キノコ検分会なのじゃ
こんにちは。
今日もよろしくお願いします。
「くっ。それでいい」
「良い取引でした」
ミルケさんウィン! なのじゃ。ミルケさんいい笑顔でなんとなくツヤツヤなのじゃ。
「話はまとまったようじゃの」
「はい、他にもいろいろ買われるのでしょうから一つの品物にあまり時間をかけるわけにも行きませんしね」
余力を残したと言うミルケさんの言葉に店主は目に絶望の色を映したのじゃ。店主は冷めたお茶をぐいっと飲み干し、控えていた店員になにやら言うとこちらに改めて向き直ったのじゃ。
「で、他にはなにをお探しだ」
店主は気を取り直しわらわに訊いてきたのじゃ。
「捜し物はいろいろあるのじゃがの、先程の唐辛子のように使い道がわかっておらぬものがまだあるのじゃったら先ずそれを見せてもらおうかの」
「ええっとトーガラシがさっきの奴のことかい。函に付いてたディングルーゼス・ガリナとか言う長ったらしい名前よりは言いやすいな。で、見れば判るのかい?」
「見てみねば何とも言えぬのじゃ」
当然のことなのじゃ。
「わらわには馴染みのあるものがこの辺りでは見あたらぬ、と言うようなことがままあるのじゃ。それが捜し物なのじゃが、この辺りで使い道が判らぬ、と判じられたものから見るのが効率的なのじゃ」
なるほど、と言う納得が店主のみあらずミルケさんからも得られたところで新しいお茶がやってきたのじゃ。
「ドクダミ茶じゃの」
新しく淹れられたお茶はドクダミ茶なのじゃ。臭気は乾燥させた時点で飛んでおるのじゃが独特の味は普通のお茶と思って口に含むと驚くことになるのじゃ。
薬種問屋らしいと言えばらしいのかの、なぞと吹き出しかけて必死に飲み込むミルケさんを横目に見ながら話すのじゃ。
「ドクダミは毒消しなぞにも使われるのじゃが、利尿作用はあって小用の通じがようなるゆえ毒を出すという点では間違いにはあらぬのじゃ。水気を摂って出すのは健康によいしの。歳をとって血の巡りが悪うなって起こる病気を予防、抑制するとも言われておるゆえ薬屋の年寄りの飲み物として納得なのじゃ」
目を白黒させておるミルケさんへの嫌がらせのためだけのものではあらぬ、一応当たり前の飲み物でもあることを説明しておいてやるのじゃ。
「ぬ、如何したのじゃ?」
「いや。嬢ちゃん、本当に物知りなんだな」
不思議そうな表情の店主に問いかけるとそう返ってきたのじゃ。
「天地万物において識らぬことの方が遙かに多いのじゃ。むしろ識ることの方が無に近いホンのひとかけらと言うべきなのじゃ」
「大層な物言いだな、おい。まあいい。幾つかあったのは物好きか珍品好きな医官や薬師になんとか引き取ってもらってて今残ってるのはそのトーガラシの他干したキノコが何種類かだ」
キノコとはまた心の躍る話なのじゃ。
「ここいらじゃキノコを食わないが、西方や海の向こうでは食うらしいからな。薬種じゃなくて食いもんじゃねえかと疑ってんだよな」
「食材であった方が嬉しいのじゃ。しかしキノコは薬にも使うたり毒であったりもするゆえ扱いが難しいのじゃ。しかしなぜこの辺りでは食さぬのであろうの」
「北方諸国群では毒キノコが多いと言われてますね。昔飢饉があったときに毒キノコの被害者がかなり出たとか言い伝えられているようです」
「うーむ。飢饉の時の話であらば毒かどうかを確かめる段がなく当たるまで食べ続けたのではないかのう」
当たるまで食べ続ければ毒キノコの混入率に関係なく的中率は十割なのじゃ。あれじゃ、前世でソシャゲにはまっておった者が「当たるまで回すのがガチャだ」と言っておったのと同じ仕組みなのじゃ。
「そうかも知れませんね。一個目で毒に当たっていたら流石に食べない気がしますし」
「それは兎も角、見るんなら持ってこさせるが」
「うむ、頼むのじゃ」
店主の問いに鷹揚に頷いたのじゃ。楽しみよの。
「けど、キノコを食べる習慣がないから受け入れられにくいかも知れないですね」
「そうだね。森の中で輪になって生えてるのとかは見かけるけど食べるって話は知らない」
商品として通用するかどうかについてミルケさんが考えておるのは判るのじゃが、モリエの発言でわらわはドクダミ茶に噎せたのじゃ。
「けほけほ。モリエ、笑わせるではないのじゃ」
「えっ、どうしたの?」
「モリエは何度も食べておるのじゃ。もう使い切ってしもうたのじゃがわらわ秘蔵の乾燥モルケッラを戻して何度も使うておるぞえ」
今度はモリエが驚く番なのじゃ。
「ええー! 私食べてた?」
吃驚した顔のモリエに簡単に説明するとすぐ判ったのじゃ。
「あの白いのがキノコかー。美味しいよね、私は結構好きかな」
「戻した汁にも良い味が出ておるゆえスープなぞのダシに加えておったのじゃ」
「興味はわきますね。逆に確かめていない自生キノコを食べる人が出ないかの注意が必要かもですね」
「そうだね。イノシシとかキノコ食べてるけどあれは安全なキノコなのかな」
「そう言う判断が危ないのじゃ」
モリエにツッコミを入れておるとキノコがやってきたのじゃ。
「一つは函じゃなく袋だからほぼ確実に食いもんだ。逆に小さい箱に大事に入ってる奴もある」
そう言う前置きで出てきたのじゃが、有意義な買い物になったのじゃ。
まず当に話に出たモルケッラが一函あって満足、更に袋と言っておったものは椎茸かその近縁種を干したものだったのじゃ。
高級そうなものはおそらく霊芝なのじゃが、いまいち使い方が判らぬゆえ食材ではなく薬として扱われておるとだけ教えておいたのじゃ。他わからぬものがあったのじゃが商品として持ってきておる時点で毒ではあるまいと考えて少量だけあがなうことにしたのじゃ。戻して味を見て追加であがなうかどうかを決める予定なのじゃ。
「キノコはそのままで売れる目はありませんからね。押しつけられたことに同情はしますが値付けとしてはこんなものですよ」
ぐったりとした店主とツヤツヤとしたミルケさんの図が再び、なのじゃ。まあ仕方ないのじゃ。
「いや確かに困った在庫が大分はけたのは事実なんだけどよ」
「では良いことなのじゃ」
さっくり切って捨てて次が本番なのじゃ。キノコは予定外の喜びだったのじゃがの。
「薬種は多岐にわたるゆえ片っ端からとはいかぬのじゃ。色々と思い出しつつ語るゆえそれっぽいものがあれば持ってくるのじゃ」
そう、香辛料捜しこそが本来の任務なのじゃ。これも中々に有意義な買い物となっておったのじゃが、そこになにやら訪ねてきた者がおるのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。