ダンジョンの話と食材なのじゃ
こんにちは。
今日もよろしくお願いします。
さて食後は調味料や香辛料を探す楽しいショッピングの時間なのじゃ。
この点でもミルケさんは事前調査がしっかりしておったのじゃ。これはわらわから問い合わされた場合に備えて準備してあったものらしく、ありがたい話なのじゃ。
店の情報なぞがまとめられたものはありがたく預かり、今日はミルケさん推薦の店を巡るのじゃ。地元の産物を主に扱う食品や加工品そして調味料を扱う店と同様の品目ながら船荷やエインさんのような交易商を通して入荷する輸入品を主に扱う店、二種類の店舗がピックアップされておるのじゃ。地元食材にも疎いことを把握されておることにむしろ安心感を覚えるのじゃ。
そして薬種問屋も同様に二軒、こちらはまあどちらにも輸入品はあるそうなのじゃ。なんとなく輸入品の高級な薬の方が効く気がするからの、これも偽薬効果の一種なのじゃ、おそらく。でまあ片方は近くで採集されるハーブ類なぞも生のままであったり吊して乾燥させたりで売っておるのを主にする店でもう一方は本格的に輸入品と希少な薬剤を扱う店だとのことなのじゃ。
「ハーブの店の方は冒険者協会に採集依頼とか出るから馴染みがある。そしてどっちもポーション屋とは別。駆け出しはポーション屋と別なことを判ってないことが多いね」
「うむ、判っておらんかったのじゃ」
「ポーションを作る錬金や調合を行う人や工房が原材料を仕入れるお店ですね。熱冷ましの薬草なんかはそのハーブ中心のお店で買えますけど」
なるほどなのじゃ。考えてみれば自分でポーションに加工できるならば原材料を販売して手放す必然がないのじゃな。まあ薬効期限なぞの問題もあるであろうし一概には言えぬのじゃが。
錬金のことは気になるのじゃが、まあそれはおいおいなのじゃ。
で、お店巡りなのじゃが新しい発見と捜し物の発見、どちらともがあって面白く、そして楽しいのじゃ。
先ず食材店なのじゃが前世の記憶にあらぬ食材なぞもそこそこあり興味深いのじゃ。前世の食事の再現やマイナーチェンジばかりしておるのじゃが、前世の記憶にあらぬこの世界の食材を利用した新しい料理も生み出したいものなのじゃ。その方が本道であろうからの。まあ先ずは出来ることからこつこつと、なのじゃ。
そんな中で特に興味深かいものがダンジョン産の果実や野菜なのじゃ。なんでもダンジョン以外ではお目に掛からぬ植物が生えておることがあるそうなのじゃ。で、その中には美味あるいは珍味のたぐいが混じっておると言う話なのじゃ。
「ダンジョンについての資料も協会の資料室にあるのかの」
「ごめん。資料室行ったことないからわからない。代わりに私が聞いたことのある範囲で良いなら教えるよ」
資料室で近くの魔物の生態なぞについては読んだのじゃがダンジョンについては読んでおらぬのじゃ。うむ、資料を選んで貰うた時にダンジョンについてなぞは尋ねておらんかったのじゃ。
それは兎も角食材店から薬種問屋へ移動しつつモリエから知っておることを聞いておくのじゃ。
「よろしく頼むのじゃ」
「潜ったことはないから聞いた話だよ。そこはわかってね」
「了解なのじゃ」
そんな前置きをしてモリエは話し始めたのじゃ。
「ダンジョンの中は外と全然違うことがある。洞窟に潜ったはずなのに森の中だったり。その場合太陽はないけどなんか明るいらしい。で、森とか草原のダンジョンだと外では見かけない植物が生えてることがある」
不思議空間なのじゃ。魔法の類を使っておって言うのもなんなのじゃが、生まれて以来十年生活しておった世界ゆえ前世の記憶を思い出しておってもファンタジー感が薄くしか感じられておらなんだのじゃがダンジョンはかなりファンタジーのようなのじゃ。
「その中に美味しかったり、ポーションの素材になったりするものが含まれてる」
「それは外で増やせぬのかや?」
栽培できれば話は早そうなのじゃが。
「それはですね。ダンジョンから種や苗を持ち出して実験した人は古今沢山いるのですが難しいんですよ」
商品価値のあるものの話ゆえミルケさんも把握しておるようでミルケさんが説明してくれたのじゃ。
ダンジョン内に自生しておる第一世代から種や苗を採って外界で育てた第二世代の場合、環境が違うためか大半が育たぬ上育っても品質は半減するのじゃそうな。とは言えそれでも充分商品価値がある水準なのじゃ。
因みに食材店であがのうたダンジョン南瓜はこの第二世代のものなのじゃ。ここではケータと呼ばれておる南瓜は外見上ハロウィンに使うペポカボチャに近い種なのじゃが、ダンジョン南瓜は前世日本でよく見ておった日本南瓜にそっくりであったのが購入動機なのじゃ。
それは兎も角なのじゃ。その第二世代から第三世代へ、という段階では環境的に育たぬことは少なくなるのじゃが品質の劣化は止まらず更に半減するそうなのじゃ。そしてここで打ち止めとなって種苗が採れなくなるものと普通の作物となって定着するものとに分かれるそうなのじゃ。
つまり第三世代は通常の作物と変わらぬ品質で、逆に言うとダンジョンの自生種は通常の四倍の品質を誇るわけなのじゃ。
収穫量が冒険者の背負い袋に依存するゆえまともに流通するものにあらざるのじゃがの。
「品質の高さと入手難易度から品薄であることで結構な価格で取り引きされますね」
「とは言っても魔漿石の方が高いし、食べれると言うか売れる植物の知識がないと効率よく採集できない。知識のある商人とかの護衛の依頼はあるけどそれ以外はそんなに人気はないよ」
そう言う護衛をこなして知識を身につけた冒険者は自力で採ってきたりするようなのじゃがの。なんにせよ興味深いのじゃ。
「クーノン王国のブンツキョルテにあるのがここからなら一番近い。メルデンカシナにもあった筈」
「何百年も前のことになるので真偽は判りませんが林檎は冒険者がメルデンカシナのダンジョンから持ち帰って来たものから広まったと伝えられていますね」
ジープラント王国の国内にはあらぬと言うガッカリ情報と今生で一番食べておると思われる果実である林檎がダンジョン由来のものであったと言うビックリ情報が同時にやって来たのじゃ。
新鮮な驚きだったのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。