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異世界の夜空は美しいのじゃ

おいでませ!

本日更新二回目です(2/2)。


「爆縮の発生を防ぐ必要があるのじゃ」

「爆縮?」

「方法は物質の置換を行うか、輪郭の境界面に圧力をかけて一時的な流入の抑制をするかじゃな。」

「えーと、うん」

「わかっておらぬのか。例えばじゃ、山を取得した場合、山を収納した時点で山の形をした真空が残るのじゃ。サウダーデなのじゃ」

「山? えっ、山を取得するの?」

「するのじゃ」

「さも当然って言う顔しないで! あとスルーされるのはわかってるけど一応言っておくとサウダージは違うよね」

「そこにおった人が立ち去った後に残る孤愁がサウダーデなのじゃ。山が収納された後に残る真空も似たようなものなのじゃ」

「あ、スルーされなかった」

「その真空地帯に気圧差によって周りの大気が殺到することになるのじゃ。この爆縮現象を防ぐ必要があるのじゃ。小さい真空であれば大したことはないのじゃが山サイズの真空に対する爆縮は近隣への破壊的影響でとどまらず気象環境にも悪影響を及ぼすおそれがあるゆえ」

「て、天災。って山が消える時点で大概天災だよね」

「取り出す方は物質が重なって出現する方式であれば小石一個でそこら一帯が壊滅するゆえそう言うことはないのじゃろう。が、置換式でなくそこにあった物質、普通は大気であろうが、それを押し退ける方式である場合は山なぞのように体積が大きいものを展開した時に押し退けられる大気で生じた衝撃波が半球状に広がることになるのじゃ」

「えーっと、収納空間の機能を管理するシステムと直接やりとりしてもらって良いかな」

「うむ。わらわの方も其方と会話することが無駄じゃと思っておったところなのじゃ」

「ひどくない?」


 ひどくないのじゃ。

 幾ら未熟な建設技術の産物とは言え収納した跡地が概ね平らな更地になっておるのはおかしいのじゃ。地下室があったかどうかは知らぬが最低でも杭打ちなどの基礎工事部分が削れて穴が開いておるはずなのじゃが、そう思った瞬間にアレとのやりとりの記憶が蘇り、副作用の頭痛で片膝をつきうずくまったのじゃ。額に脂汗。<洗浄>を自分で使えるようになりたいものなのじゃ。


 わらわの様子に驚き、慌てて寄ってきたラーリに手を借り立ち上がる。

「大丈夫なのじゃ」

「熱出して寝込んでいたばっかなのに無理をしてんじゃないか」

「心配は感謝するのじゃ。しかし、とっととクードンを叩き起こして尋問なのじゃ」

「あ、ああ」

 気遣わしげなラーリの様子にちょっと笑む。わらわが自分の知っていたアーネと異質の存在じゃと解りつつも、やはりアーネに見えておるのじゃな。うれしいことなのじゃ。

 記憶の方は頭痛が一緒に来るようではうれしくないことこの上ないのじゃが。相手がチンピラリーダー風情ではあっても戦闘中にこの頭痛に襲われれば不覚をとることもあるであろうなのじゃ。

「ケリをつけてしまわねばゆっくり寝て休むこともできぬのじゃ」


 ああ、頭痛の発端になった更地化なのじゃが、地上部分が同気圧の大気に置き換わるように地下部分は概ね同質の土に置換されたようなのじゃ。不思議機能なのじゃ。

 しかも、設定で置換機能のチェックを外して収納することもできるようなのじゃ。便利便利なのじゃ。

 そう考えるわらわの横でラーリがクードンを数度蹴って起こそうとする。水をぶっかけるにはまず水が必要ゆえ正しい選択肢なのじゃ。


「えっ、おお、なっ」

 目覚めたクードンが変な声を出し百面相後口をパクパクさせる。捕まったこと、部下のチンピラがおらぬこと、建物がなくなっておること、これらをとりあえず自己消化してもらわねばならぬのじゃ。そう考えると少し待たねばなるまい、ならおっさんの顔を見ていても仕様がないゆえ空でも見上げるのじゃ。


 おお! ファンタジーなのじゃ。西の空にはまだ薄ぼんやりと夕日の残照が残るが、それでもまさに全面の星空なのじゃ。地上の明かりが少なく、産業革命前で大気の透明度も高いのであろう。前世では大気圏を脱出せねば見れそうにない水準の星空に状況も忘れてぽかんと口を開く。

