そう言えば薬研堀は七味の異称の一つなのじゃ
こんにちは。
全く書き溜めができない体制で一切推敲できないまま投稿しています。
どうにかしたいのですが。とにかく今日もよろしくお願いします。
「なんにせよ才能があることは良いことなのじゃ」
「そうだね。嬢ちゃん、うん、ミチカと呼ばせてもらうよ。婆のほうが五倍は長生きしてるからね」
五倍では効かぬのじゃ。微妙なサバの読み方なのじゃ。
「してミチカ。この薬草茶の処方の狙いはなにかい」
弟子に対するような雰囲気で、これは試験なのじゃ。
「それぞれいろんな効能があるのじゃが、この処方は血行促進、血の巡りを良くすることを主にしておるのじゃ。それと蜂蜜の甘みをあわせて疲労回復かの。つまりはこの季節の冷え性対策なのじゃ」
わらわには<防寒>の祈祷効果がついておるのじゃがの。まあポカポカして良い気持ちになるお茶なのじゃ。
「シナモンの値段に見合うかは兎も角、間違いはないの。そして確かに美味しいね。シナモンの値段を気にしないならすごくいいね」
一応合格っぽいのじゃが、シナモンの値段の高さについてくどく言われておるのじゃ。シナモンはこれから料理や菓子に使いまくる気なのじゃがの。これについてはミルケさんや商業組合の組合長と要相談としておくのじゃ。
「うん、美味しいし、体が暖かくなる」
「貴族の奥方さまや富豪のご婦人がた相手になら受け入れられそうですね」
付き添いの二人はお気楽なのじゃ。
「ミチカに知識があることは分かったがね、調合師や錬金術師ではないからね。薬草店でもかなりの量を買って行ってるが薬種問屋のほうは呆れるほど買ってるねえ。それで少し心配になったわけさね」
薬種問屋ではまだ買い物中だったのじゃがの。まあ建前というやつなのじゃ。
「薬種としてではのうて調理や菓子作りに使うためのものを個人で使う程度あがのうただけなのじゃがの」
「いや、すごい量でしたよ」
「うん、買い物ってこんなだっけって思った」
み、味方に撃たれたのじゃ。
「調理に使うのかい。確かに生姜なんかは調理にも使うかね」
「ふむ。いろんな考えはあるとは思うのじゃが、食は健康あるいは逆に病と関連しておる部分があるのじゃ」
前世中学時代にあーちゃんやカッコ等と食と健康についての研究発表と薬膳カフェ、と言う展示を文化祭でやったことを思い出すのじゃ。所詮中学生のやる程度のことではあったのじゃが楽しかった思い出なのじゃ。
おっといかんいかん、思い出に浸っておる場合にあらざるのじゃ。
話をしてみると生活習慣病の幾つかや船乗り病と呼ばれる壊血病なぞある程度経験的に理解しておる部分はあるようなのじゃ。まあ当然じゃの。
「とまあ小難しい話は兎も角としてなのじゃ。より美味しくするためにであらば薬種とされておろうが染料とされておろうが迷わず使うのじゃ」
婆さまは難しい顔をしておるのじゃ。
なんと言うかの、焦点が商業組合が調合師錬金術師匠合の頭越しに認可の鑑札を出したことからわらわの成すことに対する認否になっておる気がするのじゃ。いやまあわらわの成すことが前者の正当性を証明する、と言う見方も出来得るのかや。まあ良いのじゃ。
「百の言葉を尽くしても一皿の料理に及ばぬのじゃ」
このひと皿で黙らせます、と言うやつなのじゃ。いや少し違うのじゃ。
「調合する作業場は火も使えるのであろう。竈と道具、そして薬種の類は借りるのじゃ」
「ふむ。よかろう。ミチカの腕前を見せてもらうとするさね」
よし、やるのじゃ。むろん己の欲望優先で、なのじゃ!
