お食事会開始なのじゃ
こんにちは。
多忙につき明日は更新が遅れたりさぼったりの可能性があります。
頑張るつもりですが更新がなかったり遅れたりしたら申し訳ない。
「きちんとした食餐にあらぬゆえ順序なぞも適当なのじゃ。アイラメさんとそこで見ておった衆は配膳を手伝ってその後一緒に食すと良いのじゃ」
元から調合室で作業をしておった調合師や見習い等にも声を掛けると喜色も露わに飛び上がったのじゃ。一人はフリフリと尻尾を振っておるのじゃ。狐系の獣人さんなのじゃ。よいのう。
わらわもどうせ転生するなら狐人に転生してセルフもふもふしたかったのじゃ。全くアレは気の利かんことなのじゃ。
「順序なぞあらぬと言いはしたのじゃが、まあ先ずは豆のスープとサラダなのじゃ。スープは甘いゆえ心して口にするが良いのじゃ」
「えっ。豆のスープなんていつ作ってたの」
「婆さまや組合長を驚かせるつもりでこっそり作っておったのじゃ。モリエに一番に驚かれてしもうたのじゃが」
「いや驚いてますよ。調理しておられるところは見ていたつもりですからね。しかも甘いスープですか」
これは組合長なのじゃ。組合長の周りでは一緒について来ておるお姉さんにミルケさんが加わり婆さまと組合長の食卓を整えておるのじゃ。絨毯に座り低い卓で食事を摂ると言うわらわにとっては何か懐かしい気のするスタイルなのじゃが、ミルケさんやお姉さん等には馴染みのない様式で苦戦しておるのじゃ。
「婆がアイラメに粉にした薬種を教えておる間に豆を水に漬けて戻していたさね。その時に煮始めたんだろうさ。甘いと言うのも林檎を切ったり擦ったりしてたからね」
「おおよそ正解なのじゃ。まあ林檎は半分だけじゃがの」
わらわの席も婆さまと組合長の卓に設えられておったゆえそこに着いて食前の祈祷をして実食なのじゃ。
正直配膳の指示のためすぐ席を離れるゆえ土間に近い席が良かったのじゃが。
「えっ、甘い」
「甘いと言うておったのじゃ」
婆さまの後ろで卓ではなく盆の上に乗せられた椀からスープを取ってその一声をあげたアイラメさんにツッコミを入れておくのじゃ。
ササゲ豆のような身の小さい豆があったゆえ善哉の要領で大量の砂糖で炊いておるのじゃ。確かに予想を遙かに超えて甘かろうとは思うのじゃ。
「けど、なんか酸っぱさもあるよね。甘酸っぱい。林檎も確かに入ってるけどその酸っぱさじゃなくて」
「うーん、山査子だね。これは。で、アイラメ」
モリエの分析と疑問に婆さまが過たず回答したのじゃ。そしてそこから更にパスされたアイラメさんが目を白黒させた後答えるのじゃ。
「山査子は消化吸収を助け、えっと食欲不振の解消なんかも。同じような効能ですけど二日酔いで胃がもたれる、とか言うときにもいいですね。干した果実が甘酸っぱくて美味しいのでオヤツに頂いたり、あっいえなんでもないです」
「つまみ食いは後でお仕置きしておくとして、消化と食欲の促進の効能を考えて食後のくだもの代わりじゃなくて頭に出してきたのさね。林檎にも腸を整える効能があるからねえ」
小さい角に切った林檎を混ぜることで食感を変えるだけにあらず、と読み解かれたのじゃ。婆さまはなかなかにすごいのじゃ。
「冷たいスープにしたほうが驚きは増したと思うのじゃが、まあ温かいほうが優しい味になるのじゃ」
甘いことを踏まえて小さな椀で給仕しておったゆえ皆あっという間に空にするのじゃ。そしてお次はハーブサラダなのじゃ。冬だというのに結構な種類の生のハーブがあったのはうれしい驚きなのじゃ。薬草店には在庫があらぬ様子であったゆえ<停時>とまではいかぬでもなにか専用の保存手段のある倉庫があるのではないかの。