 前世の空との決定的違いは南の空を横断する光の帯なのじゃ。昼間でもうっすら見えるそれはおそらく土星の環のようなリングがこの惑星にかかっておるのじゃろう。


「お、おまえらは一体なんなんだ。俺の店と部下どもはどこいっちまったんだよ。おい」

 威嚇するような怒声が途中から不安そうなものに変わり途切れる。

「神話に思いを馳せながら夜空を見ておったというのに無粋なおっさんなのじゃ」

「ええっ」

 なんでラーリが驚くのじゃ。まあよいのじゃ。

「なんでも良いのじゃ。其方に孤児院の地上げをさせておるものの名を言うが良いのじゃ。其方に拒否権なぞないのじゃ」

「言う、言うから放してくれ。ディスケーだ。ディスケー商会から頼まれたんだ。俺は子どもにひどいことしたくないからよ、色々手を回したり孤児院を追い出された後行く場所を世話できるよう動いてたんだ」

 よく回る舌なのじゃ。うっかり記憶から落ちておるがラーリから聞いた商会名とは違う気がするのじゃ。そっとラーリの方を見ると苦い顔で首を振る。


 うむ、空間範囲指定で収納してみるのじゃ。そう決めて意識を集中する。集中しておる間もクードンはなんか調子のいいこと言っておるのじゃがまあどうでも良いのじゃ。

 範囲を指定する実験はしてみておるのじゃが、思考操作で空間的な指定範囲をモーフするのはなかなか難しいのじゃ。出来るようになれば可能性が広がりそうゆえ練習はしておこうと思うのじゃが、今は簡単な直線や図形のツールをそのまま使い箱型の大きさだけ調整するのじゃ。

 その観念上の箱を右からクードンの頭の横に重ね、取得する。ここで上手に範囲をモーフできれば無駄がないのであろうが仕方ないのじゃ。

 耳と髪の毛が収納されたログが流れる。気持ち悪いので耳は即廃棄なのじゃ。髪の毛は量があれば鬘の材料として売れるのじゃが集める気はないゆえやはり廃棄なのじゃ。


「耳が、耳がーッ!」

 後ろ手に縛られておるゆえ手を当てることも出来ずクードンが悲鳴を上げながら地面を転がる。

 痛い、痛いとわめくクードンをラーリが怒りを込めて蹴飛ばす。ナイスキックなのじゃがなにが怒りのスイッチを入れたのかの。

「てめぇ! 冒険者は痛みに怯んだりしちゃいけねぇとか言って俺に焼けた火箸を握らせたことがあっただろうがっ! 何痛がってんだよ」

「ゆる、許して」

 ああそれは怒るよね。納得なのじゃ。

 確か、マーリィがラーリのお手伝いをしておるときの動きがおかしいことに気づいて火傷しておった手のひらを簡単な<治癒>で治したことがあったのじゃ。ラーリをいじめて遊んだという面もあるのじゃろうが、マーリィの魔法を確認しておったのかも知れんの。

 なんだかんだで油断は出来ぬ相手なのじゃ。


 蹴り続けるラーリを手を挙げて止め、わらわから話しかける。

「わらわの質問がちゃんと聞こえておらなかった様子ゆえ、風通しが良くなるよう右耳を消させてもらったのじゃ。建物やチンピラどもと同じく其方の右耳もまた消え去ってもう二度と戻ることはないのじゃ」

「「右耳?」」

 クードンとラーリの声がハモったのじゃ。一瞬悩み、理解したのじゃ。

「わらわから見て右ゆえ、其方にとっては左耳じゃな。間違えたのじゃ。間違いは正すべきゆえ改めてそなたの右耳を消すことにするのじゃ」

「待って! いや待ってくださいお願いします。なんでも話しますんで!」

 後ろ手に縛られて地面に転がったままのクードンなのじゃが、なかなか上手に後ずさる。

「なんでもと言われてもわらわはまだ最初の質問にすら答えてもらっておらんのじゃ」

 わらわの言葉にえっと言う表情を見せ、そして意味に気づいて視線を伏せる。数瞬の葛藤の後、乾いた声が漏れる。

「フォルデン商会だ。フォルデン商会の商会長のフォルデンさん本人から頼まれた大仕事だったんだ」


 もう俺はおしまいだ、と泣き言をもらすクードンから視線をあげてラーリをみる。するとラーリは正解、と解るように頷いたのじゃ。わらわがフォルデンとやらの名前を覚えていなかったことを把握しておったようなのじゃ、ラーリも侮れぬのじゃ。


「ラーリ、此奴を立たせるのじゃ。此奴にそのフォルデン商会とやらまで案内してもらうとするのじゃ」

 ラーリが場所も調べたということは憶えておるのじゃ。ラーリとも視線を交わし、泣き言を続けるクードンを歩かせる。此奴の命運は此奴自身に選択させることにしたというわけなのじゃ。



少しでも楽しんで頂けていたら良いのですが。

精進します。

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