宿の部屋でくつろぐのじゃ
こんにちは。
風邪はそんなにひどくなっていないので頑張ります。
今日もよろしくお願いします。
結局双子等は槍を新調し、それまで使っていた槍を下取りに出さず予備に回すことにしたのじゃ。うむ、堅実な判断なのじゃ。
オルンはこれまでのものより上質な片手剣にしたようなのじゃ。あの豚鬼戦でこれまで使っておった剣はかなりガタが来ておったそうなのじゃ。大分ジーダルと話しておったのじゃがきちんと己の膂力に見合った剣にしたようで一安心なのじゃ。
モリエはなにやら小さい箱を大事そうに持って出てきたのじゃ。
「モリエはなにをあがなったのじゃ?」
「ふふふ。これよ」
そう言うとその箱を開けて小さな金属片を取り出したのじゃ。銀色に光る鏃なのじゃ。
「魔銀の鏃。魔銀なのはホントに先端だけだけど」
きらきらとした目で鏃を見ておるのじゃ。まあ確かにいざという時の為に一本備えておきたいものなのであろうの。
金属鎧はちょっとばかり高額な上に今のところ使うものがおらぬゆえ金属の防具屋は今回は無しでお店回りは終了なのじゃ。熊さんの店で時間を大分使ったからの。
「兜を新しくするときには声を掛けろな。皮の店で大分使っただろうから魔法具を扱ってる冒険雑貨屋はまた今度紹介してやる」
「はい、ありがとうございます」
ジーダルとオルンがそんな話をしておるのじゃ。冒険雑貨屋は興味あるのじゃ。とは言っても魔法具はエインさんの工房に期待しておけばいいかの。
「晩飯も、と思ったが流石にベアルのとこで食い過ぎたな。ミチカや双子たちを宿まで送った後オルンたちは一緒に酒を飲みに行くか」
「熊さんの料理をあれだけ食ろうた上にわらわの作った料理や菓子までじゃからの。食べ過ぎなのじゃ」
「そんだけどっちも旨かったってことさ」
そうジーダルが笑い、夜の帳が降り始めた城市を歩き出したのじゃ。
「そう言えばなのじゃ」
歩きながら取り留めのない会話をしておったのじゃがふと思い出したので訊いてみるのじゃ。
「なんでえ?」
「防具を注文しておったと言う草原小人はなんで亡くなったのじゃ?」
「格好のいい最期を迎えてりゃ英雄譚にでもなって謡われたんだろうが、酔っぱらって膝くらいの深さの水路に落ちて溺れ死んだんだとさ」
「何と言うかある意味草原小人らしい最期なのじゃ」
「違いねえ」
ジーダルは笑った後ふと真剣な声色で続けたのじゃ。
「死んだのが十年も前だから俺もすれ違うぐらいに見かけたことしかねえんだが、呪い持ちの気配は異常だ。ああはなりたくねえ、俺はそう思ったぜ」
夜の寒さだけではない寒々とした風が通ったのじゃ。ちょっとした怪談話かの。
「だからお前等も呪いの武具なんかには気をつけるんだぞ」
わらわは収納空間に入れてしまえば剣と呪いを分解できるのではないかなぞと考えておったのじゃが、オルン等は神妙に頷いたのじゃ。
その後は取り留めもない会話をしておったのじゃが、宿への道の途中紙屋を見かけたゆえちょっと立ち寄って広い、模造紙のような紙の巻きを幾枚かあがなったのじゃ。
双子等の街着を頼むに当たっての型紙でも起こそうかと思っておるのじゃ。
「なんか高級な街区の方だね」
そうやって歩いておるとモリエがそう言ったのじゃ。
「うむ、商業組合で紹介されたのが思いの外高級な宿であったのじゃ。宿暮らしか長くなるようなら安いところを改めて探すべきかも知れんの」
「あー、そうなんだ」
「まあ居心地はいいのじゃがの。そう言えばモリエ等はどんな所で暮らしておるのじゃ?」
「双子たちがマインキョルトに出て来るまでは冒険者協会の酒場のクソ安い宿に泊まって金をケチってたけど、流石に女の子が泊まる場所じゃないからガントが頑張って安い宿を探して歩いたんだ」