「アイラメさん。書き出すゆえ薬草や薬種を持ってくるのじゃ。そして食材はここにはあらぬであろうから買い出しに行ってまいるのじゃ」
「ええっ、あたしですか」
相変わらず驚き顔のアイラメさんなのじゃ。モリエは護衛兼調理助手ゆえ側を離れぬのじゃ。そしてミルケさんはわらわが指示を出して良いのやら分からぬ立ち位置なのじゃ。
「アイラメさんはわらわの先触れとして戻って伝えるよう言った折りその通り先触れに戻ったのじゃ。その時点で其方はわらわに使い回される立場であると決まったのじゃ」
「ふん。なるほどね。じゃあとっとと行って来な」
「ふえっ、師匠にも認められた! うう、行って来ます」
ミルケさんが出て行こうとするアイラメさんを呼び止めて支払いなぞに関してなにやら告げ、そして改めて送り出したのじゃ。
アイラメさんを除いたわらわ等はそのまま調合室へと向かうのじゃ。作業場ではなく調合室と言うらしいのじゃ。正確には共同調合室で匠合員なら誰でも使える共同の作業場なのじゃ。
つまりどういうことかと言うとなのじゃ、匠合長の婆さまやそのおつきの者を引き連れて現れた美少女に作業をしておったもの等の視線が集中したということなのじゃ。まあ仕方ないのじゃ。
今は薬草の匂いが漂っておるこの部屋にスパイシーな食べ物の匂いが充満することになるゆえ先に迷惑をかけると挨拶しておくのじゃ。まあその挨拶で想定する数倍はすごいことになると思うのじゃが、わらわは気にせぬのじゃ。
この調合室は面白い構造の部屋なのじゃ。かなり広い、そうよな前世の学校における教室を二つ合わせた大教室くらいの広さなのじゃ。
片側半面が竈の並んだ土間的なスペースになっておるのじゃが、残り半面が土間から靴を脱いで上がるようになっておるのじゃ。畳ではのうて絨毯が敷いてあるのじゃが今生では初めて見る懐かしい構造なのじゃ。
調合師等は絨毯の上に座って卓袱台のような背の低い小卓をそばに置いて作業をしておるのじゃ。なにゆえこういう構造になり、座って作業をしておるか、なのじゃ。その理由も作業をしておるものを見れば一目瞭然で薬研の舟形の器が大きいゆえなのじゃ。
前世における、と言うか前世において昔使われておった薬研と大凡似通った道具なのじゃ。石の円盤の中心に軸棒が通っておって、この石の車輪と薬種を入れる舟形と合わせて薬研なのじゃ。石の円盤を薬研車の名に相応しくゴロゴロと前後に往復させることで舟形に入れた薬種を挽き潰して粉にする道具なのじゃが、こういう実用的な道具の類が文化を越えて似通っておるのはままあることなのじゃな。
そしてこの舟形がテーブルの上で作業を行うには少々大きいのじゃ。調合師等は少し足を開いた体育座りでその足の間に舟形を挟み、腹筋運動の如き動きで薬研車を往復させておるのじゃ。
床に座り込んでする作業、と言う感じなのじゃ。テーブルサイズの薬研もあるのやも知れぬのじゃが、この大きな薬研がスタンダードサイズなのじゃろう。
唐辛子はここには在庫があらぬゆえ先ほどの薬種問屋から届けてもらうのじゃ。唐辛子のほかにも食材の到着待ちではあるのじゃが、それまでに準備だけでもしておくのじゃ。そう思って作業しておったのじゃが、当然の如く<洗浄>に食いつかれたのじゃ。
その薬研を<洗浄>したところ食いつかれたわけなのじゃが、薬種を混ぜたくない場合はいちいち水洗いしてよく拭いて乾かす、と言う作業を挟み込んでおったのであろうゆえ当然なのじゃ。
生活魔法の伝授に関してはガント等に頑張ってもらえばよいゆえ積極的に教えておくのじゃ。
ついでにこちらからも訊いてみたのじゃが卓上サイズの薬研もあるそうなのじゃ。
「床に座る遊牧民のものが伝わったって聞くね。だから大きいのが本式さね。だけどここに本式のしかないのは匠合員なら無料で使えるからだよ」
持ち逃げするには大きすぎるし重すぎる、と言う世知辛い理由であったのじゃ。
婆さまや少し打ち解けた調合師等とそうやって話をしておるとアイラメさんが帰ってきたのじゃが、その背後におるのは商業組合の組合長ではあらぬかの。暇なのかえ。
「忙しいのですがミルケからの伝言を受けて大急ぎで来たのですよ」
婆さまも顔をしかめておるのじゃ。
「ミチカさんが調理すると聴いては逃したくないですからね」
「約束の試食会に出したりするものとは全く別なのじゃがよいかの」
「むしろ楽しみが増えますよね」
婆さまに視線をやるとうんざりした表情ながら頷いたゆえ一応許諾なのじゃ。わらわとしてはわらわと調合師錬金術師匠合の間の関係を調整しに来た可能性があるゆえ無碍には出来ぬのじゃ。
「ある分に関してはこの匠合にある薬種を香辛料として使わせてもらうつもりであったのじゃが、食べる頭数が増えたのじゃ。代金はそこの組合長につけておくがよいのじゃ」
「うん、そうだね。それでよいね」
商業組合の組合長ともなれば腰が軽くやって来た、とは言うても三人ばかり秘書かお付きの事務員かが付いて来ておるのじゃ。その三人も期待に満ちた目でこちらを見ておるしの。
「ミルケさん、アイラメさんには仕事があるゆえ組合長に付いて来た人の誰かに肉の買い足しに行ってもらいたいのじゃが、どうかの」
「はい、任せてください」
その三人を含めるならば婆さまに付いて出迎えに来てそのままそばに侍っておる秘書か助手か、あるいはアイラメさんの姉弟子かと言う人等と調合室で作業をしておって今はこちらを見学しておる若い調合師や調合師見習い等と言った者等も省くわけにはいかぬのじゃ。
うむ、なかなかの大仕事になったのじゃが香辛料が大分手に入ってテンションが上がっておるし一丁やってやるのじゃ!
お読みいただきありがとうございました。