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のじゃのじゃ転生譚 ~のじゃ語尾チート少女のあんまり冒険しない冒険者生活  作者: 七井
物件を見に行ったりカレースープを作ったりするのじゃのじゃ少女
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予想を超えたバカは予想外ゆえ困るのじゃ

こんにちは。今日もよろしくお願いします。


「街の子が増えてるような気はしてたんだけどねえ」

「なんとかしてやりたくても私らも自分らの生活でいっぱいいっぱいだからねえ」

 善良な街人等に問題が伝わるだけでも意味があるのじゃ。そして、子ども等の扱いが非道な冒険者については子を持つ親の立場で街の人が怒りを燃やしておるのじゃ。

「血を流してる連中、少しは可哀想かと思ってたけどとんでもないね」

「やっぱり潰しておくべきじゃない?」

 話を聞く余裕がある二人は身を寄せ合って震えておるのじゃ。まあ身から出た錆なのじゃ。しかし、冒険者の評判が下がってしまうのも問題じゃの。違法な奴隷商が暗躍しておるらしき話もしておくかの。

 そう思っておると護送用の荷車を馬ではなく自分等の人力で牽いて警邏隊が到着したのじゃ。


「マーティエ! ご無事ですか」

「マーティエ!」

「俺がお守りします!」

 さ、騒がしいのじゃ。そして警邏隊の隊員たちがわらわに群がってくるのじゃ。

「落ち着くが良いのじゃ。一度に喋るでないのじゃ!」

「いや、実際大丈夫なのか」

 ゲノール隊長が手で皆を黙らせて前に出てきたのじゃ。しかし警邏隊の隊員等にこんな人気が出ておったとは驚きなのじゃ。まあわらわはかわいいからの。

「何をしている! 城市内で危険な魔術を使ったその小娘を拘束しろ!」

 走ってきたらしく息を荒げながら警邏隊の副長がそう叫んだのじゃ。


「魔術? まあ魔術にしろ祈祷にしろ使ってなぞおらぬのじゃ。のう」

 本当は使っておるのじゃが素知らぬ顔で縛られておる連中やそれを囲む街の人等を見やるのじゃ。

 無論、皆から使っていない旨が述べられるのじゃが、拘束されておる冒険者の一人が副長に向かって罵り声を上げたのじゃ。

「話が違うじゃねえか! こいつ等は皆この娘に殴り倒されたんだぞ!」

「ほう、尾行がついておると気づいたとき見たことのある警邏隊の制服が一人混じっておったのじゃ。ゆえに警邏隊を呼ぶとき信頼できるゲノール隊長を呼んでもらったのじゃがの」

 冒険者のいきなりの告発に乗っかっておくとするのじゃ。


「そうだ! 俺たちはそいつに雇われて」

「黙れ! ええい、手向かいするかっ!」

「へっ!?」

「えっ」

「あっ」

 抜剣にもたついた何番目かの豚鬼オーク面と違い一応警邏隊で訓練を受けてきておる副官は細剣を一瞬で抜き放ち、その切っ先が冒険者の胸に突き込まれたのじゃ。

 余りにも突然の凶行にわらわを含めた全員が固まるなか副官は狂気を孕んだ声で叫ぶように一節ずつ声を発したのじゃ。

「容疑者が! 抵抗したので! やむなく制圧しましたあッ!」


 最初に我を取り戻したのはゲノール隊長であったのじゃ。一声も放たず見事なパンチを副官の顔面に振り下ろし、マット、ではなく石畳に叩きつけたのじゃ。叩きつけられた副官は石畳上で一回転して気絶したのじゃ。美しい一発KOなのじゃ。

「副官を拘束しろ!」

「は、はい!」

 隊員たちが慌てて動き出したのじゃ。わらわも慌てて動き出すのじゃ。

「街中ではあるのじゃが、祈祷を使わせてもらうのじゃ!」

「頼みます、マーティエ!」

 魔漿石を取り出しながら刺された冒険者に駆け寄るのじゃ。抜く前に殴り倒されたゆえ細剣は冒険者の胸に突き立ったままなのじゃが、抜くと激しく出血しそうゆえ良しとするのじゃ。


 小さく呻き声を上げる冒険者に魔漿石を握らせ<治癒>なのじゃ。

 呻き声を上げることが出来ておる段階で心臓を貫かれてはおらぬのじゃ。しかし呻きながら血泡を吐いておるゆえ肺と太い血管は傷ついておるのじゃろう。助かるか否かは運次第魔力次第なのじゃ。

 明確なイメージは魔法の行使を助けるのじゃ、傷が修復されていくイメージ、細胞やあるいは肺や血管と言った人体の構造に関するイメージ、本当に今生の人類が前世の知識にある人類と同じなのかどうかと言う根本的な疑問は封印して治るイメージだけを持つのじゃ。

 ゆっくりと癒しの力の浸透に合わせて細剣を引き抜いて行くのじゃ。抜ききる、と同時に傷が塞がるのじゃ。表面だけでなく内側も治っておるはず、なのじゃが被術者の魔力が足りねば全てが無駄なのじゃが。


