お祭りではゲーム大会と屋台を出すのじゃ
こんにちは。
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「祭で競技会を開くのも良いの。とは言っても運営側の人員が問題じゃな。遊戯を理解しておる必要もあるゆえ、冒険者あたりに広めて雇うことが出来るならばあるいは、じゃの」
「競技会、ですか?」
オズンさんがきょとんとしておるのじゃ。少し説明を足さねばならぬようなのじゃ。
「人狼ゲームは競技会には向かぬが他の三種はできるであろう。賞金なり商品なりを出せばそこそこ盛り上がると思うのじゃ。子どもの部も作ってこちらは菓子なりの参加賞をばらまけば良いかの」
「賞金を出す、のですか」
ああ、競技会とかそう言う催しがまず分かっておらんかったのじゃ。
「幾らで売るか分からぬゆえ金額は置いておいてじゃ、競技会で勝ち抜いて優勝となれば盤と駒が五十組買えるほどの賞金がもらえる、となれば先に盤と駒を買って研究して臨もうというものに二百は出よう」
「なるほど、何というか意味としては引き札のようなものですね」
引き札というのは広告チラシのようなものなのじゃ。紙は高い、木版は面倒、と言うことでそう一般的ではないのじゃが珍しいからこそ前世基準で考えるより相当に宣伝効果のあるものなのじゃ。
まあそう言う広告宣伝費から出ておるという考えは間違いではないのじゃ。うむ、むしろ聡くはあるのじゃ。
「なんなら競技会へ参加するための木札を付けることで余所が真似したものを出しても売れにくくすることが出来るのじゃ。どっちにせよ生産が間に合うのかどうかになるのじゃが」
「それはなんとかさせましょう」
職人さんの安否が気にかかるエインさんの断言なのじゃ。
「それこそ賞金の出る競技会のことを載せた引き札を刷りますか。問題は確かに人手ですが」
「明後日私たちの宿でやってみるのでしたよね。その翌日から広めれば頭数は揃うかと。この城市では冬場の冒険者は暇をしてますので」
ただ、盤と駒は回して貰う必要があるとベルゾは言い足したのじゃ。
「競技会に賞金狙いで出たがるのではないかの。運営側で参加して依頼の報酬を受け取る堅実さが皆にあればよいのじゃが」
「それは大丈夫です。私に勝てない限り出場しても優勝の目はないですから、それを教えるまでです」
そう言ってベルゾはニヤリと笑ったのじゃ。この男、自信満々でやる気なのじゃ。
「規模の方は駒作りを下請けに回して作れる限界から割り出しますが、話の流れとしてこの神殿の前の広場に面した店が営業しておらぬところが多く始まりの週の祭も閑散としている、と言う話題からでしたね。つまり前の広場を会場として押さえると言うことでよろしいですか?」
「うむ。規模は分からぬが一日に全種目出来るとも思えぬゆえ三日目から最終日まで押さえるのじゃぞ。一試合ごとの時間も余り延びると困るゆえ一手の時間制限も必要かも知れぬの」
販売ブースや、見物に来たものも体験できるよう貸し盤や貸し駒を据えたスペースも必要なのじゃ。ここでは人狼ゲームも体験できるようにしておくべきなのじゃ。
「ここの厨房か修道会本部で調理することにして屋台も神殿の前に出すかや。子どもの部の参加賞や競技会の予選突破の賞品をその屋台で使える交換券にでもすると良いのじゃ」
「元から広場に屋台を出す予定であったところには話を通して神殿側を屋台の配置列にするようにしましょう」
話を雑にまとめて大概のことをエインさんに押しつけておると老リーディンが溜息をもらしたのじゃ。どうしたのじゃろうかの。
「ただの世間話からどうやったらこんな大仰な話になるのか横で聞いておっても付いて行けぬわい。まっことマーティエには厄介ごとの才能があるわいな」
なな、なんということを言うのじゃ、この老人は。失礼なのじゃ。エインさんとベルゾも深く賛意を示しておるのじゃ。むう。
「騎虎の勢いなのじゃ。わらわに振り落とされて喰い殺されぬよう勉めるが良いのじゃ」
プンスカなのじゃ。がおーっ。
「騎虎の勢い、とは?」
エインさんが首を傾げておるのじゃ。
「失礼。ここいらでは言わぬ言葉であったかの。『大事已に然り。騎虎の勢い、必ず下ることを得ず』なのじゃ。虎に騎乗して走り出してしもうたら最後、降りると虎に喰われるゆえ乗って突っ走るしかないと言う意味なのじゃ」
「それは船乗り連中の『乗っちまったらもう後は沈むか進むかしかない』と言う言い回しにも近いですな」
タンクトップおじさんがそう言って感心しておるのじゃ。まあタンクトップおじさんは他人事じゃから気楽なのじゃ。
「神殿前に出す屋台の収益は神殿に還元されるゆえ信徒代表として其方も手伝うのじゃ」
「最初の二日はお偉いさん方に付き合わされて残りは港湾協会の方でも屋台を出しますので忙しいのですが、まあ仕方ありませんね。家内や息子にある程度任せて参ります」
タンクトップおじさんも巻き込んでおくのじゃ。港湾協会の屋台はやはり魚介類の料理の屋台かの。そっちも興味あるのじゃ。
魚介類や昆布なぞの海草類に関して相談に乗って貰うために港湾協会もそのうち伺うことにするのじゃ。
「信徒として、となればうちのものも手伝いに参りますよ。他のお家もおそらくは」
マードが控えめにそう言ってくれるのじゃ。
「で、あれば神殿前の屋台は二つで頼むのじゃ」
屋台の設置申請なぞはエインさんに丸投げ事案なのじゃ。
「マードが手伝ってくれるのならば、なのじゃ。ズークさんの方の仕事の早さ次第なのじゃが屋台で先行販売を行って宣伝しておくのも手なのじゃ」
がっつりした料理の屋台とお菓子の屋台であれば客も取り合わぬしの。
「それは間に合わさせます。最悪箱が出来てなくても人を押さえておけばお教え願えますね?」
「それは無論なのじゃ」
マードの間に合わさせるとの断言も怖いのじゃ。わらわ以外怖い人ばかりなのじゃ。そうわらわがガクブルしておると老リーディンがわらわを見てまた溜息をついておったのじゃ。解せぬのじゃ。
マードがズークさんの奥さんだと分かってエインさんが改めて挨拶しておるのじゃが、神殿ではマードはマードゆえ難しいところなのじゃ。
本来なら通いのマードなぞ存在せぬからこういう問題はないのじゃ。立場としてはお手伝いの信徒さんに近いのじゃが、マードがおらぬゆえこうなっておるのじゃな。
「マーティエとはお付き合いがあって、神殿の方とこうして交誼を結ぶことが出来ましたが私どもの店でも神の像なぞを祀るべきなのでしょうか」
エインさんの素朴な疑問なのじゃが、あれじゃの、やはり認識の違いは大きいのじゃ。
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