表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/247

歩く絵面が悪すぎるのじゃ

ごきげんよう。

今日も二話更新です。

これは一話目(1/2)。


 暗くなった道を後ろ手に縛られた耳から血を流すおっさんと二人の子どもが歩く。異様な光景なのじゃ。

 俺はもうおしまいだ、なぞの泣き言をぶつぶつ呟いてはおるが心も折れたらしくクードンも素直に歩いておるのじゃ。曲がり角などでラーリに目で問うがどうやらきちんとフォルデン商会へ向かっておるようなのじゃ。

 夜の街に関しては伝聞情報しかないゆえ不確かなのじゃが、街灯のある盛り場と大通り以外を夜警が見回っておることはないはずなのじゃ。面倒は遠慮したいゆえこの情報が正しいことを祈るのじゃ。


 祈りが通じたのか誰にも出くわすことなく高級な商業街区に辿り着いたのじゃ。建物の殆どが石造になり、木造混じりの場合は塗料で色や模様が塗られたりと別な高級感をだしておるのじゃ。

 街区に入って直ぐラーリからの視線の合図があり、もう目的地なのだと解ったのじゃ。

 高級な街区とは言え街区を隔てる水路沿いと言う立地なのじゃ。フォルデン商会とやらも新興であるのやも知れぬの。

 ラーリからだけでなくクードンももうそこだと言ってきたのじゃ。


「ラーリよ、どの建物かわかるかえ」

「そこの角の店だ。贅沢に鉄の枠が嵌まってる扉の」

 全く贅沢なのじゃ。孤児院では蝶番が高いと言うだけでまともな窓や扉が殆どないというのに。

 八つ当たり気味にさっと取得する。クードンの店は何も考えず取ったため一般化された建物として収納されておるのじゃが、実はあれは失敗なのじゃ。スタックさせるにはいい取り方なのじゃが一般化された時点で固有のものが失われた可能性があるのじゃ。


 と言うわけでその失敗を踏まえて収納された『フォルデン商会本社店舗』を思考ポインタで長押しする。解体メニューで採れる品目が表示されるのじゃ、解体してしまってからソートしても良いのじゃが今の捜し物はこの方が速そうと思ったのじゃ。それに選択したものだけを分離して取り出すこともできるようなのじゃ。

 うむうむ、クードンの店のことは別に失敗じゃなかったのじゃ。


 確認作業をしておると膝から崩れ落ちたクードンが壊れた人形みたいになっておるのじゃ。まだ使い道があるのであまり壊れて欲しくないのじゃが。

「なんなんだ、なんなんだお前ら。ばけもの、ばけもの」

「大声で中にいる商会の護衛に合図をしてわらわたちのどちらかに体当たりをして水路に飛び込む。そんな妄想でもしておったのかえ。後ろ手に縛られておるゆえ溺れると思うのじゃがの」