 よし! 息をしておるのじゃ。しかし魔力枯渇状態らしく気を失っておるの。魔漿石が割れておらぬゆえあの牢で治した男より軽かったのかの。

 容態を確認すると呼吸音に少しゴボゴボとした音が混じっておるのじゃ。気絶したままの冒険者の口に手を突っ込み、喉の方へ指を差し込んで、なのじゃ。

「<洗浄>」

 気を失ったままバタバタと動いたのじゃがすぐ大人しくなったのじゃ。確認すると呼吸音もクリアになったゆえ成功なのじゃ。

「あの、マーティエ?」

「肺の中に血が残っておったのを<洗浄>したのじゃ。しばらく目を覚まさぬとは思うのじゃがもう命に別状はないのじゃ。いろいろ喋ってくれようほどに、殺されるではないぞえ」

「ああ、わかっている。ありがとう。そして本当に申し訳ない、謝罪する」


「ぬ? なにを謝っておるのじゃ」

「いくらお偉いさんから押しつけられたと言ったところであれが俺の副長、部下であったことに代わりはない」

「ああ、なるほどなのじゃ。では謝罪を受け入れるのじゃ。まあご苦労様と言ったところなのじゃが、それではあれの尋問も難しいのかえ」

 隊員等に手荒く運ばれる縛られた副長を指し示すのじゃ。扱いから見て愛されておらなんだことだけはよくわかるのじゃ。

「現行犯だし余罪も明らかだ。なんで口封じを防ぐ必要はあるがあいつが知ってることは何一つ余さず吐かせてみせるさ」

 そう言ってゲノール隊長は声を潜めたのじゃ。


「マーティエが治してくれた男は総督府の密偵だったぜ。黒い噂のある元奴隷商を内偵していたらしいがどうやら行政府に黒幕がいやがるようだ。副長なんぞはそのしっぽの更に先端の抜け毛と言ったとこだがそこの所まで取り調べが出来る。ホントにありがてえ」

 なかなか警邏隊も内部事情が大変そうなのじゃ。まあ冒険者協会も余所のことを言えた義理ではないのじゃが。

「それはちゃんと黒幕まで手は届くのかえ?」

「今は総督府だからな。代官府と行政府だと同格なんでいろいろ面倒なんだが今なら総督府に話が通ってればいける。その為に支隊長は大忙しさ」

 普段なら王都から来た役人に頭を抑えられるなんて嫌な話なんだが今回ばかりはありがてえ、とゲノール隊長は笑ったのじゃ。


「では活躍を期待しておるのじゃ。無論其方等にもの」

 警邏隊の隊員等にもそう告げると歓声が返ってきたのじゃ。うるさいのじゃ。

「張り切りすぎて怪我なぞせぬようにの。少なくともわらわが治せる範囲に留めるのじゃぞ」

「はい! わかっています」

「でもマーティエに治療していただきたいです!」

「あ、俺も」

 ええい、騒がしいのじゃ。

「わらわからも調書なぞを取らねばならんのじゃろうがこの後用があるゆえ明後日の神殿で頼むのじゃ」

「はい、身許は確かですんで大丈夫です」

 いやわらわの身許は怪しいのじゃがの。思っても口には出さぬのじゃが。

 ともかく荷車に容疑者どもを山積みにして警邏隊の面々は去っていったのじゃ。全く騒がしかったのじゃ。


「本当に皆には助けられたのじゃ。近いうちになんぞ礼をするゆえ名を教えてくりゃれなのじゃ」

 親切な街の人にも挨拶しておかねばの。最初は礼なぞいらぬと固辞しておったのじゃが、住所がわかっておるゆえここに送りつけて配ってくれと頼むことになるのじゃ、と説得した結果皆の名を控えることが出来たのじゃ。まあ大した礼が出来るわけにはあらぬと言うことで安心したようでもあったのじゃ。商業組合で相談しておくのじゃ。

「では、世話になったのじゃ! わらわに手伝えることがあらば駆けつけるゆえ気軽に声をかけてくりゃれ」

 と言うわけで商業組合への道筋へ戻るのじゃ。余計な時間を費やしたものなのじゃ。


 先ずは役に立ってくれた試作版セスタスを収納し、そして少し速めに歩きながらちょっと反省なのじゃ。

 ギルマスには理知的に考えるものは非理知的な相手に足下を掬われることがあるなぞと忠告の書面をしたためたというのに、当に先程は非理知的な行動に虚を突かれてしまったのじゃ。

 他に証人が五人もおるのにあの冒険者一人を突き殺してなんになると言うのじゃろうかの。未だに全く理解は出来ぬのじゃが、理解できぬがゆえにその場にいた誰も阻止できなかったのじゃ。その前の表通りに出て剣を抜いたバカ者共の行動も理解不能であったのじゃ。

 理解不能な一手にしてやられることがないよう気を引き締めておった方が良いようなのじゃ。

お読みいただきありがとうございました。

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