よい朝なのじゃ
こんにちは。
今日もよろしくお願いします。
「ふわああ……」
わらわは目覚めの良い方なのじゃ。わらわを抱き枕のようにホールドしておるモリエの腕を外し寝台を降りるのじゃ。
お手洗いに行こうとするとさっとメイドさんが扉を開けてくれるのじゃ。どうやってわらわが起きたことを察しておるのか、全くすごいものなのじゃ。
昨夜もお茶のお代わりのときは呼べと言っておったのじゃが、呼ぼうとしたときには既に現れておったのじゃ。メイド魔法なぞというものが存在するのやも知れぬの。
お手洗いから戻った折りに寝台の天蓋を開けて覗いたら双子等もまだよく寝ておったのじゃ。
もうしばらく寝かせておいてやるとするのじゃ。
とはいえロードワークに出て、わらわがおらぬうちに目が覚めると困りそうじゃの。やめておくのじゃ。起きて来るまでなにをしようかの。
そうじゃ、型紙を起こそうと紙まであがのうたのじゃったわ。
わらわはメイドさんの淹れてくれた豆茶を喫しつつガシガシと机の上でペンを走らせたのじゃ。
むぅ。無意識に定規を作って取り出しておったがこれも見られてはおかしなブツであるのじゃ。大きさ的にの。
昨日セイジェさんに言われたことを思い出し反省なのじゃ。しかし問題点に己で気づいたゆえそこの部分は偉いのじゃ。自分を褒めることも忘れてはならぬのじゃ。
背負い袋に入っていてもおかしくはない程度の大きさの定規で改めて作業しておるとモリエが起き出してきたのじゃ。そしてモリエと茶を飲みながら話をしておると双子等も起き出してきたのじゃ。
「よく眠れたかえ」
「天蓋付きの寝台で寝たのはじめてー」
「ふかふか過ぎて逆にこわいっ」
「あはは。じゃあ寝台棚に布を打ち付けてあげようか」
「それは天蓋気分になれるかなー」
起きたら起きたで騒がしいのじゃ。
メイドさんに手伝って貰って身支度を整えるのじゃが、わらわの部屋専属ではないフロアのメイドもやって来てモリエ等の身支度も手伝ってくれるのじゃ。
そう言う世話をされることがあらぬゆえか三人は緊張しておるようで面白いのじゃ。
フロアのメイドは部屋の専属メイドの手前あまりしゃべらないのじゃが仕事をこなした後かなり丁寧に挨拶して去ったのじゃ。
少し疑問を感じたゆえメイドさんを見たのじゃがすぐに回答が得られたのじゃ。
「昨日頂戴いたしましたお菓子は彼女ら、このフロアのメイドたちと一緒に頂きました。彼女らも深く感銘を受け感謝しておりました。改めてありがとうございます」
ふむ、納得なのじゃ。
納得を得られたので食堂に移動して朝食なのじゃ。
「うん。普通においしいね」
「おいしいよ。パンも焼きたてだしバターも付いてるし」
「スープも良い味が出てて美味しいね。ふぅ」
美味しいといいながらモリエがため息を洩らしておるのじゃ。
「美味しいと言いながらどうしたのじゃ?」
「うーん、サーデも言ってるけど普通に美味しいんだけど、普通なんだよ」
うむ? 確かに普通に美味しいのじゃが。茹でたブロッコリーが主体の温野菜のサラダに根菜と豆と豚の塩漬け肉のスープ、船乗りのパンにバターが添えられておるのじゃ。そこに主菜のソテーされた魚の切り身もやって来たのじゃ。サワラかなにかのようじゃの。
「昨日の夜食もだけど、きっとちょっと前の私ならそれまで食べた中で最高の美味だって思ったと思う。ベアルさんの料理なんかきっと世界で一番ね」
「あー、そうだねー。熊のおっさんの料理も美味しかったけどスイギョーザのスープには勝てないかな。あ、ウドゥンパスタもまた食べたいっ」
「なによりトンカツだよ。パンで挟んだ奴! うん、またミチカちゃんの料理食べたいね」
「そうだねー。でも無理は言っちゃダメ」
ああ、わらわが『普通』の水準を押し上げておったのじゃ。悪いことをしたのではなく美味を教えたゆえ良いことなのじゃ。うむ。
「モリエもいろいろ作れるようになっておると思うのじゃ。まあわらわもゆっくり調理する場所を得たらなにかご馳走してやるのじゃ」
「おー! 期待してるよ」
「楽しみにしてるよ! ミチカちゃん」
「商業組合からもなにか言われてるんでしょ?」
面白そうである反面、面倒くさそうでもあるのじゃ。が、しかし、各種の食材や調味料、香辛料が手に入ってくる環境を得ることはわらわ自身のより良い食生活に繋がるゆえある程度は頑張るつもりでおるのじゃ。
無論楽しさ優先なのじゃ。
「まあ、店の料理人になってどうこうという気はないのじゃがの。人を雇って何かやるのは構わぬのじゃが。と言うかの、調理関係でなにかする折りにはモリエに手伝ってもらおうと思っておるからの」
「あはは、それは喜んで手伝うよ」
食後は部屋に戻りお茶なのじゃ。これは食堂で出るお茶よりわらわの持ち込みのお茶の方が上等だからなのじゃ。
モリエはわらわの真似をして中央風の茶にジャムを入れて、双子等は西方茶に蜂蜜なのじゃ。
「ジャムが入ってるから飲めるけど、確かに渋いね」
「濃く淹れてジャムか砂糖を加えるのが中央風じゃからの。まあ実際は南方茶らしいのじゃが」
「あたしたちは蜂蜜入りのこのお茶が気に入ったよー」
「うん、はちみつー」
それは蜂蜜が好きなだけな気がするのじゃ。
「モリエとわらわはエインさんのお店に顔を出して街着の仕立屋に行くのじゃが、其方等は修行をすると言っておったの」
「ふふっ。槍も新調したしね!」
「<早足>も使いこなさなきゃだしね!」
なかなかに向上心豊かなのじゃ。方向性が戦闘方面に偏っておるのじゃが、まあ冒険者である以上構わぬのじゃ。おそらくは。
「どこでやるのじゃ? エインさんの店に行くまで間があるゆえ近くでやるのじゃったら少し見てやっても良いのじゃが」
「うーん、<早足>で駆け回ると冒険者協会の訓練場でも狭いんだよねー」
「外かなー」
ふむ、確かに訓練場は<早足>を使う鍛錬をするなら少し手狭かも知れぬのじゃ。普通にやる分には充分に広いとは思うのじゃが。
「ここからなら北西の門かな。海岸の方」
「時間的にはどうじゃの?」
「多分他に人もいないだろうし、門から離れる必要がないなら一刻か一刻半程度見てから移動しても充分」
二、三時間も見れば充分であろうな。むしろ寒そうゆえそんなに長くは見ずとも良いのじゃ。
「よーし、じゃあいこー!」
「まだお茶飲み終わってないよ」
「もう少し落ち着くのじゃ」
茶の残りを喫し、ついでに片づけと見送りに来たメイドさんに仕立屋に行くことを話し、最近の流行なぞを軽く教えてもらったのじゃ。
似たものを誂えてもらうために法服を畳み、型紙やら定規やらも一緒に袋に突っ込んでからお出かけなのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。
風邪の調子は大丈夫っぽいぽいです。