 当たっていたらしく、ビクッとした後また俺はもうおしまいだと言う泣き言を壊れたレコードのように漏らし続ける存在に戻ったのじゃ。


「本当におしまいかどうかは己で選ぶが良いのじゃ」

「ど、どういう意味でえ」

 完全に暗くなって表情は互いに見えなくなっておるのじゃが、一縷の望みすら絶たれた絶たれたクードンの声には一切覇気がないのじゃ。

「其方とフォルデンとやらに指示を出しておった本当の黒幕の名を言うが良いのじゃ」

「えっ」

 なんでラーリが驚いておるのじゃ。


「なななななんでそんな突拍子もないことを」

 クードンは大慌てなのじゃ。そこまで黒幕が恐ろしいのじゃろうか。普通目の前の脅威の方が恐ろしいと思うのじゃがこの期に及んでまだわらわをなめておるのじゃろうか。

「名を言わずとも其方はおしまいのようなのじゃが、わらわに名を漏らせば其方だけ生き延びる道があるやも知れぬのじゃ」

 クードンは路上に座り込んだままむっつりと黙り込んだのじゃ。暗くて表情が見えぬが死ぬ覚悟を決めたのか計算しておるのか。


「なんで更に黒幕がいるってわかるんだ?」

 ああ、ラーリはそこら辺をわかっておらなんだか。

「先ずこの地上げは最初からおかしいのじゃ」

 ラーリの頷く気配を感じつつ説明を始めたのじゃ。クードンにも考える時間を与えてよいじゃろう。


 孤児院は街区の神殿に付属した施設なのじゃ。そして地上げの対象は孤児院を含めた神殿の敷地全体なのじゃが、これから先ずありえないのじゃ。

 街区の神殿は街の正神殿に属しておるのじゃが、更に正神殿を通して大陸全土に広がる神殿組織へと繋がっておるのじゃ。

 要は神殿が所有する不動産は簡単に売り買いできるものではないのじゃ。単純に神殿領の畑を買う、と言うのでさえ面倒なのじゃが、信徒がおり礼拝所が機能しておる神殿となると聖職者どもが常に希求する職位を削ることになるゆえ大変なのじゃ。正神殿に呼び戻されたリーディンは神殿長という職位と役料を失ったわけなのじゃが素直に戻った以上次の職位に就く推薦かあるいは職位に代わるだけの金が動いておるのじゃ。

 認可権を持つ上の方から実際に売り買いをした末端に至るまで全員に充分な賄を納めた上どれほどの対価を要求されたのか想像もつかないのじゃ。


「ラーリもマーリィの歴史の授業で神殿を城塞に改装して使うため譲り受けたが、対価として素直に戦争に負けた方が失うものは少なかったじゃろう、と言われるほどの領域を神殿領として持って行かれた国の話は聞いたことがあるはずなのじゃ」

「ああ、覚えてる。そんな神殿批判めいた語り口じゃなかったけどな」

 説明が長くなったゆえラーリが飽きておらぬかと思ったのじゃが、案外ちゃんと聞いておるのじゃ。


「で、そんな大金と人脈か権力を使って、なにをするというのじゃ」

 さっきから黙ってるクードンの方をちらりと見て続ける。

「あそこで商売しようが、転売しようが、幾つも建物を建てて店を出し客を誘致して土地の価値を上げようが、使った金を取り戻せるものではないのじゃ」

 取り返せるのはその土地を更に領主さまなり王国なりが高値で買い上げる土地転がしくらいなのじゃが、その購入にも理由をつけねばならぬ以上難しいのじゃ。

 つまり地上げのために地上げをするエクストリーム地上げマニアでないのであれば土地建物以外の他の目的が必要なのじゃ。


 その他の目的が問題なのじゃ。

「それでなのじゃ。実は土地と建物以外に手に入るものがあるのじゃ」

「なにが手に入るんだ」

 わらわの険しい口調に気づいたのかラーリが問いかける。

「孤児院におる未成年の子らの身許に関する権利なのじゃ」

「えっ」

「王国に限らず殆どの国の法では子は親に属すのじゃが、孤児院の孤児は孤児院の所有者に属すのじゃ」

 この世界、いや前世でも国によっては親の子に対する権利権限と言うものは非常に大きいものなのじゃ。生殺与奪の権とまでは言わぬが家長である父親が娘を娼館に売り払っても咎め立てはされぬほどのものではあるのじゃ。奴隷は違法ゆえ娼館側はこす狡い契約書を必要とするのじゃが。

