クロックノールなのじゃ
こんにちは。
多分クロキノールの方が正しいです。
それはともかく今日もよろしくお願いします。
さて三つ目はクロックノール、あるいはクロキノールとも呼ぶのじゃ。と言うよりおそらくクロキノールが一般的なのじゃが父さまがクロックノールと呼んでおったゆえクロックノールとするのじゃ。
これは趣向を変えて完全に物理的なゲームなのじゃ。
カーリングのような競技を駒をオハジキのように指で弾くことで行う遊戯なのじゃ。同じように指で弾いてビリヤードのように遊ぶカロムというゲームもあると聞いたことはあるのじゃがそちらはやったことがないのじゃ。
「これは一抱えくらいの丸か八角の盤面が必要となるのじゃ」
「ふん、樽の蓋くらいだな」
これまで二つの注文の段階でわらわから注文が出てきておることを理解しておるので職人さんと素通しでやり取りなのじゃ。
「良いのう。大会でも開くときは樽を並べるかの。っと、それは兎も角なのじゃ、その盤面は完全に滑らかで引っかかりがあってはならぬのじゃ。一枚の板材を磨くのはよいのじゃが、複数の材を組んだ場合でも継ぎ目が掛からぬ滑らかさを要求するのじゃ。できるかの?」
まあオハジキを撃ち合うのじゃからの。滑らかなことは必要なのじゃ。
「任せろい」
任せるのじゃ。
「その外縁に溝を巡らせるのじゃ。これは盤から落ちた駒を受け止める部分なのじゃ」
駒はそんなに大きくはあらぬのじゃ。語源はクッキーの一種というのじゃがそれにしては小振りなのじゃ。と言う程度の大きさなのじゃ。
盤面の中央にその駒より少し大きい程度の窪みを穿つのじゃ。これを中心に円を描く、紙を広げて木の串とペンを紐で繋いだコンパスで実際に描いてみるのじゃ。紐の長さを変えてもう二回なのじゃ。窪みを中心とした同心円が三つなのじゃ。
で、内側の円の円周上には八つの出っ張った小さい杭を立てるのじゃ。
「その八つから線を引いて八角の盤でもいいわけだな」
「そうじゃの。わらわの馴染みは丸なのじゃがどちらでもいいのじゃ」
中心の窪みが二十点で、八つの杭で守られた円の内部が十五点ゾーンなのじゃ。そして残りの領域も同心円によって十点ゾーン、五点ゾーン、初期配置の外縁ゾーンに分割されるのじゃ。
ゲーム自体は二人か二人ずつのチームの四名で順番に弾き合う簡単なものなのじゃ。
最初や敵の駒がない状態だと十五点の円内に駒を弾き入れなければならないのじゃが、そのあとは直接間接問わず敵の駒に当てる必要があるのじゃ。当て切れなければファールゆえ取り除かれるのじゃ。敵の駒を外側の点が安い領域や盤外へ弾き飛ばし、自陣営の駒を高得点の領域に留めるゲームじゃの。
ただ、中央の窪みにぴったり入った駒はその時点で取り除かれ二十点となり他の駒の衝突を受けぬ立場になるのじゃ。
そして各陣営十二駒ずつ弾き終えたらそこで残った駒の点数を比べて得点差をそのラウンドの点数として数えるのじゃ。この点をラウンドごとに加算していき勝利条件の点に至った時点で勝敗が付くのじゃ。
これはどうやらいまいち分からぬようでエインさんも首を傾げておるのじゃ。
「弾いた駒がさらに他の駒に当たったりだとか杭を使って反射させたりだとか直感的な物理の考えが必要で案外面白いのじゃがの。と言うか、求めるようなツルツルの盤面は無理でも雑なものなら錐で穴を空けて小さな杭さえ立てれば出来るゆえやってみるのじゃ!」
と言うわけで大急ぎで粗製の試作品を作ってもらうのじゃ。樽があるゆえ樽より一回り小さい丸い木の板を盤面にするのじゃ。つまり樽の上に置くと樽の外枠と盤面の間が駒の落ちる溝になるわけじゃの。
駒も簡単に見習いが修行がてら作っておった木の釦をそのまま流用なのじゃ。
「うむ! 充分面白いし、きっと楽しむものは多いのじゃ」
「いや待てもう一勝負、もう一勝負だけ!」
職人と釦を取り上げられた見習い連合に対し、わらわとエインさん同盟が勝利を収めたのじゃ。
「其方も盤面が滑りやすいようツルツルになっておる方がより楽しめることは分かったであろう。それを作るのが其方なのじゃ」
「おう、確かに今のは駒が盤面のささくれで逸れただけで実質は俺の勝ちだからな」
ふふ、負け惜しみはむしろ賞賛に等しいのじゃ。ではなくて、なのじゃ。
「駒は初心者用に大きめのものと、当てにくい小さめのものの二種用意した方がよいと思ったのじゃ」
「そうだの。小さい駒を使う時には中央のくぼみに大きさを駒にあわせた穴の空いた蓋でもつけるとよいかのう。しかし単純に面白いの、これは」
うん、エインさんもめっちゃ熱くなってたのじゃ。
「なあ、さっき言ってた試作品の数だがこの工房に置いとく分を一個追加していいか?」
わらわは構わぬ、と言う顔でエインさんを見るとエインさんも頷いたのじゃ。
「構わんがその分いいものを作ってくれよ。試作とは言うておるがこれなぞ今の試しで納得したからもう売り物を作り始めても良い気がしとるだの」
「確かにな。滑らかにする難易度は上がるが盤面を寄せ木で組んだり駒には細かな彫刻を入れたりすればお偉いさん向けのものは直ぐ出来るぞ」
「他の二つも直ぐ売るために作り始める算段で試作してくれ。頼んだの」
「おう」
エインさんと職人さんの間で話が進むのじゃ。
ささやかに気になる点としては盤上遊戯の将来を見据えすぎて抽象的なゲーム三種になっておることに気づいたのじゃ。一つぐらい海賊の脱獄ゲームだとか冒険者の魔漿石集めだとかわかりやすいモチーフをかぶせたものにするべきであったかも知れぬのじゃ。
まあ気にしても仕方ないのじゃ。
「出来れば三日後に質は悪くても構わぬゆえ試作品が出来ておるとありがたいのじゃがどうであろ?」
「ちゃんとしたのを作っておいてやらあ!」
「おお、期待しておるのじゃ」
やり取りを聞いておったエインさんがジーダルの宿に送るように手配してくれるとのことなのじゃ。そんな宅配サービスがあるのかえ。便利なものなのじゃ。
宿で預かってもらえるなら香辛料調味料探しも家や倉庫を押さえる前に始めて大丈夫なのじゃ。考えておくとするのじゃ。
いや物件探しもするのじゃがの。
「ではよろしく頼むのじゃ」
そう職人さん等に声をかけて木工細工の工房見学は終了なのじゃ。魔法具工房は<回転>関係の道具が出来てから確認を含めて赴く予定なのじゃ。
「エインさんもありがとうなのじゃ」
「どういたしましてだの。と言うか宿まで馬車で送るぞい」
「感謝するのじゃ」
そう遠いわけでもないのじゃが、馬車移動は楽ちんなのじゃ。
ルールをきちんと書き出したものを準備することなぞをしっかりと確認されたりしつつ宿に到着なのじゃ。
リーエさんやエッツェさん、そしておそらくエインさんがわらわに構っておるためしわ寄せを食らい出てこなかった息子さんによろしく伝えてくれるよう頼んで馬車を降りたのじゃ。
今日もよう働いたのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。