基本は買ってきてもろうたレタスのような葉物をベースにルーコラやクレソン、チコリ、ミントなぞと言ったハーブ類をスライスした玉葱と一緒に盛っただけなのじゃが、勝利のための工夫を二つ準備しておるのじゃ。
まずはパンを角切りにしたものを贅沢に塩胡椒をしてオリーブオイルでカリッと焼いたクルトン。そして葡萄の酢にエストラゴンを<経時>で漬け込んだものをベースにしたハーブドレッシング。この二つで必勝の構えなのじゃ。
どうでも良いのじゃが、玉葱は相変わらず余り玉でのうて長細い球根なのじゃ。
「なんじゃ、葉っぱを盛っただけのものでも食わされるつもりであったのかえ」
「は、はい。申し訳ありません。想像以上ですね」
一口食べて固まっておった組合長を軽くからかっておくのじゃ。そして流石にハーブ類を口にする機会も多い調合師等はそこまで驚いてはおらぬ様子であるのじゃ。
「いや驚いておるさね。このパンのようなものは兎も角、こっちのどれっしんぐとやらは婆たちの仕事に近い分衝撃だね。酢に薬草を漬け込んで薬効を出してるのかい。いやさ、酒に漬け込んだ薬草酒はあるものね」
ぶつぶつと言いながらいろいろ考えておるようなのじゃ。なんにせよ、この婆さまの舌は確かなのじゃ。
「サラダは多めにあるゆえ次に出てくるモリエの焼いてくれた肉とも一緒に食べると良いのじゃ。わらわはやることがあるゆえちょいと土間のほうに行っておるのじゃ、失礼」
入れ替わりにモリエが焼いたり揚げたりしたハーブ豚の串焼きとハーブ鶏の唐揚げが給仕されていくのじゃ。単純に美味しいこと間違いなしなのじゃ。
オレンジピールというか橙の皮を摺り下ろして塩と混ぜたもの、緑茶の粉を混ぜた緑茶塩、単純な大蒜塩とつけ塩も三種用意したゆえ飽きずに食べるであろうなのじゃ。
「蜂蜜を使ったお肉も美味しかった」
モリエも土間のほうに着いて来てつまみ食いをしつつお手伝いをしてくれるのじゃ。
「まあ余り多く使うと残念なことになるのじゃ。本当は堅い肉を柔らかくする効果があるのじゃが、元が良い肉ゆえその効果は見えぬのじゃ。照りを出すことも併せてまた今度別の機会にやってみるのじゃ」
「で、そのかれー? のスープを仕上げるだけじゃなくて他にも何かするんだよね」
流石にモリエはもう話が早いのじゃ。
「うむ。ハーブ塩には唐辛子を少し混ぜておったのじゃが辛みはどうであったかえ?」
食べ慣れておらぬものの感想は聴いておかねばならぬのじゃ。
「生姜や大蒜の辛みとはまた違うよね。胡椒とも別だし、薬種問屋の人が言ってた、痛いっていうのがわかる気がする。けど刺激的なのも悪くないかな」
嫌われるレベルの辛さになってしまうと今後の輸入量にも差し障りがあるのじゃ。ゆえに注意が必要なのじゃ。
「ふむ。まあ人にもよるであろうから量は注意すべきなのじゃ。そうじゃの、其方等はどうかの?」
尻尾をふりふり食べておる狐の人に声を掛けるのじゃ。近かったからであって下心はないのじゃ。ないのじゃ。
「あたしは好きですね、ちょっと舌先がピリピリするのが。それより薬草と薬種が混合されて美味しいのが驚きですけど」
狐さんはハーブミックスが気になるお年頃なのじゃ、ではのうてお仕事柄なのじゃ。尻尾のふりふり具合から美味しく思っておることは間違いなさそうなのじゃ。
「うむふむ。調合師らしき感想なのじゃ。しかし調合された複雑な味の奥行きと言うものはの、次なのじゃ」
わらわはカレースープの鍋に目を遣り、ニヤリと笑うたのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。