 それほどの権利を孤児院の所有者は孤児に対して持つのじゃ。普通は神殿管理ゆえいかほどの問題もないのじゃがの。


 地上げがなれば孤児らは追い出される、そう追い出されるだけと言われそう信じていたラーリがクードンへ怒気を向けたのじゃ。

 おお、ボコボコに蹴った上馬乗りになって首を締め上げておるのじゃ。


「少し落ち着くのじゃ」

 クードンを締め上げるラーリを止める。あまりヒートアップされても困るのじゃ、短剣も持っておるしの。

 わらわたちのおるストールベリ王国を含めて北方諸国群では奴隷の売買は禁止されておるが、禁止されておるがゆえに裏で高値で取り引きされておると言う噂はあるのじゃ。それでも神殿相手に使った金を取り戻せるとは思えぬ以上、ぶっちゃけわらわが目的なのじゃと思うのじゃが、それはまあ黙っておくのじゃ。

 第一クードンやフォルデンが他の子らを売る気であったことに関してはわらわは一切疑っておらぬのじゃ。


「なんにせよ、使った金が戻ってこないような商売をする商人はおらぬのじゃ」

 フォルデン商会跡地の空き地を眺めながらそう言う。暗いとは言えクードンにもわらわがどこを見ていったかわかったのじゃろう。乾いた声で短く応えた。

「そうだな」

 ラーリに締め上げられてもさして堪えた様子がないのは流石と言うべきかの。しかし、もう充分に考える時間は与えたのじゃ。


「さっきの話の続きなのじゃが、其方が黒幕の名も知らんような使いっぱしりの犬っころであると言うのじゃったら、其方の生死なぞどうでも良いゆえ後ろ手に縛ったまま水路に蹴り込んで運試しをさせてやるのじゃ」

 わらわの冷たい声にクードンは座り込んだままずりずりと水路から離れようとする。良い傾向なのじゃ。此奴、生きようとしておるのじゃ。


「名を知っておるが言わぬ、と己の命で格好を付けてみたいのであれば今度はみぎ、左耳程度では済まぬことになるのじゃ」

 クードンが下がった分踏み込み圧力を強める。正直十歳の美少女では威圧感が一切足りぬのじゃがその点で暗くて良かったのじゃ。暗いと美少女っぷりが見えぬのがデメリットなのじゃが。


「そして名を素直に言うのであれば、じゃ、一つ頼まれ仕事をしてくれればそれだけで後は見逃してやるのじゃ」

「仕事?」

 わらわはその場で収納空間の出納機能で『フォルデン商会本店店舗』からさっき確認した一枚の羊皮紙だけ分離、展開したのじゃ。

「これは孤児院を含めた神殿の敷地建物の権利書類じゃ。これを今更換金する術はないと思うのじゃが一応ラーリに預けるゆえ、其方は朝になったら一緒に正神殿へ行って奉納してくるのじゃ。自分の店や商売相手が消えてしまうという怪異にあって神々に祈る気持ちになったとでも言っておけばよいのじゃ」

 うむ、これがクードンの店ではなくフォルデンの方にあって良かったのじゃ。万事オーケー、わらわに失敗はないのじゃ。

 それにしても植物で作った紙が流通しておるのに公文書は格好を付けて羊皮紙なのじゃな。前世を含めて初めて触るものゆえ少し余分にさわさわしてからラーリに渡すのじゃ。


「まあ名を教えて、それさえやってくれるなら見逃してやるのじゃ。わらわたちは未成年の孤児ゆえ見逃す以外の利益を提供できぬが、其方の命の値段分の利益なのじゃ。其方にとっては悪くはないと思うのじゃ」

「そ、そうか。そうだよな」

 クードンは乾いた笑いをこぼす。そろそろ他の店から様子見に人が出てくるんじゃないかと気になるのじゃ。ほどほどにして欲しいものなのじゃ。

「そうか、孤児院のガキだったなお前らは…。くくっ、一体全体なんなんだよ」

 泣き笑いの様相になってきたのじゃ。うんざりなのじゃ。


「ああ、そう言えばわらわは名乗っておらんのじゃな。失敬したのじゃ」

 また右手を前につきだした厨二病ポーズなのじゃ。

「わらわは『人消しの魔女』なのじゃ! 其方は今決めるが良い、消え去るか否かを」



お読みいただきありがとう御座いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