オルンが横から答えるのじゃ。
「そこに私が転がり込んだからすっごい手狭。部屋の真ん中を布で仕切って私たちの領土と兄さんたちの領土に分けてるの」
「二段の寝床棚が一つずつだからあたしたちは数拳で誰が一人で上の段で寝るのか勝負してるよー」
数拳とはジャンケンみたいなものなのじゃ。しかし五人で一部屋とはのう。
「今回宿を移ろうかという話もしたんですが、先ずは装備優先でってことになったんです」
「どうせなら宿じゃなくて部屋や家を借りれるくらいになってから考えるのもありだし」
「半端に宿替えしてしょっちゅう移動するのも面倒じゃしの」
「そうそう」
「絶対一度は前の宿屋に帰るね!」
笑いながら歩いておるともう宿屋なのじゃ。
「わらわの部屋には二つ寝台があるゆえ双子等は泊まっていくかえ? 飲みに行く連中もそっちの宿に回らずに済もう」
「あっ、私も飲みについて行くよりミチカの部屋に泊まりたい!」
モリエがそう言ってわらわをぎゅっと捕まえたのじゃ。
「私も女の子に混じりたいけど人数的に飲みにつき合うわ。残念」
「一番飲む癖に何かわいこぶってっゲフ」
雉も鳴かねば撃たれまいに、愚かなことなのじゃ。脇腹に見事なエルボーが入ったジーダルは道端にうずくまってゲフゲフ言っておるのじゃ。迷惑な男じゃのう。
「兄ちゃんたちをよろしくねー」
「任せてね。ジーダルが飲ませすぎないようよく見ておくわ」
「ではセイジェさんとはまた明日なのじゃ。よろしくの」
「じゃあまた明日ね」
セイジェさんがジーダルを引っ張っていったのじゃ。
わらわたちは宿に戻ったのじゃが、門衛がドアを開け閉めしてくれることに三人が驚いておるのが少し面白かったのじゃ。
受付に三人がわらわの部屋に泊まる旨を伝えるついでに軽い夜食を後で部屋に持ってきて貰うよう頼んで部屋に戻るのじゃ。そしてくつろぎタイムなのじゃ。
「すっごーい」
「ひっろーい」
「部屋付きのメイドさんまでいるとか」
「ジーダル等の所もメイド付きらしいのじゃ」
とりあえず応接セットでくつろぐのじゃ。高級すぎるゆえ宿を移る気もあるのじゃが、居心地はよいのじゃ。
わらわたちの外套をクローゼットに納めた部屋付きのメイドさんにお茶を頼むのじゃ。
「双子等は西方茶に蜂蜜を入れて、わらわは砂糖無しの緑茶じゃの。モリエはどうするかの?」
「えーっと、香草茶にちょっとだけ蜂蜜で」
「かしこまりました」
そう言って下がろうとするメイドさんを呼び止めたのじゃ。
「ちょっと待つのじゃ。これを皿に載せてきてくりゃれ。そしてこちらの包みは其方等で味見をすると良いのじゃ」
そう言いつつ鞄から小分けにしておったチュロスやクッキーの包みを渡すのじゃ。
「まあ! ありがとうございます。すぐに準備いたしますね」
お菓子らしいと察したメイドは嬉しそうに持って行くのじゃ。
そしてちょっと待つと夜食の乗ったワゴンと一緒に戻ってきたのじゃ。
「下で注文されました軽食も参りました。テーブルを移られますか?」
「ここで勝手にやるゆえお茶とお菓子だけ置いて、下がって貰って良いのじゃ」
「はい、かしこまりました。お茶のお代わりなどが必要になりましたらお呼び下さい」
一瞬の逡巡があったのじゃが表にはほとんど出なかったのじゃ。プロじゃの。おそらく給仕をしないと言うのはメイドさん的にはありえぬのであろうが、客を連れてきておるという状況を鑑みて肯じたのじゃろう。
チュロスやクッキーの味見を早くしたかったわけではないのじゃ、多分。
お読みいただきありがとうございました。