知れぬのじゃが、そこはかと畏れを感じるゆえ触らずにおいておくのじゃ。


「石の剣の柄にも似たような灰色の石が嵌まっておるのじゃ。これもおそらく元魔漿石なのじゃ」

「昔は石の剣で戦ってたの?」

「いや、おそらく祭祀用なのじゃ。帝国が初めて来た当時北方の民は青銅の武具を使っておったゆえ鉄器を使う帝国の兵に全く敵わなかったそうなのじゃがすぐ鉄器に持ち替えた、と教わったのじゃ」

 征服が済んでおらぬ土地に軍需製品を売り飛ばしたのか製法が流出したのかは判らぬが雑な話なのじゃ。

「鉄や青銅の剣なぞが一緒に納められておったとしても錆びて朽ちてしまっておるのじゃ」

「石の刀身になにか金色の模様が入っているから魔法具なのかもね」

「嵌まっておるのが元魔漿石であらばそうであろうの」


 目立つ遺物を眺めた後は一番時代の同定作業が簡単そうな貨幣を見てみるのじゃ。

「うむ、金貨は帝国のターレル金貨なのじゃ。古い時代のものではあるのじゃが流石に帝国以前の遺物ではなかったの」

 金貨には商業の神である天秤と契約の神の象徴である天秤の紋章が刻まれておるのじゃがその裏の面に貨幣を鋳造した時の皇帝の肖像が入っておるのじゃ。それを確認すると初代から三代までのものがあるようなのじゃ。時代背景はそれで何となく限定できるのじゃが、それは帝国の文化に征服された北方民がその独自の文化や誇りを未だ有しておった時代とも言えるのじゃ。

「こちらの銀貨は未だ基準銀貨のあらぬ時代、古い北方の国があった時代のものなのじゃ」

 きれいな形をしておる銀貨は帝国の造幣したものなのじゃが、少しいびつな銀貨は征服される以前に北方にあった国々で鋳造された質の悪いものなのじゃ。


 読めぬ文字文様や見慣れぬ人物なぞの意匠の中に神殿の信仰へと組み込まれていった冬の大神や闇の神のものと思われる姿もあるのじゃ。当時の北方民の文化が判るほどの資料にはならぬのじゃがなかなかに興味深いのじゃ。

 とは申しても、考古学的価値や古銭としての希少性が顧みられるような土壌があらぬゆえ換金しようとするならばただの地金としての価値で計られることになるのじゃ。無情よの。

「さて、こう言った掘り出し物の扱いはどうなっておるのであろうの」

「判らないね。けどこの土地はミチカのなんだよね」

「うむ、であるからに盗品なぞであらぬならわらわのものとなるのかのう。冒険者協会と商業組合のどちらに相談してみるべきか悩むのじゃ」

 妙な因縁を拾うたものなのじゃ。


「それはね、ミチカ」

「ミチカちゃん、簡単だよ」

「ぬ?」

「近いほうに決まってるじゃん。あたしたちがひとっ走り行ってくるよ」

 確かに悩むより走れ、なのじゃ。ただ、この場合どちらになるのかの。似たような距離である気がするのじゃが。

「なるほど、賢いのじゃ。では頼むのじゃ」

「はいはーい!」「いってきまーす!」

 どちらに行くのかの選択も投げ出して頼むのじゃ。そして双子等は悩むそぶりもなく駆けだしていったのじゃ。


 待っておる間は整地作業を進めておくことにしたのじゃ。もう石組みを扱う予定はあらぬゆえ<地回操循>ではのうて<操地>で魔力を節約しつつ作業なのじゃ。流石にもう埋まっておる不審物なぞはなく建築の日には気持ちよく作業できる状態まで持ってこれたのじゃ。

「すっごいですね。こんなきれいな地面になってるとは思いませんでした」

 ふふふん。わらわの腕前に吃驚しておるのはミルケさんなのじゃ。

 ミルケさんが双子等と馬車に乗ってきた一声がこれなのじゃ。まあ焼け跡であったところを見ておるミルケさんであらばこその驚きでもあるのじゃ。

 双子等が選んだ連絡先は商業組合であったのじゃ。帰りが馬車になるゆえ商業組合のほうが近いと言う完璧な計算、見事なのじゃ。

お読みいただきありがとうございました。

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